児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

同一被害者に対する数回の買春(かいしゅん)行為は包括一罪であるという主張

 川越支部などでは包括一罪だそうですが、理由を考えてみました。



控訴理由第 法令適用の誤り(罪数)
1 はじめに
 同一被害者に対する数回の買春(かいしゅん)行為は包括一罪であるにもかかわらず、原判決が同一被害者に対する児童買春(かいしゅん)について併合罪と解したことは法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 児童買春(かいしゅん)法は児童福祉法淫行罪の特別法である。
(1) 本法の趣旨、児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)罪の保護法益
 本法の趣旨は、個々の児童を保護する法律である。
 くどいようだが、児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)の保護法益は、児童ポルノに描写された者や児童買春(かいしゅん)の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利である。

誌名等 「青少年問題」(青少年問題研究会) 47(3) 2000.3 p24〜29
著者名 参議院法制局第5部第1課
運用上の課題
すなわち、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為は、児童があらゆる形態の性的搾取・性的虐待から保護されるべきであるとする児童の権利に関する条約の規定や各種の法令で認められている児童の権利について十分な理解があれば、そのような行為に出ることを未然に防止することが可能です。
そこで、この法律の一四条では、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えることにかんがみ、これらの行為を未然に防止できるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育・啓発を行う努力義務を定めています。ここで言う「児童の権利」とは、児童の権利に関する条約中にも規定されているように、児童が「人」として有すべき権利、その人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利等をいいます。この法律で特に念頭に置いているのは、性的搾取・性的虐待を受けず、そこから保護される権利です。

警察庁執務資料
3「児童の権利」とは、児童の権利に関する条約中にも規定されているように、児童が「人」として有すべき権利、その人格の完全な、かつ鯛和のとれた発達のため、幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利等をいい、本法で特に念頭に置いているのは、性的搾取・性的虐待を受けず、そこから保護される権利である。

 特に、児童の保護に関する規定(15条、16条)は児童福祉法と同じ発想によることが顕著であり、厚生労働省が関係通達を出しているのである。

児発第796号
平成11年10月27日
都道府県知事・指定都市市長 殿
厚生省児童家庭局長
「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の施行に伴う児童の保護等について
 平成11年5月26日付けをもって「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11年法律第52号。以下「法」という。別添1参照。)が公布され,また,平成11年10月14日付けをもって「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の施行期日を定める政令」(平成11年政令第322号。別添2参照)が公布され,これらにより,この法律が平成11年11月1日から施行されることとなったところである。この法律には,教育,啓発等(法第14条),心身に有害な影響を受けた児童の保護(法第15条),心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備(法第16条)等が規定されているところであり,その施行に伴う児童の保護等については,下記のとおりであるので,御了知の上,管下の市町村並びに関係機関及び関係団体等にその周知を図るとともに,適切な指導等を行い,その運用に遺漏のないようにされたい。

第1 総合的診断について
 児童の保護については,相談,紹介,通告等があれば,児童の生育歴,性格,精神発達の状況,家族や近隣の人間関係等について慎重に調査及び診断の上,児童及び保護者の意向を十分考慮し,児童の最善の利益を確保する観点から,指導又は処遇を決定すること。その際,従来非行児童等として指導,処遇を行ってきた児童の中には,児童買春,児童ポルノに係る行為等により心身に有害な影響を受けたと認められる者(以下「心身に有害な影響を受けた児童」という。)であるとの認識に立って対応することが必要な児童が少なからず存在していることに十分留意して,総合的に診断を行い,家庭環境,心理的被害の程度,行動上の問題等に応じて適切な処遇を行うこと。
 なお,児童の心理的又は行動上の問題には家族内の相互作用等が様々な形で絡んでおり,保護者等も何らかの問題を抱えていることも多いことから,児童と保護者等との間の相互作用が保護者等自身の問題に強く影響される状況にあると認められる場合には,並行して保護者等に対するケースワークやカウンセリング等の指導を進める必要があること。
 また,性的虐待を受けた児童への対応については,既に「子ども虐待対応の手引き」(平成11年3月29日児企第11号厚生省児童家庭局企画課長通知。抜粋については,別添3参照。)によることとされているので,これを参考とされたいこと。

