児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

画像掲示板の刑事責任についての裁判例

 横浜の方の弁護人やマスコミから、裁判例を送れとか売ってくれとか言われますが、それくらい自分で探して欲しいところです。
 奥村としては不作為犯構成をプッシュしたいので、不作為犯(的)・正犯説と不作為犯・幇助説の裁判例を紹介します。
 (共謀共同正犯説はさておき、)掲示板管理者が正犯か幇助かという問題について、有罪であるという結論が先にあって、理屈(判決理由)がぶれているのがわかると思います。
  とにかくおまえは有罪だ。
  細かい理由はわからん
ということです。

 罪刑法定主義ですから、理由のつく範囲の責任に限定して欲しいと思います。
 こんな状況では、認めるにしても認めないにしても、取り調べや罪状認否でどう言えばいいのか困りますよね。

横浜地裁H15.12.15(児童ポルノ公然陳列罪)
(犯罪事実)被告人は,平成12年ころから,東京都渋谷区所在g株式会社が管理するサーバーコンピュータの記憶装置であるディスクアレイに「p掲示板」と称するインターネット上のホームページを開設し,××番地又はその周辺等において管理運営するものであるが,インターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者が衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像を送信するかもしれないことを認識しながら,あえて,平成年月日ころから平成年月日ころまでコンピュータのディスクアレイに,別紙一覧表記載のとおり,前後22回にわたり,インターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者が送信した衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像合計22画像分を記憶・蔵置させたままこれらを削除せず,もって,上記児童ポルノをインターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者に閲覧可能な状況を設定し,上記日時ころ,上記児童ポルノ画像データにアクセスしたAほか不特定多数の者に対し,上記画像データを送信して再生閲覧させ,児童ポルノを公然と陳列した。

(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は,(1)本件の公訴事実は訴因が不特定である,(2)本件掲示板に問題の画像をアップロードさせた者が処罰されていないのに被告人だけが起訴されているのは公訴権檻用である,(3)児童ポルノ陳列罪における「陳列」には不作為は含まれないし,含まれるとしても被告人には作為義務も作為可能性もない,(4)本件掲示板に児童ポルノである画像がアップロードされてこれが公然陳列されたことによる法益侵害は正犯者の責任で評価し尽くされるのであり,本件掲示板の運営管理者である被告人がこれを削除しなかったとしてもそれは不可罰の事後従犯であるなどと主張する。
しかしながら,児童ポルノ画像の被写体となった人物(被害者)の氏名等が記載されていないとしても,画像のファイル名とその記憶・蔵置の年月日時分が明記されており,不真正不作為犯の作為義務の内容についても検察官が「など」の中に「削除しなかった」ことも含まれると釈明したことにより,それが明確化されたといえるから訴因の特定に欠けるところはないと解されるし,仮にアップロード者が処罰されていないとしても,後述のとおり被告人の刑責は軽視し得ないものであるから,被告人に対する公訴提起が公訴権の濫用であるとは到底いえず,いずれの意味においても本件公訴提起は適法である。
 児童ポルノ公然陳列罪において不作為の態様による犯罪の成立を否定すべき理由はなく,前掲各証拠によれば,被告人は本件ホームページの開設・管理者としてアップロードされた児童ポルノ画像を削除する作為義務も作為可能性もあったことは明らかであり,にもかかわらずこれを削除しなかった被告人の刑責はアップロード者の刑責とは別に追及されるべきものであると考えられるから,アップロード者の刑責で児童ポルノ画像が公然陳列されたことによる法益侵害が評価し尽くされるとはいえないし,被告人が事後従犯になるものでもない。以上のとおりであるから,弁護人の主張はいずれも理由がない。

名古屋地裁H18.1.16
(罪となるべき事実)
被告人は,・・・が管理していた・・・に設置されたサーバーコンピュータに,不特定多数の者が児童ポルノ画像を送信することにより自動的にその画像が掲載されて,インターネットを利用する不特定多数の者において,これを受信して再生閲覧することが可能となる電子掲示板「ロリータ××」を開設し,これを管理しうる立場にあったものであるが,
・・・・
上記掲示板の開設者としてこれを管理し,違法画像が同掲示板に受信掲載されているのを発見した場合には,これを削除するなどして,これが不特定多数のインターネット利用者に閲覧等されるのを防止すべき義務があるのに,別紙一覧表2記載のとおり,らに、平成年月日ころから同年月日ころまでの間に,所在のほか3か所において,ABCDこもごも,衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法によって描写した電磁的記録である児童ポルノ画像合計11画像を,上記電子掲示板に送信して記憶蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,これらの画像の閲覧が可能な状況を設定し,もって,児童ポルノを不特定多数の者に公然陳列しようとした際,同掲示板にこれらの画像が受信掲載されていて,不特定多数のインターネット利用者が再生閲覧することが可能であることを知りながら,敢えてこれを放置し,もって,これを幇助した。

(争点に対する判断)
1検察官は,判示第2の所為について,被告人と一覧表2記載の各投稿者(以下「投稿者」という。)との間に,児童ポルノの公然陳列についての共同正犯が成立すると主張した。
2しかしながら,判示第2の事実について取り調べた各証拠によれば,同事実において被告人の行った行為は,上記のとおり,児童ポルノを掲載した電子掲示板を開設していた被告人が,投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたというものである。そして,同証拠によれば,被告人と各投稿者らとの間には,上記の内容の電子掲示板が開設されていることの認識と,これに対して投稿者らが児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,これがインターネットを通じて不特定の第三者に閲覧可能であることを相互に認識していたにとどまり,具体的に相手の行為を利用して各投稿者が送信蔵置させた児童ポルノを不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡があったとは言い難い。

3したがって,判示第2の各犯行lこついて,被告人が共同してこれを実行したというためには,被告人の,上記投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたという行為が,これを怠れば自ら積極的に公然陳列したと評価されるほどに,強度の削除すべき義務に違反する行為と言えることが必要と解される。
(1)この点について上記被告人の役割について検討すると,確かに被告人は,上記電子掲示板を開設し,インターネットを通じて不特定の第三者がこれに児童ポルノを送信して記憶蔵置することを可能にしたものであり,これを管理しうる立場にあったのであるから,不特定の第三者にこのような画像が閲覧されることを防止するために,これを削除する等して管理すべき義務があったというべきものである。
(2)そこで,更に進んで,これを怠ったことが,投稿者と共同して児童ポルノを公然陳列したと評価し得るほどに強度の違法性を有するといえるかについて検討を加える。あ上記のとおり,被告人と投稿者らとの間には,具体的画像を不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡がないことからすれば,投稿者と被告人との間で,相互に相手方の行為を利用して児童ポルノを公然陳列しようとの意思が形成されていたとは言い難い。
そうすると,被告人が,投稿者から上記掲示板に児童ポルノに該当する画像が投稿されたことを認識したのに,これを削除しなかったことをもって,自ら不特定多数の者に対し公然陳列したと同一に評価されるほどに強度の削除義務違反があったと合理的疑いを入れる余地なく認定することはできない。
いしかしながら,上記の被告人の電子掲示板開設に伴う管理義務を考慮すると,判示第2記載の行為は投稿者らの不特定多数の者への公然陳列を封助したものと認めるのが相当である。