児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ罪における被害児童の承諾・同意の効果

 社会的法益で説明する判例が多いようです。
 だとすれば、児童自身が撮影・販売する場合でも、違法性ありますよね。
 個人的法益(但し処分不可)という説明なら、違法阻却の程度は大きくなるはずです。

東京高裁h15.6.4
児童ポルノ販売罪等は,その行為が,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず,これが社会にまん延すると,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えることなどを理由に処罰しようとするものであって,性的秩序,風俗を害することを防止しようとする刑法のわいせつ図画に係る罪とは処罰根拠が異なるだけでなく,児童ポルノに該当するものでも,わいせつ図画には該当しない場合もあるから,所論のいうように両罪が法条兢合(特別関係)にあるとは認められない。

阪高裁h12.10.24
2 法二条一項について(控訴理由第7、第17)
児童ポルノも表現行為の一形態であるところ、表現行為を制限する法令の規定が非常に包括的な場合には、憲法上保護された表現の自由が不当に制約されるおそれがあるから、「より制限的でない他の規制手段」が考えられる場合には、それによらなければならない。ところで、婚姻可能年齢は、民法上男子は一八歳、女子は一六歳とされており(民法七三一条)、また、刑法上の性的行為に同意することが可能な年齢は、一三歳とされている(刑法一七六条、一七七条)のであるから、少なくとも一六歳以上の女子には、法律上、性的な行為に同意する能力があり、性的自己決定権があるというべきである。法二条一項は、一八歳未満の者をすべて児童とした上、これを一律に児童ポルノ法における規制対象としているが、右のように、児童のうちで性的自己決定権を有する者がいることに配慮すると、児童の年齢に応じて規制方法を変えるというように、「より制限的でない他の規制手段」を採ることを考えるべきである。したがって、法二条一項は、表現の自由に対する過度に広範な規制であり、憲法二一条に違反している。また、後記のとおり、児童ポルノ法においては、児童ポルノの製造行為も処罰されることになっているのであるから、法二条一項が、一律に一八歳未満の者をもって児童としているのは、性的自己決定権を有する児童が性的な表現を含むビデオに出演する権利を不当に侵害するものであり、同条項は、憲法一三条にも違反する、という。
しかし、児童ポルノ法は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為などにより心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的としている(法一条)ところ、児童買春の当事者となったり、児童をポルノに描写することは、その対象となった児童自身の心身に有害な影響を与えるのみならず、そのような対象となっていない児童においても、健全な性的観念を持てなくなるなど、児童の人格の完全かつ調和のとれた発達が阻害されることにつながるものであるから、児童ポルノ法は、直接的には児童買春の対象となった児童や児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであるが、間接的には、児童一般を保護することをも目的としていると解される。したがって、このような同法の立法趣旨にかんがみると、一八歳未満の者を一律に児童とした上で、児童買春や児童ポルノを規制する必要性は高いというべきであるから、法二条一項が表現の自由に対する過度に広範な規制を定めたものとはいえないし、また、そのために所論にいわゆる児童の性的自己決定権が制約されることになっても、その制約には合理的な理由があるというべきであるから、同条項が憲法一三条に違反するともいえない。
法二条三項について(控訴理由第8ないし第12、第14、第15)
 所論は、法二条三項によって規制対象とされる児童ポルノとは、被撮影者となつている子供の人権を救済し、保護するという児童ポルノ法の規制目的に照らすと、被撮影者の氏名、住所が判明しているまでの必要はないにしても、具体的に特定することができる児童が被撮影者となっている場合に限るとすべきであるのに、同条項において、そのような特定を要求していないのは、表現の自由に対する過度に広範な規制というべきである、という。
しかし、前記2において説示したような児童ポルノ法の立法趣旨、すなわち、同法が、児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し、ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと、児童ポルノに描写されている児童が実在する者であることは必要であるというべきであるが、さらに進んで、その児童が具体的に特定することができる者であることまでの必要はないから、所論のような規定が設けられていないからといって、法二条三項が、表現の自由を過度に広範に規制するものとはいえない。
 所論は、児童ポルノの被撮影者は、一見児童であるように見えても、一八歳以上の者である場合があり得るから、検察官は、被撮影者となっている児童が存在し、その者が児童であることを積極的に立証する必要があるのに、法二条三項にその旨が明記されていないのは、表現の自由に対する過度に広範な規制をするものであって、憲法二一条に違反する、という。
しかし、所論の指摘するような構成要件該当事実について検察官に立証責任があることは、刑訴法上当然であるから、法二条三項に所論指摘のような規定が設けられていないからといって、同条項が、表現の自由を過度に広範に規制するものとはいえない。 
 所論は、規制対象となる児童ポルノについて、法二条三項は、「写真、ビデオテープその他の物」で法二条三項各号のいずれかに該当するものとしているが、児童の権利を擁護するという立法目的に照らすと、規制対象とすべき児童ポルノは、被撮影者が実在する特定の児童であることが明らかである写真及びビデオテープに限られるべきであるのに、同条項において、「その他の物」を含むとしているのは、例えば、抽象画から漫画まで広がりがあり、実在する特定の児童を描いたものであるか否か判然とせず、したがって規制対象に当たるかどうかの判断が恣意的になされる危険性が高い絵画まで含むことになるから、法二条三項は、表現の自由を過度に広範に規制するものであって、憲法二一条に違反する、という。
