児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ダビング用マスターテープの所持は販売目的所持か?

 わいせつ図画について肯定する地裁裁判例があります。児童ポルノについても肯定する未公開の裁判例があります。児童ポルノについてはバックアップデータを販売目的とした高裁裁判例(高裁判決速報 MAC判決)もあります。
 理論的には、所持罪じゃないんですが、当罰性が強調されると思います。

 判例によれば、販売罪・所持罪の客体については有体物性が要件となる。「わいせつな」「物」でなければならないのである。
 ところで、「わいせつ物」というのは、媒体(紙、フィルム、メディア)にわいせつな情報が化体した存在である。媒体と情報が原材料である。
  情報だけあっても、わいせつ「物」ではなく
  媒体だけあっても「わいせつ」物ではない
のである。
 販売罪の客体について有体物性を貫くのであれば、所持罪の客体は、販売罪の客体と「同一のわいせつな有体物」でなければならない。要するに「売り物のわいせつ物」を所持していなければならない。

 所持罪は販売(提供)の準備行為として特に設けられた構成要件。通貨偽造等準備と同様の趣旨である。

刑法第153条(通貨偽造等準備)
貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

 所持罪の実行行為は物の所持のみに限定されており、「器械又は原料を準備」(刑法153条参照)は処罰されていない。この点で生媒体や原画や編集素材(原材料)の所持は含まない。

第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

 たとえば、マスターテープとダビング前の生媒体(生テープ等)とを所持する場合、生媒体の所持については、それにわいせつデータを記録して販売するのだから、わいせつ物の所持かというと、そうとはいえないし、そういう見解はない。なぜなら、犯人は生媒体を売り物として所持しているのではないからである。原材料として所持しているに過ぎない。
 マスターテープの所持についても同様である。なぜなら、犯人はそのマスターテープ自体を売り物として所持しているのではないからである。原材料として所持しているに過ぎない。確かにマスターテープも有体物に化体してはいるが、原材料である情報の容器(これが有体物)として所持しているに過ぎない。
 同じく原材料である、媒体と情報のうち、情報の支配については所持罪となるというのは一貫しない。

児童ポルノ画像を所持および配信した者は、その画像の製作者と同罪とみなされます

という見解が、http://www.unicef.or.jp/about_unicef/advocacy/his060406.htmlに紹介されています。
 もっともだと思います。
 機会が有れば次の事件で主張してあげますが(というか常々主張しているのですが)、日本の裁判所は頑として受け入れません。
 画像の存在とか流通のみによっては、児童がさほど傷つくとは思わないんでしょうね。社会的法益の侵害しかない。
 保護法益に「社会的風潮」とか入れるからこうなるんですよ。>立法者殿。一応最高機関。
 社会的法益性は、罪数論では被告人に有利に作用しています。

アイコラ画像の投稿を黙認したことを名誉毀損とした事例(東京地裁H18.4.21)

 削除義務の根拠を聞いてみたいところです。
モーニング娘のときは罰金でしたけどね。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060421-00000094-kyodo-soci
アイコラ掲載男に有罪 新山千春さんらの名誉棄損
 掲示板管理者の被告(26)に対し、東京地裁は21日、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役3年)の判決を言い渡した。

 柴田誠裁判官は「広告料目的で精巧な合成写真の投稿を黙認した。
共同通信) - 4月21日11時54分更新

文献
渡邊卓也「電脳空間における盗撮画像等の公開と名誉毀損罪」社学研論集(早稲田大学大学院社会科学研究科、2004)
前田雅英罪刑法定主義と実質的構成要件解釈」現代刑事法
木村光代「盗撮と名誉毀損罪」現代刑事法04'07.
浦田検事「盗撮と名誉毀損罪」警察公論2003.2

追記
 別に画期的な判決ではないですよ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060421-00000156-mai-soci
アイコラ>掲載のサイト管理者に初の有罪判決 東京地裁
被害者側代理人によると、アイコラ掲載による有罪判決は初めて。

追記
 名誉毀損罪で立件されている以上、わかりやすいアイコラだと法益侵害は小さく、わかりにくいアイコラだと法益侵害は大きいことになります。肖像権とかプライバシー権は、名誉毀損罪のメインターゲットではありませんから、そこを刑法で保護するためには別の構成要件を作るしかないです。

