児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

自称「芸能関係者」による甘言による、児童買春・淫行

 タレントに会わせる、デビューさせてやるという詐言で少女を釣というのは、古典的な手口ですが、

 芸能関係者名乗り高1にみだら行為 男を逮捕 県警と相模原署=神奈川2004.10.02 東京朝刊 32頁 (全275字)読売新聞社

青少年育成条例違反:15歳少女と関係、元マネジャー逮捕−−警視庁 - 毎日新聞 (382文字) 2004年10月1日(金)

 成人に比べれば、児童を詐言・甘言で抗拒不能にすることは容易ですから、被害児童の被害感情が強くて告訴が出れば、凖強姦罪も視野に入れて捜査されることになります。

東京高等裁判所判決昭和56年1月27日
高等裁判所刑事裁判速報集昭和56年77頁
刑事裁判月報13巻1〜2合併号50頁
       理   由
所論は、要するに、原判決は被告人の司法警察員に対する供述調書、被害者甲野春子、乙野夏子、丙野秋子の検察官に対する各供述調書等に基づき被告人がわいせつの故意で各被害者を抗拒不能に陥らせ同女らを全裸にさせたうえさまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、さらに同女らが抗拒不能であるのに乗じてわいせつの行為をしたとの事実を認定しているが、被告人及び右甲野らの各供述調書には任意性、信用性がなく、また被告人がわいせつの意図の下に同女らを抗拒不能に陥らせたこともその抗拒不能に乗じてわいせつの行為をしたこともなく、また、たとえわずかに同女らの全裸姿態を写真撮影しあるいはその身体に触れた事実はあるとしても、右はいずれも同女らの自由意思に基づく同意を得たうえでの行為であつて強制によるものではないから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。
 そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、原判決が罪となるべき事実として認定した事実は、被告人は、音楽家、マネキン、モデル等の職業紹介を業とする有限会社大出芸音プロダクシヨンの取締役で、実質上これを経営しているものであるが、第一 モデルの志願者としてスカウトした甲野春子(当一九年)に対しわいせつの行為をしようと企て、(一)昭和五四年六月二六日ころの午後二時三〇分ころ、写真を撮影するからと言葉巧みに申し向けて、同女を東京都渋谷区千駄谷四丁目二七番一三号マンシヨン「シヤトレー代々木」六階六〇三号室の同プロダクシヨンスタジオに誘い込み、同所において、同女に対し、「モデルになるための度胸だめしだ。写真を撮るから裸になれ。この部屋には誰も入つて来ないのだ。恥ずかしいことはない。」などと申し向けて全裸になることを要求し、同女をして、全裸になつて写真撮影されることもモデル等になるため必要なことであり、これを拒否すればモデル等として売り出して貰えなくなるものと誤信させて抗拒不能に陥らせ、よつて、そのころから同日午後三時三〇分ころまでの間、その場で同女を全裸にさせたうえ、さまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、更にその際、同女が全裸で被告人と二人きりの部屋にいるため抗拒不能であるのに乗じ、乳首の格好を良くすると称して同女の両乳首を吸うなどし、
(二)同年八月一日ころの午前一一時ころ、「ジーパン姿で写真を撮影するから来てくれ。」などと言葉巧みに申し向けて、同女を前記スタジオに誘い込み、出入口ドアを施錠したうえ、同所において、同女に対し、「トレーニングを始める。トレーニングは裸でするんだ。」などと申し向けて全裸になることを要求し、同女をして前同様に誤信させて抗拒不能に陥らせ、よつて、そのころから同日午後一時ころまでの間、その場で同女を全裸にさせたうえ、さまざまなポーズのトレーニングと称する行為をさせ、あるいは写真撮影をし、更にその際、同女が前同様の状況にあるため抗拒不能であるのに乗じ、前同様に称して同女の両乳首を吸い、あるいは同スタジオ内のシヤワー室において、病気の予防と称して水虫治療薬「デシコート・ゲル」をつけた指で同女の陰部を弄ぶなどし、もつて、それぞれ強いてわいせつの行為をし、
第二 モデルの志願者としてスカウトした乙野夏子(当二一年)に対しわいせつの行為をしようと企て、同年七月一六日ころの午後一時三〇分ころ、写真を撮影するからと言葉巧みに申し向けて、同女を前記スタジオに誘い込み、出入口ドアを施錠したうえ、同所において、同女に対し、「モデルと会社の人間との関係は、親密でなければならない。恥づかしがつているようではプロ根性が足りない。ほら脱げ。」などと申し向けて全裸になることを要求し、同女をして、全裸になつて写真撮影されることもモデル等になるために必要なことであり、これを拒否すればモデル等として売り出して貰えなくなるものと誤信させて抗拒不能に陥らせ、よつて、そのころから同日午後三時ころまでの間、その場で同女を全裸にさせたうえ、さまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、更にその際、同女が全裸で被告人と二人きりの密室内にいるため抗拒不能であるのに乗じ、前記シヤワー室において、石けんをつけた手で同女の内股から陰部付近をなでまわすなどし、もつて、強いてわいせつの行為をし、
