児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

2014年05月15日のツイート

強制わいせつ罪で逆転無罪(仙台高裁秋田支部H26.1.14)

「極端にいえば,せっぷんしたり,胸を触ったりする前に,被告人が承諾を求めたか否か,これに対して被害者が頷いたか否かの点だけが違うにすぎない」という事例だそうです。

強制わいせつ被告事件
仙台高等裁判所秋田支部判決平成26年1月14日
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人は無罪。

       理   由

 1 本件控訴の趣意は,弁護人古谷薫作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官小林弘幸作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,事実誤認及び予備的に量刑不当の主張である。
 2 事実誤認の論旨
 論旨は,次のとおりである。すなわち,原判決は,罪となるべき事実として,要旨,「被告人は,平成24年12月20日,秋田市卸町1丁目1番2号株式会社「R秋田店」(大型ゲームセンター。以下「R」という。)駐車場に駐車中の自動車内において,携帯電話サイトで知り合った自称A(当時19歳)に対し,その背後から手で同人の顔を掴んで無理矢理振り向かせ,同人の唇にせっぷんし,さらに,その背後から同人の着衣の中に手を差し入れ同人の胸を揉むなどし,もって強いてわいせつな行為をしたものである。」との事実を認定判断した。しかしながら,被告人が,被害者にせっぷんし,胸を揉んだ事実は認めるが,?被害者の明示又は黙示の同意があった,?仮に同意がなかったとしても,嫌がっているという認識がなかったので故意がない,?暴行又は脅迫もしていない,というのである。
 3 当裁判所の結論の概要
 原判決は,被害者の原審公判における供述(以下,単に「被害者供述」という。)につき,?被告人の言動について自ら体験したのでなければ供述し得ない内容を,その時々の心情を交えながら具体的に供述しているのであって,その内容も自然であり,記憶にないことやあいまいな部分についてはその旨述べるなど供述態度も真摯である,?被告人から彼女と会うことを求められ,会いたくないと思ったことは被害者がそのとき母親に送ったメールに記載されている,?被告人に胸を触られたこと,精神的なショックを受けたこと,被告人が怖かったが必死に抵抗したことなどは,被害者が被告人の車から降りてから母親に送信したメールに記載されているが,その記載には通常では考え難い誤変換等が存在することやその表現振りから事態の緊迫感,迫真性が認められ,被害者供述の裏付けとなっている,?被害者の母親は,被害者から泣き叫びながら助けを求める電話があり,その電話の向こうで男の怒鳴り声がしたと供述しているところ,同供述は,被害者との携帯電話によるメールのやり取りの内容や通話の状況に沿うものであり,被害者から助けを求める電話や状況を伝えるメールを受けた際の心情等も自然であり,信用性を認めることができ,これによれば,被害者からの電話の前に,被害者が被告人から何らかの被害を受けるなどしたものと推認することができ,また,被告人の被害者に対する態度が急変し,被告人に怒鳴られたという被害者供述を裏付けるものということができる,?被害者の捜査段階供述と公判供述との間には相違点はあるが,できごとの順番に多少の記憶の混乱があったとしても,被害者供述の信用性を左右するまでの事情とはいえないなどとして,被害者供述には高い信用性を認めることができる,他方,被告人の弁解は不自然,不合理で到底信用し難いなどとして,被告人が,被害者に対し,強制わいせつの故意をもって無理矢理被害者にせっぷんをし,その胸を揉んだ事実を優に認めることができると判示した。
 しかしながら,原審記録及び当審における事実調べの結果を調査して検討すると,上記結論は是認できない。本件では,そもそも外形的事実関係に関して,被害者供述と被告人の原審公判における供述(以下,単に「被告人供述」という。)との間にそれ程大きな相違がある訳ではなく,極端にいえば,せっぷんしたり,胸を触ったりする前に,被告人が承諾を求めたか否か,これに対して被害者が頷いたか否かの点だけが違うにすぎないともいえるところ,上記?の点はともかくとして,?の点は承諾の有無とどう関係するのか不明であるし,?,?の点も,後記4(5)オ記載のとおり,被害者供述を前提にしても,強制わいせつ罪の成否を左右するものとはいえず,上記?の点は,後記4(3)冒頭記載のとおり,明らかに誤っている。その上,後記4(3)記載のとおり,被害者供述には自分の心理状態等に関する供述について疑問な点が見受けられ,他方,後記4(5)記載のとおり,被告人供述には,被害者の同意の点を含め,虚偽と断定できる部分がさしてあるとはいえず,原判決が被害者供述に高い信用性を認め,被告人供述を信用し難いとした判断には疑問がある。
 結局,被害者供述のうち,間違いなく信用できる部分のみでは,?被害者の同意がなかったとは断定できない,また,同意がなかったと仮定しても,?強制わいせつ罪にいう暴行があったといえるか疑問がある,?被告人の故意も認定できない,したがって被告人は無罪である。
