児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

犯罪組成物件として媒体上の違法ファイルのみを消去するという没収方法は可能か? 媒体全体を没収するしかないのか?

 第三者没収は関係なくて、被告人のHDDの没収。


 平成も18年なのに、こういう地裁判決がある。

大阪地裁h18
没収 刑法19条1項1号,2項本文(判示3の各ハードディスクドライブ4台はいずれもわいせつ図画販売目的所持罪の犯行を組成した物で被告人の所有するもの
なお,複製中の犯行であるため,その後にコピーされた動画ファイルも含めて全体を没収することの是非が問題となり得るが,ハードディスクはそれ自体で1個の完結した記憶装置であって,その中の一部の電磁的記録を物理的に峻別して特定することは極めて困難である上,そもそも刑法は,有体物でない電磁的記録の一部を除いて没収することを予定していないと解されるから,上記ハードディスクとそのドライブ(もとよりこれらは一体のものである。)全体を1個のわいせつ物とみて没収することに格別の支障はないと解される。

 いまどき、ファイルを特定して消去する事が不可能だという。
 こういう反論をしよう。

2 媒体上のデータの特定可能性
 昔、そういう判例*1があったが、現在では可能である。

大阪高等裁判所判決平成11年8月26日
 また、所論は、ハードディスク内のわいせつ画像データのファイルがわいせつ物であり、それで特定することが可能であるのに、ハードディスク全体をわいせつ物と認定した原判決には、そこに蔵置されている無関係な情報をもわいせつ物とした誤りがある、という。
 しかし、ハードディスクは それ自体で一個の完結した記憶装置であるところ、本件ハードディスクの中に、わいせつ画像データと並んでこれと無関係なデータが記憶・蔵置されているとしても、わいせつ画像データは分散して記憶・蔵置されており、その磁気ディスク部分をこれと無関係なデータと物理的に峻別して特定することは極めて困難であると認められるから、原判決が本件ハードディスク全体を一個のわいせつ物とした判断に誤りがあるとは認められない。

 しかも、大阪高裁h11.8.26は犯罪事実としてのわいせつ物の認定に関するものであるが、本件で問われているのは、わいせつ物・児童ポルノの認定としてはHDD1個丸ごとでいいとして、没収対象や執行方法としての違法データの特定方法であるから、この判例は手がかりにならない。
 裁判官のpcである文書ファイルを消去するのに、HDD1個を取り出して破壊しなければ消去できないというのであれば話はわかるが、それは誤っているのである。そんな状況は古今東西存在しない。

 刑訴法改正案では、記録媒体から必要なファイルをコピーするという押収方法が設けられている。特定すらできないのであれば、押収は不能である。

http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf
刑事訴訟法第百二十三条第三項中「前二項」を「前三項」に改め,同条第二項の次に次の一項を加える。
押収物が第百十条の二の規定により電磁的記録を移転し,又は移転させた上差し押さえた記録媒体で置の必要がないものである場合において,差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者,所持者又は保管者とが異なるときは,被告事件の終結を待たないで,決定で,当該差押えを受けた者に対し,当該記録媒体を交付し,又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。

 しかも、498条は没収に関する規定であるが、その部分の改正条項には「電磁的記録の消去」という執行方法が設けられている。

http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf
刑事訴訟法)第四百九十八条の次に次の一条を加える。
第四百九十八条の二 1 不正に作られた電磁的記録又は没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還し,又は交付する場合には,当該電磁的記録を消去し,又は当該電磁的記録が不正に利用されないようにする処分をしなけばならない。

 原判決の上記の理由付けは誤っていることは明らかである。

 さらに、画像データを児童ポルノとした判決例を挙げる。物ではなくデータが特定されている。できないことはないのである。

前橋地裁H131227調書判決
 製造罪の客体として、児童ポルノと認定されているのは、児童ポルノ画像データである。
② 宇都宮地裁栃木支部H15.2.26(調書判決)
 製造罪の客体として、児童ポルノと認定されているのは、児童ポルノ画像データである。

3 違法データの没収方法について
 これは、同じ媒体上の合法データ・第三者のデータ・媒体そのものの財産的価値を保全しながら、没収の目的を達成するという合目的的解釈で解決できる。

