児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ罪の罪数・保護法益について

 保護法益と罪数について、いまだに解決できません。
 東京高裁の判断が分かれました。
 陳列罪とか販売罪とかで、被害者を想定するというのには裁判官に抵抗感・違和感があるということです。

 東京高裁H16.6.23判決は児童ポルノ罪の罪数については、被害児童の人数によるとした一審判決を否定し、被害児童の人数にかかわらず行為の数で決すると判示している。

東京高裁H16.6.23
1所論は,要するに,原判決が,被告人のc国内における行為を処罰したものとすれば,刑事訴訟法335条1項により,国外犯を処罰する旨を規定した法10条を挙示しなければならないのに,これを挙示していない原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある,と主張する(控訴理由第2)。しかし,これまでの説明からも,被告人が平成13年9月中旬以降c国内に居住していたことにかかわらず,本件犯行が国内犯であることは明らかであるから,所論は,前提を欠いていて失当である。論旨は理由がない。
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。しかし,原判決は,成立した各本罪全体について,科刑上一罪の処理をした上で,全体を一罪として処断刑を算出しているから,その処断刑期の範囲は,当裁判所のそれと同一である。そうすると,この点に関する原判決の法令適用の誤りは,判決に影響を及ばすものとはいえない。論旨は,結局理由がない。

 罪数問題は、東京高裁平成15年6月4日(上告中 平成15年あ第1348号 第三小法廷)が保護法益に照らして細分化して併合罪とする判断を示しており、原判決は東京高裁の判断が右往左往していることを示す。

東京高裁平成15年6月4日平成15年(う)第361号
2 罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽違犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),
児童ポルノ罪とわいせつ図画等に係る罪とは法条兢合(特別関係)により児童ポルノ罪のみが成立する(控訴理由第11),
児童ポルノ販売罪の保護法益は描写された者の個人的法益であるから,罪数も侵害された法益の個数を基準とすべきであり,販売罪は5罪が成立し併合罪となるのにこれを包括一罪とした原判決は法令解釈を誤っている(控訴理由第13),
④原判決は,児童ポルノ製造罪について撮影行為を基準に1回1罪としているが,弁護人の主張に対する判断では媒体を基準にして罪数を判断すべきであると判示しており,理由齟齬であり,また,MOに関しては1個しか製造していないから,撮影行為が何回に及んでも1個の製造罪であり,ビデオテープは12本製造されているから12罪であって,法令解釈の誤りがある(控訴理由第14)などという。
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この童法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。
 もっとも,わいせつ図画販売目的所持罪と同販売罪とは包括一罪であるから,結局,原判示第2ないし第4の各罪は一罪として評価されるべきであり,この点で原判決には法令の適用を誤った違法があるが,処断刑期の範囲は同一であるから,判決に影響を及ぼすものではない。
 ②の点は,児童ポルノ販売罪等は,その行為が,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与え続けるのみならず,これが社会にまん延すると,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えることなどを理由に処罰しようとするものであって,性的秩序,風俗を害することを防止しようとする刑法のわいせつ図画に係る罪とは処罰根拠が異なるだけでなく,児童ポルノに該当するものでも,わいせつ図画には該当しない場合もあるから,所論のいうように両罪が法条兢合(特別関係)にあるとは認められない。
 ③の点は,原判決には所論のいうような誤りはなく,所論は原判決を正解しないものである。
 ①については,一個の機会に撮影して製造した物は一罪と解するべきであるが,本件のMOについては,全く別の機会に製作されたファイルが追加記録されているのであるから,媒体は同一でも追加記録は別罪を構成するものというべきである。原判決の「弁護人の主張に対する判断」の1は,画像データが同一でも別の媒体に複写すれば製造に当たる旨を説示したにすぎず,媒体が同一であれば一罪になる旨判示したものではなく,所論は原判決を正解しないものといわざるを得ない。