 4 説明
 (1) 前提となる事実
 ? 被害者(本件の翌月には20歳になる当時19歳の女性)と被告人は,平成24年12月12日,グリーという携帯電話のサイトでメールのやり取りをして知り合うこととなった。当初は,同サイトの伝言板で挨拶や世間話をしていたが,その後同サイトや携帯電話のメールあるいは電話で連絡を取り合うようになった。
 被告人は,これまでに,同サイトや他のサイトで知り合った女性のうち5人以上と直接会い,その全員と肉体関係を持った。被害者は,それまでに,グリーのサイトで知り合った男性4人くらいと直接会い,カラオケをしたり,ご飯を食べたりしたこと,さらには会った当日ではないが,中には後日肉体関係を結んだこともあった。
 ? 両名は,同月20日,直接会うことになり,同日午前4時7分頃から同10時13分頃までの間,頻繁に携帯電話でメールを交換しながら,待ち合わせ場所に向かった。
 その際にやり取りされたメール内容は概ね以下のとおりである。メール中の●印は今回のやり取りの中で頻繁に使われている「顔のマーク」で,普通の顔,ほほえんでいる顔,照れている顔など数種類あるが全て●で表示した。顔のマーク以外に,猫のマーク((△)で表示),ハートのマーク(□で表示),顔文字など多様なマークが使われているが,●,□,(△)のマーク以外は概ね○で表示する。また,送信側と受信側では表示されるマークの形が若干異なっている(甲5及び甲10)。
・・・
 (2) 被害者供述
 ? 被告人から犯行当日会いに行く旨の話があり,彼女がいる人なので会いたくない旨言ったが,被告人に自分のことは信じてなどと言われたので,嫌だったが,話ぐらいはしてもいいと思って会うことにした。
 ? 犯行当日の朝のメールのやり取りで,ハートマークを使っているが,普段からメールではよく使うし,男女関係なく使っていて,深い意味はない。被告人のメールに「ラブ系」という言葉があったが,被告人には付き合っている人がいるし,私はキスしていいとか,体触っていいなどと言ってないので,食事したり,どこかに出掛けたり,買い物したりするぐらいのことだと思っていた。
 ? 会ったときの被告人の印象は,メールで受け取った写真とは全く違うと思った。また,メールでやり取りしていたのとは全く違い,せかせかしている感じで,すごいお喋りで,ものをずばずば言う人だと思った。私は,元々人の目を見ることや目が合うことがすごく苦手で,すごく緊張していたこともあったので,初対面の人の顔を見ることができず,下を向いていると,「顔上げて。」とか「何回も同じことを言わせないで。」などと何回も言われ,私は長居したくなかった。
 ? 移動中の車内では,私が,「彼女いるのに大丈夫かな。」と聞いたら,被告人は,「大丈夫だよ。気にしないで。うちは束縛しないから。」などと答え,私のことを彼女に会わせたいと言っていた。私が,「会いたくない。」と言うと,最初は,「大丈夫だよ。」などと言っていたが,途中から,「分かった。今日は会わせない。」と言って,Rの駐車場で話がしたいと言ってきた。それに対して私がどう答えたかはちょっと忘れた。
 ? Rに行ったとき,被告人に手を繋がれて嫌だったが,嫌だとは言えなかった。
 Rでは昼ご飯を食べに行く話だったが,被告人が,車の中で話をしたいと言うので,車に戻り,被告人に言われるまま一番後ろのシートに座った。駐車場は暗いし,一番後ろの席では余計暗くなるので気持ち悪いと思っていたが,嫌だとは言えなかった。
 車に乗ってから,被告人の彼女のことなどを話していて,結構時間が経った後,被告人は,「俺に甘えてきて。」,「彼女いるのは気にしないで。今だけなんだから自分に甘えて。」などと言ってきたが,私は被告人のことが気持ち悪いと思っていたから窓の方を向いていた。被告人が,「今まで何人の人とエッチしたことがあるの。」などとしつこく聞いてきたので,私は,「答えたくない。」と言った。すると被告人は,髪の毛や太股など,やたら体をべたべた触ってきた。私は,窓の方を向いたままその手を払い除けたりしていた。その際,多分,やめてと言ったと思う。しかし,被告人は,ますますしつこくしてきた。脇腹をくすぐられたこともあったが,その際にはやめてとは言わずに笑うなどしていた。
 ? 私が体ごと窓の方を向いていると,顎を親指と他の指で掴まれ,顔だけを被告人の方に向けさせられ,不意打ち的に唇と鼻にキスをされた。鼻は,私が体をよじったので当たった。被告人の押さえる力が強かったので抵抗できず,また,被告人のことが怖かったことからよけることができなかった。私は,体をよじってすぐに離れ,被告人に対し,「彼女がいるのに。」と言った。被告人は,「この場所には彼女はいないから。彼女の存在は今日は忘れて。」と言っていた。その後も2回キスされた。そのときも抵抗したが,顔を押さえられていたので抵抗できなかった。元々気持ちが悪いと思っていたし,被告人の口がすごく臭かったので,ものすごく不愉快で気持ちが悪かった。私はキスしていいとは絶対に言っていない。
 ? 私が,やはり窓の方を向いていると,私の了解を取るようなことは全くないまま,背後から被告人の手が伸びてきて,肩越しに両手で押さえ付ける感じで,まず服の上から胸を触られ,すぐに首のところから多分片手を入れられ,両方の胸を触られた。私が小声で,「やめて。」などと言って被告人から離れると,被告人は胸を揉むのをやめた。
