児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

刑の執行の延期についての解説書

 入院中だとかだと診断書でしょうね。

執行事務規程
(自由刑の執行延期)
第20条 自由刑の言渡しを受けた者が執行延期の申立てをしたときは,検察官は,申立書を提出させた上,その事由について調査し,やむを得ない事情があると認めるときは,刑執行延期決定書(様式第11号)を作成して刑の執行を延期する。この場合においては,その事由について引き続き調査をする。

執行事務解説 5訂p64
第5 執行の延期(規程19)
1 執行延期の意義
執行延期は,実際上は刑の執行停止と何ら変わらない。
したがって,執行延期は,法令に基づかない,いわば簡易な執行停止ともいえるものである。
しかし,法令(法480・4 82)に甚づく執行停止は比較的長期のそれが予想されるのに対し,執行延期は,極めて短期問の場合が予想されている。
したがって,長期にわたり延期する場合には,執行停止の手続によるべきである(注)。
なお,執行延期は,主として監査的観点から制度化されたものであるから,その運用については慎重を期さなければならない。
また,執行延期は,事実上刑の執行は停止するが,法令に基づく手続ではないから,刑の時効の進行(刑32) は停止されないことに十分注意を要する。
(注)昭33検務実務家会同執行事務関係28問答(例規集735頁)。


2 延期の方法。
刑の言渡しを受けた者から執行延期の申立てがあったときは,検察官は,申立書を提出させた上,その事由について調査しなければならない。
この調査は迅速に行う必要がある。
調査に日時を要していては,事実上執行延期を行ったと同じ結果をもたらすこととなるからである。
調査の結果,執行を延期することにつぎやむを得ない事情(注)があると認めるときに限り,刑執行延期決定書(様式11)を作成して刑の執行を延期する。
なお,延期後,その事由について引き続き調査することとされているが,これは,延期事由となったやむを得ない事情がやめば,速やかに刑の執行を指梱する必要があるからてある。
執行延期の事由についての調査を警察署の長に依頼するときは,裁判執行に関する調査嘱託書(様式12) によることとされているが,急速を要する場合には電話その他適宜な方法によって依頼することを妨げる趣旨てないことはもちろんである。

(注)
執行停止(法482) の事由に準ずる。
執行停止の事由よりも実質的に程度の低いものであっても差し支えないてあろうが,執行延期の認定要素について,当初の「相当と認めるとき」が,その後「やむを得ない事情があると認めるとき」に改められた(昭33・旧規程の一部改正による。)経緯に照らし,その判断は慎重を要する。

児童(当時16歳) をわいせつ目的で誘拐した上同人に対し,その衣服を脱がせて陰部等を露出させ,同人と性交(淫行)し,同人の陰部に手指を挿入するなどし,これらを動画撮影し,同動画を記録して保存した事案において,わいせつ誘拐罪と児童ポルノ製造罪とは牽連犯にはならず,併合罪になる。(東京高裁R01.8.20)

 強制わいせつ行為目的とか、売春させる目的とか、強姦する目的も「わいせつ目的」に含まれますし、撮影行為はわいせつ行為ですけどね。

速報番号369 3 号
わいせつ誘拐, 児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反

東京高等裁判所第10刑事部 令和元年8月20日
裁判要旨
児童(当時16歳) をわいせつ目的で誘拐した上同人に対し,その衣服を脱がせて陰部等を露出させ,同人と性交(淫行)し,同人の陰部に手指を挿入するなどし,これらを動画撮影し,同動画を記録して保存した事案において,わいせつ誘拐罪と児童ポルノ製造罪とは牽連犯にはならず,併合罪になる。
裁判理由
所論は,わいせつ誘拐罪と児童ポルノの製造罪が牽連犯になると主張するが,児童ポルノは,その製造過程が児童に対する性的虐待であり,また,虐待された児童の半永久的な記録となり, 児童に対する権利の侵害が著しいことから,児童の権利を保護するため,善良な性風俗の維持を保護法益とするわいせつ物領布等の罪より重い刑罰をもってその提供等が規制されるに至ったのであって,このような保護法益に鑑みると,児童ポルノの製造罪は,わいせつ誘拐罪のわいせつ目的を実現する犯罪とはいえず,両者の間に手段目的の関係があるとはいえない。
備考
原審において, わいせつ誘拐罪と児童淫行罪とは牽連犯になり,わいせつ誘拐罪と製造罪とは併合罪になると判示し,控訴審は,これを是認した上,弁護人の主張に対し、わいせつ誘拐罪と製造罪とは牽連犯にはならないとした

迷惑防止条例違反の罪の構成要件該当性を判断するに当たっては,もっぱら行為自体やそれを取り巻く客観的,外形的事情によって判断すべきであり,行為者の目的や性的意図の有無等を加味して評価するべきではないとされた事例(大阪高裁R01.8.8)

 
 性的意図不要説。

判決速報
○参考事項
1 本件の主要な問題点は,本条例6条1項1号の解釈,及び被告人の本件行為が本条例同号違反行為に該当するか否かである。検察官は,控訴審において,本条例が主として社会的法益を保護法益とすることに鑑みれば,その言動等を客観的に観察して判断して,条例該当性を決すべきであるから,原判決が,本条例6条1項1号規定の行為につき,行為者の性的意図を必要とし,かつ,行為に性的意味が必要であると解釈したのは誤りである旨主張し,加えて,仮にこのような原審裁判所の立場に立ったとしても,本件は,被告人が性的意図をもって行為に及んだことは明らかな事案であり,そうであるのに原判決はその点の事実誤認をしている旨主張した。
これに対し,控訴審判決は, 本条例6条1項1号の主たる保護法益は,府民及び滞在者の生活の平穏と解され, この趣旨に照らすと,その違反行為に該当するか否かは, もっぱら行為自体やそれを取り巻く客観的,外形的な事情によって判断すべきであるとした。このような本条例の構成要件該当性の判断方法は,上記のとおり, そもそも検察官自身の主張に沿うもので,その判断方法が不当とはいえない。
そして,控訴審判決は, このような判断方法を前提とすると,本件行為が,客観的,外形的に見て,社会通念に照らし,人を著しく差恥させたり, 不安を覚えさせたりする行為とまではいえないと判示して,結論として,検察官の控訴を棄却したものである。
なお,Aの供述によれば,被告人は,本件以前から,繰り返しAに対して,鼻同士をくっつけたり,身体を持ち上げたり,着衣の中に手を差し入れるなどの身体的接触を行っていたとの事実が認められたが, 控訴審裁判所は,原審裁判所同様,本件以前から性的意図に基づきAに対して繰り返し身体的接触を行っていたとの内容の被告人の供述調書を全て却下した。
近時,強制わいせつ罪の成立要件の解釈に関して,最高裁の判決があり(最高裁平成29年11月29日大法廷判決) , 「刑法176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,故意以外の行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。」と判示しているところ,本条例6条1項1号については,強制わいせつ罪と同様に個人の性的自由を保護するという役割をも担っているため, 同条項における違反行為該当性の判断方法について,強制わいせつ罪の成立に関する判断方法と同様に解すべきか否かも注目すべき点であった。
本件類似の事案として,被告人が,飲食店内において,性同一性障害である被害者に対し,左胸部を着衣の上から右手でつかんだことが,兵庫県迷惑防止条例にある「公共の場所において,人に対して,不安を覚えさせるような卑わいな言動をしたとの事実に該当するか否かが争われた事案があり, 同事案について,大阪高等裁判所平成30年1月31日判決は,条例違反行為該当性の判断方法について, 「卑わいな」ものといえるか否かは,行為者の主観的意図によらず,その言動を客観的に見て決すべきであり,被告人に性的な意図がなく,胸部が膨らんでいることを確認するつもりであったとしても,そのことから直ちに「卑わいな言動」に当たらないとはいえないとした上, 戸籍上は男性であっても,胸も膨らみ,一見して女性にみえる姿をしていたAの胸部をつかむことは,社会通念上,「卑わいな言動」に当たると判示して,被告人を有罪とした。
本判決は,条例違反行為に該当するか否か判断する方法として, この大阪高等裁判所判決と同様の考え方に基づく判断方法を採ったといえるが,結論が有罪と無罪に分かれたのは,公訴事実となった行為自体を外形的,客観的に見た場合の意味合い, すなわち,事案の違いが主たる原因と思われる。
○参照条文
大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例17条2項, 1項2号,~ 6条1項1号