第2心理的治療について
 心理的治療を要する児童の医療的ケアについては,平成9年7月から,小児特定疾患カウンセリングとして保険診療の対象とされたところであり,心身症神経症を持つ児童が広くカウンセリングを受けられるように改善されたところである。また,平成10年度に創設された児童家庭支援センターには,相談・支援を担当する職員のほか,心理療法等を担当する職員も配置されているところである。心理的治療の必要な児童に対しては,従来から実施している児童相談所への適所による各種の心理的治療やカウンセリング等に加え,これらの資源を有効に活用し,適切な治療,指導等を行うこと。

第3 児童福祉施設入所児童について
 施設入所による保護又は指導の必要な児童については,児童の心身の状況に応じ児童養護施設,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設等の児童福祉施設への入所の措置が行われているが,すでに入所している児童のうち,心身に有害な影響を受けていると認められる場合,児童福祉施設は,児童相談所との連携を図り,児童相談所又は施設に配置されている精神科医心理療法を担当する職員等による心理的治療等の必要な措置を講ずること。なお,平成11年度から一定の児童養護施設心理療法担当職員を配置したところであり,これら職員の積極的活用を図ること。

第4 関係機関等との連携について
1 警察,家庭裁判所児童家庭支援センター等のほか,児童虐待防止センター等の民間の児童虐待防止団体等関係機関,関係団体とも日頃から十分な連携,協力体制の強化・整備を行い,心身に有害な影響を受けた児童の保護が円滑,適切に実施されるよう努めること。

2 心身に有害な影響を受けた児童は,児童自身から性的被害状況の開示を行うことは少なく,家出,異性に対する過度な親密行動,年齢不相応な性的行動,乱暴又は落ち着きのなさ等の行動上の問題により相談の端緒が開かれることも多いことから,学校や保育所等の日常児童と接する機会の多い機関等に対しては,このような特徴を示す児童へ特にきめ細かな注意を払う必要があること等を周知するよう努めること。
3 法第12粂において,この法律で規定する罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(裁判官,検察官,警察官等)は,その職務を行うに当たり児童の人権及び特性に配慮することとされた。児童福祉施設の長は,入所児童に対する証人尋問等について,これらの者から協力を求められた場合,法の趣旨を踏まえて,その時間,場所及び態様について配慮がなされるよう適切に対応すること。

第5 広報啓発,調査・研究,研修の実施について
 厚生省は,既に,心身に有害な影響を受けた児童の保護,処遇に関する調査,研究を厚生科学研究等において実施しており,その成果については各年度の研究冊子等において周知を行っているところである。また,この法律に関して国民への啓発を行うとともに,児童相談所職員等への研修において,虐待を受けた児童及び心身に有害な影響を受けた児童等に係る研修テーマの充実に取り組んでいるところである。都道府県,市町村等においても,法の施行を機会として,住民への啓発を推進するとともに,研修,研究等を積極的に実施し,正しい理解の普及と処遇の向上を図るよう努められたいこと。

(2) 児童福祉法の有害行為の趣旨・保護法益
 もとより、児童福祉法は児童保護の基本法であり、児童の憲法といってもよい。それゆえ児童福祉法の冒頭には次のような規定が置かれている。

第1章総則
第1条〔児童福祉の理念〕
すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
(2)すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
第2条〔児童育成の責任〕
国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第3条〔児童福祉原理の尊重〕
前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 児童買春(かいしゅん)法も児童保護の趣旨であることは間違いない。
 従って、本法は児童福祉法の特別法であって、買春(かいしゅん)罪の解釈にあっても、このような児童福祉法の原理を常に考慮しなければならない(註釈特別刑法第7巻児童福祉法p2)。