 ? その辺りから被告人が不機嫌っぽくなり,「自分の彼女と,自分と,彼女の友達と3Pをやった。」,「処女を奪ってやった。」,「元彼にいいように使われたんじゃないか。」,「お前は駄目な子だね。」などと嫌らしい話などをしてきた。
 私が,「あんたって気持ち悪い。」,「あんたって性格悪い。」などと言うと,すごく怒鳴ってきて,私の体や腕をすごい力で引っ張り,「俺は職場のおばさんには性格いいって言われてるんだ。」,「俺に謝れ。」などと怒鳴られた。
 腕や体を被告人に押さえ付けられたため,「やめて。」,「放して。」,「帰りたい。」などと言っても,「放さない。」,「帰さない。」などと怒鳴られ,すごく怖かった。私はパニックを起こし,被告人の顔を叩いて,「お母さんに電話する。」と言った。被告人は,「親は関係ないだろう。」,「電話するな。」などと言って携帯電話を取り上げようとしたが,電話することができ,「お母さん,助けて。Bに殺される。」と叫んでいた。
 私が電話したら,被告人も,「彼女に電話する。」,「彼女のところに連れて行く。」などと言って車を出そうとしたので,慌てて車から逃げた。私は母親との電話が繋がったままの状態で下に下り,その後バスなどを使って警察に行った。
 (3) 被害者供述の信用性
 原判決は,前記のとおり,被害者供述は信用できる旨判断し,被告人を有罪とした。しかしながら,被害者の捜査段階における供述を含む前記前提となる事実を踏まえると,被害者供述をそのまま前提としてすら,本件は,携帯電話のサイトで知り合い,メールや電話で連絡を取り合っていた男女が8日目に会うことになり,当日,6時間余りもの間,頻繁にメールをやり取りして,それぞれが相手に会うことについて気持ちを高めていったが,被害者は,被告人に会って,印象と違うと落胆したものの,渋々同道し,車内で話をしていたけれども,体は触ってくる,不意にキスをされる,口臭はする,さらには胸も触られるなどして余計気分を害し,なおも話をしていると被告人が被害者の気分を極めて害する発言をしたため,被告人のことを罵ったところ,激高した被告人にかなりの有形力を行使されたので,母親に助けを求め,母親から,警察に行って,泣いて事実を訴えるように言われ,(意図的にか混乱してかはともかく,わいせつ行為とは関係のない暴行をわいせつ行為時に受けたものとして)誰が聞いても強制わいせつ被害に遭ったとしか受け取りようがない大袈裟な話をして,暴行事件ではなく,強制わいせつ事件にしたものではないか,との疑問が生じる。
 原判決は,原審弁護人が,被害者の捜査段階供述と公判供述との間に,被告人からヘッドロックされた時期について変遷がある旨指摘したのに対し,「確かにこの点は供述が相違してはいるものの,被害者が背後からいきなりわいせつ行為を受けたものであり,その際の衝撃や動揺,わいせつ行為を受けた後にも被告人から怒鳴られ,強い力で腕を掴まれるなどしたという状況に照らすと,できごとの順番に多少の記憶の混乱があったとしても,被害者供述の信用性を左右するまでの事情とはいえない。」などと説示して弁護人の主張を排斥した(原判決10頁)。しかし,上記でみたとおり,捜査段階供述は,「被告人が,被害者の両腕を掴んで被告人の方を向かせた。」,「被害者が『やめて,放してー。』と必死で訴えながら,体の向きを変えたり,腕を払ったりして抵抗したが,被告人は力が強く,放さない。」,「被害者の体を被告人の方へ引き寄せて密着させ,被害者の頭をヘッドロックのように抱え,嫌がる被害者を押さえ付けながら,無理矢理顔を向かせ,強引にキスした。」,「両腕を使って離れようと必死で抵抗したが,力では到底男にはかなわなかった。」,「少し離れたとしても,またすぐ無理矢理引き寄せられ,強引にキスされた。」,「こういうやり取りを何回か繰り返した。」,「胸を触られたときも,体を捻ったり,両手を使って離れようとしたが,なかなか離れることができず,何回も触られたり,揉まれたりした。」などという,誰が聞いても強い有形力を伴う強制わいせつ被害を執拗に受けたとしか受け取りようがない内容であるのに対し,公判供述は,被告人がせっぷんしたり,胸を触ったりしたときの有形力としては,精々指か手のひらで顎を掴んで顔を振り向かせた程度であり,知り合いの男女間のやや行き過ぎた性的接触のような話であって,全く違う話をしているともいえる。この食い違いは,被告人が逮捕されるか否かを左右するほどの違いであり,「多少の記憶の混乱」で済まされる問題ではなく,原判決の上記判断が誤っていることは明らかである。
 しかも,被害者供述は,同意の有無が問題となる性犯罪において,極めて重要となる被害者の心理状態等について前提事実にそぐわない個所もあり,必ずしも全面的に信用できるものとはいい難いものがある。
 以下,被害者供述につき,疑問があると思われる点をいくつか指摘する。
 ア 前記(2)?(ハートマーク,ラブ系の意味など)の供述
 (ア) 被害者は,メール中のハートマークについて,メールではよく使う,男女関係なく使っていて,深い意味はないと供述する。