わいせつ行為とは一般人を基準として性的羞恥心を害し,健全な性道徳に反する行為をいうところ,白昼,路上で見ず知らずの異性の下着を膝付近まで引きずり下ろし臀部等を露出させる行為は,たとえ身体接触がなく短時間の行為であっても,健全な社会常識に照らし,性的に恥ずかしいと感じ,健全な性道徳に反する行為といえる。(長崎地裁H31.2.21)


 新種の定義になります。裁判所も定義を示せないようなので、どんどん主張して聞いてみて下さい。

http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2019/11/07/230351
いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(金沢支部S36.5.2)
・・・
 性的自由を侵害する行為(大阪高裁 大法廷h29.11.29の控訴審
・・・
 「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。」東京高裁H30.1.30(奥村事件 上告棄却)
・・・

 「被告人が13歳未満の男児に対し,~~などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。」(広島高裁H30.10.23 奥村事件 上告中)
・・・
「わいせつな行為」に当たるか否かは,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである。(福岡高裁H31.3.15)

裁判年月日 平成31年 2月21日 裁判所名 長崎地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(わ)127号 ・ 平30(わ)139号 ・ 平30(わ)158号
事件名 強制わいせつ致傷、窃盗被告事件
文献番号 2019WLJPCA02216008
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 平成30年5月11日午後4時30分頃,長崎市〈以下省略〉玄関において,同所に置かれていた●●●所有の運動靴1足(時価約1000円相当)を窃取した。
 第2 平成30年6月2日頃,長崎市〈以下省略〉物干し場において,同所に干されていた同人所有のパンツ2枚等4点(時価合計約1100円相当)を窃取した。
 第3 平成30年6月5日午後3時30分頃,長崎市〈以下省略〉付近路上において,徒歩で下校中のA(当時7歳)に対し,同人が13歳未満であることを知りながら,その背後から近づき,路上に転倒したAの下着をつかんで膝付近まで引きずり下ろすなどして同人の臀部等を露出させ,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をし,その際,同人に全治約10日間を要する見込みの腰臀部打撲挫傷の傷害を負わせた。
 (事実認定の補足説明)
 弁護人は,判示第3の事実について,被告人によるAの下着をつかんで膝付近まで引きずり下ろすなどして同人の臀部等を露出させた行為はわいせつ行為に該当しないと主張するが,わいせつ行為とは一般人を基準として性的羞恥心を害し,健全な性道徳に反する行為をいうところ,白昼,路上で見ず知らずの異性の下着を膝付近まで引きずり下ろし臀部等を露出させる行為は,たとえ身体接触がなく短時間の行為であっても,健全な社会常識に照らし,性的に恥ずかしいと感じ,健全な性道徳に反する行為といえる。
 以上から,判示第3の事実を上記のとおり認定した。
 (法令の適用)
 罰条
 被告人の判示第1及び第2の各行為は,いずれも刑法235条に該当する。
 被告人の判示第3の行為は,刑法181条1項(176条後段)に該当する。
 刑種の選択
 判示第1及び第2の各罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し,判示第3の罪については所定刑中有期懲役刑を選択する。
 累犯加重
 前記の前科があるので判示第1ないし第3の各罪の刑について刑法56条1項,57条によりそれぞれ再犯の加重をする(ただし,判示第3の罪については,同法14条2項の制限内で加重。)。
 併合罪の処理
 判示各罪は,刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重をする。
 宣告刑の決定
 前記のとおり加重した刑期の範囲内で,被告人を懲役7年に処する。
 未決勾留日数の算入
 刑法21条を適用して未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
 訴訟費用の処理
 訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
 (検察官藤原伸二,国選弁護人大西由紀子(主任),伊藤岳各出席)
 (求刑―懲役8年)
 平成31年3月5日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 小松本卓 裁判官 堀田佐紀 裁判官 松本恭平)

児童買春罪の実行行為は①児童等との対償供与の約束・対償供与+②①に基づく性交等であるから、①の時点でも児童等の認識が必要であると暗に判示したもの(大阪地裁R01.9.17)

検察官は、那覇支部答弁書を丸写しにして「児童買春の実行行為の核心部分である性交時に被害児童が18歳未満であることを認識していれば,児童買春の故意に欠けるところはない。」と主張していましたが、裁判所は、(対償供与時点では児童の認識は不要だから対償供与時点では児童と知らなくても性交等の時点で児童と認識しているから有罪だとはせずに、)対償供与時点でも児童であることの認識が必要であることを前提にして、対償供与時点の未必故意を認定しました。

地検検察官論告
性交時に児童であることの認識があれば,児童買春罪の故意が認められ,同罪が成立すること
児童買春, 児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条2項は, 「『児童買春』とは, 次の各号に掲げる者に対し,対償を供与し,又はその供与の約束をして, 当該児童に対し,性交等をすることをいう。」とされているところ,かかる条文を文理解釈すれば,対償供与し,又はその供与の約束をして,性交等をすること,すなわち,対償供与を前提とした性交等をすることが実行行為であるのは明白であり,性交時に児童であることの認識があれば,児童買春罪が成立する。
さらに, 同法の保護法益につき, 同法1条は, 「この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに児童の権利の擁護に資することを目的とする。」としていることに鑑みれば,児童の精神的未熟さにつけ入り,対償を供与して性交等を行うこと,すなわち児童に対する性的搾取や性的虐待を防止し,ひいては,児童の権利を保護しようとしているというものである。
この同法の目的からしても,性的搾取や性的虐待の核心部分である性交等を行うことが処罰の対象となる中心の実行行為と捉えるべきである。
実質的にも,行為者が,対償供与時に児童であることの認識がなく,性交等の前に児童であることを認識した場合であっても,反対動機を形成して性交等を行わないことは十分に可能である。
弁護人の主張は, その独自の見解に基づくものであり,失当である。
よって,仮に対償供与時に相手方が児童であることの認識がなくとも,性交時に相手方が児童であることの認識があれば,児童買春罪の故意が認められ,本件においても,被告人は,遅くとも,性交時には, 児童から17歳であると聞くなど児童であることの認識があったのであるから,被告人に児童買春罪が成立することは明らかである。

