児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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教え子に淫行、元中学教諭に実刑判決 名古屋家裁

 家裁が何言ってんだ。製造罪は管轄違(大阪高裁h18.10.11)。

http://www.asahi.com/national/update/1205/NGY200612050006.html
教え子に淫行、元中学教諭に実刑判決 名古屋家裁
2006年12月05日10時40分
 教え子にみだらな行為をし、ビデオで盗撮したとして児童福祉法違反(淫行(いんこう)をさせる行為)と児童買春・児童ポルノ禁止法違反(単純製造)の罪に問われた元教諭(44)に対し、名古屋家裁岡崎支部は5日、懲役1年6カ月(求刑懲役2年6カ月)の実刑判決を言い渡した。仁藤佳海裁判官は「犯行は自己中心的で身勝手。被害少女の心身に及ぼした影響は大きく、悪質極まりない」などと述べた。

 ひどい奴かもしれないが、適正手続で適切な量刑をしないとだめですよ。
 どうせロリコンだからって、いい加減に裁いてはいけない。
 ロリコンとか放火魔とか常習犯とか、そういう奴を、適正手続で(手を抜かないで)、文句が出ない程度の刑に服させるのが、刑事裁判。

阪高裁h18.10.11
まず,①の主張について検討する。原判示の児童に淫行をさせる罪に係る行為である被告人らと児童との性交等とその場面を撮影した行為とは,時間的には重なっているものの,法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下では,社会通念上1個のものと評価することはできないから,両者は併合罪の関係にあるというべきである。論旨はその前提を欠き,理由がない。

大阪では併合罪なのに、なぜに岡崎では観念的競合なのか?
製造罪とその際の性犯罪とが併合罪であるという高裁判決はいくらでもある。

名古屋高裁金沢支部H14.3.28
(3)所論は,原判示第3の1の買春行為がビデオで撮影しながら行われたものであることから,上記児童買春罪と原判示第3の2の児童ポルノ製造罪とは観念的競合となるともいうが(控訴理由第21),両罪の行為は行為者の動態が社会見解上1個のものと評価することはできないから,採用することはできない。

名古屋高裁金沢支部平成17年6月9日
6罪数関係の誤りの所論について(控訴理由第8)
所論は,児童買春罪と児童ポルノ製造罪とは,手段結果の関係にあるか,社会的に見て一個の行為であるから,牽連犯あるいは観念的競合となり一罪であるのに,原判決は,これを併合罪としてしており,罪数判断を誤っている,というのである。しかし,児童買春の際に児童ポルノが製造されるのが通常であるとはいえないから,児童買春罪と児童ポルノ製造罪とは,手段結果の関係にあるとも社会的に見て一個の行為であるともいえない。

東京高裁H15.6.4
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この立法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。


追記
管轄違・併合罪の主張は理屈なので、簡単である。

 児童ポルノ3項製造罪(姿態とらせて製造)は児童淫行罪とは併合罪であって、少年法37条2項の関係(観念的競合・牽連犯)にはないから、管轄違である。
 原判決が製造罪を審理したことには管轄違があるから原判決は破棄を免れない
 また、原判決には両罪の罪数処理について法令適用の誤りがあるから、破棄を免れない

 児童淫行罪の実行行為=性交又は性交類似行為
 判例によれば、児童福祉法三四条一項六号にいう「淫行」には、性交そのもののほか性交類似行為をも含む。
 さらにその「性交類似行為」とは「異性間の性交と態様を同じくする状況下に、男女性交の姿勢を模して行なう手淫、その他の性交類似行為を含む」とされている。
 つまり、児童淫行罪の実行行為は(「させる行為=支配関係」を前提とした)性交又は性交類似行為である。

 説明のために各種の性犯罪と手段の部分を除いた性的行為を抽出して比較すると、このようになる。
 手段の部分は、強制わいせつ・強姦については暴行・脅迫であり、児童買春罪については対償供与又はその約束であり、児童淫行罪については「させる」関係=支配関係である。

 おおざっぱに言えば、児童淫行罪の性的行為部分は、強姦罪よりは広く、児童買春罪や強制わいせつ罪よりは狭い。まさに性交又は性交類似行為に限定されている。
 従って、児童淫行罪の実行行為を拡大解釈して、「撮影行為」をも取り込むことは許されない。

 時系列的に見ると、性交又は性交類似行為が認められた時点で既遂となり、その行為が継続している間は児童淫行罪であって、行為が終わった時点で、実行行為は終了する。

 3項製造罪(姿態とらせて製造)の実行行為=撮影及びダビング
 判例によれば、3項製造罪の実行行為には撮影後の複製行為も含む。
 時系列的に見ると、撮影開始から複製行為の終了までが3項製造罪(姿態とらせて製造)の実行行為である。

 児童淫行罪の実行行為と3項製造罪の実行行為の関係
(1) 時系列
 法2条3項によれば、3項製造罪は、2条3項2号・3号の場合にも成立するから、児童淫行罪の着手前の衣服を一部を脱いだ時点・性交類似行為に至らない性器接触行為の時点でも成立する。

第2条(定義)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 また、3項製造罪には複製行為も含むから児童淫行罪の既遂後まで継続する。

 3項製造罪の始期は、児童淫行罪の着手より早くなりうるし、児童淫行罪の既遂よりも遅れることがある。この意味で、製造罪と児童淫行罪とが社会見解上一個と評価されることはあり得ない。
(2) 社会的見解上の行為の個数
 判例は「構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合」が観念的競合だとする。
 ところで、児童淫行罪の実行行為は性交又は性交類似行為であって、「性交類似行為」とは「異性間の性交と態様を同じくする状況下に、男女性交の姿勢を模して行なう手淫、その他の性交類似行為を含む」とすると、撮影行為はどうみても、性交又は性交類似行為とは重ならない。
 いわゆる「ハメ撮り」(下品な言葉だが、的確な表現である。)を想定しても、カメラを性交又は性交類似行為の道具にしているわけではない(動作中のカメラを挿入しているとかいうのなら話は別だ)から、撮影行為は、手持ちカメラにせよ、据え置きカメラにせよ、性交又は性交類似行為とは別個の行為である。
 模型を使って説明する。
 このように性交又は性交類似行為している場面を撮影したとすれば、撮影行為を止めても性交又は性交類似行為は継続できるし、逆に性交又は性交類似行為を止めても製造罪は成立するから、1個の行為ではない。
 無理に観念的競合となる場合を想定すると、性具のように、カメラを陰部に挿入するなどする場合(性交類似行為)が考えられるが、それだと、体内を撮影することになり所定の姿態が撮影できない。
 具体的に考えても、観念的競合となりうる場合がない。
 この意味でも、製造罪と児童淫行罪とが社会見解上一個と評価されることはあり得ない。