 確かに,前記メールのやり取りの中で,ハートマークは頻繁に使われているところ,「(被害者)素敵な車ですね□□●何ていう車ですか?●(午前4時32分)」,「(被害者)彼女さんめちゃくちゃ可愛い●●●●●●●●●●□□□□□□真面目そうで可愛い●●●●●●●●●●□□□□□□純粋そうな素敵な彼女さんですね●●●○(午前5時35分)」,(被告人の彼女は「Aが思うほど弱くないぜ」(午前6時4分)とのメールに対し)「(被害者)そうですか□□□○(午前6時6分)」,「(被害者)はい●●□□将軍野のいとく分かります?●土崎駅より近いので将軍野のいとくに来てもらえますか?●○(午前8時40分)」,「(被害者)自衛隊通りにあるんですよ いとく●□□(午前8時51分)」など,恋愛感情とは関係がないところでもかなり使用されており,これらはそれ程深い意味がないといえる。
 他方,「(被害者)いや大丈夫ですよ●●●●起きてましたから●●□□私もBさんのこと考えてました●●●私もかなりドキドキしてます○○●□□□□緊張してます○(午前4時16分)」,「(被害者)どんな人なんだろう?□●とか色々です●○Bさんを想像してました○○●照(午前4時23分)」,「(被害者)はい●●□□Bさん□に会いたかったです●●(午前4時54分)」,「(被害者)はい●●□□楽しく過ごしたいですね●●□Bさん□私の為にありがとうございます●時間作ってくれて●(午前5時2分)」,「(被害者)Bさん□の気持ちめちゃくちゃ嬉しいです□□●(午前5時5分)」,「(被害者)私もBさん□素敵だと思ってます□□(午前7時24分)」,「(被害者)Bさん□めちゃくちゃ優しい●●●●□□□□□(午前9時26分)」などのメール中のハートマークは,相手に対し好意を持っていることを表現しているものであることは明白である。
 そうすると,メールを受け取った相手の中には,恋愛関係に発展することを期待する者がいるかもしれないことぐらいは,被害者においても認識できて格別不自然ではなく,ハートマークに性的な意味が全くないなどとはいえず,下記(イ)のメール内容も合わせて考えると,「深い意味はない。」というだけでは済まないものがある。
 (イ) 被害者は,被告人のメール中の「ラブ系」という言葉につき,食事したり,どこかに出掛けたり,買い物したりするぐらいのことだと思っていた旨供述する。
 しかし,常識的に考えて,ラブ系といった場合,単に食事や買い物をする程度だけとは思われず,まして,被告人はもちろん,被害者も本件メールのサイトを通じて知り合った異性と肉体関係を持ったことがあるという20歳直前の女性である。そして,前記メール中には,「(被告人)抱き締めたら安心するのかなぁ〜●□(午前4時48分)」,「(被害者)Bさんの彼女さんが可哀想ですよ●●(午前4時49分)」などと,被告人の彼女が嫌がるかもしれないことを想定したメールのやり取りをしており,その後に,「(被害者)はい●●□□Bさんは何したいですかね?●(午前5時9分)」,「(被告人)ラブ系がぃぃ!?●(午前5時12分)」,「(被害者)Bさん□におまかせします●(△)(△)(△)(△)(△)(△)(午前5時13分)」,「(被告人)何をされたいの?(笑)●(午前5時13分)」,「(被害者)優しくされたいな●□(午前5時14分)」,「(被告人)承知しました●(笑)ラブ系でぃぃの!?○(午前5時17分)」,「(被害者)はい●●□□(△)(△)(△)(午前5時18分)」などというメールのやり取りをしていることなどを考えると,性的な意味が全くないなどという趣旨の被害者供述は信用できず,「ラブ系」などに関する被害者供述は,被告人との関係に性的なものは全くなかったと言いたいとの被害者の心理が反映しているようにも窺われる。
 検察官は,上記メールのやり取りからは,せっぷんしたり,胸を揉ませたりすることを容認しているとは読み取れないと主張し,被害者もその旨供述した。しかし,最初からいきなりせっぷん等を容認する内容のメールを送ることなどまずあり得ないことは当然であって,問題は,それが,事の成り行き次第でそのような事態に発展することがあり得ることを示唆する内容かそうでないのかであり,前者であることは否定のしようがなく,検察官の主張は採用できない。
 イ 前記(2)?(被告人のことが気持ち悪いと思っていた旨)の供述
 被害者は,車に乗り込み,被告人から「自分に甘えて。」などと言われたが,被告人のことが気持ち悪いと思っていたから窓の方を向いていた旨供述する。
 しかし,被害者が被告人と会ってから1時間半以上の間共に過ごしている中で,被害者が被告人について否定的な印象を持った事情として述べるものは,せかせかしていてお喋りである,「顔上げて。」などと何度も注意してくる,会いたくないと思っているのに被告人の彼女に会わせようとするといったものであり,いずれも,「気持ち悪い。」と評価するようなものとは思われない。そもそも被害者は,その場に至って初めて被告人の方を見ないというのではなく,被告人と会った当初から下を向いていたなど,被告人の方を見ないことが多かったのである。しかるに,上記場面で,「気持ち悪いから」などと表現するのは,唐突な感が否めない。被害者は,両者が大きく揉める切っ掛けとなった,「自分の彼女と,自分と,彼女の友達と3Pをやった。」などの被告人の発言に対し,「あんたって気持ち悪い。」と反応したというのである(前記(2)?)から,被害者が被告人のことを気持ち悪く思ったのは,せっぷんされるまでの事情によるというよりは,その後の,被告人の発言内容にあったのではないかと考える方が自然である。