 さらに、児童福祉法34条の有害行為(特に淫行させる行為)の保護法益も、児童の健全育成・児童の福祉であると説明されている。通説では児童の心身に有害な影響を及ぼす行為を現実にさせるという侵害犯と説明されており、淫行罪は数ある有害行為の中でも最も重い処罰に値するとされている(注解特別刑法第7巻第2版児童福祉法p7)。

本号の行為が児童福祉法における他の違反行為と比較しても格段に重い処罰をのぞむこととされているのは、それが児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する程度が著しく高いと考えられる為だとされている。(刑事裁判実務大系第3巻P426)

 淫行は児童の健全な育成を直接侵害する行為として重く処罰されている。淫行そのものが児童の権利侵害なのである。

 判例も挙げておく。

【事件番号】高松高等裁判所判決/昭和58年(う)第262号
【判決日付】昭和59年1月23日
【判示事項】児童福祉法三四条一項六号違反の罪数
【判決要旨】児童福祉法三四条一項六号違反の罪は、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立する。
【参照条文】児童福祉法34−1
【参考文献】家庭裁判月報36巻9号110頁
なお、児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項所定の罪は、その法益が対象である児童の福祉という一身専属的な利益であることにかんがみ、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立するものと解すべきであるから、二名の児童に淫行をさせた本件は併合罪として処理すべきであるのに、これを包括一罪として処理した原判決は法令の適用を誤つたものといわねばならないが、被告人には累犯前科があり、併合罪の処理にあたつては刑法一四条の適用を受けることとなる結果、いずれにしても処断刑期の範囲は同一であるから、この誤りが明らかに判決に影響を及ぼすものとは認められない)。

【事件番号】神戸家庭裁判所判決/昭和60年(少イ)第1号,昭和60年(少イ)第3号
【判決日付】昭和60年5月9日
(証拠の標目)
ところで、同号にいう「児童に淫行をさせる行為」には自己が児童の淫行の相手方となつた場合を含まないと解すべきことは弁護人主張のとおりであるが、他人を教唆し同人をして児童に自己を相手方として淫行をさせた場合には、単に児童の淫行の相手方となつたに過ぎないから犯罪は成立しないとすべきではなく、「児童に淫行をさせる行為」の教唆犯が成立するものと解するのが相当である。けだし、児童福祉法三四条は児童をとりまき児童に働きかける者に対して児童の福祉を著しく阻害する行為を禁ずることにより児童の健全な育成を図っているのであり、「児童に淫行をさせる行為」とは児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童の淫行を助長、促進する行為をいうものと解されるところ、「児童に淫行をさせる行為」をするよう他人に教唆した者は児童の淫行の相手方が第三者であるか教唆者であるかにかかわらず、児童の淫行を助長、促進してその法益を侵害したものであるから教唆犯の責を負うべきであり、児童の淫行の相手方が教唆者であるか否かによつて教唆犯の成否を左右すべき合理的な理由はないからである

【事件番号】大阪高等裁判所判決/昭和27年(う)第2515号
【判決日付】昭和28年3月11日
【判示事項】児童福祉法第六○条第一項の罪の罪数
【判決要旨】児童福祉法第六○条第一項は、淫行の回数が一回であつても同罪が成立するが、それが継続的に反覆される場合においても児童ごとに包括的に観察して一罪とする趣旨である。
【参考文献】高等裁判所刑事判例集6巻2号252頁
しかし、右児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に該当する罪は、その侵害せられる法益が、対象である児童の福祉という専属的単一の利益であるから、児童をして淫行をさせたときは、淫行の回数が一回であつても同罪が成立することもちろんであるが、それが継続的に反覆せられる場合においても、回数のいかんにかかわらず児童ごとに包括的に観察して一罪とする趣旨であると解すべきである

(3) 両法の関係
 ここで、児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春(かいしゅん)の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するとすれば、それは「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」ことに他ならないから、本法が児童福祉法の特別法であることは明らかである。
 児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)罪の位置付けとしては、児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)行為が、児童ポルノに描写された者や児童買春(かいしゅん)の相手方となった児童の、性的搾取・性的虐待を受けないで自らが人格の完全な、かつ調和のとれた発達のため、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長する権利を侵害するという意味で「児童の徳性や情操を傷つけ健全な育成を阻害する」一つの犯罪類型であることから、有害行為を追加するものと理解すべきである。

 裁判所は、児童ポルノ・児童買春(かいしゅん)に係る行為が児童の福祉を害さないといえるのだろうか?

