児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「乳児遺棄容疑で少女2人逮捕、援助交際で妊娠 荒川河川敷に遺体」の相手男性の責任


 児童と知っていた場合は、児童買春罪となって、避妊しなかったこと・妊娠させたことは悪情状として考慮される。
 児童と知らなかった場合は、児童買春罪は不成立。青少年条例違反(過失)が検討されるが、普通、立件されない。

https://www.excite.co.jp/news/article/Jiji_20190826X442/
乳児遺棄容疑で少女ら逮捕=荒川河川敷に遺体―警視庁
 東京都足立区の荒川河川敷で6月、乳児の遺体が見つかった事件で、警視庁捜査1課は26日までに、死体遺棄容疑でいずれも東京都内に住む乳児の母親(17)と友人の少女(17)を逮捕した。2人は「間違いありません」と容疑を認めているという。

 同課によると、現場周辺の防犯カメラの映像などから母親らが関与した疑いが浮上した。母親は「(遺棄の)前日に自宅で産み落とした」と説明。援助交際で妊娠したと話している。出産時に乳児が生きていたかは不明という。

 逮捕容疑は6月24日ごろ、同区千住曙町の荒川河川敷に、生後間もない男の子の遺体を遺棄した疑い。 

 逮捕された児童の弁護人としては、被害者性を強調すべきでしょう。

第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
第一五条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
 厚生労働省法務省都道府県警察、児童相談所、福祉事務所その他の国、都道府県又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第一六条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
 国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
第一六条の二(心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の検証等)
 社会保障審議会及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証及び評価を行うものとする。
2社会保障審議会又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ厚生労働大臣又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
3厚生労働大臣又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。

「少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。」「準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。」事案について110万円を認容した事例(名古屋地裁H31.8.28)

 訴額は550万円

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019082990085138.html
性的虐待、祖父に賠償命令 孫の供述「信用できる」、名古屋地裁
 2014年に愛知県尾張地方で、当時中学1年生だった少女(17)が60代の祖父に性的虐待を受けたとして、550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日あり、名古屋地裁は祖父に約110万円の支払いを命じた。

 少女側代理人の弁護士や判決によると、同居の祖父と同じ寝室で寝ていた少女は14年秋から15年春にかけ、複数回にわたり下半身を触られるなどした。異変に気付いた中学校の教員が少女から事情を聴き、母親に連絡した。

 少女は17年8月、祖父を県警に告訴したが、事件から時間が経過し、直接証拠が少なかったこともあり、地検は18年7月に準強制わいせつ、準強姦(ごうかん)未遂罪について嫌疑不十分で不起訴にしていた。

 訴訟で祖父側は、孫に性的虐待をしたことはなく、少女の訴えは虚偽だなどと主張していたが、高木博巳裁判官は判決で「少女が祖父を陥れる虚偽供述をする動機はなく、少女の供述は信用できる」として、祖父の性的虐待を認めた。

 少女は現在、祖父とは離れて暮らしている。少女側代理人の弁護士は「刑事事件では決定的な証拠がない限り、起訴までのハードルが高い。勇気を出して訴えた少女の話を聞き、民事で性的虐待の事実を認める判決を出してくれたのは、少女の救いになる」と話した。
中日新聞

師弟関係の児童淫行罪で6/3起訴、7/18初公判結審(求刑4年)、8/28判決(2年6月実刑)(静岡地裁H31.8.28)

