児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

2017年06月02日のツイート

児童に指示して児童の自慰行為を生中継する行為は児童淫行罪か?

 独りで性交類似行為は無理だと思います。
 最決h20.11.2とか東京高裁H8.10.30は飯田支部の性交類似行為の定義を追認してないんですけどね。
 起訴罪名は児童福祉法違反(有害支配)とか公然わいせつとか労働基準法違反になると予想します。
 児童淫行罪と製造罪との罪数論争のなかで、性交類似行為についての判例も積み重なっています。

黒川弘務「児童福祉法34条1項6号の「児童に淫行をさせる行為」の意義に関する最高裁決定」(研修609号9頁)
もっとも,限定説の結論が妥当ではないとしても,限定説論者の指摘には傾聴に値するものがあり,性交類似行為の範囲を余りに経やかに解するならば,単なるわいせつ行為まで「淫行」に含まれることにより処罰範囲が無限定に拡張することにもなりかねないので,本号が児童の心身に非常な悪影響を及ぼしその健全な育成を阻害することが甚だしいと認められる「淫行をさせる行為」に対し特に重い法定刑をもって臨んだ趣旨を逸脱することのないような解釈運用を行う必要がある。
したがって,本号において淫行に含まれる性交類似行為の範囲は,児童の心身に与える有害性が直接かつ重大なもので,実質的にみて性交と同視し得る程度の性行為でなければならず,単なるわいせつ行為は性交類似行為には当たらないと解するのが妥当である。例えば,異性間の性交とその態様を同じくする状況下で,あるいは男女性交を模して行われる手淫・口淫行為等,同性愛行為等は本号にいう性交類似行為に該当するが,単に陰部を露出させたり乳房を弄ばせたりすることは,本号に当たらないというべきである。

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成21年(う)第744号
【判決日付】 平成21年7月6日
本件の各所為のうち,児童に淫行をさせる罪の動態は,児童に対して性交又は実質的に見て性交と同視できる程度の性行為(性交類似行為)をさせることであり,

       児童福祉法違反被告事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷決定
【判決日付】 平成10年11月2日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集52巻8号505頁
       家庭裁判月報51巻4号104頁
       最高裁判所裁判集刑事274号453頁
       裁判所時報1231号260頁
       判例時報1663号149頁
【評釈論文】 警察学論集52巻6号168頁
       警察公論54巻2号128頁
       研修609号9頁
       ジュリスト臨時増刊1157号164頁
       ジュリスト1210号215頁
       判例タイムズ1053号65頁
       法学新報106巻11〜12号349頁
       法曹時報53巻5号318頁
 なお、中学校の教師である被告人が、その立場を利用して、児童である女子生徒に対し、性具の電動バイブレーターを示し、その使用方を説明した上自慰行為をするよう勧め、あるいは、これに使用するであろうことを承知しながらバイブレーターを手渡し、よって、児童をして、被告人も入っている同じこたつの中に下半身を入れた状態で、あるいは、被告人も入っている同じベット上の布団の中で、バイブレーターを使用して自慰行為をするに至らせたという各行為について、いずれも児童福祉法三四条一項六号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たるとした原判断は正当である。

      児童福祉法違反被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成8年(う)第683号
【判決日付】 平成8年10月30日
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集49巻3号434頁
       高等裁判所刑事裁判速報集平成8年114頁
       家庭裁判月報49巻3号92頁
       東京高等裁判所判決時報刑事47巻1〜12号125頁
       判例タイムズ940号275頁
       判例時報1596号120頁
【評釈論文】 警察公論52巻2号112頁
       判例評論474号61頁