(別件)福岡高検那覇支部検察官答弁書
法令適用の誤りの主張について
控訴審弁護人は,被告人には,対償供与約束の時点で児童であることの認識がなかったのであるから,仮に被告人が性交時に被害児童が18歳未満である可能性を認識していたとしても,児童買春には該当しないと主張するようである。
しかし,そのような主張は,控訴審弁護人独自の見解に基づくものであり,児童買春の実行行為の核心部分である性交時に被害児童が18歳未満であることを認識していれば,児童買春の故意に欠けるところはない。このことは,法律2条2項1号の文理上も明らかであり, また, 「この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。」との立法趣旨からも当然である。

大阪地裁令和元年9月17日宣告
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
判    決
検察官 藤井彰人
    渡邊 耀
弁護人 奥村 徹(私選)
主    文
理    由
(犯罪事実)
第1
 被告人は,A(17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,令和元年11月19日大阪府大阪市西天満ホテル201号室において,Aに対し,現金3万円の対償を供与して,Aと性交し,もって児童買春をした。
(事実認定の補足説明)
第1 判示第1について
 1 弁護人は,判示第1について,①被告人が3万円を渡す時点において,Aは17歳11か月だったが18歳と自称し,厚化粧でカラー髪にしており,体格も成人と変わらず,一見して派遣型風俗嬢の風貌であったことから,18歳未満であると認識していなかった,③対償供与時にAが18歳未満であることの認識がなかった以上児童買春罪は成立しないと主張する。しかしながら,当裁判所は,被告人が2万円の対償を供与する時点で,被告人は,Aが18歳未満である旨の未必的な認識があったと認定したので,その理由を説明する。

ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為と同法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否(最決R01.11.12)

 判例になりました。
 姿態をとらせて製造罪の場合は、第二次製造の時点で「姿態をとらせて」がないのではないかという問題意識でしたが、
 ひそかに製造罪の場合は、第二次製造の時点でも被害者に対して「ひそかに」であることは間違いないのですが、それを「ひそかに」としてしまうと、単純複製行為(所定の目的がない画像のコピー等)も「ひそかに製造罪」になってしまい、製造行為について、目的・姿態をとらせて・ひそかにという要件を付している法の趣旨が失われてしまうという問題意識でした。
 従って「ひそかに児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為は,同法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たると解するのが相当である。」という判示は、ひそかに製造罪の主体は、盗撮行為者に限定するという趣旨に読んで下さい。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89039
最高裁判例
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持被告事件
裁判年月日 令和元年11月12日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 
原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号 平成30(う)383
原審裁判年月日 平成31年3月4日
判示事項 ひそかに児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為と同法7条5項の児童ポルノ製造罪の成否

okumuraosaka.hatenadiary.jp
上告理由
ひそかに製造罪(判示第1)の罪となるべき事実のうち「同年5月1日,被告人方において,同人が前記動画データを前記記録媒体等からパーソナルコンピュータを介して外付けハードディスクに記録して保存し」の部分は、「ひそかに」と「描写」を欠くから法7条5項の製造罪にあたらない・ひそかな第二次製造を処罰することは複製行為一般をひそかに製造罪で処罰することになり、過度に広汎な規制となり憲法21条1項に違反する。 19
1 1審判決・原判決 19
2 前提として、単純複製行為は処罰されないこと・単純複製行為を処罰するとする解釈は憲法21条1項違反であること 20
(1)各製造罪の法文 20
(2)H11法制定時の解説でも複製行為は処罰されない 21
(3)H16改正の解説でも複製行為は処罰されない 22
①島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08 22
②森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p100 23
③星景子「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項3号に該当する姿態を児童自らに撮影させ、その画像を同児童の携帯メールに添付して・・・」研修第720号 23
(4)現行法(H26改正)の解説でも複製行為は処罰されない。 24
①坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」H26_捜査研究 第63巻第9号(2014年9月号)p15 24
②坪井麻友美「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」(法曹時報66巻11号57頁) 24
(5)憲法21条1項違反 25
3 「ひそかに」(7条5項)とは見られないことの利益を有する者に知られないようにすることをいう 26
4「ひそかに」を要件とすると、撮影されている者が気付くような状況であること、すなわち、被害者と同時に同場所で撮影することが要件になること。 27
5 「描写する」という要件からも、被害児童との同時・同場所の行為に限定されること 29
(1)国語辞書 29
(2)各製造罪ともに目的・手段が限定されていること 30
6 姿態をとらせて製造罪の判例(最決H18.2.20)の理由付け 31
①実行行為説 32
②実行行為の付帯状況説 32
③手段たる行為説 32
④身分犯説 32
⑤構成要件に該当する行為説 32
7 原判決の限定解釈では不十分・不明確である 33
②実行行為の付帯状況説 33
8 まとめ 34

「被害者の陰部を露出させて携帯電話で撮影するとともにその陰部を手指で広げてもてあそぶ」というわいせつ行為と「陰部を露出させる姿態をとらせて撮影して記録する」という児童ポルノ製造行為とは併合罪だが、「パンツをまくりあげて陰部露出させて撮影機能付き携帯で撮影する」というわいせつ行為と「陰部を露出させる姿態とらせて それを撮影機能付き携帯電話で撮影し、その静止画像データを同携帯電話機内蔵の電磁的記録媒体に記録させて保存し」たちう行為とは児童ポルノ製造行為とは観念的競合である(某高裁h30)

「被害者の陰部を露出させて携帯電話で撮影するとともにその陰部を手指で広げてもてあそぶ」というわいせつ行為と「陰部を露出させる姿態をとらせて撮影して記録する」という児童ポルノ製造行為とは併合罪だが、「パンツをまくりあげて陰部露出させて撮影機能付き携帯で撮影する」というわいせつ行為と「陰部を露出させる姿態とらせて それを撮影機能付き携帯電話で撮影し、その静止画像データを同携帯電話機内蔵の電磁的記録媒体に記録させて保存し」たちう行為とは児童ポルノ製造行為とは観念的競合である(某高裁h30.6.7)
 公開されている東京高裁h30.1.30は「原判示第7の強制わいせつ行為では,被害児童に対し暴行を加えているが,その暴行態様は,緊縛を含まず,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどしたというものであって,姿態をとらせる行為と重なり合う程度が高いとみたとも考えられ,」として、おむつ引き下げ+包皮剥く+撮影を一個の行為としています。