 そうすると,窓の方を向いていた理由として「被告人のことが気持ち悪いから」というのは,被告人に対して後から生じた気持ちを前倒しして,なるべく早い段階から被告人のことを悪く思っていたと言いたいとの心理が表れているようにも思われ,被害者供述をそのまま受け取ることはできない。
 ウ 前記(2)?(せっぷんされた場面)の供述
 (ア) 被害者は,不意打ち的にキスをされ,被告人の「押さえる力が強かった」ので抵抗できなかったとか,被告人のことが「怖かった」からよけることができなかったなどと供述する。
 しかし,「不意を突かれたから」よけられなかったというのはそのとおりであったにしても,被告人は,親指と人差し指等の片手で顎を掴んで顔を被告人の方に向けさせただけであり,殊更強い力を加えなければならないような状況は窺われないこと,せっぷんされたのは短時間で,被害者はすぐに被告人から離れてまた窓の方を向いていることからすれば,「押さえる力が強かった」とか「怖かった」という表現は誇張された疑いがある。
 (イ) 被害者は,2回目,3回目のせっぷんについても,最終的には,「そのときも抵抗したが,顔を押さえられていたので抵抗できなかった。」と供述した。しかし,主尋問に対しては,顔を押さえられたかどうかについて,「…ちょっとそこらへん,忘れているんです。」と供述していたものであって,被害者供述から直ちに,2回目,3回目も「有形力」が行使されたとは断定できない。
 エ まとめ
 被害者供述は,その全てが信用できるとしても,本項冒頭に述べた程度の内容である上,わいせつ行為が終了した場面に至るまでの状況等に関する内容は,上記のとおり,自分の気持ちについて被告人との性的接触に関心がなかった方向に強調したり,被告人のことをより一層悪く述べたり,被告人の行為について誇張して述べたりした疑いがある個所がみられるばかりか,被害を受けたという状況について,事件当初とは全くといっていいほど異なる供述をしているのであり,全面的に信用できるなどとはいえない。
 そうすると,被告人供述はさておき,被害者供述のうち,上記アないしウで問題点を指摘した個所を除くその余の供述のみを前提にした場合,被害者の様子は,外形的には,知り合いの男女間で,女性が若干不機嫌そう,あるいは落ち込んでいるようにみえる程度のものであったと評価して差し支えなく,そのような状況の中で,顎を掴んで顔を振り向かせて1回せっぷんする(2回目,3回目は顔を押さえたとか不意を突いたとの確たる証拠がなく,「暴行」があったとはいえない。),背後から胸を触るなどして,相手に小声で「やめて。」と言われるなどしてすぐにやめるといった行為が,強制わいせつ罪にいう「暴行」として取り上げ得るようなものとは考え難い(もっとも,路上を歩いている見知らぬ女性の不意を突いてせっぷんしたり,胸を触ったりすること自体が,強制わいせつ罪における暴行に当たるという解釈を本件のような場合にも広く当てはめるならば,暴行の該当性自体は肯定し得ない訳ではないであろう。)。
 (4) 被告人供述
 ? 私は,平成24年12月20日は,秋田市で予定があったことなどから,前日夜,電話で被害者に会おうと誘った。私の彼女に会わせ,彼女の友達になってほしいのが目的だった。被害者が私の彼女に会いたくないと思っていたとは知らなかった。
 被害者が,私の彼女に会いたくないと知ったのは,被害者と会って,車で移動中,(被告人の彼女の住所地である)由利本荘市方向に行こうとしたとき言われてからである。
 ? 被害者からハートマークをたくさん付けたメールが送られてきているが,それを見て,私に彼女がいるのに私と付き合いたいのかとか,誘われていると思った。私は,グリーのサイトで被害者と知り合い,色々と相談に乗っていたが,被害者は,激しい人見知りだという割には異性に会いたがっているので疑問に思い,当日朝のメールで,「自分と何がしたいのか。」などと探りを入れる状態だった。メールで「ラブ系がぃぃ!?」と送っているが,少女漫画の中で,恋愛が肉体関係になっていくことをラブ系と呼んでいた。
 ? 待ち合わせ場所で被害者と会い,私が助手席に乗るように言ったら,「そこは彼女さんが乗る場所で,私が乗る場所じゃない。」と言って,自分で2列目の助手席側に乗り込んだ。
 その後の被害者は,車が止まっているときにチラチラ見ると,前かがみになっていることが多く,恥ずかしがっていた様子が一番強かった。私は,「体,起こしてよ。」と優しい言葉で言った。3回以上は言ったと思う。「うつむけば怒るよ。」と言ったこともある。被害者は,体を起こすが,同じ態勢にまた戻る感じであった。私は,そういう被害者のことを変わっている人だと思った。
 ? 被害者が,私の彼女に会いたくないと言い始めたため,落ち着いて話せる場所がいいと思い,真っ直ぐRの方向に行った。店内は賑やかだが,駐車場は,平日は車が余りいないため,落ち着いて話せるからである。
 車中では,雪がひどいとか,道路の状態が悪いなどと話をしたが,被害者から,いきなり,「今まで携帯の人と何人と付き合ったか。」とか,「その人とはエッチしたか,していないか。」とか聞かれた。
