児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害児童を道具とする間接正犯構成の製造罪

 こういう悪い奴を鋭い理屈でスパスパ処罰しないとだめなんですが、そうなっていないという話。

 道具になっているかは、脅迫の程度によります。

http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070525-204212.html
札幌・北署は25日、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで(41)を逮捕した。
調べでは、容疑者は3月29日午後6時すぎ、携帯電話の出会い系サイトで知り合った札幌市内の当時小学6年生の女子児童(12)に「さっさと写真を送れ」「(送らないなら)覚悟しろ」などと脅すメールを送り付け、児童に裸の写真を撮影させ、自分の携帯電話に送信させた疑い。

 
 道具になっていない場合には共犯(共同正犯)で構成するしかないですね。児童にはかわいそうですが児童も共犯。

【出  典】判例タイムズ920号255頁
 これに対し、最決昭58・9・21刑集37巻7号1070頁、本誌509号126頁は、被利用者が12歳の刑事未成年者であることに加え、被利用者が、被告人の巡礼の旅に連れられていた被告人の養女であることや、被告人が日頃から同女に対して、暴行を加えて自己の意のままに従わせていたことなどの詳細な事情を認定した上で、たとえ被利用者である刑事未成年者が是非善悪の判断能力を有する者であったとしても間接正犯が成立する旨を判示している(同様の事例として、被告人が、10歳の息子に命じて窃盗行為をさせた事案につき、右少年が是非善悪を判断し得る年齢に達している如くみられるとしつつ、少年が被告人の指示に従わなかった場合には殴る蹴るの暴行を受けていたことなどの事情を認定し、窃盗の正犯を認めた名古屋高判昭49・11・20刑月6巻11号1125頁がある。)
。右最高裁決定は、(1)被利用者が刑事未成年者であっても、その者が是非弁別能力を備えている場合には、被利用者が刑事未成年者であるという理由だけでは、間接正犯は成立しないが、(2)利用者が、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている被利用者を利用して犯罪行為を行ったと認められる場合には、利用者について間接正犯(いわゆる「意思抑圧型」の間接正犯)が成立する、との判断を示したものと解されている(渡邊忠嗣・昭58最判解説(刑)278頁)。

 なお、被害児童をして撮影させて送信させる場合

被害児童の姿態
  ↓① 撮影
被害児童の携帯
  ↓② 複製
被害児童の送信メールサーバー
  ↓③ 複製
犯人の受信メールサーバー
  ↓④ 複製
犯人の携帯電話

という4段階の製造プロセスがあって、①は「姿態をとらせて」の要件を満たしますが、②③④は撮影現場から離れるので「姿態をとらせて」の要件を満たしません。
 ここは立法ミスなんですが、最高裁h18.2.20は、「姿態とらせて=身分」だとかいって、ちょっと無理してミスをカバーしています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=24934&hanreiKbn=01
 ところで、東京高裁h17.12.6と札幌高裁h19.3.8は3項製造罪(姿態とらせて製造)と児童淫行罪とを観念的競合としていますが(さらに、その影響で函館地裁H19と富山地裁高岡支部H19では児童買春罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)が観念的競合だとする)、これは「姿態とらせて=実行行為」という見解でして、条文には素直ですが、判例とは違います。これだと、単純に考えて、さっきの②③④は製造罪になりません。(観念的競合説は奥村の思いつきで、少し前まで高裁で「奥村弁護士独自の見解」と認定されていたわけですが、今では、あちこちで採用されるようになっています。刑法理論的には説明できませんが。)
 北海道警が頑張ってるのはわかりますが、裁判所が割れていて札幌高裁は独自路線なので、まあ、注意してください。道警が作った資料を見ていると、こういう製造罪の細かいプロセスを見落としています。
 できたそばからある構成要件が実行行為なのか身分なのかわからない刑罰法規というのも珍しいですよね。最高裁では立法者説が「反対説」とされた。
 なお、実は、3項製造罪(姿態とらせて製造)の保護法益は個人的法益ではないという大阪地裁判決もあって、保護法益も不明です。
 理屈がわからないんですけど、とにかく悪い奴ですし、弁護人も気づかないので、スパスパ処罰されていくわけです。
 奥村は、悪い奴から文句が出ないように、理屈を鋭く磨いで、裁判所の迷いを払拭してスパスパ処罰していこうという立場です。