 今日では、電子媒体が登場し、媒体が安価であるために、生媒体(FD、HDD、MO)よりも、電磁的記録の価値の方がはるかに大きいことが通常である。
 同時に、電磁的記録の価値(データの重要性)は、伝統的な紙媒体と比較して、勝るとも劣らない。今日、研究データやコンピュータソフトも電磁的記録という存在形式でしか存在しないのが通常であり、オンラインストレージされている研究データや開発中のソフトが同一サーバーに保存されていた児童ポルノと一緒に没収された場合の第三者の損害は計り知れない。他人の電磁的記録は、すでに電子計算機損壊等業務妨害罪によって刑法的にも保護されている。
 また、他人の媒体の上に保管された電磁的記録に対する物権的支配権(自由に使用・収益・処分できる権能)も観念できる。
 さらに、その権限を物権というかどうかは別として。合法的データと媒体そのものが財産権として憲法上の保障を受けることは間違いない。
 これらの要請を充たすには、一部消去という執行方法がもっとも妥当である。

4 一部消去という執行方法の可能性
 本件で没収対象とされたファイルの媒体はいずれも大容量のHDDであり、消去可能である。
 通常、没収されない場合には、違法ファイルのみを消去して還付されているのである。これは研修613号でも説明されている。

 さらに、物理的に見ても、刑訴法の没収の執行方法としても、一部消去が可能であるとされている。没収を執行している検察官がこういうのであるから、可能なのである。

研修613「磁気ディスクの偽造データの入ったファイルの処分について」問題となった事例 


 しかも、498条は没収に関する規定であるが、その部分の改正条項には「当該電磁的記録の消去」という執行方法が設けられている。不正作出されたファイルのみを消去するということである。刑訴法がわざわざ実現不能な執行方法を設けるわけがない。

http://www.moj.go.jp/HOUAN/KEIHO5/refer02.pdf
刑事訴訟法)第四百九十八条の次に次の一条を加える。
第四百九十八条の二 1 不正に作られた電磁的記録又は没収された電磁的記録に係る記録媒体を返還し,又は交付する場合には,当該電磁的記録を消去し,又は当該電磁的記録が不正に利用されないようにする処分をしなけばならない。

 この点において

その後にコピーされた動画ファイルも含めて全体を没収することの是非が問題となり得るが,ハードディスクはそれ自体で1個の完結した記憶装置であって,その中の一部の電磁的記録を物理的に峻別して特定することは極めて困難である上,そもそも刑法は,有体物でない電磁的記録の一部を除いて没収することを予定していない

という判示は、あたかも、ファイルの特定・消去が不可能であるから一部消去という方法では没収できないとしているが、HDDの地図上でデータを特定できなくても、データを保存・再生・消去できるのは、今や常識であって、原判決は前提を誤っている点で失当である。原判決の上記判示は理由がないから、全体を没収することは許されない。

 また、現行法は物の一部を没収することを予定していないというが、それは、没収の執行方法で柔軟に対応すべきであって、また、刑訴法の改正案では一部没収が可能とされているのであるから全部没収するというのは乱暴である。

 なお、HDDの没収に関しては、東京高裁H14.12.17があるが、19条1項2号物件としての没収に関するものであって、犯罪組成物件として没収(同項1号)しようとする本件とは関係がない。
東京高裁H14.12.17東京高裁判例速報3186号

5 一部没収した裁判例(千葉簡裁H15.10.21)
 関税法違反事件につき、HDD上のファイルを特定して没収したものがある。
 一部没収が可能であることを示している。
 また、ファイルの特定が可能であることも示している。

消防士・買春1・年齢認識否認→公判請求→懲戒免職

 知情の認定というのは間接事実からされることになりますが、見るからに子どもという被害児童が登場したりするので「十八歳未満とは知らなかった」というのは難しいんですよ。だから気をつけて怪しい場合は回避しないと。

消防司令補を懲戒免職 少女にみだらな行為=千葉
2006.06.29 読売新聞社

買春で消防司令補逮捕
2006.04.13 共同通信
「十八歳未満とは知らなかった」と供述しているという。

横浜地裁(写真は中華街)↑→

 前回、他の罪が混じっているという理由で不許可にした分28件。
 どう見ても混じっていないのもあります。
 数回のわいせつ図画+児童ポルノ併合罪にしたり、一罪にしたり。

児童ポルノ罪とわいせつ図画罪の罪数処理が不明な事例(横浜地裁H14)

 わからなかったんだろう。
 調書判決だからごまかした?
 原則からいえば併合罪なんだろうか?

