児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ダビングが3項製造罪(姿態とらせて製造)だという判例と、性行為と3項製造罪(姿態とらせて製造)が観念的競合だという判例は矛盾する。

 
 3項製造罪(姿態とらせて製造)の「姿態とらせて」は実行行為ではなく、身分だという説(身分説)があります。最高裁H18.2.20

最高裁判所第3小法廷決定/平成17年(あ)第1342号
平成18年2月20日
最高裁判所刑事判例集60巻2号216頁
      判例タイムズ1206号93頁
      判例時報1923号157頁

判例タイムズの解説(匿名)
 5 しかしながら,本決定は,このような消極説を採用せず,法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為は本罪に当たると解して,原判決を是認した(以下「積極説」という。)。本決定がこのように解した理由は,判文中には特に言及されていないものの,次のような考え方によるものではないかと推察される。
 (1) そもそも児童ポルノの製造とは児童ポルノを作成することをいうのであるから,「姿態をとらせること」は製造とは別の行為であって本罪の実行行為には当たらず,製造の手段たる行為にすぎないというべきである(例えば,児童に姿態をとらせてもそれだけで本罪の実行の着手があったとはいえないというべきである。)。本罪の構成要件を満たすかどうかは,児童ポルノの製造行為が,「姿態をとらせ,これを描写することにより」されたといえるかどうかの問題であって,「自己の言動等により,児童に姿態をとらせ,これを描写することを手段として,児童ポルノを製造する行為」が本罪に当たると解されるから,「自己が児童に姿態をとらせて撮影し作成した画像データをハードディスクに記憶させて,児童ポルノたるハードディスクを製造した」という本件行為が,本罪の構成要件を満たさない理由はないというべきである(結局,本罪は,児童に姿態をとらせた者がこれを利用して児童ポルノを製造することを処罰するという,身分犯的な犯罪であると理解されよう。)

ところで、児童淫行罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)は観念的競合だという判決(東京高裁h17.12.26、札幌高裁h19.3.8)は、「姿態とらせて」は実行行為だと理解しています。なぜなら、撮影行為は性交・性交類似行為ではないので、行為の重なりは、「性交・性交類似行為」と「姿態とらせて」との間に求めざるを得ないからです。
 札幌高裁h19.3.8はカメラの前で性交するのが「姿態とらせて」だとしています。

札幌高裁h19.3.8 
第3事実誤認ないし法令適用の誤りの控訴趣意について
1被告人は本件児童ポルノ製造罪に関して「姿態をとらせ」ていないとの控訴趣意について(控訴理由第1及び第2)
論旨は,要するに,被告人は,児童との口淫等の性交類似行為ないし性交(以下,「性交等」という)の姿態を撮影しているが,児童に姿態をとらせておらず,児童ポルノ製造罪は無罪であるのに,姿態をとらせたと認めて有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤一りがある,というのである。
そこで,検討するに,児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである。
なお,所論は,姿態をとらせる行為は,児童ポルノ製造に向けられた行為であるから,その時点において児童ポルノ製造の目的を要するが,被告人には,その時点において児童ポルノ製造の目的がない,という。しかし,被告人は,児童に性交等の姿態をとらせ,それを録画しているのであるから,正に,児童ポルノ製造行為に向けて姿態をとらせたというべきである。所論は採用できない。


 さらに、大阪高裁は児童淫行罪と提供目的製造罪(「姿態とらせて」は要件ではない)とは併合罪としている(大阪高裁H18.10.11)ところをみると、観念的競合にするには、「姿態とらせて」と「性交又は性交類似行為」とが実行行為として重なり合うと考える必要がありますね。

阪高裁H18.10.11
まず,①の主張について検討する。原判示の児童に淫行をさせる罪に係る行為である被告人らと児童との性交等とその場面を撮影した行為とは,時間的には重なっているものの,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下では,社会通念上1個のものと評価することはできないから,両者は併合罪の関係にあるというべきである。論旨はその前提を欠き,理由がない。

 最高裁H18.2.20が身分犯説を取るのは、実行行為説だと、3項製造罪犯人による複製行為(例:カメラの媒体→PCのHDDへのコピー)が処罰できないからです。
 札幌高裁H19.3.8の事例はビデオ撮影であって、ダビングされていない事例なので、そう考えたんでしょうが、ダビングされるとそこは無罪になってしまいます。
 今度、3項製造罪犯人がダビングした事案がきたらどうするんですか?最終媒体の製造罪は無罪で、没収もできないということでいいですか?>>札幌高裁