 ? 被害者は激しい人見知りだということなどから,人目を気にせずに話せると思い,Rの2階の駐車場に車を止めた。ご飯食べようかなどと言ったが,被害者が「何でもいい。」というので,被害者の手を引いてRの方に行った。被害者は,会ったときからずっと私に顔を見られないようにしていた感じであったが,ゲームセンターを回っているときも,画面に映る自分の顔が私に見られるのが恥ずかしいような様子であった。ゲームセンターからはすぐに車に戻った。
 ? 車の2列目の運転席側は私物などがあり,2人で座れないので,被害者に一番後ろの方に座るように言った。被害者は,特に変わることなく普通に自分から乗り込んだ。
 車の中では,最初に,グリーのサイトでペナルティーを受けたのによく会えたということでハグをした。被害者もハグしてきた。その後,住んでいるところがどこかとか,被害者の体型に関する相談の話,普段テレビは何を見ているかといった雑談をした。被害者に,何人とセックスしたのかも聞いたが,笑いながら,「教えない。」と答えていた。
 被害者は,恥ずかしがっているのか,話をしてもすぐ窓際を向くので,何か話すことないのかと言って,いたずらで脇腹をつついた。被害者は普通にはしゃいで笑っていた。その後,太腿や髪を触るなどした。被害者は,別に嫌がることもなく,顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
 ? その後キスをしたのは,前日プリクラをもらったが,なかなか相手の顔を見ることができなかったところ,車から降ろすときやっと相手の顔を見ることができ,プリクラと全く別人で,かわいかったので,つい,キスしていいかと尋ねたところ,窓の外を向いたまま首を縦に頷いて承諾したからである。
 承諾を得た後,顎を右手の親指と人差し指でつまむようにして,軽く手を回す程度の力で自分の方に向けさせ,キスをした。被害者は,突然首を振り向かせるなんて思っていなかったようで,びっくりしたような表情をしていた。
 キスをした後,被害者は顔を真っ赤にしていて,別に嫌だとも言わず,また恥ずかしがって窓の方を向いていた。
 ? その後また話し掛けるが,会話をしないので,また脇腹などをつついていたずらした。キスは全部で3回した。2回目,3回目は,「こっち向いて。」と言って,顎に手を掛けたりせず,普通にキスをした。
 キスをしてからの被害者の様子の変化は,暗くてよく分からなかったが,恥ずかしがっていたのは分かった。
 ? 2回目にキスをした後胸を揉んだが,キスしたときも嫌がらなかったし,胸を触っていいかと聞いたら頷いたので,承諾を得た上で触った。このときも被害者は仕切り板,窓際の方を向いていた。そちらを向いていたのは,恥ずかしいのと,人見知りだからだと思う。
 そのときの状況は,被害者が,自分の方に倒れるような感じになってきてほしいというので,最初,被害者の肩越しに覆いかぶさるような状態で服の上から触り,それから服の中に両手を入れて,直に2回ほど触ってやめた。被害者は,嫌がるよりは恥ずかしがっていて,「ぞくぞくする。」と言っていた。揉むのをすぐにやめたのは,今の彼女の前の彼女とちょっとかぶったのがあったのと,被害者が私の方に手をばっとして来たためである。
 なお,被告人は,当審公判廷で,車内には約2時間いたが,最初のキスは,その前半頃,2回目のキスはその30分後頃,後半に入って胸を触り,その後に3回目のキスをした旨供述した。
 ? 胸を触って,私が3回目のキスをした後に,被害者は唇をティッシュか何かで拭いていた感じがあった。会話が続かなくなり,私から何か聞くことはないかと聞いたところ,好きでもない人とキスとか肉体関係をしたことがあるか聞かれ,「あるよ。」と答え,また,「3人で肉体関係を持ったことがある。」と言った瞬間に,突然顔を真っ赤にして怒り出し,押さえ切れなくなった。落ち着いて話をしようと,被害者の肩を触って,座らせようとしてなだめたが,「やめて。」と振りほどかれ,何でパニックになっているのか,何で怒っているのかよく分からない状態だったので,なだめた方が逆に意味がなかったと思った。なお,その頃私が被害者を怒鳴ったことはない。
 私は,何回か,「家に送って帰るよ。」と言ったが,被害者は聞く耳を持たず,母親に電話すると言って,その後に帰りたいとも言うので,じゃあどうぞと私から車のドアを開けて,被害者を出した。
 ? 私がRを出て,すぐに被害者の母親から電話があった。恐喝と思えるような脅しの電話であった。Rに戻って来いと言うので,私は,親には関係ないとは言った。私は,とにかく被害者の母親の電話が怖かったので,茨島交番に向かった。
 交番にいるときも被害者の母親から電話があり,警察官に電話がうるさいと言われ,着信拒否の仕方を教えてもらってその設定をした。
 (5) 被告人供述の信用性
 被告人供述のうち,被害者が否定しているか,質問がないため供述していないが,質問されたとすれば被告人供述とは異なる供述をするのではないかと推測される箇所を検討する。
 ア 前記(4)?(Rに向かう途中の車内での会話)の供述
 被告人は,車内で,被害者から,いきなり,「今まで携帯の人と何人と付き合ったか。」とか,「その人とはエッチしたか,していないか。」とか聞かれた旨供述する。
 携帯のサイトで知り合った男女が,初めて会って,お互いのことを少しずつ知ろうとする場合,上記のような質問がなされても格別不自然なこととはいえず,少なくとも,虚偽と断定はできない。
 イ 前記(4)?(車内で最初にハグをした)の供述