しかし、児童が視覚により認識することができる方法により描写されることによる悪影響は、写真、ビデオテープに限られず、所論の指摘する絵画等についても同様であるから、法二条三項が表現の自由を過度に広範に規制するものとはいえない。
 所論は、①法二条三項二号、三号は、児童ポルノとして規制の対象とされる児童の姿態の描写について、いずれも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件を設けてこれを限定しているが、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを通常人が客観的に判断することは難しく、その判断基準は曖昧である。また、右の要件を、刑法上のわいせつの概念である「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の性的羞恥心を害
し、善良な性的道義観念に反するもの」という要件と対比すると、「いたずらに」という限定がないため、表現が性的に過度であることが要件とされておらず、規制の対象が広がっている。これらの点において、法二条三項二号、三号は、表現の自由に対する過度に広範な規制をするものであって、憲法二一条に違反する。②また、法二条三項二号、三号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否かを客観的に判断することは困難である。
通常人は、児童の裸体等に性的興奮を覚えたり、それから刺激を受けたりしないのであるから、通常人を基準としてこれを判断するのであれば、児童ポルノに当たるものはなくなるし、また、子供の性に対して特別に過敏に反応する者を基準としてこれを判断することは、通常人を名宛人とする法規範の解釈としては許されない。したがって、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否かの判断基準が明確ではないのに、これを要件とする法二条三項二号、三号は、漠然として不明確な規定であるから、憲法二一条に違反するものであり、かつ、刑罰法規の明確性を要請する「憲法三一条にも違反するものである、という。
しかし、わいせつ物頒布等の罪を規定した刑法一七五条は、社会の善良な性風俗を保護することを目的とするものであるから、同条におけるわいせつの概念としては、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するほどに著しく性欲を興奮、刺激せしめることを要するとされるのに対し、児童ポルノ法は、すでに前記2等において説示したとおり、児童ポルノに描写されることの害悪から当該児童を保護し、ひいては児童一般を保護することを目的とするものであるから、著しく性欲を興奮、刺激せしめるものでなくとも、児童ポルノの児童に与える悪影響は大きく、したがって処罰の必要性が高いと考えられること、すなわち、両者の保護法益ないし規制の対象に自ずから相違があることなどに照らすと、所論の指摘するところを考慮しても、法二条三項二号及び三号が、表現の自由に対する過度に広範な規制をするものとはいえないし、また、わいせつの概念が所論①のようなものであるにもかかわらず、刑法一七五条が憲法二一条及び三一条に違反するものでないとされていること(最高裁判所昭和五八年一〇月二七日判決刑集三七巻八号一二九四頁、同昭和五四年一一月一九日決定刑集三三巻七号七五四頁等参照)などからしても、法二条三項二号及び三号が、漠然として不明確な規定といえないことは明らかである。
所論は、①表現行為を制限する立法については、立法の趣旨、目的とそれを達成するための規制手段との間に合理的関連性があることが要求される。児童ポルノ法の立法目的は、法一条に記載されているとおり、児童に対する性的搾取や性的虐待等の防止にある。ところで、一般的にいえば、性的虐待とは相手の意思を無視して暴力的あるいは強制的に行われる性的行為をいうが、児童の中でも高年齢のものは、性的自己決定能力を備えているのであるから、「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為」一般が、法一条にいう児童の性的搾取や性的虐待に当たるとはいえない。したがって、児童ポルノとして規制すべき対象物を定めるに当たっては、右のような性的虐待につながるものであること、すなわち、被撮影者の意思に反するものであることを要件とすべきである。しかるに、法二条三項一号が、被撮影者の意思に反することを構成要件としていないのは、立法目的とそれを達成するための規制手段との間に合理的関連性を欠いているというべきである。②また、法二条三項二号、三号についても、被撮影者の意思に反することを要件としていない点において、法一条の立法目的との合理的関連性を欠いているというべきである、という。
しかし、前記2等において説示したような児童ポルノ法の立法の趣旨、目的、ことに同法が、児童買春の対象となったり、児童ポルノに描写された児童の保護だけでなく、児童一般の保護をも目的としていることに照らすと、法二条三項各号が、児童ポルノで描写された被撮影者の意思に反することを要件としていなくとも、立法目的と規制手段との間に合理的関連性を欠くとはいえない。
4 法七条二項における規制対象行為について(控訴理由第13)
所論は、法七条二項は、児童ポルノの製造、所持、運搬についても処罰することとしているが、これらの行為を禁じても、児童虐待を防ぐという立法目的を達成することはできないから、これらの行為をも処罰する法七条二項は、表現の自由に対する過度に広範な規制というべきであり、憲法二一条に違反する、という。
ところで、法七条二項は、同条一項所定の、児童ポルノの頒布、販売、業としての貸与又は公然陳列の目的による児童ポルノの製造、所持、運搬等の行為を処罰するものであるところ、右各行為は、児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず、このような行為により児童ポルノが社会に広がるときには、児童を性欲の対象として捉える風潮を助長するとともに、身体的、精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な悪影響を与えることになり、前記児童ポルノ法の立法の趣旨、目的にもとることになるものである。したがって、同条一項所定の製造、所持、運搬等の行為を処罰する必要性は高いというべきであるから、法七条二項において、右各行為を処罰の対象としていることが、表現の自由を過度に広範に規制するものとはいえない。

