児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

差し戻し審における審判対象論(名古屋地裁H19.1.10)

 不利益変更の禁止で、量刑の関心は薄れ、もっぱら理論構成が争われた事件。
  訴因:共謀共同正犯
  第1次1審判決:幇助
  控訴審(被告人のみ控訴):差し戻し
  第2次1審:
の場合、審判対象は幇助に限定されるとした判決です。

 また、幇助であることを前提として、何を幇助の実行行為とすべきかについて、
  検察官「掲示板設置行為=作為」
  弁護人「違法画像放置行為=不作為」(プロバイダの民事責任とパラレル)
と対立していました。

2 審判の対象について
本件公訴事実2に関する当審における審判対象の範囲を考えるに際し,訴因制度の意義につき検討する。
訴因制度は,検察官に処罰意思がない事実についてまで,裁判所が職権で審理をするのは妥当でないという法原理を採用し,審判の対象設定についての検察官処分権主義を認めた制度であると解されるところ,同主義は,控訴についても一定の制約の下で認められているものと考えられる。
本件犯行態様における本位的訴因の共同正犯と予備的訴因の封助犯は,その態様において後者が前者に内包され,両訴因の犯罪事実が互いに排他的関係に立たないものと解されるから,検察官は,本件において第1次第1審判決が事実認定を誤って,共同正犯とすべきところを幇助犯として処断したことを認識した場合でも,その判決を維持し共同正犯としての処罰を差し控えてよいと考えるときは,控訴しないことが許されると解されるのであって,この場合,もし控訴審が職権調査により共同正犯の事実を認定できるものとすれば,検察官に処罰意思がない部分についてまで裁判所が自ら処罰することになり,右の検察官の権限を侵す結果となるというべきである。
 そうすると,上記のような審理経過をたどった本件では,共同正犯の訴因につき封助犯の事実を認定した第1次第1審判決に対し,検察官が控訴を申し立てなかった時点において,検察官は,幇助犯の範囲で処罰をするとした同判決を維持し,共同正犯としての処罰を差し控えてよいと考えたものと認められる。
 そうすると,控訴審の審理時点においては,上記共同正犯の訴因はもはや当事者間において攻撃防御の対象からはずされたものと解するのが相当である。そして,このように控訴審の審理段階で攻撃防御の対象からはずされた訴因については,控訴審が自判せずにこれを差し戻したからといって,再び当審における審判対象となり得ると解することはできない。
なお,本件においては,共同正犯に内包される予備的訴因である作為による幇助犯の犯罪事実と第1次第1審が認定した不作為による幇助犯の犯罪事実は,同一の正犯者の同一の正犯行為の幇助に係るものであり,両者は互いに相容れない関係にあって,いずれの犯罪事実を訴因として構成するかは証拠によって決定され,検察官が訴因構成の裁量権限を行使する余地はないと解される。
 たがって,不作為による幇助犯の犯罪事実を認定した第1次第1審に対し,検察官が控訴しなかったとしても,検察官が予備的訴因である作為による幇助犯の訴因による審判を差し控えたと考えることはできず,同訴因が当審における審判対象から除外されることにはならない
以上より,本件公訴事実2に関する当審における審判対象は,当審の審理において検察官が訴因変更により予備的に追加した上記児童ポルノ公然陳列罪を作為によって幇助した旨の訴因であり,本位的訴因である上記共同正犯の訴因はこれに含まれない。
 したがって,本位的訴因は審判の対象ではないから,以下では,予備的訴因を前提として事実認定上の問題点を検討することとする。

