児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「判例タイムズ」 4月1日 (1288号) 

「条理上の義務」出ましたね。
名古屋地裁の公然陳列事件と同趣旨。 

4(東京地裁平20.10.1判決)
1 インターネット上の掲示板に第三者による投稿が自動的に公開される管理体制が採られていた場合において,掲示板を開設し管理する者は,一見して第三者に対する誹謗中傷を含むなど第三者の名誉を毀損することが明らかな内容の投稿については,上記内容の投稿を具体的に知ったときには,第三者による削除要求なくして削除義務を負うが,これに至らない内容の投稿については,第三者から削除を求める投稿を特定した削除要求があって初めて削除義務を負うとされた事例
2 インターネット上の掲示板が管理者による投稿内容の確認を経て公開される体制の下において,掲示板に第三者の名誉を毀損する投稿がされた場合は,掲示板の管理者は,当該投稿を公開しない条理上の義務を負い,これに反して当該投稿を公開した場合には,速やかにこれを削除すべき条理上の義務を負うとされた事例
3 インターネット上の掲示板における対抗言論の抗弁が否定された事例
4 使用者に関する表現行為が名誉毀損に当たる場合において,正当な組合活動としての違法性阻却事由が認められないとされた事例

名古屋地裁平成18年1月16日
(罪となるべき事実)
被告人は,・・・が管理していた・・・に設置されたサーバーコンピュータに,不特定多数の者が児童ポルノ画像を送信することにより自動的にその画像が掲載されて,インターネットを利用する不特定多数の者において,これを受信して再生閲覧することが可能となる電子掲示板「ロリータなんでも」を開設し,これを管理しうる立場にあったものであるが,
第2 
上記掲示板の開設者としてこれを管理し,違法画像が同掲示板に受信掲載されているのを発見した場合には,これを削除するなどして,これが不特定多数のインターネット利用者に閲覧等されるのを防止すべき義務があるのに,別紙一覧表2記載のとおり,らに、平成年月日ころから同年月日ころまでの間に,所在のほか3か所において,ABCDこもごも,衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法によって描写した電磁的記録である児童ポルノ画像合計11画像を,上記電子掲示板に送信して記憶蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,これらの画像の閲覧が可能な状況を設定し,もって,児童ポルノを不特定多数の者に公然陳列しようとした際,同掲示板にこれらの画像が受信掲載されていて,不特定多数のインターネット利用者が再生閲覧することが可能であることを知りながら,敢えてこれを放置し,もって,これを幇助した。
(争点に対する判断)
1検察官は,判示第2の所為について,被告人と一覧表2記載の各投稿者(以下「投稿者」という。)との間に,児童ポルノの公然陳列についての共同正犯が成立すると主張した。
2しかしながら,判示第2の事実について取り調べた各証拠によれば,同事実において被告人の行った行為は,上記のとおり,児童ポルノを掲載した電子掲示板を開設していた被告人が,投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたというものである。そして,同証拠によれば,被告人と各投稿者らとの間には,上記の内容の電子掲示板が開設されていることの認識と,これに対して投稿者らが児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,これがインターネットを通じて不特定の第三者に閲覧可能であることを相互に認識していたにとどまり,具体的に相手の行為を利用して各投稿者が送信蔵置させた児童ポルノを不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡があったとは言い難い。
3したがって,判示第2の各犯行lこついて,被告人が共同してこれを実行したというためには,被告人の,上記投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたという行為が,これを怠れば自ら積極的に公然陳列したと評価されるほどに,強度の削除すべき義務に違反する行為と言えることが必要と解される。
(1)この点について上記被告人の役割について検討すると,確かに被告人は,上記電子掲示板を開設し,インターネットを通じて不特定の第三者がこれに児童ポルノを送信して記憶蔵置することを可能にしたものであり,これを管理しうる立場にあったのであるから,不特定の第三者にこのような画像が閲覧されることを防止するために,これを削除する等して管理すべき義務があったというべきものである。

(2)そこで,更に進んで,これを怠ったことが,投稿者と共同して児童ポルノを公然陳列したと評価し得るほどに強度の違法性を有するといえるかについて検討を加える。あ上記のとおり,被告人と投稿者らとの間には,具体的画像を不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡がないことからすれば,投稿者と被告人との間で,相互に相手方の行為を利用して児童ポルノを公然陳列しようとの意思が形成されていたとは言い難い。
そうすると,被告人が,投稿者から上記掲示板に児童ポルノに該当する画像が投稿されたことを認識したのに,これを削除しなかったことをもって,自ら不特定多数の者に対し公然陳列したと同一に評価されるほどに強度の削除義務違反があったと合理的疑いを入れる余地なく認定することはできない。
 しかしながら,上記の被告人の電子掲示板開設に伴う管理義務を考慮すると,判示第2記載の行為は投稿者らの不特定多数の者への公然陳列を幇助したものと認めるのが相当である。