京都地裁h14.4.24
7 弁護人は本件各写真集につき,被害者(被撮影者)の同意があると主張する。
  しかしながら,児童ポルノ法の制定趣旨は,性的搾取及び性的虐待から児童の権利の保護を目的とするものであり,加えて,当該児童を保護し,関係者を処罰することによって,ひいては児童一般を保護しようとしている趣旨も間接的に含まれているのであるから,当該児童の同意があったとしても,これをもって,構成要件該当性あるいは違法性を阻却する事由とはなり得ないと解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。

阪高裁h14.9.10
第1理由不備の主張について(控訴理由第1)
論旨は,原判決は,児童ポルノ製造罪の保護法益について判示しておらず,また,判決理由中において被害児童に与える悪影響を度々指摘し児童ポルノ製造罪の保護法益が個人的法益であるとの前提で論を進めているとみられる一方で,罪となるべき事実において,被害児童の氏名を記載しないなど,保護法益が個人的法益でないことを前提とする判示をしているもので,判決の記載自体が首尾一貫しないから,原判決には刑事訴訟法378条4号の理由不備がある,というものである。
しかしながら,判決においてその認定した罪の保護法益を明示するまでの必要はなく,また,原判決の説示するところからすれば,原判決は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下,「児童ポルノ法」という。)において,頒布,販売目的等による児童ポルノの製造等を処罰することにしたのは,これらの行為が児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず,このような行為が社会に広がるときは,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるからである,と理解していることは明らかであるところ,この理解は正当であり,これによれば児童ポルノ製造罪の保護法益は個人的法益に限らないのであり,また,原判決が罪となるべき事実において被害児童の氏名を記載しなかったのは,証拠上,被害児童は公訴事実記載の氏名の児童であることは明らかであるけれども,児童ポルノ法12条の趣旨に則ってのことと考えられる