 第2事実認定の補足説明
1弁護人の主張は,多岐にわたるが,そのうち予備的訴因に関するものについてまず検討すると,その主張は,要旨,検察官が予備的訴因として追加した作為による幇助犯の訴因につき,被告人の本件掲示板設置行為は,作為による幇助行為とは評価できないから,被告人は作為による封助犯としての罪責を負わないというものである。
 そこで,当裁判所が被告人に作為の幇助犯が成立すると判断した理由を補足して説明する。
(1)上掲各証拠によれば,以下の事実が優に認められる。
・・・・
(2) 上記認定事実,特に被告人が開設した掲示板の名称,注意書きの表示からすれば,児童ポルノの画像データを送信して,掲示することを求めた掲示板であることは明らかであって,現に投稿者らが同掲示板に児童ポルノの画像データを掲示し,それを同掲示板にアクセスする不特定多数の者に対し公然と陳列することが可能となった状況等からすれば,被告人の本件掲示板開設行為は,正犯である投稿者らが児童ポルノを公然と陳列することを容易にするものであり,現に投稿者らによって児童ポルノが公然と陳列されているから,被告人の同開設行為は客観的にみて児童ポルノの公然陳列罪の幇助行為に当たると認められる
そして,被告人が同掲示板を作成するに至った経緯,同掲示板の名称等からすれば,同掲示板が児童ポルノの画像データを掲載させることを目的としたものであり,その開設によって,投稿者らが,同掲示板を使用して不特定多数のインターネット利用者に対し児童ポルノを公然と陳列する犯行に及ぶことを被告人が認識していたことは優に認められる
以上からすれば,被告人が上記掲示板を開設した行為について児童ポルノの公然陳列罪の幇助犯が成立することは明らかである。

 しかし、共同正犯の訴因と幇助の訴因とは、公訴事実の同一性があるのかについては、罪数問題なんですが、両立しうるような気もします。
 なんか、刑訴法学の香り。

追記
 東京高裁h16.6.23によれば、画像掲示板の開設は、公然陳列罪の実行の着手であって、正犯行為の一部である。
 これによれば名古屋地裁の訴因である開設行為は、幇助ではなく公然陳列罪の未遂であるから、不可罰となる。
 東京高裁と名古屋地裁のどっちが正しいのかわかりませんけど、どっちかが間違ってますよね。わからない場合は無罪にしてくれないと。

東京高裁h16.6.23(上告中)
2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。
 そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。
 なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に慫慂・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。

(3)所論は,要するに,児童ポルノ公然陳列罪は,状態犯と解すべきであって,被告人が本件児童ポルノ画像を認識する以前に既遂に達しているから,被告人を事後従犯に問うこともできないし,仮に本罪が継続犯であるならば,被告人には幇助犯が成立するにすぎないのに,被告人に児童ポルノ公然陳列罪の正犯が成立するとした原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第14)。
 しかし,児童ポルノ公然陳列罪は,いったん陳列罪として既遂に達しても,その後も陳列がなされている限り法益侵害が続いており,また,陳列行為も続いているものと解することができるから,所論のように状態犯ではなく,継続犯と解するのが相当である。また,前記説示したところによれば,被告人は,自らの利益のために本件犯行に及んだものであって,その関与の態様,程度等に照らしても,被告人に児童ポルノ公然陳列罪の正犯が成立するとした原判決の判断は正当であって,所論のように幇助犯にとどまるものと解するのは相当でない。

5所論は,要するに,いわゆるプロバイダー責任制限法によれば,被告人は,本件掲示板の管理者であって,同法3条1項の要件を満たさないから,同法の適用あるいは類推適用により,被告人は被害児童に対する関係で民事・刑事の責任を免責される,と主張する(平成16年3月24日付け控訴趣意書控訴理由第20)。
 所論は,法令適用の誤りの主張と解されるが,前記説示に係る事実関係の下では,被告人がいわゆるプロバイダー責任制限法によって,その刑事責任を免責される理由はないというべきである。所論は,独自の見解に立つもので到底採用の限りではない。
 論旨は理由がない。

 所論は,被告人の刑事責任は,現に児童ポルノ画像を送信,掲載した者に比べれば従たるものにすぎないと主張するが,被告人は,自らが児童ポルノ画像を掲載したことはないとはいえ,本件掲示板を開設した際にこのような事態になることを予想しながら,自らの利益のためにこれを容認し,そのため多数の児童ポルノ画像が掲載されるに至ったものであって,その刑事責任は,児童ポルノ画像を送信した者に比してむしろ重いというべきである。この点の所論は採用できない。

 またしても、同様の事件について奥村がAと言えば裁判所はB、奥村がBと言えば裁判所はAという対応になって、要するに「奥村弁護士の主張は採用しない」という姿勢だけ一貫していて実に不愉快だ。
 どっちでもいいから、俺の話を聞け!