児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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2015年07月12日のツイート

児童ポルノ提供罪で罰金30万円(略式命令)になったことを理由とする懲戒解雇が無効された事件(東京地裁H27.3.6)

地位確認請求事件
東京地方裁判所平成26年(ワ)第4753号
平成27年3月6日民事第36部判決
口頭弁論終結日 平成27年2月6日

       判   決

原告 P1
同訴訟代理人弁護士 伊東良徳
被告 日本郵便株式会社
同代表者代表取締役 P2
同訴訟代理人弁護士 石川哲夫


       主   文

1 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,30万2860円及びこれに対する平成26年2月25日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに平成26年3月から本判決確定の日まで毎月24日限り37万6310円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 本判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。


       事実及び理由
第3 争点に対する判断
1 争点1(本件懲戒解雇の違法性)について
(1)職場外でされた業務上の関連性のない非違行為の懲戒事由該当性について
 本件非違行為が原告の業務と関連性のない職場外の非違行為であることは当事者間に争いがないところ,本件懲戒解雇は,本件非違行為が就業規則81条1項1号及び15号の懲戒事由に該当するとして懲戒処分の対象とするものである。
 本件非違行為のように職場外でされた業務上の関連性のない非違行為を懲戒処分の対象とすることの可否については,使用者の従業員に対する懲戒が,企業秩序を維持し当該企業の円滑な運営を可能にするための一種の制裁罰であることからすれば,業務上の関連性のない非違行為であっても企業秩序に直接の関連を有する場合には懲戒処分の対象とすることができるというべきであり,また,企業が社会において活動するためには,当該企業の名誉,信用その他相当の社会的評価の維持が不可欠であることからすれば,その社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については,業務上の関連性のないものであっても懲戒処分の対象とすることができるというべきである。そして,業務上の関連性のない従業員の非違行為が企業の名誉,信用その他の社会的評価を著しく毀損したと客観的に認められる場合には,懲戒処分により当該従業員を当該企業から排除することも許容されるものと解されるが,従業員の非違行為が企業の社会的評価を著しく毀損したというためには,当該非違行為の性質・情状,会社の事業の種類・規模,当該従業員の企業における地位・職種等の事情を総合的に考慮して,当該非違行為により企業の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合であることを要するというべきである(最高裁昭和49年2月28日第一小法廷判決・民集28巻1号66頁,最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決・民集28巻2号265頁等参照)。
 そうすると,本件非違行為を懲戒処分の対象とするためには,本件非違行為が被告の企業秩序に直接の関連を有し,又は被告の社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものであることを要するから,被告の就業規則81条1項1号及び15号の懲戒事由該当性についてもこの点を踏まえて判断する必要があるというべきであり,さらに,本件懲戒解雇を相当と評価するためには,本件非違行為の性質・情状や被告における原告の地位・職種等の各事情を総合考慮して,本件非違行為により被告の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができる場合であることを要するというべきである。
(2)本件非違行為の懲戒事由該当性について
 以上を踏まえて本件非違行為の懲戒事由該当性について検討する。
ア 本件非違行為の内容自体は,原告が自ら盗撮した児童ポルノを他者に提供するという破廉恥な行為ではあるものの,上記のとおり職場外で業務上の関連性なく行われた行為である上,原告は,平成25年9月19日付けの罰金30万円の略式命令に従い罰金を納付し,同月25日からは通常勤務に復帰しているものであり(前記第2の1(3)イ,ウ),本件非違行為や原告の逮捕によって被告の職場に混乱等が生じたとの事情は特にうかがわれない。
 被告は,本件非違行為が被告の部外者・部内者に広く知られ被告の業務に悪影響が生ずる可能性がある旨主張するが,本件全証拠によっても被告主張に係る可能性が具体的に存するものとは認められず,また,仮に本件非違行為が被告の部内者等に知られるようになったとしても,それにより直ちに被告の企業秩序に影響を与えることになるものとも考え難い。さらに,被告は,個人情報等を数多く取り扱う被告の業務の内容・性質との関連からして本件非違行為は極めて重大な非違行為であって,役員・従業員全体に迷惑・影響を及ぼすとも主張するが,本件非違行為が存することから直ちに被告における個人情報等の取扱いについて問題が存するものと当然に関連づけられるものではなく,実際,被告の業務として原告が行った個人情報等の取扱いに問題が存したとの事情もうかがわれない。また,本件非違行為が被告の役員・従業員全体に悪影響を及ぼしたと評価し得る具体的な事実関係も認められない。