第三 モデルの志願者としてスカウトした丙野秋子(当一六年)に対しわいせつの行為をしようと企て、同年八月二日ころの午後四時ころ、写真を撮影するからと言葉巧みに申し向けて、同女を前記スタジオに誘い込み、同所において、同女に対し、「写真を撮るから裸になれ。時間がないから早くやれ。度胸がないと一流のモデルにはなれない。早くしなさい。」などと申し向けて全裸になることを要求し、同女をして、全裸になつて写真撮影されることもモデル等になるため必要なことであり、これを拒否すればモデル等として売り出して貰えなくなるものと誤信させて抗拒不能に陥らせ、よつて、そのころから同日午後五時ころまでの間、その場で同女を全裸にさせたうえ、さまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、更にその際、同女が全裸で被告人と二人きりの密室内にいるため抗拒不能であるのに乗じ、前記シヤワー室において、石けんをつけた手で同女の腰部、尻部、内股及び陰部などをなでまわし、あるいはシヤワーの蛇口を同女の陰部にこすりつけるなどし、もつて、強いてわいせつの行為をしたものである、というところ、関係資料によれば右甲野、乙野及び丙野(以下被害者らという。)の検察官に対する各供述調書及び被告人の司法警察員に対する供述調書の任意性は優にこれを認めるに足り(なお、被害者らの警察調書、被告人の検察調書は証拠申請がなく本件記録中に存しない。)、これらの証拠を含む原判決挙示の各証拠によれば原判示事実は十分これを肯認することができるのであつて、原判決に所論主張のような事実誤認があるとは認められない。
(中略)
被害者らは被告人の右発言によつて、全裸で写真撮影されることもモデルになるため必要なことであり、これを拒否すればモデルとして売り出してもらえなくなるものと誤信し、被告人の執ような言動に対する諦めの気持も手伝つてやむなく全裸になつたものと認定するのが相当であり、このような場合は被害者らは社会の一般的常識として心理的に抗拒不能の状態に陥つたと解すべきであり、またその後の被告人と二人きりの密室内で全裸でいる被害者らの状態がそのままでは脱出できず、抗拒不能の状態といえることについては多言を要しないところである。これに対して所論は、被告人がモデルとなるためには裸になれないと駄目だと言つたとしても、被害者らは全裸になつて写真撮影されることを拒否しようと思えば十分可能であつたと主張するところ、物理的な強制があつたわけではないから、被害者らが被告人の発言によつて前叙のような誤信に陥らなかつたというのであれば右の主張もうなずけないわけではないが、被害者らは前叙のように誤信したことが明らかであって、そのような状況のもとでは被害者らの年令、社会経験等に照らし、一般的に考え、もはや被害者らに被告人の要求を拒否することを期待するのは著しく困難であつたと認められるから、右主張は理由がなく、その他所論が種々主張するところを逐一し細に検討してみても、前叙の結論を左右するに足りない。この点の所論も採用するに由ない。 以上論旨はいずれも理由がない。 控訴趣意中法令適用の誤りの主張について 所論は、要するに、原判決が判示する事実によつては被告人が被害者らの反抗を抑圧し、ないし著しく困難にしたとはいえないから、原判示事夷をもつて刑法一七八条にいわゆる「抗拒不能」の要件を充たすものとして同条を適用した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。 しかしながら、同条にいわゆる「抗拒不能」とは心神喪失以外の意味において社会一般の常識に照らし、当該具体的事情の下で身体的または心理的に反抗の不能または著しく困難と認められる状態をいい、暴行及び脅迫による場合を除きその発生原因を問わないところ、さきに抗拒不能に関する事実誤認の所論について判断したとおり、その際認定した諸事実すなわち被告人は相当額の入会金を支払つて所属契約を結びモデルとして売り出してもらうことを志望していた被害者らについて、その希望を実現させることのできる当該プロダクシヨンの実質的経営者の地位にあったという被告人と被害者らとの地位関係、被害者らの若い年齢や社会経験の程度、被告人の言うことを信じそれに応じなければモデルとして売り出してもらえないと考えた被害者らの誤信状況などを総合すれば、社会一般の常識に照らし、被告人の全裸になつて写真撮影されることもモデルになるため必要である旨の発言等は被害者らをそのように誤信させ、少くとも心理的に反抗を著しく困難な状態、換言すれば前示抗拒不能に陥らせるに十分であり、その結果被害者らはその状態に陥つて全裸になつたものであり、また被害者らが全裸になつて被告人と二人きりで密室内にいる状態が抗拒不能の状態と解すべきことも重ねていうまでもないところであり、原判決はその判文から明らかなように、これら諸事実の重要部分を全て被告人の所為によるものとして摘示したうえ原判示事実について前法条を適用したものであるから、原判決には法令適用の誤りは認められない。論旨は理由がない。


 なお、詐言による多額の出演料(200万円)を約束した児童買春+児童ポルノ製造罪の事案では、抗拒不能に至っていないという判例もあります。

名古屋高等裁判所金沢支部
平成14年3月28日
第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の論旨(控訴理由第4及び第23)について
1 所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
 しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。