児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童ポルノは媒体を特定しないとだめだという判決(東京高裁H20.9.18)

 自白事件だと量刑不当は難しいので、その他の控訴理由も検討しろということです。
 係属中の事件で媒体が特定されていない場合は、補正の問題になります。

主文
原判決を破棄する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の控訴趣意書及び平成20年月日付け控訴趣意補充書(ただし,第1のみ)各記載のとおりであるから,これらを引用する。
第1 訴訟手続の法令違反(訴因不特定)の主張について
1 論旨は,要するに,原判決は,原判示第2の事実として,平成年月日付け起訴状記載の公訴事実と全く同旨である,被告人が,平成年月日,B市内のホテルにおいて,女子児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童をしてその乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,同日ころ,同市内の被告人方において,上記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造したとの事実を認定したが,上記公訴事実の記載は,訴因が不特定であって,刑訴法256条3項に違反し,公訴が無効であるにもかかわらず,公訴棄却の裁判をせず,原判示第2の事実を認定し有罪とした原審の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
検討すると,起訴状記載の公訴事実につき訴因の明示に不備があったとしても,その公訴事実自体によって全く訴因が特定されているといえないような極限的な場合を除いては,直ちに当該起訴がその効力を失うものではなく,訴因の記載が明確でない場合には,裁判所は検察官に釈明を求め,それにもかかわらずなお不明確な場合にこそ,訴因不特定として公訴棄却すべきであると解されるところ,本件公訴事実は,犯行の主体・客体,目時・場所を特定していることはもとより,その方法についても「児童をしてその乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,(中略)上記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ」という程度には具体的に表示しているから,訴因不特定として公訴棄却すべき場合に当たらないことは明らかであり,所論は採ることができない。
2しかしながら,職権をもって調査すると,原判決には以下に説示するとおりの訴訟手続の法令違反があり,この点において破棄を免れない。
(1)原審記録及び当審における事実取調べの結果によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
ア 被告人は,平成年月日,B市内のホテルにおいて,当時17歳の女子児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童に対し,現金4万円の対価を供与して同児童と性交し,もって児童買春した(原判示第1の事実)。
イ 上記児童買春の際に,被告人は,同ホテル内において,同児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものをとらせ,これを所携のデジタルカメラで撮影し,上記姿態を同カメラ内蔵の記録媒体であるピクチャーカードに視覚により認識することができる方法により描写した。
ウ 次いで,被告人は,同日,被告人方において,上記デジタルカメラをパーソナルコンピューターに直接接続し,上記ピクチャーカードに記録した上記姿態に係る画像データを上記パーソナルコンピューター内蔵の記録媒体であるハードディスクに視覚により認識することができる方法により描写した。その上で,被告人は,上記ピクチャーカードに記録した上記姿態に係る画像データは消去した。
なお,その際,被告人は,上記ピクチャーカードに記録した画像データを,まず上記ハードディスクのCドライブのフォルダの1つであるデスクトップに作成したフォルダに複写したが,その後の平成年月日には,上記ハードディスクのDドライブに作成したフォルダにそのデータをそのまま移動させた。
 しかし,上記パーソナルコンピューターに内蔵されたハードディスクは,物理的に1台の装置であり,それを見掛け上(論理上)複数のドライブに分割して,Cドライブ,Dドライブとして使用していたにすぎないものであった。
エ 原判示第2の事実に係る起訴状には,被告人に対する公訴事実として,要旨「被告人は,平成年月日,B市内のホテルにおいて,女子児童が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童をして,その乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,同日ころ,同市内の被告人方において,前記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」との記載がなされ(以下,単に「本件公訴事実」という。),これに対する罪名及び罰条として,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反同法律第7条第3項・第1項,第2条第3項第2号・第3号」が挙げられている(以下,この項において,本件公訴事実に関する事件を「本件」という。)。
オ 原判決は,(罪となるべき事実)の項で,第2の事実として,本件公訴事実と同旨の事実を認定し,(法令の適用)の項で,罰条として,同法7条3項,1項,2条3項2号,3号を摘示し,刑種の選択以下の法令適用に及んでいる。
(2)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,この項において,単に「法」という。)にいう「児童ポルノ」とは,「写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されている(法2条3項)。
したがって,本件のような電磁的記録に係る事案において,児童ポルノとは,画像データ等の電磁的記録自体ではなく,当該電磁的記録に係る記録媒体(フロッピーディスク,CD−ROM,MOディスク,DVD,メモリーカード,ハードディスク等)を指すものといわなければならない(この点を指摘する所論は正当である。)。
(3)本件公訴事実は,上記(1)エのとおりの記載がなされ,罪名及び罰条の記載や公訴事実の記載全体の体裁からすれば,法7条3項の児童ポルノ製造罪に該当する事実が起訴されたものであると解されるところ,公訴事実中に,「もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」と記載されており,結論として電磁的記録である画像データ自体が児童ポルノに該当するとしているものと解さざるを得ず,これが上記(2)の法の解釈を誤解したことに基づく誤った記載であることは明らかである。そして,上記(1)ア〜ウの事実関係を前提とすると,本件において,製造行為の客体である児童ポルノに該当し得るものは,デジタルカメラに内蔵されたピクチャーカード,あるいはパーソナルコンピューターに内蔵されたハードディスクが考えられるところ,本件公訴事実中にはこれらが挙げられておらず,製造行為の客体である児童ポルノが明示されているとはいえない。
他方,本件公訴事実においては,製造行為の目時・場所については特定されており,その方法についても「児童をしてその乳房及び陰部を露出させるなどの姿態をとらせた上,これをデジタルカメラで撮影し,その画像データを記憶させ,(中略)前記画像データをパーソナルコンピューターに記憶,蔵置させ」という程度には記載がなされており,訴因としておよそ釈明の余地がないほど不明確なものとはいえず,訴因の補正又は変更により十分対処できる程度のものといい得るから,このような場合,原審としては,検察官に対し,本件公訴事実について釈明を求め,電磁的記録である画像データ自体を児童ポルノであるとする誤った記載は撤回削除させ,製造行為の客体である児童ポルノが何であるかについて明らかにさせるなど,訴因の記載を明確にさせた上で,審理すべきであったといわなければならない。
しかるに,原審は,そのような措置をとることなく,訴因不明確なまま審理を終結し,あまつさえ「もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態等であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データ20画像を製造した」という本件公訴事実中の明確に誤った記載までそのまま漫然と踏襲して,上記(1)オのとおり事実を認定し,かつ,法令の適用をしているのであるから,原審の訴訟手続には法令の違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。
したがって,弁護人のその余の控訴趣意に対する判断をするまでもなく,原判決は破棄を免れない。
第2 破棄自判
よって,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,児童ポルノ製造に係る被告事件については当審において予備的に変更された訴因に基づき,次のとおり判決する。


