児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

出会い系サイトの児童に帰責性(被害者の責任)はあるか?

 法の趣旨からして失当な主張なんですが、裁判所の答を聞きたかった。
 真似しないでくださいよ。失当であることが確定した主張ですから

 量刑不当(被害者の帰責性)
1 はじめに
 原判決は量刑理由において、被害児童らの帰責性を考慮しておらず、その点で原判決の量刑は重すぎるから、破棄を免れない。

2 被害児童の帰責性
 本件の端緒は、いずれも被害児童が出会い系サイトにおいて「売春」「援助交際」の相手方を募っていたところ、被告人がそれに応じたというものである。
 冒頭陳述でもそう述べられており、検察官によって立証済みである。

 児童買春に社会的法益的要素(児童一般を害する、社会的風潮)があるとすれば、相手方の児童は共犯(必要的共犯)である。個人的法益だとすれば、それは自傷行為である。いずれにせよ被害者の行為も反社会的である。
 裁判所は量刑理由において、児童の帰責事由に触れないことは被告人にとっては量刑不当であるばかりか、児童の性を売り物にする風潮や自傷行為を助長するものであり、法益保護の見地からも看過できない。
 また、盗撮・強制等被害者に全く帰責性がない児童ポルノ事件もあることを考えると、公平・精密な量刑を目指すのであれば、被害者の帰責事由ももれなく評価しなければならない。
 弁護人は児童ポルノ・児童買春一般の場合に被害者の過失を認定しろと言っているのではない。被害者側にも目に余る行状があり得るのであるから、適正に評価することを求めているのである。

3 女子中学生監禁致死事件(神戸地裁H14.3.25*1 大阪高裁H14.11.26*2*3)
 被告人と被害者が伝言ダイヤルで知り合ったことを監禁致死と強盗事件という極めて重い罪についての被害者の責任と評価している。控訴審でも追認され、検察官上告されなかった。神戸地裁・大阪高裁(4部)はバランス感覚と見識を示したと評価されている。
しかし、まず、(1)の点については、もとより責めらるべきは被告人であるが、前記のとおり、被害者らにも自ら危険に身を投じたことに多少とも落ち度というべきものがあるから、この点に関する原判決の説示に有利な情状として考慮されるべきものでは相当である。
 出会い系サイトも伝言ダイヤル同様に監禁致死と強盗という重罪があってもおかしくないことは周知の事実である。出会い系にアクセスして知り合った場合は、命を失ってもある程度やむを得ないというのが大阪高裁の見解である。これも一つの見識である。
 まして、援助交際を申し込んで、援助交際を敢行しているのであるから、いわば「願ったりかなったり」であり、被告人の行為は被害者の予想の範囲内である。本件については被害者らも相当程度のリスクを覚悟していたというべきであるから、この程度のリスクを甘受すべきである。

4 本件被害者の違法性・犯罪性
 本法は児童について売春防止法の適用を除外していない。
 しかも、本件被害者らは、不特定の相手と性交しているものと認められるから、売春防止法3条違反がある。罰則はないが、違法であることは間違いない。
売春防止法
第2条(定義)
この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
第3条(売春の禁止)
何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。
 伝統的に見て、「援助交際」とは判例上、売春防止法にいう売春又は売淫である。合法化された事実はない。
売春防止法違反事件
【事件番号】大阪高等裁判所判決/昭和33年(う)第1190号*4
【判決日付】昭和34年2月17日
【判示事項】いうゆる妾の斡旋を売春防止法第六条第一項の「売春の周旋」と認めた事例
【参照条文】売春防止法(昭和31年法律第118号)6−1
【参考文献】下級裁判所刑事裁判例集1巻2号305頁
 判例時報185号34頁