(4)立法過程
 立法過程でも、淫行罪と買春(かいしゅん)罪とは、共通の目的・保護法益だという前提で、買春(かいしゅん)は児童福祉法淫行罪(淫行罪=淫行させる場合にのみ成立するという認識であった)を補うものだと説明されている。

新聞報道
児童買春(かいしゅん)の処罰強化臨時国会に特別法案「親告罪」を削除へ自民方針
1997.08.03東京朝刊1頁総合1面(全879字)
自民党は二日、性暴力から青少年を保護するため、「児童買春(かいしゅん)」の処罰強化などを柱とした「児童の性的搾取・虐待防止法案」(仮称)を特別立法として秋の臨時国会にも提出する方針を固めた。十八歳未満を対象とした国内外での買春(かいしゅん)行為を厳しく取り締まるため、被害者や親族が告訴することを要件とする「親告罪」規定をなくすことや、告訴期間を現行の六カ月から大幅に延長することなどを盛り込む方向だ。
産経新聞

145回-参-法務委員会-08号1999/04/27
円より子君おっしゃるとおり、民法七百三十一条では、婚姻年齢は男子が満十八歳、女子が満十六歳というふうに決められておりますし、十八歳にするということについてはさまざま私どもも検討いたしました。
そして、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた先ほど申しました児童の権利条約がございますが、この条約では、その対象となる児童を十八歳に満たない者とすることを原則としております。これも委員御存じだと思います。
また、我が国におきましては児童福祉法がございますけれども、この児童福祉法では、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行をさせる行為等、児童買春(かいしゅん)に関連する行為をも処罰の対象としておりまして、この法律ではその対象となる児童をやはり十八歳に満たない者としております。
これらの条約、法律の目的と、この法律の目的から考えて、対象とする者の範囲も同一にすべきであるという結論に達しまして、私どもは十八歳未満の者をこの法律に言う児童としたところでございます。

145回-衆-法務委員会-12号1999/05/14
○円参議院議員先生が今おっしゃったようなさまざまな国内の法律や、また諸外国の法律について、この年齢については随分議論が交わされました。その結果でございます。
ですから、今先生がおっしゃったようなことは繰り返しませんけれども、御懸念のように、子供の定義というものは必ずしも一義的に定まっているわけではございませんので、先生も御存じだと思いますが、一定の年齢に満たない者に対し特別の保護を与えることを定めた児童の権利に関する条約というのがございまして、その条約の中で、その対象となる児童を十八歳に満たない者とすることを原則としております。そして、この条約は世界的に普及しておりまして、この十八歳という年齢は、子供と大人を分ける緩やかなメルクマールになりつつあると私は思っております。
また、我が国におきましては、児童が健やかに成長するように各般の制度を整備するとともに、児童に淫行させる行為等児童買春(かいしゅん)に関連する行為をも処罰の対象とする法律に児童福祉法がございますが、同法の対象となる児童も十八歳に満たない者となっております。
これらの条約や法律の目的と今回つくります法律の目的から考えまして、対象とする者の範囲も同一ですべきであるという結論に私ども達しまして、十八歳未満の者をこの法律に言う児童としたものでございます。
ちょっと今、林議員からも指摘がありましたが、先ほど先生がおっしゃった、婚姻年齢が女性の場合我が国は十六歳でございますけれども、この十六歳ということに関しましても、児童福祉法では同法の対象となる児童は十八歳に満たない者でございますが、かつ、それは女性の婚姻による例外を認めておりませんことは先生も御承知のとおりと思いますので、そういう結論に達しました。
〔橘委員長代理退席、委員長着席〕