大阪地裁H13.2.21
児童ポルノ法違反に関する弁護人の主張に対する判断)
第一 憲法違反の主張について
 一 児童ポルノ法二条一項の憲法一三条、二一粂違反について
  1 弁護人は、児童ポルノ法七粂一項が前提とする同法二条一項について、婚姻可能年齢は民法上男子一八歳、女子一六歳とされており(民法七三一条)、また、刑法上の性的行為に同意することが可能な年齢は一三歳とされているから (刑法一七六条、一七七粂)、少なくとも一六歳以上の女子には法律上、性的な行為に同意する能力があり、性的な自己決定権があるというべきであるから、児童ポルノ法二条一項で年齢別の区別も婚姻についての例外も設けられておらず、一律一八歳未満を児童として取り扱っている点で、性的な表現を含むビデオに出演するという児童の自己決定権を侵害するから、憲法一三条に達反すると主張する。
 しかし、児童ポルノ法は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、児童ポルノにかかる行為等を処罰するとともに、これらの行為などにより心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的としているところ、児童ポルノに描写することは、その対象となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず、このような行為が社会に広がるときは、児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであるから、児童ポルノ法は、直接的には児童ポルノに描写された児童の保護を目的とするものであるが、間接的には児童一般を保護することをも目的としていると解される。このような同法の立法趣旨に照らすと、一八歳未満の者を一律に児童とした上で、児童ポルノを規制する必要性は高いというべきであり、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに児童に淫行させる行為等児童買春に関連する行為をも処罰の対象とする法律である児童福祉法においても、対象者は一八歳に満たない者であることにも鑑みると、いわゆる児童の性的自己決定権が制約されることになったとしても、その制約には合理的な理由があるというべきであるから憲法一三条に達反するとは言えない。
  2 弁護人は、児童ポルノ表現の自由の範疇であるところ、憲法の保障する基本的人権の中でも特に重要視されるべきものであって、法律をもって制限する場合には、より制限的でない他の手段をとらなければならないが、児童ポルノ法は、年齢別の区別も婚姻についての例外も設けられておらず、一律に一八歳未満を児童として扱っている点において、表現の自由に対する過度に広範な規制であり、憲法二一条に達反すると主張する。
    しかし、児童ポルノ法の立法趣旨とその規制の必要性に鑑みれば、同法二条一項が表現の自由に対する過度に広範な規制を定めたものとは言えない。
 二 児童ポルノ法二条三項の憲法二一条、三一条違反について
  1 弁護人は、児童ポルノ法七条一項が前提とする同法二条三項により規制される児童ポルノは、被撮影者である児童の人権を救済し、保護するという目的に照らすと、同法二条三項の定義の中に具体的な子供が被写体となっている場合に限る旨を規定する必要があるのに、そのような限定がないので明らかに過度に広範な規制であるから、意法二一条に達反すると主張する。
    しかし、児童ポルノ法の立法趣旨、すなわち、同法が児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し、ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと、児童が架空の人物ではなく、実在する人物であることは必要であるが、それ以上にその児童を具体的に特定することは必要ないと解すべきであって、そのような規定が設けられていないからと言って同法二条三項が過度に広範な規制であるとは言えない。
  2 弁護人は、「①児童ポルノについての定義である同法二条三項二号、三号には視覚的描写を限定するため「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件を付しているが、この要件は、客観的判断が困難であり、判断基準は曖昧である。よって、限定が曖昧なので対象が広がるおそれがある。②刑法上のわいせつの概念である「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道徳概念に反するもの」という要件と対比すると「いたずらに」という限定がないため規制の対象が広がっている。これらの点で過度に広範な規制であるから、憲法二一条に達反する。」と主張する。
    しかし、わいせつ図画におけるわいせつ概念と比較しても「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件が基準として曖昧であるとは言えない。また、わいせつ物頒布等の行為を規定した刑法一七五条は、社会の善良な性風俗を保護することを目的とするものであるが、児童ポルノ法は、直接的には、児童ポルノに描写されることの害悪から当該児童を保護することを目的とするとともに間接的には、児童一般を保護することをも目的としているから、その射程範囲には自ずから相違があり、わいせつ図画の場合におけるほど性欲を興奮させ又は刺激させるものでなくても児童に与える影響を鑑みると、処罰する必要性が高いと言うべきであるから、「いたずらに」という限定がなくても、同法二条三項二号及び三号が表現の自由に対する過度に広範な規制であるとは言えない。
  3 弁護人は、「児童ポルノについての定義である同法二条三項二号、三号の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」か否かを客観的に判断することは困難である。通常人は、児童の裸体等に性的興奮を覚えたり、それから刺激を受けたりしないのであるから、通常人を基準としてこれを判断するのであれば、児童ポルノに当たるものはなくなるし、また、子供の性に対して特別に過敏に反応する者を基準としてこれを判断することは、通常人を名宛人とする法規範の解釈としては許されない。このように同法二条三項二号、三号は漠然不明確な規定であるから、憲法二一条に違反し、限定が曖昧すぎて刑罰法規として不明確であり、憲法三一条に達反する。」とも主張する。
    しかし、わいせつの概念が「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめかつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義概念に反するもの」のようなものであるにもかかわらず、刑法一七五条が憲法二一条や三一条に達反するものでないとされていることなどからしても、本条の規定が漠然として不明確であるとは言えず、その判断が困難であるとは言えない。
  4 弁護人は、児童ポルノ処罰規定は被撮影者の意思に反するものであることを要件とすべきであるのにそれを欠いているのはいずれも立法目的に照らして合理的関連性を欠くから、過度に広範な規制として憲法二一条に達反すると主張する。
    しかし、児童ポルノ法の立法趣旨、目的、ことに同法が児童ポルノに描写された児童の保護だけでなく、児童一般の保護をも目的としていることなどに照らすと、法二条三項各号が児童ポルノで描写された被撮影者の意思に反することを要件としていなくても立法目的と規制手段との間に合理的関連性を欠くとは言えない。
  5 その他、弁護人は、児童ポルノ法が憲法に達反するとして縷々主張するが、いずれの主張も採用できない。
四 被害者の承諾による犯罪成立阻却事由について
   弁護人は、児童ポルノ販売罪の保護法益は被撮影者たる児童の一身専属的な権利であるところ、本件児童ポルノについては、強いて被撮影者の姿態を撮影した物はなかったので、撮影については被撮影者の承諾があり、さらに、本件各ビデオテープはタイトルが付けられ販売、頒布用に作成された物だから、被撮影者は販売についても包括的に承諾を与えているのであるから、本件児童ポルノ販売行為には、いずれも被害者である被撮影者の承諾が存在し、構成要件該当性あるいは違法性が阻却されるので、児童ポルノ販売罪は成立しないと主張する。
   しかしながら、前述のような児童ポルノ法の立法趣旨、すなわち、児童ポルノに描写された児童の権利を擁護し、ひいては、児童一般の権利を擁護するものであることに照らすと、被撮影者の承諾があったとしても構成要件該当性あるいは違法性が阻却されるものとはみられず、同罪の成立に影響しないと解すべきである。