東京高裁h30.1.30
3 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
  (1) 論旨は,原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪としたり観念的競合としたりしており,罪数処理に関する理由齟齬がある,また,上記の両罪は,撮影による強制わいせつと児童ポルノ製造の行為に係るものであり,もともと1個の行為に2個の罪名を付けているだけであるから,いずれも観念的競合とすべきであるのに,併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ(致傷)罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について,以下のように判断している。
   ア 観念的競合としたもの
    ・原判示第7の強制わいせつ致傷の行為と児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第9から第11までの各強制わいせつの行為と各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
   イ 併合罪としたもの
    ・原判示第2の1の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号2)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第2の2,4の各強制わいせつの行為と同第2の3,5の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第3の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号3)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第4の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号4)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第5の1,3,5の各強制わいせつの行為と同第5の2,4,6の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
    ・原判示第6の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号7)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
  (3) 原判決は,上記罪数判断の理由を明示していないものの,基本的には,被害児童に姿態をとらせてデジタルカメラまたはスマートフォン(付属のカメラを含む。)等で撮影した行為が強制わいせつ(致傷)罪に該当する場合に,撮影すると同時に又は撮影した頃に当該撮影機器内蔵の又は同機器に装着した電磁的記録媒体に保存した行為(この保存行為を「一次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,これらを観念的競合とし(原判示第7,第9から第11まで),一次保存をした画像を更に電磁的記録媒体であるノートパソコンのハードディスク内に保存した行為(この保存行為を「二次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,併合罪としているものと解される(なお,原判決が併合罪としたもののうち,原判示第2の1,第5の3,5,第6の各強制わいせつ行為では,被害児童に対し緊縛する暴行を加えており,これらについては,このことも根拠として併合罪とし,観念的競合としたもののうち,原判示第7の強制わいせつ行為では,被害児童に対し暴行を加えているが,その暴行態様は,緊縛を含まず,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどしたというものであって,姿態をとらせる行為と重なり合う程度が高いとみたとも考えられ,原判決は,罪数判断に当たり,強制わいせつの態様(暴行の有無,内容)をも併せ考慮していると考えられる。)。いずれにせよ,わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵又は付属された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は,ほぼ同時に行われ,行為も重なり合うから,自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが,撮影画像データを撮影機器とは異なる記録媒体であるパソコンに複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には,両行為が同時に行われたとはいえず,重なり合わない部分も含まれること,そもそも強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し,後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって,基本的に併合罪の関係にあることに照らすと,画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることは合理性を有する。原判決の罪数判断は,合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ,理由齟齬はなく,具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。
 所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。

ひそかに製造した者による複製は、ひそかに製造罪(最決r01.11.12)

 ひそかに製造の第二次製造って、家でこっそりダビングするわけだから、常に「ひそかに」になるよね。
 単純複製行為も「ひそかに製造」と言えなくもないけど、「ひそかに児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が」ということで主体を限定するようですね、

上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持被告事件について,高等裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から上告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。
理由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項の規定について憲法21条1項違反をいう点は,児童ポルノ法7条5項が表現の自由に対する過度に広範な規制であるということはできないから,前提を欠き、その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,ひそかに児童ポルノ法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が,当該電磁的記録を別の記録媒体に記録させて児童ポルノを製造する行為は,同法7条5項の児童ポルノ製造罪に当たると解するのが相当である。これと同旨の原判断は正当として是認できる。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
令和元年11月12日
最高裁判所第一小法廷

児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪とを観念的競合とした判例・裁判例

 一事不再理効の広さからは、併合罪にしたいところですが、撮影行為=わいせつ行為なので、どうしても観念的競合になる場合があるようです。
 大法廷h29.11.29は沈黙でしたので、もう少し高裁でもまれて来いということでしょうか。

名古屋 地裁 一宮 H17.10.13
東京  地裁   H18.3.24
東京  地裁   H19.2.1
東京  地裁   H19.6.21
横浜  地裁   H19.8.3
長野  地裁   H19.10.30
札幌  地裁   H19.11.7
東京  地裁   H19.12.3
高松  地裁   H19.12.10
10 山口  地裁   H20.1.22
11 福島  地裁 白河 H20.10.15
12 那覇  地裁   H20.10.27
13 金沢  地裁   H20.12.12
14 金沢  地裁   H21.1.20
15 那覇  地裁   H21.1.28
16 山口  地裁   H21.2.4
17 佐賀  地裁 唐津 H21.2.12
18 仙台 高裁   H21.3.3
19 那覇  地裁 沖縄 H21.5.20
20 千葉  地裁   H21.9.9
21 札幌  地裁   H21.9.18
22 名古屋 高裁   H22.3.4
23 松山  地裁   H22.3.30
25 那覇  地裁 沖縄 H22.5.13
24 さいたま 地裁 川越 H22.5.31
26 横浜  地裁   H22.7.30
27 福岡  地裁 飯塚 H22.8.5
28 高松  高裁   H22.9.7
29 高知  地裁   H22.9.14
30 水戸  地裁   H22.10.6
31 さいたま 地裁 越谷 H22.11.24
32 松山  地裁 大洲 H22.11.26
33 名古屋 地裁   H23.1.7
34 広島  地裁   H23.1.19
35 広島  高裁   H23.5.26
36 高松  地裁   H23.7.11
37 広島  高裁   H23.12.21
38 秋田  地裁   H23.12.26
39 横浜  地裁 川崎 H24.1.19
40 福岡  地裁   H24.3.2
41 横浜  地裁   H24.7.23
42 福岡  地裁   H24.11.9
43 松山  地裁   H25.3.6
44 横浜  地裁   H25.4.30
45 大阪 高裁   H25.6.21
46 横浜  地裁   H25.6.27
47 福島  地裁 いわき H26.1.15
48 松山  地裁   H26.1.22
49 福岡  地裁   H26.5.12
50 神戸  地裁 尼崎 H26.7.29
51 神戸  地裁 尼崎 H26.7.30
52 横浜  地裁   H26.9.1
53 地裁   H26.10.14
54 名古屋 地裁   H27.2.3
55 岡山  地裁   H27.2.16
56 長野  地裁 飯田 H27.6.19
48 横浜  地裁   H27.7.15
57 広島  地裁 福山 H27.10.14
58 千葉  地裁 松戸 H28.1.13
59 高松  地裁   H28.6.2
60 横浜  地裁   H28.7.20
61 名古屋 地裁 岡崎 H28.12.20
62 東京  地裁   H29.7.14
63 東京  高裁   H30.1.30
64 広島  地裁   H30.7.19
65 広島  地裁   H30.8.10
66 高松 高裁   H30.6.7

アダルトゲームの巨大広告に対する東京都青少年の健全な育成に関する条例の広告規制

アダルトゲームの巨大広告に対する東京都青少年の健全な育成に関する条例の広告規制
 
施行規則でいうと

一著しく性的感情を刺激するもの次のいずれかに該当するものであること。
イ全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
でしょうか。

https://www.bengo4.com/c_23/n_10366/
これに対し、東京都や千代田区には「あんなに胸の肌が露出している内容の広告を一般の道路沿いに出してよいのか」という問い合わせやクレームが相次いだという。東京都の都民安全推進課によると、11月5日に現地を訪れて調査。店舗の会社から、広告の意図や掲示期間を確認したという。

東京都には、有害図書などの指定について定める「東京都青少年の健全な育成に関する条例」があり、第14条で広告も対象となっている(有害広告物に対する措置)。

都民安全推進課では、今回の調査について、「表現の自由もありますので、直ちに広告を外せとか変えてくれという指導はしていません。条例違反であるかという判断をするとしたら、東京都青少年健全育成審議会にかける必要があります」と話す。

東京都に対して店側は「掲示期間は未定」と回答していたが、11月8日にはすでに取り外されていた。都民安全推進課では、「ネットなどでも問題視されており、世間的にどうなのかということから、今後は会社の方でも注意されていくのでは」と話している。

東京都青少年の健全な育成に関する条例の解説 (平成23年7月)
第2条この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
三広告物
屋内または屋外で公衆に表示されるものであって、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物に掲出されまたは表示されたもの並びにこれらに類するものをいう。

