児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

割れる第二小法廷

 第二小法廷にはお世話になっています。
 外国から宅配みたいなので児童ポルノを輸出したという輸出罪と税関で禁制品を輸入しようとしたという関税法違反罪との罪数でも長考中。
 真剣に検討して下さっているのは朗報です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080222-00000944-san-soci&kz=soci
検察側が死刑を求刑し、1、2審とも無期懲役となった強盗殺人事件の上告審で、最高裁第1小法廷(涌井紀夫裁判長)の5人の裁判官のうち、2人が「量刑不当で審理を差し戻すべき」との反対意見を述べていたことがわかった。3人が2審判決を是認したため検察、弁護側双方の上告は棄却されたが、死刑、無期懲役の判断について最高裁の裁判官が反対意見を述べるのは極めて異例だという。

 上告事件の係属と上告理由を整理しました。
 実刑事件の控訴理由・上告理由に使って下さい。

第一小法廷 3項製造罪の実行行為・児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)と3項製造罪(姿態とらせて製造)の罪数
第一小法廷 風営法の合憲性

第二小法廷 児童ポルノ輸出罪と関税法違反罪(輸入禁制品)の罪数
第二小法廷 3項製造罪の実行行為・児童買春罪と3項製造罪の罪数 

第三小法廷 3項製造罪の実行行為・青少年条例違反(青少年淫行罪)と3項製造罪の罪数

 法廷が違っても担当調査官はお一人だと思います。
 3項製造罪(姿態とらせて製造)の実行行為性や性犯罪・福祉犯との罪数処理については、判例雑誌で匿名だったり顕名だったりしてゴニョゴニョ言ってないで、判決で示すようにして下さい。
 ダビングで迷ってるうちに、メールで飛ばす奴が出てきて、法令適用が混沌としています。
立法した奴があほだ、と言っていただいてもかまいません。



追記
 報道を検索すると、一審の8ヶ月後ころに控訴棄却だったようで、その後2年間上告審に係属していたようです。
 福島地裁H17.4.22

死刑求刑の組員ら3人無期 強盗殺人事件で福島地裁
2005.04.22 共同通信
 福島県いわき市で二人を射殺し現金を奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた被告(26)ら三人の判決公判で、福島地裁の大沢広(おおさわ・ひろし)裁判長は二十二日、死刑を求刑された被告と被告(24)に無期懲役を、被告(26)に求刑通り無期懲役を言い渡した。
 検察側は死刑を求刑した二人について控訴する方針。
 大沢裁判長は判決理由で被告には「冷酷かつ非情な犯行だが反省の態度もあり、矯正の可能性がないとは言えない」とした。弁護側の「財産を奪う目的はなく強盗殺人罪は成立しない」とする主張は「恨みによる殺人の付加的なものだが金を奪う合意があったことは疑いがない」と退けた。

仙台高裁H17.12.22

2人射殺、二審も無期懲役 死刑求めた検察側控訴棄却
2005.12.22 共同通信社
 福島県いわき市で二人を射殺し現金を奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた暴力団組員二人の控訴審判決で、仙台高裁の田中亮一(たなか・りょういち)裁判長は二十二日、ともに無期懲役とした一審福島地裁判決を支持、検察と被告双方の控訴を棄却した。
 判決理由で田中裁判長は「極めて凶悪な計画的犯罪」として、有期懲役を求めた岡田被告の訴えを退けた。検察側は「一審判決は著しく軽い」と死刑判決を求めたが、判決は「改善更生が相当困難とはいえ可能性は残されている」などとして無期懲役が相当とした。

児童ポルノをファイル共有ソフトで流すと4項提供罪(不特定多数)か?

