児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

否認事件で被害児童を尋問すると、量刑上不利に評価されることがある。

これはおかしいと思いますが、弁護士としては常識だと思います。刑法学会のwsで学者先生は知らないようでした。
 いくらでも実例を挙げることができます。
 被害者調書を不同意にした結果の、検察官請求の尋問であって採用したのは裁判所であって被告人は反対尋問権を行使しただけであっても、ビデオリンクであっても、遮蔽措置であっても、忌まわしい記憶を呼び起こしたとして不利益に評価されるのが実務。
 否認に成功すれば無罪、失敗すれば重くなるという、危険な賭けです。
 自白事件なら「必要もないのに尋問した」とか、もっと非難されますよね。

量刑理由の一例

  • 被害児童はビデオリンクの証言まで余儀なくされ容赦ない反対尋問に晒されながらもその屈辱に耐えた
  • 法廷の被害者を非難した
  • 被害児童にビデオリンクで証言させた
  • 被害者は公判準備期日に数回出頭して二次的被害
  • 被害者の尋問自体は加重要素とはならないが、その権利を行使していわれなき被害を与えた以上、相当の加重要因となる 虚言を弄して、苦痛を強めた
  • 証人尋問により被害の追体験をうけた被害は大きい

 否認するにしても、被害者を尋問するかどうかについては、さらなるインフォームドコンセントが必要です。

奥村の経験を紹介しておきます。

大阪地裁H15.8.6
また,被害児童2名とその友人に公判廷で証言させることを余儀なくさせた点は,被害児童らに更なる被害を与えたものであり,犯行後の情状も悪質である。

  ↓

控訴理由 量刑不当
 被害児童の尋問は検察官請求によって、裁判所が行ったものである。被告人は直接尋問することはなかったのであるから、量刑理由としては不適切である。
 ましては、軒並み証言拒絶権の告知も忘れて、ある意味で児童らに証言を「強要」した裁判所に言われる筋合いはない。

  ↓

阪高裁H16.1.15

4 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張(控訴理由第7)について
 所論は,原審は,原判示の各被害児童を含む3名の児童の証人尋問を実施するに際し,いずれの児童に対しても証言拒絶権を告知していない違法があるから,この児童らの証言を事実認定の用に供した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものである。
 しかし,所論指摘の児童3名の証人尋問を実施するに際して,証言拒絶権が告知されたかどうかは原審の公判調書上明らかではないものの,仮に上記児童3名に証言拒絶権を告げるべきであり,かつ,その告知がされて5いなかったとしても,その証言の効力には影響を及ぼさないというべきであり,所論は採用できない。論旨は理由がない。

 控訴趣意中,量刑不当の主張(控訴理由第9ないし第12)について論旨は,被告人を懲役年,年間執行猶予に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というものである。そこで,記録を調査し,検討すると,本件は,児童2名に対して現金を対償として供与することを約束して性交した児童買春の事案であるところ,被告人は,被害児童の年齢が15歳ないしは16歳であることを知りながら,その浅慮につけ込み,自己の性欲を充たさんがために犯行に及んでいるのであって,卑劣かつ悪質というべき犯行であり,被害児童らの心身に与えた悪影響には小さくないものがあると認められることからすると,被告人の刑事責任は軽視することができない。そうすると;他方で,本件各犯行に及んだこと自体はもとより強く非難されるべきではあるものの、被告人は,他の男性に誘われて犯行に及ぶに至ったもので,反省の情を示していること,原判示第2の犯行の被害児童の保護者との問で,被告人が謝罪し,被害弁償等の趣旨で15万円を支払って示談が成立し,その保護者から宥恕の意思も示されていること,・・・ことなど所論指摘の被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人を懲役年,年間執行猶予に処した原判決の量刑はその刑期及び執行猶予期間のいずれの点においても相当であって,これが重過ぎて不当であるとはいえない。なお,原判決は,被告人に不利な情状として,被害児童2名とその友人に公判廷で証言させることを余儀なくさせた点は被害児量らに更なる被害を与えたものであり,犯行後の情状も悪質であると説示しているが,これを被告人に不利な情状事実として考慮することが相当でないことは所論指摘のとおりであるものの,この点を除いて考えても,上記判断は変わらない。論旨は理由がない。