昭和二二年勅令第九号違反等被告事件*5
【事件番号】東京高等裁判所判決/昭和31年(う)第1805号
【判決日付】昭和31年12月17日
【判示事項】一、昭和二二年勅令第九号にいわゆる売淫の意味
二、東京都売春等取締条例第四条にいわゆる「売春婦」および「客引をなす」の意味
【判決要旨】1 昭和二二年勅令第九号にいわゆる「売淫」とは、名義の如何を問わず経済的利益を反対給付として受け、または受ける約定で、不特定の異性のうちから任意に相手方を選定しその者と性交することをいう。
2 東京都売春等取締条例第四条にいわゆる「売春婦」とは、右要旨第一の意味において売淫(或は売春)をする婦女をいい、「客引をなす」とは、場所の如何を問わず売春婦と性交することを周旋勧誘することをいう。
【参照条文】昭和22年勅令第9号2
東京都売春等取締条例(昭和24年5月31日東京都条例第58号)1
東京都売春等取締条例(昭和24年5月31日東京都条例第58号)4
売春防止法(昭和31年法律第118号)2
婦女にに売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和22年勅令第9号)2
【参考文献】
最高裁判所刑事判例集11巻10号2447頁
高等裁判所刑事判例集9巻12号1281頁
高等裁判所刑事裁判特報3巻24号1232頁
東京高等裁判所判決時報刑事7巻12号468頁
判例タイムズ67号84頁
判例時報101号1頁

昭和二二年勅令第九号違反東京都売春等取締条例違反被告事件
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和32年(あ)第195号*6
【判決日付】昭和32年10月3日
【判示事項】刑訴第四○○条但書に違反する事例
【参照条文】刑事訴訟法400
東京都売春等取締条例(昭和24年5月31日東京都条例第58号)4
【参考文献】最高裁判所刑事判例集11巻10号2436頁
最高裁判所裁判集刑事121号15頁

5 児童の児童買春誘引罪
 インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律*7では、児童にも誘引罪(罰金100万円)が設けられている。罰則にも相当する違法性(可罰的違法性)が認められるのである。
第二章 児童に係る誘引の規制
第六条 何人も、インターネット異性紹介事業を利用して、次に掲げる行為をしてはならない。
一 児童を性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、他人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは他人に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)の相手方となるように誘引すること。
二 人(児童を除く。)を児童との性交等の相手方となるように誘引すること。三 対償を供与することを示して、児童を異性交際(性交等を除く。次号において同じ。)の相手方となるように誘引すること。
 四 対償を受けることを示して、人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。
第十八条 第六条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。
 このような行為が明文で違法とされた場合、裁判所は被害者側の過失として考慮する義務がある。交差点の事故で過失割合が何対何と言っている比ではない。強姦被害者にも犯人と2人で酒席に伴ったから過失があるなどと言っている比ではない。被害者の行為も明文で「違法」とされているのであるから、刑罰法規という強力な法律によって完全なる保護を与える必要はない。
 本件被害児童はいずれも、自ら援助交際の相手方を捜したものであるから、その結果責任の一端を被害者にも負わせるのが公平である。

6 まとめ
 児童買春を被告人に持ちかけた被害児童の帰責性を、児童買春犯人に有利な事情として考慮すべきか否かについて判断を求める。
 もとより、買春罪は、被害児童の側が児童買春に応じている点である程度被害者が関与していることを予定した犯罪ではある。しかし、買春罪であるが故に全く被害児童の帰責性は問われないのであろうか?それも不合理ではないか?

 これに対する高裁の判断はいくつかありますが、正解なんですよね。ちゃんと調べてるんですよね。信頼しちゃうよね。

東京高裁平成16年2月19日
なお,所論は,被害児童に帰責性があること,行政機関が被害児童の保護を怠っていることを被告人に量刑上有利に掛酌すべきであると主張する。しかしながら,同法は,未だ健全な性的観念の備わっていない児童を前提に,児童買春を行う者を処罰するものであって,被害児童が買春に同意していたとしても,犯罪の成立に消長を来さないことは勿論,その量刑に影響を及ぼさないことも明らかである。被害児童に対する本件後の行政機関の保護状況が被告人の刑責に影響を及ぼすものでないことは多言を要しない。論旨は理由がない。