 情報が閲覧者の手元に残る点で、4項提供罪(不特定多数)の方がいいと思うんですが、これを提供罪にしてしまうと、web掲載も全部提供罪になって、公然陳列罪の守備範囲がほとんどなくなります。
 もともとweb掲載という一種の行為類型について、陳列罪も提供罪も適用できるというのは、混乱を招くので、立法的に上手でないと思います。

出会い系サイト児童買春 児童ポルノ所持で追起訴−−奈良地検 /奈良
2008.02.22 毎日新聞社
 ◇ネット利用者に提供目的
 児童ポルノファイル交換ソフトで閲覧させる目的で所持していたとして、奈良地検は21日までに、被告(35)=児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)罪で起訴=を、同法違反(提供目的所持)罪で奈良地裁に追起訴した。
 起訴状によると、被告は昨年10月29日、18歳未満の女子児童のポルノ画像のデータなど16個を、ファイル交換ソフトを利用して不特定多数のインターネット利用者に提供する目的で、自宅のパソコンに保存し所持した。

これが提供罪になると、よそが困りますよね。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20080117/1200576832

名古屋高裁h19.7.6
2主任弁護人の控訴理由第3(インターネット上の公開は、不特定多数の者に対する提供であって、公然陳列に該当しない。)について

論旨は、要するに、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、公然陳列罪には該当しないから、これを「公然陳列罪」に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、ひいては法令適用の誤りがある、というのである。

しかしながら、児童ポルノ画像を「公然と陳列した」とは、その児童ポルノの内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいうところ、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、不特定多数のインターネット利用者が自己のパソコンを使用して当該児童ポルノ画像を認識(閲覧)可能な状況を設定するものであるから、これが児童ポルノ画像の公然陳列罪に該当することは明らかである。

所論は、インターネット利用者がインターネットの電子掲示板に記憶、蔵置されている画像データをいわゆる「閲覧」するのは、当該画像データそのものをインターネット利用者のパソコン画面上で見ているのではなく、インターネット利用者がプロバイダを介し当該画像データを構成する各種ファイルの送信を受け(ダウンロード)、これらを自己のパソコンの一時保管ホルダーに保存し、この一時保管された画像データがパソコン画面に表示され、インターネット利用者はこの画面上に表示された画像を見ているのであるから、電子掲示板に児童ポルノ画像を送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、同項の公然陳列罪には該当しない、という。

しかし、所論が、インターネット利用者において、電子掲示板に記憶、蔵置された児童ポルノ画像を見るに至る経緯を、インターネットの仕組みに照らし詳細に説明していることは認めるが、前記認定のとおり、電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為により、不特定多数のインターネット利用者が当該児童ポルノ画像を、所論が詳細に説明するインターネットの仕組みを介して、認識(閲覧)可能な状況を設定していることが認められるのであるから、その行為は、児童ポルノ画像を公然陳列したというを妨げないというべきである。その他、所論のいう児童ポルノの受け手側における再生可能性の有無に関する点を考慮しても、所論は採用できない。

ホットラインセンターに望むこと

 児童ポルノについて独自の定義をしていたのを法文通りに戻すとか言い出していますが、いまいち削除要請の根拠が不明確なのがネックではないでしょうか?
 ある学会でホットラインセンター関係者が「削除要請に応じないときは警察が何とかしてくれます」とか言ってましたが、理由は説明できませんでしたね。

1 ホットラインセンター以前の問題として、違法情報を放置した管理者は刑事責任を負うことがあることを周知する必要がある
 法的構成(作為犯・不作為犯)や効果(正犯か幇助か)については、統一性がないが、現行法においても一定の刑事責任を問われることは間違いないようである(拙稿「プロバイダの刑事責任〜名古屋高裁H19.7.6と東京高裁H16.6.23」参照)
 これによって、漠然とではあるが、ホットラインセンターの削除要請に合理性を持たせることができるかもしれないから、周知を図るべきである。

2 ホットラインセンターからの削除要請の根拠を明らかにすること
(1)違法情報について
 ホットラインセンターの活動に実効性を持たせるためには、
   削除要請を受けた者は削除要請に応じる義務があるか?
   応じなければどうなるのか?
 を明確にすべきである。
 前提として、他人が掲載した違法情報を管理している者がどのような場合にどのような義務を負うのかを明確にしなければならない。
 判例が迷走している状況で、根拠を見いだせないのであれば、立法で解決すべきである。

(2)有害情報(違法でないもの)
 違法情報ですら削除義務の根拠が求められないのであれば、合法有害情報の削除要請には、全く効力がないから、その旨を明示すべきである。