1 「淫行」について(所論(1))
 児童福祉法三四条一項六号にいう「淫行」には、性交そのもののほか性交類似行為をも含むものと解される(最高裁判所昭和四七年一一月二八日第一小法廷決定刑集二六巻九号六一七頁参照)。ところで、同法は、すべての国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、かつ、育成されるよう努めなければならないこと、すべて児童は、ひとしくその生活を保護され、愛護されなければならないこと、国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負うことをもって、児童の福祉を保障するための原理とし、この原理は、すべて児童に関する法令の施行に当たって、常に尊重されなければならないと規定している。そして、同法三四条は、このような基本理念に基づいて、児童を保護するための各種禁止行為について規定しているが、なかでも同条一項六号は、児童が精神的にも肉体的にも性的に未成熟であるため、そのような児童に淫行をさせる行為は児童の心身に与える有害性が特に大きいとみて、これを規制する趣旨であると解される。右のような児童福祉法の基本理念や同法三四条一項六号の趣旨目的に照らせば、児童の相手方がバイブレーターを自らの手で児童の性器に挿入する行為が性交類似行為に当たることは、多言を要しないが、仮に相手方が自らの手でバイブレーターを児童の性器に挿入しない場合であっても、バイブレーターを調達して児童に交付した上、自己の面前において児童をしてこれを性器に挿入させる行為も、相手方が自らの手でバイブレーターを児童の性器に挿入する場合と、児童の心身に与える有害性は異ならないものと認められるのであって、性交類似行為に当たるものと解するのが相当である。
 本件においては、被告人は、被害児童に対し、自ら購入しておいたバイブレーターを示し、スイッチを操作するなどしてその使用方法を説明した上、これを自己の性器に挿入して自慰行為をするよう勧め、よって、同児をして、被告人も入っている同じこたつの中に下半身を入れた状態で、右バイブレーターを自己の性器に挿入せしめて自慰行為をさせ(原判示第一)、あるいは、被害児童に対し、自ら注文して入手したバイブレーターを示し、スイッチを操作するなどしてその使用方法を説明した上、同児がこれを使用するであろうことを承知していながら、これを同児に手渡し、よって、同児をして、被告人も入っている同じベッド上のふとんの中で、右バイブレーターを自己の性器に挿入して自慰行為をするに至らしめた(原判示第二)というのであって、右のような被告人と各被害児童との間の行為が前記性交類似行為、すなわち「淫行」に該当することは明らかというべきである。
 ところで、原判決は、前記「淫行」について、「男女間の性交に限らず、児童の心身に与える有害性が認められ、実質的にみて性交と同視し得る程度の行為、すなわち男女間の性交を摸した、あるいは性交を連想させるような姿態での手淫・口淫行為や同性愛行為等の性交類似行為をも含む」として、基本的には当裁判所と同様の見解に立った上、その具体的な適用として、「性交類似行為は、通常は相手方となるべき人間の存在が予想されていると考えられるが、相手方が存在せず行為者が単独で行う場合においても、単に行為者が素手で自慰行為をするなどの行為に止まるのではなく、例えば人間の姿形を摸して造られた人形を用いて自慰行為をし、あるいは女性が男性性器を摸して造られた器具を用いてこれを自己の性器にあてがい又は性器に挿入するなどの方法で自慰行為に及んだときは、これをもって性交類似行為に出たということができる」との解釈を示している。この解釈によれば、性交類似行為には必ずしも相手方の存在を必要としないことになるが、本件は、性交類似行為の相手方として被告人が存在した事案であるから、原判決の右解釈の当否について更に立ち入って検討を加えるまでもなく、原判示の各行為が児童福祉法三四条一項六号にいう「淫行」の要件を充たすとした原判決の結論に誤りはない。