 刑事裁判所は罪数判断を避けられないことは周知であるところ、罪数判断を誤れば、例えば訴因変更許可の可否において重大な瑕疵になりかねない。

児童買春児童ポルノ罪の公訴時効が延びた

 アクセスLOGの検索語が「時効・買春」一色でした。

 法定刑が変わりましたので、
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20040422
は古くなってしまいました。

「5年」というのは、境界線ですね。

 なお、公訴時効以前の問題として、貴殿の行為が「買春罪」で済むのか、もっと重い犯罪なのかという根本的な問題があります。
 児童に対する性犯罪について、刑法と特別法・条例でいろいろ対応した結果、
   どんな行為が何罪?
という疑問に答えづらい状況になっています。
 心配な方は、ネットで検索するより、弁護士に相談してください。

刑事訴訟法第250条〔公訴時効の期間〕
時効は、左の期間を経過することによつて完成する。
一 死刑にあたる罪については十五年
二 無期の懲役又は禁錮にあたる罪については十年
三 長期十年以上の懲役又は禁錮にあたる罪については七年
四 長期十年未満の懲役又は禁錮にあたる罪については五年
五 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金にあたる罪については三年
六 拘留又は科料にあたる罪については一年

強盗致傷の法定刑は引下げ方向?

 法制審議会では、厳罰化に隠れて、強盗致傷の下限を引下げる議論が出ています。
 酌量減軽すれば執行猶予が付けられるように現行法の7年を6年に。
 改正時期を見越すと、ある時期以降、強盗致傷罪は控訴しておいた方がいいかもしれません。

http://www.moj.go.jp/SHINGI/040419-1.html
(原文縦書き)
諮 問第六十九号
 近年における凶悪・重大犯罪の実情等にかんがみ、この種の犯罪に対処するため、早急に、刑事の実体法及び手続法を整備する必要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。

別紙
要綱(骨子)
第 一 有期の懲役及び禁錮の法定刑の上限の改正等
一  有期の懲役及び禁錮は、一月以上二十年以下とするものとすること。
二  有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができるものとすること。

1  死刑を減軽して有期の懲役又は禁錮により処断する場合においては三十年にまで至ることができるものとすること。
2  無期の懲役又は禁錮減軽する場合においても1と同様とすること。
第 二 強制わいせつ、強姦及び強姦致死傷の各罪等の法定刑の改正等
一  強制わいせつ及び準強制わいせつの各罪(刑法第百七十六条及び第百七十八条中第百七十六条の罪に関係する部分)の法定刑を六月以上十年以下の懲役とすること。
二  強姦及び準強姦の各罪(同法第百七十七条及び第百七十八条中第百七十七条の罪に関係する部分)の法定刑を三年以上の有期懲役とすること。
三  強姦致死傷の罪(同法第百八十一条中第百七十七条の罪及び第百七十八条(第百七十七条の罪に関係する部分)の罪に関係する部分)の法定刑を無期又は五年以上の懲役とすること。
四  二人以上の者が現場において共同して強姦又は準強姦の罪を犯したときは、四年以上の有期懲役に処し、よって女子を死傷させたときは、無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。
第 三 殺人の罪等の法定刑の改正
一  殺人の罪(刑法第百九十九条)の法定刑を死刑又は無期若しくは五年以上の懲役とすること。
二  組織的な殺人の罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第三条第一項第三号及び同条第二項中第一項第三号の罪に関係する部分)の法定刑を死刑又は無期若しくは六年以上の懲役とすること。
第 四 傷害及び傷害致死の各罪等の法定刑の改正
一  傷害の罪(刑法第二百四条)の法定刑を十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金とすること。
二  傷害致死の罪(同法第二百五条)の法定刑を三年以上の有期懲役とすること。
三  危険運転致傷の罪(同法第二百八条の二)の法定刑を十五年以下の懲役とすること。
四  暴力行為等処罰に関する法律第一条ノ二第一項の罪及び同法第一条ノ三の罪(刑法第二百四条の罪に関係する部分)の法定刑を一年以上十五年以下の懲役とすること。
第 五 公訴時効期間の改正
 死刑又は無期若しくは長期十五年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪について、時効は、次の期間を経過することによって完成するものとすること。
1  死刑に当たる罪については、二十五年
2  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については、十五年
3  長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については、十年