145回-衆-法務委員会-12号1999/05/14
○坂上委員私は、提案者に申し上げたいのですが、やはりこういうのは、児童保護がこの法律の目的、児童福祉法もやはり児童の福祉、保護のため、それから学校教育法もそうなんですね。だから、これを専属管轄として家庭裁判所、しかし、家庭裁判所になぜしたのか。実務上の扱いがどれだけ違うのかというと、大した違いがないのですよ。
だけれども、立法の趣旨としては、やはり児童の福祉を害するような行為については専門は家庭裁判所であるから、それからまた、この少年法の趣旨からいって家庭裁判所の管轄がベターである、こういう判断のもとでなったんだ。これは、さっきの裁判所あるいは法務省の答弁でございます。せっかく先生方がそれだけ御配慮いただいてこれだけの法案ができたのでございますから、何で家庭裁判所の方を専属管轄になさらなかったのだろうか。
ただし、こういうことがあるのです。先生方の気持ちの中に、ここにも書いてあるのですが、
少年を放任し又は原因を与えて少年を非行に陥れた成人を罰するアメリカの原因供与罪にならったものといわれているが、それを中途半端に採用したために、実効性の乏しいものになったうえ、職権主義的・非要式的な審問主義の家庭裁判所の手続の中に、当事者主義的・対審的手続の成人刑事事件を取入れたこと、少年一般の福祉を守るという理念から、少年保護事件と直接の結びつきのない成人の刑事事件を、少年保護事件を取扱う家庭裁判所で処理することにしたこと、保護者を対象とする処分が認められていないこと、などの制度的な問題点があるうえ、併合罪の併合の利益が害される場合があるなど立法的に解決すべき問題点が多いと指摘されている。
こういうことでございます。こういうような解説があるのですね。
だから、端的に言いますと、今は地方裁判所でやろうと家庭裁判所でやろうと、いわゆる公開主義によるところの、刑事訴訟法によるところの裁判でございますから、何らの少年法の趣旨というものがこの裁判の中に生かされていない、全く中途半端だということがここの中に書かれているわけであります。
したがいまして、ちょっときのう、おとといあたりの質問取りの中にも若干そんな感じを私は抱いていたのですが、先生方の中ではどういうふうな、いわゆる児童福祉というような観点から、これは、児童は被害者であり、相手は加害者であるという概念であるわけでございますのが、できるならば、私は、どうも立法の趣旨から見るならば、家庭裁判所が専属管轄にしてもいいんじゃなかろうか。
ただ、実際は余り区別がないようでございまして、率直な話、先生方は、区別がないから、どうしようもないから地裁にしたのだ、こうなるのか、あるいは、家庭裁判所に出しても家庭裁判所はそれだけの効果を余り発揮していないのだ、こうなるのか、率直な御答弁をいただきたいのです。
○堂本参議院議員今先生がおっしゃいましたこと、ごもっともでございまして、最初に自社さ案でつくっておりましたときに、児童福祉法の三十四条、これは淫行について決めたところですが、これは今先生がおっしゃったように、福祉の視点から淫行に関しての処罰ということで、その段階で、児童福祉法から三十四条を削除した場合には家庭裁判所を管轄にするということの議論を随分といたしました。
しかし、三十四条を削除して、なおかつ刑法だけでやるということになりますと、今度、児童の福祉の点やなんかに関して、刑法では十分にできない、リハビリその他の点はできないということで、削除をやめた段階から、福祉が前提ではなくて、今回の場合はあくまでも刑法の領域にとどめる、そして、もっと児童福祉については、再度児童福祉法の改正をしなければならないという判断から、こういうような形になったわけでございます。