 あまり知られてませんが、師弟関係の児童淫行罪は6:4くらいで実刑の方が多いので、ちょっと争点作りながら罪体(余罪)を削って行かないと。

児童福祉法違反で元県立高教諭起訴-静岡地検
2019.07.05 静岡新聞
 静岡地検は4日までに、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で、元県立高教諭で30代の無職の男を静岡地裁に起訴した。
 起訴は6月3日付。起訴状などによると、男は高校教諭だった2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、10代の少女が18歳未満と知りながら複数回にわたり淫行させた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 男は4月に県教委から懲戒免職処分を受け、5月に県警に逮捕された。地裁は匿名で公判を行うことを決めている。
・・・・
児童福祉法違反の元教諭に4年求刑 静岡地裁初公判
2019.07.18 静岡新聞
 勤務していた高校の生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=の初公判が18日、静岡地裁(伊東顕裁判官)で開かれた。被告は起訴内容を認め、検察側が懲役4年を求刑、弁護側が執行猶予付き判決を求めて即日結審した。判決は8月28日。
 検察側は論告で「自ら生徒を誘い出し、自分の性欲を満たすために教員の立場を乱用した特に悪質な犯行」と指摘した。弁護側は「悪意はなかった」と酌量を求めた。
 起訴状などによると男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら複数回淫行をさせた上、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造したとされる。
 公判は被害者が特定される可能性がある「被害者特定事項」として匿名で行われた。
・・・
元教諭に実刑判決 児童福祉法違反 「卑劣な犯行」 静岡地裁
2019.08.28 静岡新聞
 勤務していた高校の女子生徒に淫行をさせるなどしたとして、児童福祉法違反と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われた元県立高教諭の30代の男=懲戒免職=に対し、静岡地裁は28日、懲役2年6月(求刑懲役3年6月)の実刑を言い渡した。
 伊東顕裁判官は判決理由で「青少年の健全な成長を促すべき立場の教師が被害者の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行」と非難。「反省の態度などを考慮しても刑の執行を猶予すべきではない」と実刑の理由を述べた。
 判決によると、男は2018年12月ごろから19年3月ごろまでの間、勤務校の女子生徒が18歳未満と知りながら県内で複数回淫行をさせ、携帯電話で動画を撮影し児童ポルノを製造した。

 検察側は初公判で懲役4年を求刑したが、動画の所有権放棄などの手続きを踏まえ、判決に先立ち求刑を懲役3年6月に変更した。公判は、被告の氏名について被害者が特定される可能性のある「被害者特定事項」と判断し、匿名で行った。

静岡地方裁判所
令和01年08月28日
 被告人に対する児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官山根誠之、弁護人内田隼二各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役2年6月に処する。

理由
(犯罪事実)
第1 被告人は、●●●高等学校の教諭として、同校●●●部の顧問をしていたものであるが、同校の生徒であり、同部の部員である●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、その立場を利用し、同児童が自己に好意を寄せていることに乗じ、
 1 平成30年12月11日午後4時55分頃から同日午後6時52分頃までの間に、静岡県●●●所在のホテル●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 2 平成31年3月11日午後7時頃から同日午後7時43分頃までの間に、同県●●●所在の同校●●●において、同児童に自己を相手に性交させ、
 3 同月26日午後5時頃から同日午後5時15分頃までの間、同県●●●から北北東方向図測約177メートル先空き地に駐車中の自動車内において、同児童に自己を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をした。
第2 被告人は、前記●●●(当時17歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第1の1の日時、場所において、同児童に、その乳房、陰部を露出した姿態、被告人の陰茎を口淫する姿態及び被告人と性交する姿態をとらせ、これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その動画データ1点をその携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
(証拠の標目) (カッコ内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
 
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
(量刑の事情)判示事実全部について
  1 被告人の公判供述、検察官調書(乙12)、警察官調書(乙7、8)
  2 ●●●の検察官調書(甲3)、警察官調書(甲1、2、9)
  3 警察官作成の実況見分調書(甲10)、捜査報告書(甲11、12、18)
 判示第1の事実について
  1 被告人の検察官調書(乙6、11)、警察官調書(乙5、9、10)
  2 ●●●の警察官調書(甲13)
  3 警察官作成の捜査報告書(甲5、6、8)、実況見分調書(甲7、14)、電話聴取書(甲15)
判示第2の事実について
  1 警察官作成の実況見分調書(甲19)、捜査報告書(甲20、16)
(法令の適用)
  (1) 罰条
  (ア) 第1の行為 包括して、児童福祉法60条1項、34条1項6号
  (イ) 第2の行為 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項(2条3項1号、3号)、2項
  (2) 刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
  (3) 併合罪加重 刑法45条前段、47条本文、ただし書、10条(重い判示第1の罪の刑に加重)
 本件は、高校の教諭であった被告人が、顧問として指導していた部活動の部員で、当時17歳の被害者に対し、〈1〉自己を相手方として3回にわたり性交させて淫行した児童福祉法違反1件と、〈2〉その性行為等の場面を動画撮影して児童ポルノを作成した児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件の事案である。
 被告人は、悩みを抱えていた被害者をドライブに連れ出した際、被害者から「好きです。」などと告白され、被害者との交際を断れば、被害者の精神状態が悪化するなどと考え、交際を続け、本件各犯行に及んだというのであるが、仮にそのような事情があったとしても、妻子がいて被害者の好意に応じ難い立場である上、教諭として、また、部活動の顧問として、未成年者の健全な成長を促すべき立場にあるにもかかわらず本件犯行に及んだものであるから、本件は、被害児童を保護すべき立場の者が、逆に、被害児童の思慮分別の未熟さに付け込んだ身勝手で卑劣な犯行というべきであって、強い非難に値する。しかも、被告人が、判示のとおり児童ポルノの撮影に及んだほか、●●●あるいは、妻に被害者との関係が発覚した後もひそかに関係を続けるなどしていたことも考慮すると、被告人は、もっぱら自らの性欲を満たすため、被害者をもてあそんでいたといわざるを得ず、被害者の今後の成長に与える影響も憂慮される。被害者の家族が被告人の厳重処罰を求めるのも無理からぬものがある。
 そうすると、本件は、被害者を保護すべき立場の被告人が、被害者の情操を甚だしく害したという悪質な犯行というべきであって、以下のような被告人のために酌むべき事情を考慮しても、その刑の執行を猶予するのが相当であるとはいえない。
 すなわち、被告人が事実を認めて反省の態度を示していること、被害者の宥恕は得られなかったものの、賠償金として200万円を支払って示談したこと、当然のこととはいえ、●●●妻が情状証人として出廷し、被告人の更生を支援する旨証言していること、フォークリフトの免許を取るなど社会復帰を目指した取り組みを始めたことなど、被告人のために酌むべき事情も認められ、これらの事情を考慮すると、前記のとおり刑の執行を猶予するのは相当ではないものの、被告人を主文の刑に処するのが相当である。
(求刑-懲役3年6月)
刑事第1部
 (裁判官 伊東顕)

インターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムは不正指令電磁的記録に該当する(徳島地裁h30.12.21)

 こういう争点で良かったでしょうか

徳島地裁平成30年12月21日 
事件名 不正指令電磁的記録供用、不正指令電磁的記録作成、有印私文書偽造・同行使被告事件
 上記の者に対する不正指令電磁的記録供用,不正指令電磁的記録作成,有印私文書偽造・同行使被告事件について,当裁判所は,検察官安藤翔,弁護人木村正各出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,
 第1 正当な理由がないのに,平成27年11月8日から同月20日までの間,徳島市〈以下省略〉所在のホテル「a」又は同市〈以下省略〉所在のホテル「b」において,Aが使用する携帯電話機に,「○○」と称するインターネット回線を通じて携帯電話機の位置情報の取得等の指令を与えるプログラムを,同人に秘してインストールした上,同プログラムが実行可能な設定を行い,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第2 正当な理由がないのに,平成28年2月12日午後7時37分頃から同日午後8時27分頃までの間,徳島市内又はその周辺において,人の電子計算機における実行の用に供する目的で,電子計算機を使用して,携帯電話機を用いて実行した際,実行者の意図に基づかず,携帯電話機の位置情報等をインターネット回線を通じて特定のサーバコンピュータに送信するなどの指令を与える電磁的記録である「△△」を作成し,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し,同日午後8時27分頃,同市〈以下省略〉所在のc店駐車場において,Aが使用する携帯電話機に,前記「△△」を同人に秘してインストールして実行可能な状態にし,もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を,人の電子計算機における実行の用に供した。
 第3 平成29年5月上旬頃,徳島市〈以下省略〉所在の被告人方において,行使の目的で,パーソナルコンピュータ等を用いて,「借用書」「Y様」「金伍拾萬円也」「上の金額を以下の約定とおり借り受けました。」「1.利息は年利8%とします。」「2.毎月25日を返済日とします。」「3.遅延損害金は年29%とします。」「元金に利息を付して,平成28年11月25日より,貴殿の指定する銀行口座に元利均等により毎月伍萬円ずつ振込にて支払います。」「平成28年5月9日」「借受人」などと印字した書面を作成し,同書面の下部にAの郵便番号,住所及び氏名を記入し,もってA作成名義の借用書1枚(平成30年押第12号の1)を偽造し,その頃から同年7月3日までの間,徳島県内又はその周辺において,コピー機を使用して同借用書の写し1枚を作成し,もって同人作成名義の借用書の写し1枚(平成30年押第12号の2)を偽造した上,同年7月3日,徳島市〈以下省略〉所在の徳島簡易裁判所において,同裁判所職員Bに対し,前記偽造に係るA名義の借用書の写し1枚を真正に成立したものであるかのように装って提出して行使した。
 (証拠の標目)
 括弧内の番号は,検察官請求証拠の証拠番号を示す。
 判示事実全部について
 ・被告人の公判供述
 判示第1及び第2の事実について
 ・証人Aの公判供述
 ・警察官作成の検証調書(甲32)
 判示第1の事実について
 ・第1回公判調書中の被告人の供述部分
 ・Aの警察官調書(甲12,13。いずれも不同意部分を除く。)
 ・d株式会社代表取締役社長作成の「回答書」と題する書面(甲8)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲1ないし6),同抄本(甲9,10),捜査関係事項照会書謄本(甲7)
 判示第2の事実について
 ・第3回公判調書中の被告人の供述部分
 ・四国管区警察局徳島県情報通信部情報技術解析課長作成の「解析結果について(回答)」(甲20),「解析結果について(回答)(第一報)」(甲22),「解析結果について(回答)(第二報)」(甲23),「解析結果について(回答)(終報)」(甲24)とそれぞれ題する書面
 ・徳島中央警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲19)