別に、秘密ではないんですよ。

http://www.moj.go.jp/SHINGI/040604-1.html
法制審議会刑事法(凶悪・重大犯罪関係)部会
第3回会議 議事録
第1 日 時  平成16年6月4日(金) 自 午後1時30分
                     至 午後4時28分
第3 議 題
   凶悪・重大犯罪に対処するための刑事法の整備について
第4 議 事 (次のとおり)
● 論点ということでございますが,第1回部会におきまして,○○委員から,強盗罪及び強盗致傷罪という罪名を挙げられました上で,これらの罪の法定刑の在り方についてはこれまでも種々の議論があったとの御指摘があり,引き続き,○○委員の方からは,強盗致傷罪につきまして,この罪に当たる行為の中には,その態様や結果が比較的軽微なものもあるという実務面からの問題提起もございました。さらに○○委員からは,強盗罪と強姦罪との法定刑の不均衡という論点の提示もございました。これらを通じまして,強盗をめぐる問題といいますのは,端的に申しますとその法定刑の下限の引下げをめぐる問題と理解されるところだと思います。
  なお,今回の諮問におきまして,凶悪犯罪の典型の一つでもあります強盗を取り上げなかった理由といたしましては,第1回部会でも御説明申し上げましたが,強盗罪や強盗致傷罪の法定刑の下限を引き下げるのであれば,別途強盗の加重処罰類型についても考えなければならないのではないか,そうすると窃盗の加重処罰類型についても考えるべきことになるのではないか,そうすると凶悪・重大犯罪について御審議いただくという本部会の議論の対象としては拡散してしまうのではないかという,事務当局としての考え方があったわけですが,あえてそこまで論点を拡散せずに,今申しました刑法の強盗致傷罪等の法定刑の下限の引下げの問題を論じられるかということも一つの問題になるかと思われます。

「威迫」「困惑」による淫行

 犯行抑圧する程度に達していれば、強姦罪
 困惑に達していなければ、犯罪不成立 無罪。
 強姦罪とは択一・補充関係。

 「威迫」「困惑」の立証が行き過ぎれば、親告罪になるから、むずかしいところですね。

大阪府青少年健全育成条例
(みだらな性行為及びわいせつな行為の禁止)
第23条 何人も、次に掲げる行為を行つてははならない。
 (1) 青少年に金品その他の財産上の利益、役務若しくは職務を供与し、又はこれらを供与する約束で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
 (2) 専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
 (3) 性行為又はわいせつな行為を行うことの周旋を受け、青少年に対し当該周旋に係る性行為又はわいせつな行為を行うこと。
 (4) 青少年に売春若しくは刑罰法令に触れる行為を行わせる目的又は青少年にこれらの行為を行わせるおそれのある者に引き渡す目的で、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。

大阪府青少年健全育成条例の運用について(大阪府警例規
(6)本条第2号は、専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫するなどにより当該青少年に対し性的行為を行うことであり一般的には「専ら」でないことを種々弁解するものと予想されるので、性的行為iこ至る経緯、状況等から「専ら」性的欲望を満足させる目的であつたか否か判断する必要がある。
ア「威迫し」とは、暴行又は脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により心理的威圧を加えて相手方に不安の念を抱かせ、自由な判断力を低下させることをいう。
イ「困惑させて」とは、借金の返済を厳しく迫つたり、雇用関係、職場における上司と部下の関係等の特殊な関係を利用して義理人情の機敏につけ込むことなど、心理的な圧迫を加え、精神上の自由な判断力を低下させることをいう。
(7)第3号は、有償無償を問わず第三者の周旋を受けて性的行為を行うことであり、具体的には、周旋を受けて売春の相手方となる場合や暴力団の子分が親分に「女を献上する」などの場合が考えられる。