児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ダビング中の外付けHDDについて提供目的所持罪の成立を否定した事例(大阪地裁H18.4.21)

 「訴因のことは起訴検事に聞いてくれ」事件。

 製造罪(起訴されていない)だから。
 
 結局
  裁判所に促されて訴因変更あり
  さらに一部無罪あり
という結果。


 そのうち捜査研究か研修に載るから。たぶん。警察が持ってきた証拠を鵜呑みにするなって。過失で間違っていることもある。

大阪地裁平成18年4月21日
主張②について(本件外付けハードディスクについての所持罪の成否)
 関係各証拠によれば,本件外付けハードディスクへの動画ファイルの複製作業については,判示3の目の午前3時34分ころに開始された後,午前8時38分ころに被告人が逮捕され,その後程ない午前8時49分ころに作業が終了したもので,同逮捕時には大半の動画ファイルの複製作業が終了していたことが認められる。弁護人は,本件公訴事実の所持は上記逮捕時のもので,わいせつ図画ないし児童ポルノとしては未完成であって,各罪の客体たり得ない旨主張する。
 しかし,判示タイトルのものを始めとする,1つ1つが完結し,かつ相互に何ら関係がない動画ファイルの大半がすでにハードディスク内に複製されていたのであるから,客観的にみて逮捕時の本件外付けハードディスクが児童ポルノないしわいせつ図画であるというに十分であり,条文上も所持の際の物そのものの販売・提供目的を要求しているのでもないから,販売する物それ自体と異なるからといって,所持罪の客体でないと直ちにいうことはできないと解される。そして,本件では,被告人の作業も何ら要することなく全体の複製作業が完了するのは因果の流れであって,その完了を待つだけのときに被告人に作業完了後の物の販売目的があるのは明らかである。
 従って,問題は,そのような作業途中の所持について,作業完了後の物を販売する目的であってもなお販売目的があったといえるかであるが,本件所持の時点での物が児童ポルノないしわいせつ図画としての適格性を備えているといい得るのは上記にみたとおりであり,とりわけ本件のように作業終了がまさに時の経過を待つだけでその終了も間近であったころの所持については,具体的な法益侵害の危険性の点で完成品の所持とさして変わらないだけの実質を備えているということができる。そうすると,本件のような場合にはなお販売目的があったと認めるのが相当であるというべきである(なお,被告人は,自宅に警察官の捜索が入り逮捕されてもなおその際に販売目的があったとされることに疑念を抱くが,少なくとも上記捜索が入る前に被告人に販売目的があったことに疑いがなく,逮捕は捜索後程なくのものであるから,そのころの所持に販売目的があったとみても差し支えがないと解される。)。
 もっとも,児童ポルノについては,所持罪のほかに製造罪が存するところ,本件のように,提供目的で児童ポルノである動画ファイルをハードディスク間でコピーすることがこの製造罪に当たることは疑いがない。そして,製造に伴う必然的又は一時的な所持については製造罪に吸収されて所持罪として別罪を構成するものではないと解するのが相当である。そうすると,本件外付けハードディスクの所持につき,児童ポルノの所持の点については,結局のところ所持罪を選択しての起訴は認めがたいというべきである(なお,検察官の当初の冒頭陳述要旨によれば,元々の起訴は複製作業が終了した外付けハードディスクドライブの所持を予定していたといわざるを得ず,この点で,少なくとも本件外付けハードディスクについての起訴は事実を見誤ったものとみざるを得ないところである。そして,吸収関係にある犯罪のうち吸収される罪のみを起訴することも,一般的には可能であるが,最低限そうするだけの何らかの合理的理由が必要と解されるところ,本件は,一部起訴を肯定した判例の事案のように時を隔てた新たな犯罪に吸収される場合とは異なり,所持が製造と並行ないし接着したもので,従ってまた,所持にまつわる主張立証は製造のそれがつきまとっていて,自ずと製造罪の成立が認められるのであって,あえて所持罪を起訴する理由は見出しがたい。しかも,検察官は,論告でも所持罪の成立を製造罪のそれに優先させるべき旨の製造罪の存在意義を否定しかねない主張に終始するにすぎないのであるから,結局のところ上記起訴に合理的理由があったと認めるのは困難というほかない。)。
 また,本件起訴に係る他方の外付けハードディスクドライブについても,製造罪とは独立したといえるだけの所持があったとは認めがたく,この所持についても児童ポルノ所持の点はやはり別罪を構成しないというべきである上,本件で製造罪の成立が容易に認められるのも上記と同様であって,この起訴もまた認めるのは相当でないと解される。製造罪をいう弁護人の主張は,これらの意味で理由がある(付言すると,わいせつ物所持罪が併せて起訴されている本件では,この罪と児童ポルノ製造罪とが,吸収関係にないと解される点も含めて一罪の関係にあるとは解しがたく,児童ポルノ所持の点を製造の事実に訴因変更することもできないのではないかと考えられる。)。
よって,外付けハードディスクドライブについては,わいせつ物の販売目的所持の罪のみが認められると判断した。