(有害広告物に対する措置)
第14条 知事は、広告物の形態またはその広告の内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、またははなだしく残虐性を助長し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、当該広告物の広告主またはこれを管理する者に対し、当該広告物の形態または広告の内容の変更その他必要な措置を講ずることができる。
(審議会への諮問)
第15条知事は、第5条の規定による推奨をし、第8条の規定による指定をし、または前条の規定による措置を命じようとするときは、東京都青少年健全育成審議会の意見を聞かなければならない。
2 知事は、前項の規定により、東京都青少年健全育成審議会の意見を聞くときは、第7章に規定する自主規制を行っている団体があるときは、必要に応じ、当該団体の意見を聞かなければならない。


解説
【要旨】
本条は、知事が、広告物の形態又はその広告の内容について東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると認める場合に、当該広告主又はその管理人に対し、当該広告物の形態又は広告の内容の変更その他必要な措置を命ずることができる旨を定めた規定である。
【解説】
「広告」とは、随時又は継続して、ある事項を広く一般の人に知らせることをいう。通常は、商業上の目的で行われることが多いが、必ずしも商業上の目的で行われるとは限らない。
「広告主」とは、商業上その他の目的で広告をする者をいう。ここで広告をする者とは、当該広告物を公衆に表示し、又は当該広告物を掲示する物件を設置することについて意思決定をした者をいう。
「広告物を管理する者」とは、直接であると間接であるとを問わず、広告の効用を全うするよう当該広告物を維持管理する者をいう。すなわち、広告主の委託に基づき当該広告物を管理する者はもちろん、企業体などにおける内部的な事務分掌により管理業務を行う者、広告主の申出等により自己の所有し又は占有する建物、工作物等に広告物を表示することを承認した広告代理業者なども広告物を管理する者である。
「その他必要な措置」とは、当該広告物の除去、掲示場所の移転等の措置が考えられる。
平成16年の条例改正において、認定基準で定めていた指定等の基準を施行規則で定めることになり、本条が措置を命ずる基準についても施行規則で規定することとなった。
なお、知事が、これらの措置を命じようとするときは、第18条の2に定める審議会の意見を間かなければならないことになっている。また、本条に違反すると、第26条の規定により罰則の適用がある。
【参考法令】
屋外広告物法第2条第1項(〈屋外広告物〉の定義)
〈本条に違反した者〉
第26条第3号により30万円以下の罰金(直罰)

施行規則
第28条
条例第14条の東京都規則で定める基準は、次の各号に掲げる種別に応じ、当該各号に定めるものとする。
一著しく性的感情を刺激するもの次のいずれかに該当するものであること。
イ全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
ロ,性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
ハ イ及びロに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するものと同程度に卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想さ’せるものであること。
二 甚だしく残虐性を助長するもの次のいずれかに該当するものであること.
イ暴力を不当に賛美するように表現しているものであること。
ロ残虐な殺人、傷害、暴行、処刑等の場面又は殺傷による肉体的苦痛若しくは言語等による精神的苦痛を刺激的に描写し、又は表現しているものであること。
ハ イ及びロに掲げるもののほか、その描写又は表現がこれらの基準に該当するも!のと同程度に残虐性を助長するものであること。

【解説】
本条も施行規則第15条及び第16条と同様、平成16年の条例改正において、認定基準から施行規則での規定となったものである。
第1号のイは第15条第1項第1号のイ、同号のロは第15条第1項第1号のロ、第2号のイは第15条第1項第2号のイ、同号のロは第15条第1項第2号のロと解釈は同じである。.
また、第1号のハ及び第2号のハの適用に関する考え方は、それぞれ、第15条第1項第1号の二と第15条第1項第2号の二と同じである。
第15条第1項における図書類と同様な描写又は表現がなされている看板、立看板、はり紙及びはり札を措置の対象とする。

児童買春に伴う盗撮行為(姿態をとらせて製造)を、「ひそかに製造罪」で起訴してしまい、弁護人が弁論で指摘するまで気付かずに審理していた事例(神戸地裁R01.6.28)

 ひそかに製造罪での逮捕・勾留も違法です。

判例ID】 28272995
【裁判年月日等】 令和1年6月28日/神戸地方裁判所/第4刑事部/判決/
【事件名】 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 市原志都
【出典】 D1-Law.com判例体系
【重要度】 -


■28272995
神戸地方裁判所令和01年06月28日
上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官寳官大貴、弁護人(主任)及び奥村徹(いずれも私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

理由
(罪となるべき事実)

「児童に,被告人と性交する姿態等をとらせ,~~もって①児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び②衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した」という3号ポルノの罪となるべき事実の記載(某支部R01)は理由不備。

 普通は「全裸で」「陰部露出し」「乳房露出し」という記載があるところ「性交する姿態等」では、全裸半裸なのかがわかりません。


 検察官も3号(衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの)に該当する具体的な事実を主張しないと、訴因不特定です。
 3号(衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの)に該当する具体的な事実を認定しないと、犯罪になりません理由不備です。
 

判例がある。

名古屋高裁H23.7.5
 次に,(2)の点について検討すると,原判決は,犯罪事実第1の2,第2の2,第3の2につき,法令の適用の項において,いずれも児童ポルノ処罰法7条3項,l項,2条3項1号,3号に該当すると判示しているのであるから,各犯罪事実において,同法2条3項1号のみならず3号に該当する姿態をとらせて児童ポルノを製造した旨の具体的事実をも摘示する必要があるというべきである。しかるに,原判決は,上記各犯罪事実において,各児童に「被告人と性交を行う姿態等」をとらせた上,これを写真撮影し,その静止画を記録媒体に記録させて描写し,もって「児童を相手方とする性交に係る児童の姿態等」を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した旨を摘示するにとどまり,児童ポルノ処罰法2条3項3号に該当する姿態をとらせて児童ポルノを製造した旨の具体的事実を摘示していないのであるから,原判決には,上記各事実に関し,罪となるべき事実の記載に理由の不備があるといわざるを得ない。
 論旨はこの点において理由がある。そして,原判決は,原判示第1の2,第2の2,第3の2の各児童ポルノ製造罪とその余の各罪とが刑法45条前段の併合罪の関係にあるものとして1個の刑を科しているから,結局,その余の控訴趣意について判断するまでもなく,原判決は全部につき破棄を免れない。
2 破棄自判
 よって,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決する。

児童ポルノ・児童買春法7条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

令和になっても、「『わいせつな行為』とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義概念に反する行為とされています。」という弁護士

 そもそも、高松地裁R01.9.4は、強制性交罪(177後段)・児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)・児童ポルノ製造罪なので、「わいせつ」とか「みだらな」という問題は出てきません。
 強制わいせつ罪の「わいせつ」については、大法廷h29.11.29で性的意図不要となったので、「性欲を刺激、興奮または満足させ」を含む点で妥当しなくなっています。わいせつの定義については最高裁判例がなく迷走中というのが正解です。

いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(金沢支部S36.5.2)
・・・
 性的自由を侵害する行為(大阪高裁 大法廷h29.11.29の控訴審
・・・
 「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。」東京高裁H30.1.30(奥村事件 上告棄却)
・・・

 「被告人が13歳未満の男児に対し,~~などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。」(広島高裁H30.10.23 奥村事件 上告中)
・・・
「わいせつな行為」に当たるか否かは,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである。(福岡高裁H31.3.15)

