児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

相思相愛の抗弁

 弁護人からの問い合わせで引っ張り出してきました。
 師弟関係の男女交際は、交際が破綻すると児童淫行罪で、交際が成就して結婚すると犯罪不成立なんですよね。
 その場合、3項製造罪(姿態とらせて製造)も違法阻却されるんじゃないか?

違法性の意識欠如(児童淫行罪について結婚の真意があること)
1 はじめに
 本件各児童淫行にあたっては、被害児童の真摯な承諾があり、かつ、結婚を前提に交際している等の状況からみて承諾は社会的に見て相当であるから、違法性が阻却される。
 さらに、仮に違法とされたとしても、被告人には違法性の意識がないから、刑法38条3項但書によって、児童淫行罪については、減軽する必要がある。
2 児童淫行罪の限定解釈
 判例によれば、児童に対する性的行為のすべてが処罰されるわけではなく、「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう」と限定解釈をするのである。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所大法廷判決/昭和57年(あ)第621号
【判決日付】昭和60年10月23日

 これは児童淫行罪についてもそのまま妥当する。
 すなわち、児童淫行罪の淫行については、判例

名古屋高等裁判所判決昭和54年1月25日
児童福祉法三四条一項六号にいう「児童に対し淫行をさせる行為」とは原判決が引用する昭和四○年四月三〇日最高裁判所第二小法廷決定にいう「児童に対し淫行することを強制強要する場合のみならず、直接たると間接たるとを問わず児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為を包含する」ものと解するところ、右の「事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する」との趣旨は、当該児童が淫行するか否かの意思決定をするについて、これを左右し支配するに足る心理的、物理的強制力を加えることが必要であるとか、犯人と淫行をなした児童との間に雇用状態や性関係のむすびつき、或は相互の経済的、物質的利益の授受などの行為が存することを必要不可欠の要件とするものとは理解し難く同法文が「淫行をさせる行為」とした文辞の解釈上その行為の態様として少なくとも児童をして淫行行為をすることを容易ならしめて、これを助長し促進する事実上の影響力のある行為の存在を必要とし、またそれをもつて足るものと解するのが相当である。

などとされ、現実に性的行為を強要されたことも、現実に事実上の影響力と性的行為との間の因果関係も必要ないとされているので、師弟関係のように事実上の影響力がある関係がある場合には、そういう関係があっても、被害者において、真摯な承諾があり結婚を前提にして真剣な交際が行われていることがありうるところであって、そのような場合には、性交・性交類似行為があっても違法性を阻却されうるのである。

3 本件製造罪の違法性阻却事由
(1)被害児童の承諾
 証拠上、性的行為にあたり、被告人が被害児童を騙した・脅した・強制したという全く要素はない。
 被害者の真摯な承諾が認められる。

(2)社会的相当性
 さらに本件では社会的相当性がある。
 被告人と被害児童が、本件犯行(児童淫行罪も製造罪も含む)当時、結婚を前提に相思相愛の関係で交際していたことは、証拠上明かである

 民法上の「婚姻可能年齢」が満16歳であるが(民法731条)、16歳になって出会っていきなり婚姻ということはありえないのだから、16歳以前の段階でも満16歳での婚姻を前提とする親密な交際が民法上も許容されていて、刑法上の社会的相当行為とされるのである。
 本件でも、被害児童と被告人とが婚姻に至っていれば、児童淫行罪についても撮影についても、個別の行為の時点でも、社会的相当行為(結婚を前提とする真剣な交際)として、何らの犯罪にもならないところである。
 そうであるならば、たとえ交際が破綻したとしても、個別行為の時点で社会的相当性を備えていた以上は、さかのぼって違法性を帯びることはない。

4 まとめ
 児童淫行罪については、被害者の承諾+社会的相当性により違法性が阻却されるから、成立しない。
 児童淫行罪について有罪とした原判決は法令適用の誤りにより破棄を免れない。
 さらに、仮に違法とされたとしても、被告人には違法性の意識がないから、刑法38条3項但書によって、児童淫行罪については、減軽する必要がある。原判決は違法性の意識を欠いた点に刑法38条3項但し書きを適用して減軽しなかった点で重すぎて不当であり、量刑不当により破棄を免れない

 これに対する高裁の判断も示しておきます。
 ジャブでかました控訴理由の割には、まともに判断してくれていて、まあ、理屈としてはあり得るが、事例としては当てはまらないということでしたから、この判示が使える事案もあるかも知れません。なかなか通らない抗弁だと思った方がいいですが。

札幌高裁h19.3.8
2違法性が阻却されるとの控訴趣意について
論旨は,要するに,児童の真撃な承諾があり,かつ,被告人と児童が本件当時結婚を前提に相思相愛の関係で交際していたのであって,児童淫行罪及び児童ポルノ製造罪は,いずれも違法性を阻却するのに,両罪を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで,検討するに,なるほど,児童との真筆な交際が社会的に相当とされる場合に,その交際をしている者が児童の承諾のもとで性交しあるいはその裸体の写真を撮影するなど,児童の承諾があり,かつ,この承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には,違法性が阻却され,犯罪が成立しない場合もありうると解される。
しかし,本件においては,
被告人と児童の交際はその許可を得ていないこと,
上司から教え子との私的交際を禁ずる旨の注意を受けた
・・・
こと等に照らすと,被告人の児童との交際は真撃なものとはいえず,いかに相思相愛の関係であっても,また,児童の承諾があってもそれが社会的にみて相当とは到底いえない。したがって,本件においては違法性は阻却されない。