 被告人は,「車の中では,最初に,グリーのサイトでペナルティーを受けたのによく会えたということでハグをした。被害者もハグしてきた。」と供述する。
 ペナルティーを受けたのに会えたというのであれば,やっと会えて静かに話ができる状態になったのであるから,祝福の意味でハグをするというのは格別不自然とはいえない。検察官は,抱擁の理由が不明で,余りに唐突であるなどと主張するが,長々とメールのやり取りをして,ようやく会ったのであるから,会った後,被害者が被告人のことをそれ程気に入らなかったとしても,被告人がしてきたハグに応じる程度の反応を示しても何らおかしくはない。現に,被告人は,Rの店舗に向かうとき被害者と手を繋いでいるが,被害者は,内心はともかく,外形的にはそれに応じている。したがって,少なくとも,ハグに関する被告人供述を虚偽と断定はできない。
 ウ 前記(4)?,?(せっぷんの場面)の供述
 (ア) 被告人は,「キスしていいかと尋ねたところ,窓の外を向いたまま首を縦に頷いたので,相手の承諾を得た上でキスをした。」と供述する。
 原判決は,被害者の母親へのメールから,被害者が被告人と会って被告人に良い印象を持たなかったことは明らかであるとして,被害者が承諾するはずがない旨説示する。しかし,前記メールから窺われるのは被害者が被告人の彼女に会いたくないということであって,被告人本人が気に入らないということではないから,せっぷん場面の時点までに,被害者が被告人のことを決定的に嫌っていたとの根拠にはならず,また,被害者がしばしば窓の方を向くなどしていたことは,会った当初から下を向くなどしていたのと同様,自らも認める,人見知り,恥ずかしがり屋の性格などが原因ということも十分考えられるのであり,この点に関する被告人供述を虚偽と断定することはできない。
 被害者は,原審公判で,同意などしたことはない旨証言するが,前記(3)のとおり,被害者の心理状態等に関する被害者供述は必ずしも信用できるものばかりとはいえないから,この点に関する被害者供述は,上記結論を左右しない。
 (イ) 被告人は,2回目,3回目のせっぷんは,顎に手を掛けたりせず,普通にキスをした旨供述する。前記(3)ウ(イ)記載のとおり,この供述に反する被害者供述は必ずしも全面的に信用できる訳ではないから,被告人供述を虚偽とは断定できない。
 エ 前記(4)?(胸を触った場面)の供述
 被告人は,胸を触ったときも,事前に聞いたら,被害者が頷いた,被害者が,自分の方に倒れるような感じになってきてほしいというので,最初,被害者の肩越しに覆いかぶさるような状態で服の上から触り,その後服の中に両手を入れて,直に2回ほど触ってやめた,被害者は,嫌がるよりは恥ずかしがっていて,「ぞくぞくする。」と言っていた,旨供述する。
 上記供述自体は具体的であり,しかも被告人は,最初,被害者の太股や髪の毛を触り,次にせっぷんして,と段階を踏んでいるのであり,せっぷんに対して,被害者が強い拒絶の態度を示した訳でもない(被害者供述によるも,2回目,3回目のせっぷんに対する「拒絶」の態様は不明である。)のであるから,胸を触る際,被害者に了解を求め,被害者が頷くこともないとはいえず,少なくとも,この点に関する被告人供述を虚偽と断定することはやはりできない。
 なお,被告人は,せっぷん等した間隔について,前記のとおり,当審公判廷で,最初のキスは,約2時間いた車内の前半頃,2回目のキスはその30分後頃,後半に入って胸を触り,その後に3回目のキスをした旨供述したが,この供述に反する確たる証拠はない。そうすると,合計4回の性的接触の間隔は,それぞれ一定程度空いていたことになるが,被害者は,胸を直接揉まれたときですら,被害者供述によっても,小声で,「やめて。」などと言って被告人から離れたにすぎず,車内から逃げ出したり騒いだりせずに,3回目のせっぷんに至り,その後会話を挟んで騒動に発展したことになるから,被害者は,せっぷんされたり胸を揉まれたりしたことについて,否定的な感情を強く持ったとはいえないと考える方が自然である。
 オ 前記(4)?(争いになった場面)の供述
 被告人は,被害者が被告人の発言内容を聞いて怒り出し,押さえ切れなくなり,被害者の肩を触って座らせようとしてなだめたが駄目であった,その頃私が被害者を怒鳴ったことはない旨の供述をする。
 (ア) その直前に被告人が発した言葉までは双方の言い分は概ね一致しているから,?被害者供述を前提にすれば,被告人の「自分の彼女と,自分と,彼女の友達と3Pをやった。」等々の発言に対して被害者が発した,「あんたって気持ち悪い。」,「あんたって性格悪い。」などの言葉に被告人が激高して暴力を振るった,?被告人供述を前提にすれば,被告人の発した,「好きでもない人とキスとか肉体関係をしたことがある。」とか,「3人で肉体関係を持ったことがある。」との趣旨の発言に対し,被害者が,(被告人は供述していないが,被害者が供述する)「あんたって気持ち悪い。」,「あんたって性格悪い。」などと言いながら,「突然顔を真っ赤にして怒り出した。」ということになる。しかし,被告人は,引き続き,「被害者の肩を触って,座らせようとしてなだめた。」と,その程度はともかく,有形力を行使したと受け取れる供述をしているから,双方の表現振りは異なるように見えるが,被害者のいう,「腕や体を被告人に押さえ付けられた。」との供述内容と大差ないともいえる。もっとも,被告人が,被害者を怒鳴ったことはないと供述する点は,被害者の母親の,「騒ぎの最中の被害者からの電話で,後ろから男の怒鳴り声が聞こえた。」旨の証言にも反し,にわかに信用することはできず,被告人は,騒ぎの最中の自己の行為について過小した供述をしている疑いはある。