 ・徳島東警察署長作成の情報技術解析要請書謄本(甲21)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲15,17,18,26,29,30,38),同抄本(甲16,25,28)
 判示第3の事実について
 ・被告人の警察官調書(乙10,11)
 ・被告人作成の任意提出書(甲48)
 ・B(甲44),A(甲45。ただし,不同意部分を除く。)の各警察官調書
 ・徳島地方裁判所長作成の「捜査関係事項照会書について」と題する書面(甲43)
 ・警察官作成の捜査報告書(甲39ないし41,47,53),捜査関係事項照会書謄本(甲42),領置調書(甲49),差押調書(甲51)
 ・押収してある偽造された借用書1枚(甲50,平成30年押第12号の1),偽造された借用書写し1枚(甲52,同号の2)
 (争点に対する判断)
 本件の争点は,①判示第1に係る「○○」のインストールに関するAの同意の有無,②判示第2に係る「△△」(以下「本件プログラム」という。)をAの携帯電話機にインストールしたのが被告人か否か,③同プログラムが不正指令電磁的記録に該当するか否かである。
第1 「○○」のインストールに関するAの同意について
 1 関係証拠(甲1ないし10,12,13,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,平成27年9月下旬頃ないし同年10月頃,いわゆる出会い系サイトを通じてAと知り合い,その頃から交際し,肉体関係を持つようになった。
 判示第1の「○○」は,インターネット回線を通じて,インストールされた携帯電話機に対して位置情報取得等の指令を与えるプログラムで,紛失した携帯電話機を探す際などに使用される。
  (2) 被告人とAは,同年11月8日に前記「aホテル」205号室を利用したところ,在室中の同日午後3時43分頃,被告人は,Aの携帯電話機に「○○」をインストールした。
 また,被告人とAは,同月20日午後8時33分頃から同日午後11時42分頃までの間,前記「bホテル」108号室を利用したところ,在室中の午後11時16分頃,被告人は,Aの携帯電話機を使ってデジタルコンテンツの配信サイトで「○○」の検索をした。
  (3) 被告人は,同日午後11時19分頃から同年12月2日午後3時12分頃までの間,「○○」により,Aの携帯電話機の位置情報や電話番号,SIMカードのシリアルナンバーを取得して自己のパソコンに保存した。また,取得したAの携帯電話機の位置情報を基に,Aの外出先をインターネットの掲示板サイトに書き込むなどした。
  (4) 被告人は,平成28年1月7日,Aと会い,Aとの会話を無断で録音した。この中で,Aが,位置情報が外部に漏れていることを懸念する趣旨の発言をしたのに対し,被告人は,Aの携帯電話機を調べてみる旨答えた後,「あっ,これかな,○○」,「まあ言えば,監視をさせるアプリ」,「入れられたかもしれんね」などと発言し,Aも「何これ,どこからついてきたんですか」などと述べるやりとりの後,被告人は「○○」をアンインストールした。
 2 Aの供述について
  (1) Aは,公判廷において,被告人とホテルを利用した際,被告人に携帯電話機へアプリのインストールをしてもらったことはないし,「○○」のインストールにも心当たりはない旨供述する。
 A及び被告人は,前記のとおり,「○○」をアンインストールする際,Aがそれまで「○○」がインストールされていたことに気付いておらず,被告人も「○○」のインストール等に関与していないことを前提とする会話をしており,Aの供述は,これらの会話とよく整合する自然なものである。また,Aの携帯電話機への「○○」のインストールは,被告人とAがホテルを利用している間に行われており,被告人が,Aの入浴中などに,Aに秘して上記インストールを行うことは可能な状況であった。
 確かに,弁護人も指摘するように,Aの公判供述には,前記各ホテル内での被告人とのやりとり等,覚えていないことが多い。しかしながら,いかに記憶が減退したといっても,自身の外出先の情報をインターネット掲示板に書き込まれたのを知り,その原因である「○○」のアンインストールに立ち会ったAが,被告人による「○○」のインストールやそれに同意したことすら忘れて前記のような会話をするとはおよそ考え難い。Aに,被告人を陥れる虚偽の供述をする具体的な動機も見当たらず,Aの上記供述は信用することができる。
 3 被告人の供述について