 馬渡調査官は定義しなくていいというのですが、おかげで迷走中です。

強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
最高裁平成29年11月29日大法廷判決最高裁調査官馬渡香津子 ジュリスト1517 p78
V・「わいせつな行為」の定義,判断方法
1. 「わいせつな行為」概念の重要性性的意図が強制わいせつ罪の成立要件でないとすれば, 「わいせつな行為」に該当するか否かが強制わいせつ罪の成否を決する上で更に重要となり, 「わいせつな行為」該当性の判断に際して,行為者の主観を一切考慮してはならないのかどうかを含め, これをどのように判断し,その処罰範囲を明確化するのかが問題となる。
また,強制わいせつ致傷罪は,裁判員裁判対象事件であることも考えれば, 「わいせつな行為」の判断基準が明確であることが望ましい。
2 定義
(1) 判例,学説の状況
強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」の定義を明らかにした最高裁判例はない。
他方, 「わいせつ」という用語は,刑法174条(公然わいせつ), 175条(わいせつ物頒布罪等) にも使用されており, 最一小判昭和26.5. 10刑集5巻6号1026頁は, 刑法175条所定のわいせつ文書に該当するかという点に関し, 「徒に性慾を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反するものと認められる」との理由でわいせつ文書該当性を認めているところ(最大判昭和32.3・13刑集ll巻3号997頁〔チャタレー事件〕も,同条の解釈を示すに際して,その定義を採用している),名古屋高金沢支判昭和36.5.2下刑集3巻5=6号399頁が,強制わいせつ罪の「わいせつ」についても, これらの判例と同内容を判示したことから,多くの学説において, これが刑法176条のわいせつの定義を示したものとして引用されるようになった(大塚ほか編・前掲67頁等)。
これに対し,学説の中には,刑法174条, 175条にいう「わいせつ」と刑法176条の「わいせつ」とでは,保護法益を異にする以上, 同一に解すべきではないとして,別の定義を試みているものも多くある(例えば, 「姦淫以外の性的な行為」平野龍一.刑法概説〔第4版) 180頁, 「性的な意味を有する行為,すなわち,本人の性的差恥心の対象となるような行為」山口厚・刑法各論〔第2版] 106頁, 「被害者の性的自由を侵害するに足りる行為」高橋則夫・刑法各論〔第2版〕124頁, 「性的性質を有する一定の重大な侵襲」佐藤・前掲62頁等)。
(2) 検討
そもそも, 「わいせつな行為」という言葉は,一般常識的な言葉として通用していて,一般的な社会通念に照らせば, ある程度のイメージを具体的に持てる言葉といえる。
そして, 「わいせつな行為」を過不足なく別の言葉でわかりやすく表現することには困難を伴うだけでなく,別の言葉で定義づけた場合に,かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。
また, 「わいせつな行為」を定義したからといって, それによって, 「わいせつな行為」に該当するか否かを直ちに判断できるものでもなく,結局,個々の事例の積み重ねを通じて判断されていくべき事柄といえ, これまでも実務上,多くの事例判断が積み重ねられ,それらの集積から,ある程度の外延がうかがわれるところでもある(具体的事例については,大塚ほか編・前掲67頁以下等参照)。

 さらに、青少年条例の「わいせつ」については、保護法益が違うので、刑法の定義を流用することはできず、青少年健全育成の観点から新規に考える必要があります。

https://www.news-postseven.com/archives/20191019_1470474.html
「東京ディフェンダー法律事務所」の弁護士・公認不正検査士の久保有希子さんが、違いを説明する。

「『わいせつな行為』とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義概念に反する行為とされています。特に強制わいせつ罪の『わいせつな行為』とは、キスや乳房を弄ぶ行為、裸にして写真を撮る行為などが該当します。

 一方、『みだらな行為』は主に地方自治体が定める青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)の中に出てくる表現です。

 最高裁は、淫行条例における淫行の意味について『青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう』と、判断していますが、条例は地方自治体によって異なるため、処罰される行為も自治体によって違います」