横浜地裁H14
第1
2ヶ月間に6回 
2号児童ポルノかつわいせつビデオ4巻
3号児童ポルノビデオ2巻
わいせつビデオ2巻
合計12巻を販売した
第2
2号かつわいせつビデオ1巻
3号 かつわいせつ1巻
わいせつ73巻
を所持した
法令適用
刑法175
児童ポルノ
(罪数処理の記載がない。単純一罪か?観念的競合も併合罪もない)

追記
 児童ポルノ提供とわいせつ図画販売と児童ポルノ所持とわいせつ図画所持の4罪あってどういう操作で処断刑期を求めたのがわからない。

司法研修所 編「刑事判決書起案の手引」法曹会 平成17年版
第1 法令の適用の意義及び根拠
1 第1に,法335条の要請として,「罪となるべき事実」に記載された被告人の所為がいかなる犯罪を構成するか,そしてそれに基づきどのようにして処断刑が形成されたかを,法条を示して,読む者が理解できる程度に説明しなければならない。
(略)
第2 法令適用の形式一般
1 文章式と羅列式
法令の適用を示す方法としては,文章体をもってする文章式と条文の列挙を中心とする羅列式・列挙式とがある。かつては文章式のみが行われたが,近ごろでは後者の方式もかなり採用されている。羅列式は記載が簡単で便宜であり,複椎な法令適用関係を図表に似た形式で表現できる長所を有するが,その反面,まだ型が確立していないため,ときとして表現が不十分となり,必要な事項を脱落し,場合によっては理由不備(法378④)ないし法令適用の誤り(法380)を来す危険を含んでいる。
羅列式は,しばしば単に関係条文を列挙するだけのもののように誤解されているが,そうであってはならない。法335条1項は「法令の適用を示す」ことを要求しているのであって,結論的に単に「適用した法令」(法464参照)を示せば足りるとしているわけではないのである。法令がどのような経路で適用されたかを示すことが必要なのであって,この二つの方式はただそれを表現する形式の差にすぎず,特に羅列式についてその必要が免除されるわけではない。したがって,羅列式においても単に条文を列挙するだけでなく,適宜小見出しを利用したり,括弧を用
いたりするなどの方法で必要な説明(何が必要かは,以下の各項によっておのずから明らかとなろう。)をしておかなければならない。
2 法令適用の順序
(1)法令の適用は,一般に次の順序による。特に刑法72条に定める加減の順序に反しないように注意しなければならない(もとより次の諸事項中ア,ク以外は,常に問題となるわけではない。)。
ア 構成要件及び法定刑を示す規定の適用
イ 科刑上の一罪の処理
ウ 刑種の選択
工 累犯加重
オ 法律上の減軽
併合罪の加重
キ 酌量減軽
ク 宣告刑の決定
(2)法定刑にイないしキの加重・減軽等の操作を経て得られた刑を処断刑といい,宣告刑は,その処断刑の範囲内で決定される。

神奈川県公社職員が児童ポルノ販売 京都府警、容疑で逮捕

 被疑者も弁護人も行ったり来たりで。
 わいせつを絡めると罪数処理は裁判所にもわからないんですが、一罪でも併合罪でも、量刑は一緒です。量刑相場で決まりますから心配ないよ。
 そこは職業裁判官を信じよ。罪数とか法令適用は多少わからないけど、宣告刑期はわかってるから。そこが奥村が大いに不満なところです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060630-00000003-kyt-l26
容疑者はインターネットのオークションサイトに児童ポルノやわいせつな映像をコピーしたDVD14枚を出品。昨年11月初旬から12月初旬にかけ、落札した大阪市内の大学生(19)や長野県職員(37)ら4人に対し、計9500円で郵送販売した疑い。

 関税法違反の輸入禁制品輸入罪(児童ポルノ)では、買主も共謀共同正犯なんですけど(名古屋地裁)、児童ポルノ罪では買主は無事なんでしょうか?
 児童ポルノに関わる行為については、対立利益がないので、実体法上も無権利状況ですよね。捜査機関にやられっぱなし、捕まりっぱなし。
   児童ポルノを買う権利
ってのもなあ。