名古屋高裁H18.5.30
3控訴理由第3(原判示第1につき,訴訟手続の法令違反【輸出罪は不成立】)
所論は,原判決は「児童ポルノDVDを航空機に搭載させ,もって,児童ポルノを輸出した」(原判示第1)と判示するところ,児童ポルノ輸出罪は,児童ポルノをB国の領域外に搬出させた時点で既遂に達するのであって,航空機に搭載させた時点では既遂にならないから,原判決の(罪となるべき事実)は犯罪を構成せず,原判決は刑訴法335条1項に反し,訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで,児童ポルノの外国からの輸出罪の既遂時期について検討する。
性交又は性交類似行為に係る児童ポルノを製造,提供するなどの行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を及ぼし続けこのような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノ処罰法7条もこれらの行為を処罰しているところ,そのうち同条6項は,外国の児童が児童ポルノの描写の対象とされて性的に搾取されている実情があることなどにかんがみ,これに対する国際的な対処が必要であることから,日本国民が同条4項に掲げる行為の目的で児童ポルノを外国に輸入する行為及び外国から輸出する行為をも処罰の対象にしたものと解される。

名古屋高裁金沢支部h17.6.9
(1)
所論は,法7条3項は,真剣な交際をしている者が,児童の承諾のもとで その裸体を撮影する行為,16,17歳で婚姻した夫婦間での撮影をも処罰 の対象にする点で,過度に広汎な規制であるから,憲法21条に違反して違 憲無効であるとする。しかし,過度に広汎な規制で憲法21条に違反すると の所論は採用しがたい上,記録によれば,本作は,所論が指摘するような場合でないことは明らかであるから,本件に適用する限りでは何ら憲法21条に違反するものではない。