さいたま地裁h301121迷惑条例無罪

       主   文

 被告人は無罪。

       理   由

第1 本件公訴事実
   被告人は,正当な理由なく,平成29年8月19日午後9時34分頃から午後9時41分頃までの間,東京都北区(以下略)丙株式会社■■駅から同区(以下略)同社▽▽駅に向けて進行中の電車内において,甲(当時14歳)に対し,その陰部を着衣の上から手指で触るなどし,もって公共の乗物において,衣服その他の身に着ける物の上から人の身体に触れ,人を著しく羞恥させ,かつ,人に不安を覚えさせるような行為をしたものである。
第2 争点
   被告人及び弁護人は,被告人は痴漢行為をしていないとして無罪を主張している。被告人が公訴事実記載の時刻頃,公訴事実記載の電車(以下「本件電車」という。)に乗車し,被害者の近くにいたことに争いはなく,争点は,被告人が公訴事実記載の痴漢行為をしたかである。
第3 当裁判所の判断
 1 本件では,痴漢行為を証明する客観的証拠はなく,■■■(以下「甲」という。)から本件電車内で助けを求められたという■■■(以下「乙」という。)も痴漢行為を目撃しておらず,甲の証言が唯一の証拠となるから,この点を考慮した上で特に慎重な判断が求められる(最三小平成21年4月14日刑集63巻4号331頁等参照)。
   その結果,当裁判所は,甲の証言は真実を述べている可能性も十分にあると思料する一方で,合理的な疑いを超える証明が求められる本件刑事裁判においては,なお合理的な疑いを差し挟む余地は残るから,被告人は無罪と判断した。以下,その理由の詳細を示す。
 2 前提として,関係証拠によれば以下の事実が優に認められる。
  (1) 甲は,本件当日,午後9時26分に◇◇駅を発車する本件電車の先頭車両に乗車した。被告人も,同車両に乗車していた。
    本件電車の停車駅は,◇◇駅を発車後,××駅,■■駅,○○駅,○×駅,▽▽駅,×○駅の順である。
  (2) 本件電車は,◇◇駅発車時には,隣の人と肩が触れ合うぐらいの混雑具合であったが,その後の停車駅で乗客が降りて減っていき,▽▽駅を過ぎた頃には,被告人及び甲の周囲には数名の人が立っているだけの状況であった。
  (3) 甲は,▽▽駅から×○駅に向けて進行中の本件電車内において,スマートフォンで被告人の顔の写真を撮り,近くにいた乙に,被告人から痴漢被害に遭った旨を伝えた。甲と乙は一旦車両の後方に移動したが,甲が被告人を捕まえたいと言ったので,甲と乙は被告人に近付き,乙が被告人に「痴漢されましたよね」と申し向け,甲は被告人が背負っていたリュックサックを掴んだが,本件電車が×○駅に到着すると,被告人は甲の手を振りほどいて逃走した。
 3 甲の証言について
  (1) 当公判廷に証人として出廷した甲は,本件当日,池袋でライブを見た帰りに本件電車に乗って立っていたところ,◇◇駅発車後に被告人の傘の柄が甲の太ももの真ん中辺りに当たっているのに気付いた旨,××駅で他の乗客の邪魔にならないように一旦本件電車を降りて乗り直したが,被告人が再度目の前にいて,再び傘の柄の部分を左太ももに当てられ,その後当てられる位置が陰部の方に近付いてきた旨,■■駅を発車後は,被告人が右手の指3本で衣服の上から陰部を触ってきて,▽▽駅を過ぎて甲が被告人の写真を撮るまで,痴漢被害に遭っていた旨等を証言している。
  (2) この甲の証言について検討すると,甲の証言内容に明らかに虚偽と分かるような内容が含まれているわけではなく,また,本件当時14歳で,証言時15歳の甲があえて痴漢被害に遭ったと虚偽の被害を申告する動機も本件証拠上認定することはできないこと等に照らせば,当裁判所としても,甲が真実を述べている可能性も十分にあるものと思料する。
  (3) しかしながら他方で,甲の証言内容には以下に指摘するような事情もある。
   ア まず,甲が証言する痴漢被害は,■■駅を過ぎてから▽▽駅を過ぎるまで続いたというものであるが,▽▽駅を過ぎる頃までには本件電車内は空いてきていて,被告人及び甲の周囲には数名の人が立っているだけという状況で,甲の証言においても,痴漢行為が見える位置に乗客が立っていたと証言されている。そうすると,容易に他の乗客に見付かるような状況で被告人が本当に痴漢行為を継続し続けていたのか,常識に照らして疑問の余地が残る。
     もちろん,甲が真にこのような被害に遭ったからこそ,あえて一見不自然とも思われるこのような態様の被害を証言したという考え方も成り立ち得るところではあり,例えば客観的証拠や目撃証言等の他の証拠によって甲の証言の信用性が十分担保されていればそのような評価も可能であるとは思料するが,客観的証拠等のない本件においては,この点は,真にこのような痴漢行為があったのかについて合理的な疑いを差し挟む事情と見る余地が残るものといわざるを得ない。
   イ また,甲は,痴漢被害に遭っている間,数駅間にわたって,例えば本件電車が駅に着いた際に電車から降りるなど,痴漢被害から逃げるための行動を取っていない。
     痴漢被害に遭った女性が恐怖心等のあまりその場から動けなくなり,そのまま被害に遭い続けることはもちろんあり得るが,本件で甲は,痴漢被害に遭って少し経ってから,被告人の目を見て,被告人をにらみ付け,スマートフォンを用いてツイッターで友人に助けを求めたなどと証言している。以上のような行動は取ることができたものの逃げることだけできなかったという場合も否定はし切れないから,当裁判所としてもこの点から甲の証言が虚偽であると言うつもりはないけれども,合理的疑いが残るかが問題となる本件刑事裁判においては,以上のように被告人をにらみ付けたり,ツイッターで助けを求めることもできて,かつ,途中の駅でたくさん客が降りたことにも気付いていたと言う甲が,なぜ途中の駅に着いた際に電車から降りるなどの単純な行動が取れなかったのか,なお疑問の余地が残るものと評価せざるを得ない。
   ウ さらに,甲は,スマートフォンで被告人の顔の写真を撮った際の状況について,検察官からの主尋問に対しては,写真を撮ったことに気付かれたら被告人から暴力を振るわれると思い,被告人に気付かれないように,少し横にずれて,まだ陰部を触られている状況で,撮っているのが分からないように少し下から撮ったなどと証言していたが,その後の尋問に対しては,カメラのシャッター音は切っていなかった旨や,写真を撮った際には乙の方に助けを求めに向かい始めるところで既に被告人の手は陰部から離れていた旨等を証言している。
     このうち,写真を撮った際にも痴漢被害に遭い続けていたのかどうかについては,供述が一貫していないものの,短時間の出来事についての証言であり,この点の説明にやや齟齬が生じたこと自体は特段不自然ではないという評価も可能であるとは思われる。しかしながら,写真撮影時の心境やその態様については,被告人に暴力を振るわれるのが怖かったので気付かれないような態様で写真を撮ったと述べる一方で,シャッター音を鳴らして写真を撮っているなどの点で,必ずしもその説明が一貫しているとは言い難い。もちろん,痴漢被害に遭っている状況で冷静に状況を分析できずに,又はシャッター音のことを失念して,甲が証言するとおりの心境や態様で写真を撮ったという可能性はあるものの,そうであったと認定できる証拠もない以上,結局甲の証言からは,当時の心境や,なぜそのような態様で写真を撮ったのか,判然としない部分が残る。
   エ 加えて,甲は,近くにいた乙に助けを求め,一旦被告人から離れてから被告人を捕まえに行った際に,乙が被告人に「痴漢をしましたよね」と話し掛けたのに対して,被告人が片言の日本語で「ごめんなさい」と言っていたと証言している。
     しかしながら,この点について当公判廷で証言をした乙は,被告人が言葉を発した記憶は全くなく,被告人の声を聞いていない旨を証言している。乙の証言の信用性に何ら疑いはなく,当時被告人はごめんなさいと言っていなかったと認められるが,その場合,甲がなぜ,犯人性や故意等を裏付ける重要な供述となり得るこの「ごめんなさい」という言葉を被告人が言っていたと証言したのか,本件証拠上その理由は不明であり,刑事裁判の基本原則の下で考えれば尚更,様々な可能性が考えられると言うほかない。
   オ その他の証言内容を見ても,甲は,痴漢被害の内容について,右手の指3本で陰部を衣服の上から触られた,途中で指をまばらに動かされたり,陰部の手前から奥の方に触る場所を変えたりした旨証言するが,それ以上に触られ方や触られている間の心情等が具体的に証言されているわけではない。この点は,性的被害の内容を自身の口から積極的に語れないことはもっともである上,甲としては証人尋問の際に質問された内容に答えた結果がこのようになっただけではあるけれども,結果として証言された痴漢被害の内容が,必ずしも実際に経験した者でなければ証言できないほどの具体性や迫真性のある内容とはなっていない以上,この点からも合理的疑いを超える程に甲の証言の信用性が高いと評価することは困難である。
  (4)ア これに対して検察官は,被告人と面識がなく,本件前に被告人とトラブルを起こしてもいない甲には,あえて虚偽の被害を申告する動機はない旨を主張する。
     しかしながら,甲は痴漢被害の前に被告人の傘が太もも等に当たっていたと証言しており,本件前にトラブルがなかったという前提については,必ずしもそうであったとは言えない。
     その上で更に検討すると,確かに,本件で甲が虚偽の被害を申告する動機があると立証されているわけではない。しかしながら他方で,そのような動機がないという立証も十分にされていない。特に本件では,前記のとおり,被告人が「ごめんなさい」と言っていたとなぜ甲が証言したのか不明であるなど,甲の内心面には判然としない部分も残るのであって,そのような本件の具体的事情の下においては,動機について様々な可能性が考えられる以上,動機がないという十分な立証がされているとは認められない。
   イ また,検察官は,甲の証言内容が具体的かつ自然であるなどと主張しているが,本件で甲が証言する痴漢被害の内容が,必ずしも実際に経験した者でなければ証言できないほどの具体性や迫真性がある内容となっているとは言い難いことは既に述べたとおりである。
     なお,確かに甲の証言中,甲の太ももに被告人の傘の柄が当たるなどした状況についてはそれなりに具体的に述べられているとも思われるが,それに不満を抱いて本件被害申告をした可能性も否定はされていない上,いずれにしても,この点が具体的であるからといって,その後の痴漢被害について証言する部分についても合理的疑いを超えて信用できるとは言い切れない。
   ウ さらに,検察官は,被告人の顔をにらみ付ける以外に抵抗らしい抵抗はできなかったという甲の証言は,甲が降車予定であった○○駅で降車しなかった客観的状況と整合すると主張する。
     しかしながら,にらみ付けるなどの行動を取ることができた甲が,途中の駅に着いた際に電車から降りるという単純な行動をなぜ取ることができなかったかについては,様々な評価が可能ながらも疑問の余地が残ることは前記のとおりであり,この点から甲の証言が合理的疑いを超えて信用できると評価することはできない。
   エ 加えて,検察官は,乙の証言において,助けを求めてきた甲は涙目で,声も震えていて,すごく怖かった様子が伝わってきた旨が述べられていることから,甲の証言は信用できる旨を主張するが,これは乙が受けた印象の問題でもあり,この点を過度に重視するのは相当でない。
  (5) 以上の諸事情等を総合考慮した場合,甲の証言は真実を述べている可能性も十分にあるとはいえ,他方でなお合理的な疑いを差し挟む余地は残るから,甲の証言は,それのみで本件公訴事実を合理的疑いなく認定できるほどの高い信用性があるとは言えない。
 4 被告人の供述について
  (1) 他方で被告人は,本件電車内で立っていたところ,1メートルくらい離れた距離に立っていた甲が自分の写真を撮ったが,なぜ写真を撮られたか全く分からず,その後もう一人の女性の乗客と一緒に近づいてきてリュックサックを掴まれたが,女性が日本語で話している内容が分からず,怖くなったので逃走した旨一貫して述べて,本件公訴事実記載の犯行を否認している。
  (2) 検察官は,捜査段階において被告人が,本件当日は本件電車を○○駅で降りて別の電車に乗り換え,アルバイト先の工場に向かう予定だったと述べていたのに,当公判廷では■▽駅で乗り換える予定だったと述べていて供述が変遷している点,及び当公判廷において被告人が,捜査段階では○○方面で乗り換えると供述しただけで,○○駅で乗り換えるとは言っていないと供述している点等から,被告人の供述は一貫性を欠き信用できないと主張する。
    しかしながら,被告人は,捜査段階の取調べ時に,自分のアルバイト先をよく覚えていない旨を述べていて,実際,○○駅で乗り換える予定だったと供述しつつも,目的地は○○駅で乗り換える必要のない■▽駅だったと述べるなどしていて,乗換駅や目的地について混乱している様子が見受けられる。被告人は日本に来て間もない外国人であり,しかもアルバイト先の工場は派遣会社を通じて決められ,その都度行き先が異なっていたというのであるから,被告人が目的地や乗換駅について取調べ時に混乱していたとしても不自然ではない。また,当公判廷において被告人が,取調べDVDを見る前に,捜査段階で○○駅で乗り換えると言っていたことを否定していた点についても,単に捜査段階でどのように話していたかを覚えておらず,現在の認識を基にして,捜査段階でもそのように言ったことはないと思い込み,その旨供述しただけという可能性も十分に考えられる。よって,以上の点をもって,本件公訴事実を否定する被告人の供述が不合理で信用性を欠くとは言えない。
  (3) また,検察官は,事件後の被告人の行動に関連して,被告人が供述する翌朝の乗車履歴が被告人のIC乗車券にはなく,被告人の供述が信用できないと主張するが,そもそもこの点は本件公訴事実について虚偽を述べていることに直ちに結びつくものとは認め難いし,当時の精神的動揺や裁判までの時間の経過により被告人が逃走後の行動を正しく記憶していない可能性もあり,被告人が切符を買って電車に乗ったという可能性も否定はできない以上,この点から当公判廷における被告人の供述が信用できないとは言えない。
  (4) さらに,検察官は,被告人の供述は甲の証言と矛盾していて信用できないと主張するが,甲の証言にはそれのみで本件公訴事実を合理的疑いなく認定できるほどの高い信用性があるとは言えない以上,この主張も採用できない。
  (5) そして,その他被告人の供述に不自然な点は見受けられないから,被告人の供述の信用性は排斥されない。
第4 結論
   よって,被告人が本件公訴事実記載の犯行をしたと認定するには合理的な疑いが残るから,当裁判所は,刑事訴訟法336条により,被告人に対して無罪の言渡しをする。
(求刑 罰金30万円)
  平成30年11月21日
    さいたま地方裁判所第1刑事部
        裁判長裁判官  高山光明
           裁判官  加藤雅寛
           裁判官  中川大夢

