児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

近弁連「奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する決議

 反対なようです。

http://www.osakaben.or.jp/main/
◆「奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する決議について
[2006年3月20日]
近畿弁護士会連合会では、3月14日に「奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する決議を採択し、発表しました。

http://www.osakaben.or.jp/main/info/2006/060320.pdf
奈良県少年補導に関する条例(案)」に反対する決議

現在開会中の奈良県議会において、「奈良県少年補導に関する条例(案)」が上程されている。
しかし、この「奈良県少年補導に関する条例(案)」(以下、単に「本条例案」という。)には以下のような重大な問題点がある。
第一に、現在、奈良県は少年非行の深刻な増加ないし凶悪化という状況ではなく、したがって、以下のように問題点の多い条例を今あえて制定する必要性は全くない。
第二に、本条例案は、少年非行の防止を実現するための手段として警察権限を拡大し少年の行為に対し広範な規制を及ぼすことを予定しているが、このような方策は、適切な手段とはいえない。
少年非行防止のための成長支援の本来的あり方は警察権限による規制ではなく教育・福祉的政策であることは既に世界的潮流である。問題行動には、社会が抱える歪みに端を発する子ども自身の悩みや劣等感が顕れていることが多い。したがって、単に規制・威嚇を強めることでは少年非行問題は解決しない。更生への契機として必要なのは、個々の少年が抱える問題に応じてきめ細やかな対話・ケアを行い、少年が自己肯定感を持てるようにすることである。
そのために必要な学校教育の充実、児童相談所の態勢・活動の充実、未就職者に対する就職の機会の提供等の福祉施策をなおざりにしたまま、ただ規制を強化するのみでは、少年非行の防止及び保護という目的は達成されない。

また、未だ犯罪に至らず、少年法上の「ぐ犯」さえ構成しない行為を「不良行為」として規制の対象とすることは、憲法13条後段から導かれる「警察比例の原則」に反するおそれがあるし、さらに、現行法上、このような行為を行う少年に対し警察職員が行いうるのは児童福祉法上の要保護児童発見者としての通告のみであると考えられるから、これを超える権限を警察職員に対し付与する本条例案は、あくまで法令の範囲内で認められる条例制定権の範囲を逸脱するものでもある。
しかも、本条例案が定める「不良行為」の範囲は、不登校をこれに含みうるなど極めて広範にわたっており、かつ、その定義が漠然としているものもある。これらを規制の対象とするならば、警察権限の市民生活に対する不当な介入を無限定に認めることにも繋がりかねない。

さらには、本条例案は、警察職員が「不良行為少年」を発見したときに、「不良行為」の内容及び状況に応じて、少年に対し、警察施設への同行の要求、所持物件の一時預かりないし廃棄の催促や警察施設においての一時保護等をもなしうるとするが、未成熟の少年が、自らを補導しようとする警察官に対して、全くの任意に行動を決することができるとは必ずしもいえない以上、これらの権限行使は少年の人権を直接に侵害するおそれがある。

第三に、本条例案のように、県民に対し、「不良行為少年」を発見したときに保護者や警察職員等に通報する努力義務を課せば、問題を抱える少年及びその家族と地域住民とを、通報する側とされる側として対立するような状況に置いてしまう。このような息苦しい状況が少年の非行防止及び立ち直り支援に資するとは到底思われない。むしろ、問題を抱える少年及びその家族を、地域社会から疎外してしまうことにもなりかねない。
以上のように、本条例案については様々な看過できない問題点が存するので、当連合会は、これに対して反対するものである。
2006年(平成18年)3月14日
       近畿弁護士会連合会