 一方,被告人は,公判廷において,「○○」のインストールにつきAの同意があった,前記の会話は,Aがストーカー被害に遭っているような状況を楽しむ疑似ストーカー体験の一環として行ったものであるなどと供述する。しかしながら,前記の会話は,「○○」のインストールをあらかじめ知っていた者同士の会話として余りに不自然であるし,Aも被告人の言うようなことは述べていない。また,Aが,出会い系サイトで知り合って2か月程度の被告人に対し,日常的な位置情報という高度のプライバシー情報を与えるプログラムをインストールさせ,さらに被告人がいうように外出先情報のインターネット掲示板への書き込みまで承諾したというのも不自然であって,被告人の供述を信用することはできない。
 4 結論
 以上のとおり,「○○」のインストールについてAの同意はなく,被告人がAに秘して行ったと認められる。
 なお,前記のとおり,「○○」は平成27年11月8日にインストールされているものの,実行可能になったのは同月20日である。同日に実行可能となった「○○」が,同月8日にインストールしたものか,被告人が述べるように同月20日に再インストールしたものか,携帯電話機の解析上客観的に明確とはいえないため,インストールの日時・場所については,判示第1(公訴事実)のとおり認定するのが相当である。
第2 本件プログラムをインストールした者及び同プログラムの不正指令電磁的記録該当性について
 1 関係証拠(甲15ないし25,29,30,38,証人A,被告人の公判供述)によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,判示第2の日時,場所において,本件プログラムを作成した。本件プログラムは,携帯電話機の画面上,市販のプログラム「□□」と同じアイコンとともに「□□」と表示され,インストールされた携帯電話機に対し,10分間隔でその位置情報を被告人が運営・管理するウェブサイトのスクリプトファイルに送付する指令を与えたり,Aの自宅付近や職場付近等のWi-Fiのアクセスポイントを検知することで同様の指令を与えたりする機能を有しており,インストール後,上記のアイコンをタップしてアプリを実行することでデータ送信等が開始される。
  (2) 被告人とAは,交際関係を解消する話になって,互いの携帯電話機内のメールデータ等を消去するため,平成28年2月12日夜,判示第2の駐車場で会い,被告人の自動車内において,互いの携帯電話機を交換し,メールや画像ファイル等の個人情報を削除するなどした。同日午後8時24分頃から同日午後8時44分頃までの間にも,被告人はAとの会話を無断で録音しており,同日午後8時28分頃,被告人は,「消しますよ。完全に削除。中断するよ,ちょっと何か受信中。実施しました。」と発言した。
 一方,本件プログラムは,同日午後8時27分頃,Aの携帯電話機にインストールされた。被告人は,同日午後8時31分頃から同年4月20日にかけてその位置情報等を取得し,一旦交際を続けることとなったAとの関係が再び悪くなった後,取得した位置情報等を用いてAの位置情報や職場の情報をインターネット掲示板に書き込んだ。
 2 前記のとおり,被告人とAが二人きりで会い,被告人がAの携帯電話機のメール等を削除する内容の発言をしているのと同時刻頃に本件プログラムがインストールされていることからすれば,被告人がそのインストールを行ったことはかなり強く推認される一方,被告人以外の者がインストールをしたとは考え難い。さらに,本件プログラムは両者が会う前50分以内に被告人によって作成されていること,本件プログラムには,Aの自宅や職場付近への接近を検知して位置情報を送る機能があったことからすれば,本件プログラムをインストールし,実行可能な状態にしたのは,被告人であると認められる。
 3 これに対し弁護人は,被告人はAと前記駐車場で会う前に,本件プログラムを自慢するため,メールに添付してAに送信し,Aと会った際にもそのメールを再送信したので,Aがこれに誤って触れたことで,気付かないうちにインストールされた可能性があると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,被告人とAは,両者の交際関係を解消するために会うことになっていたにもかかわらず,その直前に,Aの位置情報を探知するなどの機能を備えた本件プログラムを,自慢するためメールに添付して送信したというのは不自然である。Aの携帯電話機にインストールされた時刻ないしその前後頃,Aとの間で本件プログラムに関する会話はなされておらず,Aも被告人からそのような話があったとは述べていないのであって,この点に関する被告人の供述を信用することはできない。