(3)
所論は,本件においては,被害児童が児童ポルノ製造に積極的に関与しており,共犯者であるのに,撮影者である被告人のみを処罰するのは不公平であり,憲法14条に違反するとする。しかし,本条の立法趣旨が,他人に提供する目的のない児童ポルノの製造でも,児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ,これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず,かつ,流通の危険性を創出する点でも非難に値するというものであることからすると,児童は基本的には被害者と考えるべきである。そして,記録を検討しても,本件の被害児童が共犯者に当たるとすべきほどの事情は窺えず,また,被告人を処罰することが不公平で,憲法14条に違反するとも認められない。


2被害者の承諾による違法性が阻却されるとの所論について(控訴理由第6)
所論は,原判示第2の2の児童ポルノ製造罪について,被害児童の実勢な承諾・積極的関与があり,違法性を阻却するのに,児童ポルノ製造罪を認定したのは法令適用の誤りであるとする。しかし,法7条3項は,児童に法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真等に描写することにより児童ポルノを製造した者を罰する旨規定しており,その文言からしても,強制的に上記姿態をとらせることは要せず,被害児童が上記姿態をとること等に同意している場合を予定していると解されるし,上記の態様によって児童ポルノを製造することが,当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならないとして児童ポルノ製造罪が創設された趣旨からしても,被害児童の同意によって,違法性が阻却されるとは解されない。また,記録を検討しても,被害児童に,違法性を阻却するほどの真筆な承諾,積極的関与があったとも認められない。

名古屋高等裁判所金沢支部h14.3.28
第3 控訴趣意中,法令の適用の誤り等の論旨(控訴理由第1ないし第18及び第22)について
1 児童買春処罰法が憲法,条約上の規定に違反する旨の各所論(控訴理由第7ないし第15,第17及び第22)について
(1)所論は,児童ポルノ憲法21条の表現の自由の範疇にあるとし,児童買春処罰法が処罰対象とする児童の年齢を一律18歳末満としている点は,刑法上の性的同意年齢が13歳とされ,民法上の婚姻年齢も女子は16歳とされていること,高年齢の児童の場合は自己決定能力を備えているから,必ずしも児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為がすべて児童に対する性的搾取,性的虐待であるとは限らないことからすると,必要以上の,あるいは立法目的に照らし合理的関連性を欠く過度に広範な規制であって,児童ポルノ製造罪の規定は憲法21条1項に違反し(控訴理由第7及び第10),また憲法13条の児童ポルノに出演する児童の自己決定権を侵害するもので(控訴理由第13),無効であるという。
 しかしながら,性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を描写するなどした児童ポルノを製造,頒布等する行為は,第1で述べた児童買春同様,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象ととらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであり,そのためかかる行為が規制されたものであるところ,このような規制の趣旨目的に照らせば,対象となる児童の年齢を一律18歳末満とすることは,身体的及び精神的に未熟である児童の自己決定権を制約する部分があるとしても,合理的な理由があるというべきであり,また表現の自由などとの関係においても必要以上の,あるいは立法目的に照らし合理的関連性を欠く過度に広範な規制であるとはいえないから,所論指摘の憲法の各条項に違反するものということはできない。

(2)また,所論は,児童買春罪の規定についても,対象となる児童の年齢を一律18歳末満とする点で,また規定の文言上対償を伴うすべての性交等が処罰対象とされていて真剣な交際でも代償を供与すれば本罪に当たることとなる点で,過度に広範に性行為に関する児童の自己決定権を侵害するから憲法13条に違反するという(控訴理由第15)。
 しかしながら,第1で述べた規制の趣旨目的に照らせば,単なる性交等ではなく,金銭等の対償を供与し,又はその供与の約束をして,児童に対し,性交等する児童買春について,対象となる児童の年齢を一律18歳末満とすることには合理的な理由があるというべきであり,また「対償の供与」とは,児童に対して性交等することに対する反対給付として経済的利益等を供与することを意味するところ,児童買春処罰法1条の制定の目的を併せ考慮すれば,所論指摘のような真剣な交際の場合がこれに当たるとはいえないから,所論はその前提を誤っていて採用することはできない。