「判決は一部誤り」 アイコラ事件で芸能人側
2006.04.21 共同通信 (全331字) 
 芸能人側の弁護士が都内で記者会見し「判決のうち、偽物だから社会的評価が下がる恐れは低いとした点は誤りだ」と述べた。
 また、アイコラについて「アイドルもわいせつな行為をしているのではと連想させるのが目的で、名誉を傷つける。実際の被害者は五百人以上で、泣き寝入りしている」と訴えた。

追記0526
 この事件、いろいろ争われたようですが、
①通りすがり投稿者との共謀共同正犯
②各陳列行為は併合罪
という結論だそうです。
 児童ポルノ掲示板よりも厳しいですね。

森亮二「プロバイダの刑事責任」情報通信ジャーナル '05.12.

 読者の希望を代弁しているようですが、刑事法はそんなに甘くありません。
 法定しないと不安じゃないですか?
 幇助になったり正犯になったり。

今後について
プロバイダ等の刑事讃任の問題は、重要な問題であl)ながら、これまであまり議論されてきませんでした。速やかに必要な講論がなされないと、せっかく民事で議論を重ねてプロバイダ等のリスクを限定しようとした意味が失われてしまいます。少なくともこれまでに刑事責任を問われたのは、ここでご紹介した事件の各管理者のような違法情報に対しての強い積極的傾向をもつ管理者だけです。今後も、一般のプロバイダや掲示板が突然投稿された違法情報について刑事責任を負うことはまずないでしょうし、あってはならないでしょう。
なお、民事責任とのバランスの問題は、刑事にもプロバイダ責任制限法を作れば簡単に解決する、というものではありません。山口厚教授が指摘されるとおり、責任制限は、もともと責任の発生し得る場面で問題になることであり、不用意に「プロバイダ刑事責任制限法」を作ることは、プロバイダ等がアップロードされた適法情報について原則として責任を負うべき立場にあるのではないかとの誤解を招く虞があるからです。

 判例は「プロバイダ責任制限法は文字通り民事責任だけに関するものであり、刑事責任には適用されない。刑事責任については、従前の刑法理論(不作為犯、共犯)で対応する」という当たり前の姿勢です
 判例待っても蓄積しても、掲示板管理者やプロバイダの責任を軽くすることはないと思います。
 まあ、また立法するしかないんじゃないですか?

ダビング中の外付けHDDについて提供目的所持罪の成立を否定した事例(大阪地裁H18.4.21)