復権によって「免許停止となった人が運転免許を取り直したり、医師免許などを取り上げられた人が再び国家試験を受けられるようになったりするほか、公職選挙法違反で失われた公民権も回復されます」ということはない


 運転免許については、前科による欠格がないので、影響ありませんし、欠格期間等の行政処分にも影響ありません。
 医師免許については、前科が直接取消になるわけではなく免許取消という行政処分がかんでいて免許取消になると5年間欠格になるという構造なので、復権しても免許は戻らない。

医師法第7条
3 前二項の規定による取消処分を受けた者(第四条第三号若しくは第四号に該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつた者として前項の規定による取消処分を受けた者にあつては、その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても、その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたとき、その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは、再免許を与えることができる。この場合においては、第六条第一項及び第二項の規定を準用する。

 公職選挙法252条1項の場合は、体裁上罰金刑による資格制限なので、復権されれば、選挙権・被選挙権が復活する。

公職選挙法
第二五二条(選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止)
1 この章に掲げる罪(第二百三十六条の二第二項、第二百四十条、第二百四十二条、第二百四十四条、第二百四十五条、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三及び第二百五十三条の罪を除く。)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
2この章に掲げる罪(第二百五十三条の罪を除く。)を犯し禁錮こ以上の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から刑の執行を終わるまでの間若しくは刑の時効による場合を除くほか刑の執行の免除を受けるまでの間及びその後五年間又はその裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。
3第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条又は第二百二十三条の二の罪につき刑に処せられた者で更に第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者については、前二項の五年間は、十年間とする。
4裁判所は、情状により、刑の言渡しと同時に、第一項に規定する者(第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられた者を除く。)に対し同項の五年間若しくは刑の執行猶予中の期間について選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず、若しくはその期間のうちこれを適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、第一項に規定する者で第二百二十一条から第二百二十三条の二までの罪につき刑に処せられたもの及び第二項に規定する者に対し第一項若しくは第二項の五年間若しくは刑の執行猶予の言渡しを受けた場合にあつてはその執行猶予中の期間のうち選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告し、又は前項に規定する者に対し同項の十年間の期間を短縮する旨を宣告することができる。


法務省のFAQができています

http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo08_00007.html
Q 復権の対象になれば,過去に納付した罰金は返金されますか。
A 返金されません。
Q 道路交通法違反により,罰金刑を受けるとともに,運転免許取消処分を受けました。復権の対象となることで,運転免許は戻ってきますか。
A 取り消された運転免許が戻ってくることはありません。欠格期間が短縮されることもありません。(運転免許取消処分は刑事処分を根拠に行うものではなく,違反行為を点数化し,その累積に基づき行うため,復権の効果は及びません。)

https://www.news-postseven.com/archives/20191101_1477311.html
具体的には誰が対象となったのか。法務省保護局総務課恩赦係に聞いた。。。。「免許停止となった人が運転免許を取り直したり、医師免許などを取り上げられた人が再び国家試験を受けられるようになったりするほか、公職選挙法違反で失われた公民権も回復されます」<<