児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強姦罪・強制わいせつ罪との関係

いずれも未公開の裁判例

 強姦罪・強制わいせつ罪が起訴されたときにこんな主張してもしょうがないですが、児童ポルノ・児童買春罪・児童淫行罪・条例淫行罪などで、多少強制の要素がある場合に、それらの罪(非親告罪)と、強姦罪・強制わいせつ罪(親告罪)との関係が問題になります。
 「告訴無き親告罪の起訴=公訴棄却」だというのだから、不利益主張になることはないです。
 結果として、大阪高裁は控訴棄却、金沢と東京は原判決破棄。

阪高裁H14.9.10
第2訴訟手続の法令違反の主張について(控訴理由第4,第7,第11)論旨は,②被告人は,被害児童の撮影を自己の性欲を満たすために行ったものであり,しかも,被害児童は6歳であるから,暴行脅迫がなくとも,これを裸にして撮影した被告人の行為は強制わいせつの実行行為にあたるところ,強制わいせつ罪は親告罪であり,公訴を提起するには,被害児重ないしその保護者の告訴が必要であるが,本件においては被害児童の保護者は犯人を告訴しない旨供述しているのであるから,強制わいせつ罪より法定刑の軽い児童ポルノ製造罪で起訴して処罰することは,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨に反し許されないのに,被害児童の保護者の告訴のないまま起訴した点において(控訴理由第7),・・・原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものである。
しかしながら,・・・児童ポルノ製造罪の保護法益は上記第1記載のとおりであり,この処罰の目的は,個人の性的自由を保護法益とする強制わいせつ罪のそれとは異なることは明らかであり,児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪の構成要件の一部とはいえず,また,児童ポルノ製造罪が親告罪とされなかったのは,親告罪とすると,加害者やその背後の組織からの報復を恐れて告訴できなかったり,あるいは保護者に対する金銭的な示談で告訴を取り下げさせたりすることが通常の性犯罪以上に予想され,所期の目的が達成ができないためであり,従って,本件において,被害児童の保護者に被告人を告訴する意思がないのに本件公訴を提起したことは,強制わいせつ罪が親告罪とされている趣旨を潜脱することにはならない。

名古屋高裁金沢支部H14.3.28
1所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,・・・ことなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。

東京高裁H18.3.6
第1不法な公訴受理(告訴取消)の論旨について
論旨は,要するに,本件公訴事実のうち,強姦の事実については,公訴提起前の告訴の取消しにより訴訟条件を満たさず,児童買春の事実についても,観念的競合の関係にある強姦が親告罪とされた趣旨に照らし,これと同様に扱われるべきであるから,本件公訴は棄却されるべきであり,原判決には不法に公訴を受理した違法がある,というわである。
しかしながら,,児童買春は非親告罪であって,強姦が親告罪とされた趣旨がこれに妥当するとはいえないから,所論は採用できない。論旨は理由がない。

第3法令適用の誤りの論旨について論旨は,要するに,原判決は,強姦と児童買春が観念的競合の関係にあるものとして,・・・,児童買春罪の成立を認めているが,13歳末摘の児童に対する強率罪と児童買春罪とは法条競合の関係に立ち,重い強姦罪のみが成立するものと解すべきであり,・・・別に児童買春罪が成立する余地はないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかしながら,児童買春罪は,児童に対する対償の供与を要件とし,また,児童の権利保護という公益目的から非親告罪とされているのであって,強姦罪とは,要件及び目的を異にしており,1個の行為が双方の要件を満たす場合には観念的競合の関係に立っものと解するのが相当でる。所論は採用できず,論旨は理由がない。