 「訴因のことは起訴検事に聞いてくれ」事件。

 製造罪(起訴されていない)だから。
 
 結局
  裁判所に促されて訴因変更あり
  さらに一部無罪あり
という結果。


 そのうち捜査研究か研修に載るから。たぶん。警察が持ってきた証拠を鵜呑みにするなって。過失で間違っていることもある。

大阪地裁平成18年4月21日
主張②について(本件外付けハードディスクについての所持罪の成否)
 関係各証拠によれば,本件外付けハードディスクへの動画ファイルの複製作業については,判示3の目の午前3時34分ころに開始された後,午前8時38分ころに被告人が逮捕され,その後程ない午前8時49分ころに作業が終了したもので,同逮捕時には大半の動画ファイルの複製作業が終了していたことが認められる。弁護人は,本件公訴事実の所持は上記逮捕時のもので,わいせつ図画ないし児童ポルノとしては未完成であって,各罪の客体たり得ない旨主張する。
 しかし,判示タイトルのものを始めとする,1つ1つが完結し,かつ相互に何ら関係がない動画ファイルの大半がすでにハードディスク内に複製されていたのであるから,客観的にみて逮捕時の本件外付けハードディスクが児童ポルノないしわいせつ図画であるというに十分であり,条文上も所持の際の物そのものの販売・提供目的を要求しているのでもないから,販売する物それ自体と異なるからといって,所持罪の客体でないと直ちにいうことはできないと解される。そして,本件では,被告人の作業も何ら要することなく全体の複製作業が完了するのは因果の流れであって,その完了を待つだけのときに被告人に作業完了後の物の販売目的があるのは明らかである。
 従って,問題は,そのような作業途中の所持について,作業完了後の物を販売する目的であってもなお販売目的があったといえるかであるが,本件所持の時点での物が児童ポルノないしわいせつ図画としての適格性を備えているといい得るのは上記にみたとおりであり,とりわけ本件のように作業終了がまさに時の経過を待つだけでその終了も間近であったころの所持については,具体的な法益侵害の危険性の点で完成品の所持とさして変わらないだけの実質を備えているということができる。そうすると,本件のような場合にはなお販売目的があったと認めるのが相当であるというべきである(なお,被告人は,自宅に警察官の捜索が入り逮捕されてもなおその際に販売目的があったとされることに疑念を抱くが,少なくとも上記捜索が入る前に被告人に販売目的があったことに疑いがなく,逮捕は捜索後程なくのものであるから,そのころの所持に販売目的があったとみても差し支えがないと解される。)。
 もっとも,児童ポルノについては,所持罪のほかに製造罪が存するところ,本件のように,提供目的で児童ポルノである動画ファイルをハードディスク間でコピーすることがこの製造罪に当たることは疑いがない。そして,製造に伴う必然的又は一時的な所持については製造罪に吸収されて所持罪として別罪を構成するものではないと解するのが相当である。そうすると,本件外付けハードディスクの所持につき,児童ポルノの所持の点については,結局のところ所持罪を選択しての起訴は認めがたいというべきである(なお,検察官の当初の冒頭陳述要旨によれば,元々の起訴は複製作業が終了した外付けハードディスクドライブの所持を予定していたといわざるを得ず,この点で,少なくとも本件外付けハードディスクについての起訴は事実を見誤ったものとみざるを得ないところである。そして,吸収関係にある犯罪のうち吸収される罪のみを起訴することも,一般的には可能であるが,最低限そうするだけの何らかの合理的理由が必要と解されるところ,本件は,一部起訴を肯定した判例の事案のように時を隔てた新たな犯罪に吸収される場合とは異なり,所持が製造と並行ないし接着したもので,従ってまた,所持にまつわる主張立証は製造のそれがつきまとっていて,自ずと製造罪の成立が認められるのであって,あえて所持罪を起訴する理由は見出しがたい。しかも,検察官は,論告でも所持罪の成立を製造罪のそれに優先させるべき旨の製造罪の存在意義を否定しかねない主張に終始するにすぎないのであるから,結局のところ上記起訴に合理的理由があったと認めるのは困難というほかない。)。
 また,本件起訴に係る他方の外付けハードディスクドライブについても,製造罪とは独立したといえるだけの所持があったとは認めがたく,この所持についても児童ポルノ所持の点はやはり別罪を構成しないというべきである上,本件で製造罪の成立が容易に認められるのも上記と同様であって,この起訴もまた認めるのは相当でないと解される。製造罪をいう弁護人の主張は,これらの意味で理由がある(付言すると,わいせつ物所持罪が併せて起訴されている本件では,この罪と児童ポルノ製造罪とが,吸収関係にないと解される点も含めて一罪の関係にあるとは解しがたく,児童ポルノ所持の点を製造の事実に訴因変更することもできないのではないかと考えられる。)。
よって,外付けハードディスクドライブについては,わいせつ物の販売目的所持の罪のみが認められると判断した。

[児童福祉法]諭旨免職→逮捕

 児童に対する性行為は重いので、免職になっても逮捕の危険は免れないということでしょう。
 一番良いのはそういうことはしないこと。
 してしまったら、できるだけ早く最寄りの弁護士に相談してください。

http://www.sankei-kansai.com/a1-syakai/syakai6.htm
青少年育成条例違反(わいせつ行為)の疑いで
勤務先の中学校などで3回にわたり、元教え子の京都市内の高校2年の少女(17)にわいせつな行為をした疑い。府警によると、直地容疑者は女子生徒から友人関係などについて相談を持ちかけられていたという。

京都市職員、買春で逮捕=13、14歳とわいせつ行為

 13才2罪で検索すると、公判請求されると、懲役1年〜2年6月。態様によっては実刑もある。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060421-00000047-jij-soci
出会い系サイトで知り合った13歳と14歳だった女子中学生に計4万円を渡し、京都市伏見区のホテルでわいせつな行為をした疑い