 立法過程を溯ると、そもそも児童福祉法の有害行為(淫行規定等)の改正として買春(かいしゅん)罪・児童ポルノの罪の創設が検討されていたのである。たまたま法律の名前が変わり、別の法律にまとめられただけで、保護法益も変質してしまうということはない。買春(かいしゅん)罪は実質的には児童福祉法34条1項の一項目なのである。
140回-衆-厚生委員会-30号1997/05/28
140回-参-厚生委員会-06号1997/04/01
140回-参-厚生委員会-08号1997/04/08
140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10

 さらに、平成9年の児童福祉法の改正の際には、買春(かいしゅん)について児童福祉法による規制を検討することが両院で附帯決議とされている。その結果が児童買春(かいしゅん)、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律であることは明らかであるから、児童福祉法と保護法益が違うことは有り得ない。児童福祉法と本法とが一般法・特別法の関係にあることは間違いない。

140回-参-厚生委員会-09号1997/04/10
児童福祉法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府は、次の事項について、適切な措置を講すべきである。
 九、児童の人権の尊重という観点から、虐待、買春、性的搾取等に関する規制の強化等について検討を進めること。
 右決議する。

140回-衆-厚生委員会-31号1997/05/30
児童福祉法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
政府は、次の事項について、適切な措置を講ずべきである。
 九 児童の人権の尊重という観点から、虐待、買春、性的搾取等に関する規制の強化等について検討を進めること。また、児童虐待に関する児童福祉法の運用基準の明確化等を図り、その防止及び児童の保護に万全を期するとともに、児童福祉施設において体罰が生じることがないよう施設等に対する指導の徹底等を図ること。
以上であります。

3 児童福祉法淫行罪の罪数処理
 児童福祉法淫行罪の場合、淫行の回数にかかわらず、包括して児童ごとに一罪となる。

児童福祉法違反被告事件
【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和62年(う)第1258号
【判決日付】昭和63年2月2日
【判示事項】同一の児童を継続的に反覆して淫行させた児童福祉法違反の罪につき包括一罪を認めた事例
【参照条文】児童福祉法34−1
      児童福祉法60−1
      刑事訴訟法380
【参考文献】東京高等裁判所判決時報刑事39巻1〜4合併号1頁
      判例タイムズ668号228頁
      判例時報1272号152頁
原判決は原判示のとおりの事実を認定した上、これに対する法令の適用において、各児童福祉法違反罪は併合罪の関係に立つとして、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により犯情の最も重い原判示二の罪の刑に法定の加重をしている。しかし、本件は同一の児童を継続的に
反覆して淫行させたという事案であるから、その回数が多数回にわたつていても、これを包括的に観察して一罪として処断すべきである。したがつて、原判決がこれを併合罪として、法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきものとしたのは、法令の適用を誤つたものというべく、かつ、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

児童福祉法違反被告事件の判決に対する控訴事件
【事件番号】高松高等裁判所判決/昭和58年(う)第262号
【判決日付】昭和59年1月23日
【判示事項】児童福祉法三四条一項六号違反の罪数
【判決要旨】児童福祉法三四条一項六号違反の罪は、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立する。
【参照条文】児童福祉法34−1
【参考文献】家庭裁判月報36巻9号110頁
なお、児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項所定の罪は、その法益が対象である児童の福祉という一身専属的な利益であることにかんがみ、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立するものと解すべきであるから、二名の児童に淫行をさせた本件は併合罪として処理すべきであるのに、これを包括一罪として処理した原判決は法令の適用を誤つたものといわねばならない

4 児童買春(かいしゅん)罪の罪数処理
 児童買春(かいしゅん)法は児童福祉法の特別法であること、児童福祉法淫行罪と買春(かいしゅん)罪の保護法益が共通であること、本件判示第1第2の行為は被害者が同一で日時も近接していることを考えると、両罪は包括一罪となると解すべきである。

6 まとめ
 同一被害者に対する数回の買春(かいしゅん)行為は包括一罪であるにもかかわらず、原判決が同一被害者に対する児童買春(かいしゅん)について併合罪と解したことは法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。