16歳少女を買春容疑、朝青龍後援会長を逮捕…警視庁

 お相撲さん関係が巡業先のホテルで・・・というのはときどき記録で見かけます。
 まだまだ著名人くるなあ。
 自分だけは捕まらないと思ってるんだな。
 結構、青少年のスポーツに熱心な社長さんなようです。
 社長さん捕まると、会社も入札資格停止になったりするんですけど。それは抑止力になりませんか?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060630-00000305-yom-soci
容疑者は昨年3月、東京都港区新橋のホテル客室で、都内の無職少女(当時16歳)が18歳未満と知りながら、6万円を渡してみだらな行為をした疑い。同課は今年4月、中高生の少女を派遣する売春クラブを摘発。その際に押収した資料などから、容疑者が浮上した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060630-00000113-kyodo-soci
「仕事でストレスがたまり2、3年前から、中高生から20歳ぐらいの約80人を相手に買春した。少女の裸の写真を撮るのが趣味だった」と供述、自宅からインスタント写真100枚以上を押収した。同課が余罪を調べている。

 写真については、改正前の撮影だとか盗撮だと言い張るか。警察はフィルムの製造番号とかで裏付けてくるのか。
 行為前に撮影するとしようがないが、児童買春罪と製造罪の罪数も、実は怪しい。

追記
 著名人の事件は注目を集めているようなので、一般予防効果がありそうです。
 この際、どれくらいのことをすればどれくらいの処分になるかを知ってもらいましょう。
 罪数と量刑を簡易に分析したことがあります。

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060225/1140840214
買春1罪 12.63905325月
買春2罪 15.46327684月
買春3罪 16.72727273月
買春4罪 18.03278689月
買春5罪 20.25月
買春6罪 24月
買春7罪 26.66666667月
買春8罪 32.5月

 最終的に何件立件されるかはわかりませんが、7罪以上の科刑状況です。弁護士に任せておけばというわけには行かないようです。

静岡地裁 懲役3年執行猶予5年
札幌地裁 懲役2年06月執行猶予3年
東京地裁 懲役4年 実刑
横浜地裁 懲役2年執行猶予4年
岡山地裁 懲役1年10月 実刑
岐阜地裁 懲役3年執行猶予3年
横浜地裁川崎 懲役2年00月執行猶予3年
仙台地裁 懲役2年04月 実刑
千葉地裁 懲役2年執行猶予5年
岡山地裁 懲役2年執行猶予3年
高松地裁 懲役3年 実刑
宇都宮地裁 懲役2年執行猶予3年

 買春罪+製造罪の量刑も怖いものがある。

松江地裁 懲役1年執行猶予2年
岡山地裁 懲役1年06月執行猶予3年
長野地裁 懲役1年06月執行猶予3年
和歌山地裁 懲役2年執行猶予3年
岡山地裁 懲役2年執行猶予3年
金沢地裁 懲役2年執行猶予3年
横浜地裁 懲役2年執行猶予3年
岡山地裁 懲役2年執行猶予4年
千葉地裁 懲役2年執行猶予5年
名古屋地裁 懲役2年06月執行猶予3年
静岡地裁 懲役3年執行猶予5年
金沢地裁 懲役3年執行猶予5年
名古屋地裁 懲役3年執行猶予5年
金沢地裁 懲役3年執行猶予5年
札幌地裁 懲役1年10月実刑
秋田地裁 懲役1年10月実刑
金沢地裁 懲役2年実刑
金沢地裁 懲役2年実刑
福岡地裁 懲役2年実刑
高松地裁 懲役3年実刑

横浜地検が当初、閲覧させなかった併合罪事例(児童ポルノかつわいせつ図画)

 去年は閲覧不許可になって、さらに閲覧申請して、不許可になって、準抗告して、和解して取り下げて、今日、閲覧しました。
 横浜地検は傾向として余罪を追起訴で処理しているので、事件番号がたくさんついています。

徳島ヴォルティスに出資する法律事務所

 今日、ニュースになった人を検索していてヒットしました。
 奥村の弁護修習先でした。ああ懐かしい。
 それはもう健全で上品な事務所です。

http://www.vortis.jp/clubinfo/invest.html
田中法律事務所