【事件番号】 長野家庭裁判所飯田支部判決/平成7年(少イ)第1号、平成7年(少イ)第2号
【判決日付】 平成8年3月18日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集52巻8号536頁
       家庭裁判月報49巻3号101頁
(犯罪事実)
被告人は、E中学校の英語教諭の職にあったものであるが、
第一 平成七年三月二五日午前一時ころから同二時ころまでの間、長野県飯田市(以下略)の被告人宅において、A(昭和五六年○○月○○日生で当時同中学校一年生)が満一八歳に満たない児童であることを知りながら、同女に対し、自ら購入しておいたバイブレーター(平成八年押第二号の1)を示し、スイッチを操作するなどしてその使用方法を説明したうえ、これを自己の性器に挿入して自慰行為をするよう勧め、よって同女をして右バイブレーターを自己の性器に挿入せしめて自慰行為をさせ、もって満一八歳に満たない児童に淫行をさせる行為をした。
第二 平成七年四月三〇日午前三時ころから同五時ころまでの間、長野県飯田市(以下略)のホテル「□□」三〇三号室において、B(昭和五五年○月○○日生で当時同中学校三年生)が満一八歳に満たない児童であることを知りながら、同女に対し、自ら注文して購入したバイブレーターを示し、スイッチを操作するなどしてその使用方法を説明したうえ、同女がこれを自己の性器に挿入して自慰行為をするであろうことを承知していながら、これを同女に手渡し、よって同女をして右バイブレーターを自己の性器に挿入して自慰行為をするに至らしめ、もって満一八歳に満たない児童に淫行をさせる行為をした。
(証拠)省略
(弁護人の主張に対する判断)
一 被害者らの行為が「淫行」に該当するか。
弁護人は、被害者らの行為が自慰行為に該当するか疑問があり、仮に該当するとしても自慰行為は児童福祉法三四条一項六号にいう淫行に該当しないと主張するので判断する。
右法条にいう淫行とは、右法条が、心身ともに未熟な児童の性的情操の保護やその健全育成を法益とするものであることに鑑みると、刑法一八二条にいう「淫行」、同法一七七条にいう「姦淫」、売春防止法にいう「売春」とは異なり、男女間の性交に限らず、児童の心身に与える有害性が認められ、実質的にみて性交と同視し得る程度の行為、すなわち男女間の性交を模した、あるいは性交を連想させるような姿態での手淫・口淫行為や同性愛行為等の性交類似行為をも含むものと解される。そして、性交類似行為は、通常は相手方となるべき人間の存在が予想されていると考えられるが、相手方が存在せず行為者が単独で行う場合においても、単に行為者が素手で自慰行為をするなどの行為に止まるのではなく、例えば人間の姿形を模して造られた人形を用いて自慰行為をし、あるいは女性が男性性器を模して造られた器具を用いてこれを自己の性器にあてがい又は性器に挿入するなどの方法で自慰行為に及んだときは、これをもって性交類似行為に出たということができると解すべきである。蓋し、右のような人間を模して造られた用具や男性性器を模して造られた器具を用いての右のような方法による自慰行為は、男女間の性交を模した行為、あるいは性交を連想させるような行為と評価できるものであり、またこのような行為は、児童が正しい健全な性知識や習慣を身につけ心身ともに健やかに育成されることを妨げるものであって、児童にそのような行為をさせることを禁止する必要性が大きいからである。
かるところ、本件においては、第一、第二記載の各児童(いずれも女子中学生)は、判示のとおり、いずれもバイブレーターを自己の性器に挿入して自慰行為をしたと認定できるものであるところ、本件バイブレーターが男性性器を模して造られたその代用品であることは明らかであって、本件各児童の判示各自慰行為は男女間の性交を模した行為、あるいは性交を連想させるような行為と評価できるものであり、これが児童の健全育成にとって有害なものであることは優に認められるものであることからすると、本件各児童の判示各自慰行為はいずれも性交類似行為に当たるということができるものであって、これらは児童福祉法三四条一項六号にいう淫行に該当するというべきである。

シリーズ捜査実務全書13 少年・福祉犯罪
p261
このような観点からすれば、ヌードショーなどで踊り子が客に対して陰部を露出して見せる行為、同様に踊り子が客に対して自己の陰部に触れさせる行為、いわゆる風俗庖などで接客員が客に対して「手淫」を施す行為などは、それらの行為のみでは「性交に準ずべき'性交類似行為」とは言い難いと思われるので「淫行」には当たらないというべきであろう。
しかし、前記の裁判例からも窺われるように、状況によっては「手淫」も他の性行為と相まって「性交に準ずべき性交類似行為」となることがあるので、「手淫は『性交に準ずべき性交類似行為』ではない。」というように一般化するのは危険である。