追記
 札幌ではまだ島戸説が使える可能性があります。

 立法者の見解=実行行為説
 既出であるが、立法者の見解も姿態をとらせる行為は実行行為と理解していることは明らかである。

 「姿態をとらせる」要件の趣旨について、島戸検事はこう解説する。撮影行為のうち処罰するものを限定し、複製行為を除外するする趣旨であるという。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(5)第3項の罪
ア 趣   旨
他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。
実際、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」(producing)を犯罪化の対象としており、かつこれについては、「所持」について目的要件を係らせているのとは異なり、目的のいかんにかかわらず、犯罪として処罰することが求められている。
一方、既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は、必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上、いわゆる単純所持と同様、児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから、複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われない。そこで、複製を除き、児童に一定の姿態をとらせ、これを写真等に描写し、よって児童ポルノを製造する行為については処罰する規定を新設したものである。

「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない(22)。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉毀損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。
23)もっとも、例外的に、児童が他者に対して執拗、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。

 ここで注目しなければならないのは、「盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえない」という理由で性交場面を被害児童に黙って撮影した場合(ポーズを取らせず単に性交等した場合)には、「姿態をとらせ」には当たらないとされていることである。
 盗撮の場合でも生成されたものは児童ポルノではある製造罪は成立しない。ダビングの場合でも「盗撮された児童は、ダビングの事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえない」のだから製造罪は成立しない。これが島戸検事の帰結である。法務省は本法の主務官庁であって、改正時に発表されたものであるから、島戸説は立法者の見解そのものである。

 また、衆議院法制局第二部第一課 井川良によっても、撮影行為一般のうち、姿態をとらせる場合のみを処罰するのだと説明されている。

衆議院法制局第二部第一課 井川良「児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」法令解説資料総覧(第一法規、2004)
提供目的のない児童ポルノの製造行為(単純製造)
他人に提供する目的のない児童ポルノ (=有体物) の製造のうち、児童に児童ポルノに該当する姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為にほかならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。また、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」 については目的を問わず犯罪化することが求められている。
このため、改正法では、児童に本法l一条三号に掲げる姿態をとらせ、これを写真等に描写することにより児童ポルノを製造する行為については、これを処罰することとした (七条三項)。ここでいう「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。

 「他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず」というのであるが、複製行為については、被害児童を前にして姿態をとらせていない以上、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為とはいえないことになる。
 本法は議員立法であるので、院の法制局の見解は立法者の見解そのものである。

 結局、主務官庁も議院法制局も、複製は3項製造罪(姿態とらせて製造)に当たらない・姿態をとらせては実行行為であると説明しているのであるから、裁判所はそれに従うしかない。

元警官、罪状認める 児童買春初公判(神戸地裁H19.6.8予定)

 2罪にしては重い求刑です。

http://news.goo.ne.jp/article/kobe/nation/T20070526MS01082A.html
起訴状によると、被告は二〇〇六年二月十八日、テレクラで知り合った神戸市内の女子中学生=当時(14)=が十八歳未満であると知りながら、同市内のホテルで現金三万円を渡して買春した。同十二月にも同様に、当時十六歳の少女に現金四万円を渡して買春した、とされる。

強制わいせつ 川越町議を釈放 女子生徒、告訴取り下げで

 受任した弁護人にとって、起訴前の示談交渉が強制されることになります。被害者は起訴前に示談する義務はありません。
5/3 犯行
5/17 逮捕
5/25 告訴取下・不起訴

http://www.isenp.co.jp/news/20070526/news05.htm
民家に忍び込んで寝ていた女子中学生の体を無理やり触ったとして、強制わいせつの疑いで逮捕された川越町町議(66)について、津地検は二十五日、不起訴処分で釈放した。女子中学生が告訴を取り下げたためという。