 以上のほか,本件全証拠によっても,本件非違行為が被告の企業秩序に何らかの影響を与えたとの事情もうかがわれないから,本件非違行為が被告の企業秩序に直接の関連を有するものとは認められないというべきである。
イ また,前記前提事実(3)アのとおり,本件非違行為については,地方紙である茨城新聞及び全国紙である読売新聞の茨城県版の地方面で報道されたものの,被告の商号や原告が郵便局員であることは報道されておらず,さらに原告の氏名も正確に報道されなかったものであり,本件非違行為や原告の逮捕に関し被告に対して部外者から指摘やクレーム等が寄せられたことはなかったというのであるから,このような事情を踏まえれば,本件非違行為や原告の逮捕の事実が被告と関連づけて一般に知られていたとは考え難く,本件非違行為により被告の社会的評価が現実に低下したとは認められないというべきである。
 被告は,本件非違行為により被告の社会的評価に悪影響を受ける危険性が十分ある旨主張するが,上記のとおり新聞報道がされた当時でさえ被告には本件非違行為や原告の逮捕による影響は特段生じなかったのであるから,当該新聞報道がされた事実をインターネット上で検索することすら容易でない(甲4号証(枝番を含む。))現時点以降において,本件非違行為が改めて広く一般に知られ,それにより被告の社会的評価を低下毀損させることになるものとは考え難く,本件全証拠によっても,被告主張に係る危険性が現実化する可能性が具体的に存するとは認められないというべきである。
 このように,本件非違行為に関する報道がされた当時においても被告の社会的評価が現実に低下したとは認められず,また,今後も,本件非違行為により被告の社会的評価が低下し得る具体的な可能性が存するものとは認められない以上,本件非違行為が被告の社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認めることはできないというべきである。
ウ 以上のとおり,本件非違行為は,職場外でされた業務上の関連性のない非違行為であるところ,被告の企業秩序に直接の関連を有する行為であるとも,被告の社会的評価の低下・毀損につながるおそれが客観的に認められる行為であるともいえないから,本件非違行為を,被告の就業規則81条1項1号及び15号に定める懲戒事由に該当するものとして懲戒処分の対象とすることはできないといわざるを得ない。
 なお,仮に,本件非違行為が,被告の社会的評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められる余地があり,就業規則81条1項1号及び15号の懲戒事由に該当し得ると評価することができたとしても,上記において認定した各事情や被告における原告の地位(前記前提事実(2))等の事情を総合考慮すれば,本件非違行為が,被告の社会的評価に相当重大な悪影響を及ぼすものと客観的に評価することはできないというべきであるから,本件非違行為を懲戒事由とする本件懲戒解雇は,懲戒処分としての相当性を欠き,懲戒権を濫用したものとして労働契約法15条により無効であるといわざるを得ない。この点,被告は,被告における従前の処分事例との比較から,児童ポルノ法違反に加えて盗撮を行った本件非違行為について懲戒解雇を相当とした被告の判断は適正である旨主張するが,被告が指摘する従前の処分事例は,各新聞報道等の内容やその程度によって被告の社会的評価に与える具体的な影響の程度がさまざまであるから,被告が挙げる他の懲戒解雇又は諭旨解雇の事例と本件とを直ちに同列に扱うことはできず,被告の上記主張は結論を左右しないというべきである。
(3)小括
 よって,本件非違行為が懲戒事由に該当すると認めることはできないから,本件非違行為を理由とする本件懲戒解雇は,無効である。
2 争点2(賃金支払請求の可否及び額)について
 前記1において検討したとおり本件懲戒解雇が無効である以上,被告が本件懲戒解雇をした平成25年12月30日以降も,原告は,被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあるから,同権利に基づき同日以降の賃金の支払を請求することができる。
 原告の1か月の賃金のうち毎月定額で支払うこととされているものの合計が37万6310円であること,被告が原告に対し平成25年12月30日までの賃金及び解雇予告手当を支払済みであることについては当事者間に争いがなく,原告は,上記解雇予告手当名目で支払われた44万9760円を平成26年1月分の賃金全額及び同年2月分の賃金の一部である7万3450円に充当しているから、原告は,被告に対し,同月分の未払賃金30万2860円及びこれに対する支払期日の翌日である同年2月25日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払並びに同年3月分以降の賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払をそれぞれ請求することができる。
第4 結論
 以上のとおり,原告の本件各請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,主文のとおり判決する。 
東京地方裁判所民事第36部
裁判官 松田敦子