 検察官から訴因変更請求が出たら、まあ、どれかの控訴理由が当たって原判決破棄されることになるので、緊張感が緩みます。
 傍聴人多数の法廷でこんなやりとりがありました。

検察官:訴因変更請求書の通り請求する
裁判長:弁護人のご意見は?
弁護人:控訴理由第1か第2が当たったんだったら、検察官の答弁を「控訴の趣意はいずれも理由がない」から「控訴理由第1・第2は理由がある」に改めてもらいたい。
検察官:・・・(ニヤニヤ)
裁判長:それで弁護人のご意見は?
弁護人:ちゃんと書面で用意しておる。弁護人の経験では、こういうシチュエーションだと、弁護人がなんと言おうと、訴因変更は許可されるんでしょ。言いたいことは言わせてもらいますけど。要するに補正の問題だから、訴因変更では治癒されない。公訴棄却すべきである。
裁判長:公訴棄却にする事案ではないと考えています。訴因変更を許可します。
弁護人:ほら、やっぱり許可するんじゃん。
裁判長:・・・(ニヤニヤ)
裁判長:次に検察官からの事実取調請求がありますね。弁護人のご意見は?
弁護人:訴因不特定を補充する立証ですよね。同意すると訴因不特定の控訴理由を自らつぶすようなものですよ。墓穴掘らされるみたいだ。被告人控訴の事件で、そんなことできますかいな!だいたい、訴因不特定はこっちが指摘したんだから、カメラとパソコンのカタログ持ってきて示して、被告人質問でやればいいんじゃないですか?okしときます。
裁判長:まあ、おっしゃりたいことはあるでしょうが、ここは同意ということでいいですか?
弁護人:何をおっしゃる?。同意しても被告人にメリットがないじゃないですか。その代わり、情状立証とことんやらしてくださいよ。
裁判長:それはまあ、こういう状況に至っているわけですから、必要な立証はできるんじゃないですか?
弁護人:量刑不当の控訴理由に縛られずにやっていいんですね。もう続審みたいですね。
裁判長:・・・(ニヤニヤ)
弁護人:検察官立証同意したら、検察官も弁護人立証を不同意にしないでくださいね。
検察官:それは考慮する。
弁護人:それでは、「同意」ということで。「大いに同意」と調書に書いといて。

ということで、これでもかと情状立証を積み増して、実刑の原判決が破棄されたわけです。