児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

トイレ盗撮行為の擬律

 プライバシーというのは、被害者が一個人なので声を集めないと保護の圧力が高まりません。映画の盗撮は懲役10年なのと対照的。
 報道の自由と対立するので、報道機関も腰が重い感じです。
 更衣中の児童を盗撮しても児童ポルノ製造罪にならないと論文に書いた検事さんもいました。

http://www.tbs.co.jp/anatsu/nekoneko/200710.html
一部週刊誌や、新聞で報道された盗撮についてご説明させていただきます。
様々な方にご心配いただきましてありがとうございました。まず、私はたいした被害もなく、御陰様でとても元気です。あの事件以降は、盗撮という恐怖に怯えるというよりも、犯人を捕まえたという恍惚感に浸るようにしています。おかげで、冷静に様々な問題点を分析できるようになってきました。一つは、法律の不備です。
今回は盗撮という卑劣な行為の現行犯で、私はもちろんその盗撮自体を法律で裁けるものだと思っていました。ところが今回の罪状は建造物侵入、つまり女性トイレに男性が入ったということでの立件なのです。公共の場での盗撮に適用されるのは迷惑防止条例なのですが、今回の場合は会社内で、会社が許可した人間による犯行のため公共の場とはいいづらく適用が難しいというのです。それでも、会社とは不特定多数の人が出入りする場所で、いちいちその人の性癖まで会社がチェックするなんて到底無理なわけで、今回のようなケースを会社の管理不行届きといえるでしょうか。盗撮犯が女性だったらどうなるのでしょうか。トイレでなく階段での盗撮だったらどうなるのでしょうか?「駅や電車」と「会社」という場所の違いで、同じ行為の罪の重さが変わっていいのでしょうか。どうやら法律は遅れているようです。
携帯電話のカメラ機能の進歩、盗撮犯の現行犯逮捕(流出して発見されればわいせつ図画陳列罪が適用されます)などまだまだ想定外であり、デリケートな問題のため被害者が声を上げにくいのも原因かもしれません。法整備をすすめるためにも、私は声を大にしていいます。「盗撮は犯罪で、断じて水には流せません」

http://news.livedoor.com/article/detail/3366609/
こうした久保田アナが述べる「法律の不備」はもっともな意見のようだ。盗撮問題に取り組んでいる平松総合調査事務所の平松直哉さんもJ-CASTニュースに対し、同様の問題を指摘している。
「盗撮を取り締まるのは、軽犯罪法で『ひそかにのぞき見た』と定められているものと各都道府県の迷惑防止条例だけで、どれも現在の状況に対応している法律ではない。今回の盗撮事件は、建造物侵入の罪状の方が罪状を取りやすく罪が重いと判断して(警察側が)適用したのでしょう。ただ、盗撮行為に対する罰則という点で、現状の規制では対応できていないと思います」
刑法では、建造物侵入罪は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金が課される重い罪。しかし、盗撮の被害者にとってみれば「盗撮行為」自体が罰せられないのもおかしな話といえばおかしな話だ。

 最初に思いつくのが、窃視罪(軽犯1条23号)。これも個人的法益的性格はありますが、少ない。拘留・科料しかない。

軽犯罪法
第1条〔軽犯罪〕
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

 トイレに入るのだから建造物侵入ですが、これは、個人的法益ですが、トイレ使用中の人のプライバシーではない。でも、3年以下という法定刑は、そこそこ重い。

刑法第130条(住居侵入等) 
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 条例は「公共の場所又は公共の乗物において、」という文言で、個人的法益は副次的です。撮影罪の上限は1年で、条例の罰則としては重い。トイレは「公共の場所又は公共の乗物」ではないので、本件には適用されない。

http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/ag10122121.html
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
第五条 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
第八条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第五条の二第一項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 こういう罰条で、最大限被害者のプライバシーを保護しようとすれば、軽犯罪法+建造物侵入ということになります。

刑法第53条(拘留及び科料の併科)
拘留又は科料と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条の場合は、この限りでない。

というので、処断刑期の上限は懲役3年および拘留・科料になります。最高懲役3年の実刑+拘留になる。
 これは罰則として足りないのかを考えると、刑法上、名誉・プライバシーの保護の規定を見ると、

第133条(信書開封)
正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する
第134条(秘密漏示)
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第230条(名誉毀損) 
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

となっていて、トイレ盗撮1回の刑期としては、これだけあれば十分という感じです。
 そういうわけで、既存の罰則で対応できているので、盗撮について特段の立法がされないと理解することもできます。
 奈良県で迷惑条例の改正で対応する動きがありましたが、今のところ改正されていません。
http://www.pref.nara.jp/somu-so/jourei/reiki_honbun/ak40109401.html

盗撮:処罰拡大 “事件元”奈良県警、条例改正したい−−奈良地検“待った”
2006.08.23 毎日新聞社
 ◇私的空間までは…
 警察官による救急車内での盗撮を立件できなかった奈良県警が、すべての場所での盗撮を処罰できるように、県迷惑防止条例(迷防条例)の一部改正の検討を進めていたところ、奈良地検から「待った」がかかった。国会での「盗撮禁止法」上程の動きが主な理由だが、県警は改正を目指す姿勢を崩していない。
 同条例は、公共の場所や乗り物で、服に隠れている他人の体や下着を盗撮することを禁止している。ところが今年5月、県警田原本署の元巡査部長が、救急車内で息子の搬送に付き添った母親の下着を盗撮した「事件」を巡り、県警は「救急車内は迷防条例でいう『公共の乗り物』とはいえない」として、同条例違反容疑での立件を見送った。
 この元巡査部長は別の盗撮容疑で逮捕・起訴されたが、批判や疑問の声が相次ぎ、県警は、場所を問わずに盗撮行為を禁止する迷防条例の一部改正の検討を開始した。県民対象の意識調査でも、こうした改正を約8割が支持したという。
 しかし奈良地検は「盗撮禁止法が施行されれば迷防条例の罰則は効力を失う」として法律が出来るのを待つべきという姿勢だ。さらに、「条例は大勢の人の前で他人に迷惑をかける行為を禁じるもの。適用範囲を個人の家など私的な空間にまで広げるのは疑問」などと根本的な疑問も投げかけている。一方、県警生活環境課の担当者は「より詳しい県民対象の意識調査をするなど、慎重に作業を進めたい」と話している。

 どうして条例ではだめなんですかね?立法されてませんけど。特措法でいいじゃないですか。