 (イ) 原判決は,この点に関する被告人供述について,?被害者が突然怒り出したり,パニックになったりした理由や状況等は,それ自体,被告人が供述するそれまでの被害者の様子から余りにも唐突に過ぎ,不自然,不合理極まりない,?被害者が,被告人の女性経験を嫌悪して被告人に対して怒りの感情を持ったというのであれば,被告人を非難する言葉を述べるなどするはずであるのに被告人はその点について被害者の具体的な言動について何ら供述していない,?そもそもそうした事情は,被害者が母親に助けを求めるメールを送信する理由とはなり得ない,として被告人供述は信用できないという。
 しかし,?については,被告人供述を前提にそれまでの推移を考えれば,被害者は,まがりなりにもせっぷん等に承諾していてそれまで一応静かに推移してきたのに,被告人の発言を聞いて,被告人が被害者を被告人の彼女にしきりに会わせたがっていたのは,実は3人で性交渉しようなどというとんでもないことを考えていたためであったのかなどと思ったとすれば,被害者が激高して何らおかしくないから,被告人供述を虚偽とは断定できない。なお,弁護人は,記録中の検察官の準抗告申立書に,被害者は社会不安障害という精神疾患の診断を受け通院治療中である旨記載されているところ,社会不安障害の特徴として,パニック発作が起きたりすることなどが指摘されており,被告人の上記供述に合致するから被告人供述の方が信用できる旨主張する。しかし,検察官が主張しているからといって,証拠上は,被害者が社会不安障害であることすら明らかではないし,仮にそうであったとしても,同障害と被害者の反応の因果関係なども不明であるから,この点を理由とする弁護人の主張は採用できない。
 ?については,被害者がいきなり激高しながらあれこれ言葉を発したのであれば,被害者が興奮するのを押さえることに夢中になり,発言内容を記憶していないとか,単に質問されなかったため被告人質問中に現れていないだけと考えても,格別おかしくはない。
 ?については,被告人が,被害者の肩を触って,座らせようとしてなだめるなどした行為の態様,程度等に関して過小した供述をしている疑いはあるが,そうであったとしても性的接触の終わった後の話であり,それ以前の段階で強度の有形力の行使がなかったことは疑いがないから,この点に関する被告人供述の信用性が否定されても,強制わいせつの成否と直接結び付くものとはいえない。
 カ まとめ
 以上のとおり,被告人供述は,それ自体一つの話として一貫しており,騒ぎになった段階での自分の行為につき過小した供述をしている疑いはあるが,全体として格別不自然,不合理と指摘できるところは見当たらない。
 (6) 結論
 被告人供述が虚偽と断定できないからと言って,被害者供述が直ちに虚偽といえる訳ではなく,被害者が頷くなどしたか否かは,いずれの供述が真実か断定し難く,結局真偽不明であるから,結論として,被告人が被害者の同意なくわいせつ行為をしたとは認められない。なお,被害者が,わいせつ行為を受けた時点で既に内心では被告人のことを相当嫌っていて,頷くなどしていなかったと仮定しても,前記(3)エ記載のとおり,被告人が被害者の顎を掴んで振り向かせるなどした行為が強制わいせつ罪にいう暴行に該当するか疑問がある。また,それを暴行と評価できるとしても,被害者供述によってすら,被害者が示した「抵抗」は,せっぷんされた際に体をよじったとか,胸を触られた際に小声で,「やめて。」などと言って被告人から離れたというにすぎず,その後格別騒ぐなどしていないのであるから,両名が会うに至った経緯などに照らせば,積極的にではないにしても,同意していたと思われても仕方がない。そうすると,被告人が被害者の(嫌っていたと仮定しての)内心を分かったはずであるともいえず,被告人に「同意なく」わいせつ行為をしたとの認識があったとはいえない。
 したがって,被告人が,被害者に対し,強制わいせつの故意をもって無理矢理被害者にせっぷんをし,その胸を揉んだ事実を優に認めることができると判示した原判決は,事実を誤認したものといわざるを得ず,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであり,事実誤認の論旨は理由がある。
 5 破棄自判
 以上の次第で,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に判決する。
 本件公訴事実(「右手」を「手」と訴因変更後のもの)は,前記2に記載した原判決の罪となるべき事実と同じであるが,この公訴事実については,既に判断したとおり犯罪の証明がないことに帰するから,同法336条により,被告人に対し無罪の言い渡しをすることとする。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成26年1月14日
    仙台高等裁判所秋田支部
        裁判長裁判官  久我泰博
           裁判官  有賀直樹
           裁判官  押野 純