児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

原判決の破棄事由を列挙する理由

 そんなに重い事件は回ってこないんですが、控訴審の弁護人の仕事を紹介します。
 控訴した場合、控訴審弁護人は原判決を重箱の隅をつつくようなチェックをします。
 判決書を手にして、誤字脱字、契印の脱落まで指摘する。
 被告人の希望は、軽くして欲しい(量刑不当)というところなのに、なんでそこまでするのかというと、控訴審では「原判決の量刑が重すぎて不当」でないと、破棄されないからです。

刑訴法第381条〔量刑不当〕
刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

 一審の量刑が、重すぎて不当な場合は被告人から量刑不当の控訴があって破棄され、軽すぎて不当な場合は検察官から量刑不当の控訴が破棄されるという意味で、一審の量刑には、
  若干軽いように見えるけれど破棄しないと軽すぎて不当とまではいえない
    ↓
  若干重いように見えるけれど破棄しないと重すぎて不当とまではいえない
という幅が許容されています。
 被告人としては、1月でも1日でも刑期が短くなることことを望んで控訴するのですが、控訴審でいろいろ主張・立証してもその許容範囲内であれば、量刑不当は通らない。
 大雑把な話として、例えば、被害額1000万円の事件で、原審で500万円弁償して判決が出て、控訴審判決で、あと50万円弁償した場合、それだけでは量刑不当にはならない。結果として考慮してくれない。(未決でみてくれることもあります)
 なかには原審と同じ材料で量刑不当を唱える被告人がありますが(実際にはこれが一番多い)、そんなに相場外れの量刑をする原審もないので、これは、まず、破棄されない。
 これに対して、一審であれば、被害額1000万円の事件で、まず500万円弁償して弁論終結して、判決前にあと50万円弁償した場合、取り調べた以上はそれはいくらか考慮してくれる。(だから情状立証は早いほうがよくて、判決を延期してもらうこともあるわけです)
 しかし、本件は、原審で500万円弁償して判決が出て、控訴審判決で、あと50万円弁償したということになっていて、それは事実だから動かせない。
 こういう場合は、他の理由(訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、事実誤認)で破棄してもらうしかない。他の理由で原判決が破棄され自判する場合の控訴審の量刑判断は、一審と同じく「被害額1000万円の事件で、まず500万円弁償して弁論終結して、判決前にあと50万円弁償した場合、取り調べた以上はそれはいくらか考慮する」になるので、減刑へのハードルが下がる。「50万円」が生きてくる。
 だから、検察官からあら探しだと言われようと、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、事実誤認という控訴理由を撃ちまくるんですよ。

 それが成功した事例としては東京高裁H17.12.26を挙げることができます。

3訴因が不特定であるとして訴訟手続の法令違反をいう論旨(控訴理由第9)及び罪となるべき事実が法7条3項の製造罪の構成要件をみたさないとして法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反をいう論旨について(控訴理由第10)
その論旨は,要するに,起訴状の公訴事実には「姿態をとらせ」と記載されていないのであって,本件公訴は訴因不特定の違法があるにもかかわらず,公訴を棄却することなく実体判断をした原判決には訴訟手続の法令違反があるというのである。確かに,起訴状の公訴事実には,「(被害児童)を相手方とする性交に係る同児童の姿態等を撮影し」と記載するにとどまり,「姿態をとらせ」と明記されていないことは所論指摘のとおりである。
しかしながら,起訴状の公訴事実は,別紙一覧表によって,被害児童の姿態の内容を明記して特定している上,罰条として,法7条3項,1項及び法2条3項各号を明示して特定しているのであるから,訴因が不特定であるとまではいえない。また,公訴事実のかかる記載の不備は,被告人の防御に実質的な不利益を与えなかったものと認められるから,その不備を是正させなかった裁判所の手続上の戦痕が直ちに判決に影響を及ぼすものとまでは認められない。この点の所論は採用できない。
さらに,所論は,原判決が認定した「犯罪事実」には,「姿態をとらせ」と記載されておらず,犯罪を構成しないにもかかわらず有罪とした原判決には法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反があるというのである。
そこで原判決の説示内容を検討するに,原判決が,その「犯罪事実」の項において,「被告人は,別紙一覧表記載のとおり,・・・,携帯電話機附属のカメラを使用して,児童である・・を相手方とする性交に係る同児童の姿態等を撮影し,その姿態を視覚により認識することができる電磁的記録媒体であるフラッシュメモリ1個に描写し,もって,同児童に係る児童ポルノを製造した。」と認定し,その別紙一覧表において,児童ポルノの種類として法2条3項各号に該当する姿態の内容を明記し,「法令適用」の項においては,別紙一覧表の各行為について,法7条3項,1項及び2条3項各号を適用していることからすれば,原判決の判断は,被告人の各行為について法7条3項の児童ポルノ製造罪が成立するものと認定する趣旨ないし意図であることは明らかである。
しかしながら,法7条3項は,「児童に第2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に括写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造した者」とし,「児童に姿態をとらせ」という行為をその犯罪構成要件として規定していることは明らかである。児童に姿態をとらせる行為が他の不可罰的な行為とを画する重要な行為要素であることなどにかんがみれば,原判決には罪となるべき事実の記載に理由の不備があるというほかはない。訴因の記載上の不備と異なり,判決のこのような理由上の不備を見過ごすことはできない。
したがって,その余の控訴趣意に対して判断をするまでもなく,原判決はこの点において破棄を免れない。
第2破棄自判
よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当審において被告事件につき更に次のとおり判決する。
(量刑の理由)
本件児童ポルノ製造の犯情については,別件淫行罪と実質的に重複しない限度で考慮すべきであるところ,被告人が,当審においても,更に反省の気持ちを深めている様子も見受けられること,結局は受領を拒否されたものの,弁護人を介して,あらためて被害者側に対して被害弁償の一部として金15万円を送付し,被告人なりに謝罪の意を表そうとしたこと,また,反省の気持ちを表すべく別途金15万円の贖罪寄付をしていること,・・・・これらの被告人のためにしん酌し得る事情等を総合考慮して,主文の刑を定めた。

 原判決が訴訟手続の法令違反で破棄されていますので、15万円という弁償(贖罪寄付)で、
   懲役1年4月→懲役1年(−法定通算)
という減刑を得ています。結果として法文に忠実な事実認定を求めただけですが、刑期は半分くらいになっています。

 もっとも、弁護人が訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、事実誤認という控訴理由を撃ちまくって、一つ当たった(論旨は理由がある)場合でも、新たな情状(設例でいえば「50万円」)が無ければ、量刑は一緒です。
 そういう判決の例としては、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/27642C03FB01140B49256E6700180854.pdf
を挙げることができます。新たな情状がないので、量刑理由は原判決のそれを丸写しにされていて、同じ量刑となっています。

 ということで、日頃から控訴理由となりうるものを捜しているわけです。