なお,弁護人は,本件プログラムがAの携帯電話機にインストールされた頃,同じ車内にいたはずの被告人とAの各携帯電話機が拾っているWi-Fiのアクセスポイントが異なっていることなどにつき,本件証拠上合理的な説明がなされていない旨主張し,被告人も同様の供述をするが,近くにある携帯電話が必ずしも同じアクセスポイントに接続されるとは限らず,被告人が,前記の車内でAの携帯電話機のメール削除等の操作を行っていたことは,Aと被告人の供述その他の証拠から明らかであって,この点に関するその余の弁護人の主張も採用の限りでない。
 4 以上のとおり,本件プログラムのインストールや実行可能な設定は,被告人が行ったと認められ,前記の会話内容や本件プログラムの機能からすると,Aは上記のインストール等を知らなかったと認められる。
 5 本件プログラムが,インストール先の端末に,Aの自宅等を含む位置情報等を被告人の管理するサーバへ送る指令を与えるものであること,アイコンや名称が市販のアプリケーションと同一で,インストール先の端末使用者を誤信させ得るものであったこと,被告人がAに秘してその携帯電話機にインストール等を行い,その位置情報等を取得していることからすれば,本件プログラムは,Aの意図に反してその携帯電話機に上記のような動作をさせる不正の指令を与えるものであって,不正指令電磁的記録に該当すると認められる。
 (法令の適用)
 罰条 判示第1の行為につき刑法168条の2第2項,1項
 判示第2の行為のうち不正指令電磁的記録作成の点につき刑法168条の2第1項1号,同供用の点につき同条第2項,1項
 判示第3の行為のうち各有印私文書偽造の点につき包括して刑法159条1項,同行使の点につき同法161条1項,159条1項
 科刑上一罪の処理 判示第2の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第2の不正指令電磁的記録作成と同供用との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い不正指令電磁的記録供用の罪の刑で処断)
 判示第3の罪につき,刑法54条1項後段,10条(判示第3の各有印私文書偽造のうち借用書写しに係るものと偽造有印私文書行使との間には手段結果の関係があるので,1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使の罪の刑で処断)
 刑種の選択 判示第1,第2の各罪につきいずれも懲役刑を選択
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 没収 刑法19条1項1号,2項本文(押収してある偽造された借用書1枚(平成30年押第12号の1)及び偽造された借用書写し1枚(同号の2)の各偽造部分は,いずれも判示第3の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないもの)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 本件は,被告人が,被害者の使用する携帯電話機に,位置情報の取得等の不正な指令を与えるプログラムをインストールするなどし(第1),同様の機能を有する別のプログラムを作成して上記携帯電話機にインストールするなどし(第2),被害者名義の借用書及びその写しを偽造し,その写しを裁判所に提出して行使した(第3)という不正指令電磁的記録供用,同作成,有印私文書偽造及び同行使の事案である。
 被害者の位置情報という重要なプライバシーの侵害を可能とする不正なプログラムを,市販のアプリケーションソフトを偽装するなどして密かに作成ないし供用した第1,第2の各犯行は,携帯電話機のプログラムに対する社会の信用を害するとともに,被害者に大きな不安を与えた陰湿なもので,取得した情報の一部をインターネット掲示板に流出させたことも見過ごせない。第3の偽造行為も,被害者の筆跡を練習して借用書やその写しを偽造した周到なもので,そのような偽造文書を証拠として裁判所に提出するという行使の態様も,相手方である被害者に不当な負担を与え,司法制度に悪影響を及ぼしかねない悪質なものである。
 被告人の刑事責任は到底軽視できず,また第1,第2の各犯行について不合理な弁解に終始する被告人から反省の意思を看て取ることもできないものの,前科のない被告人につき,前記の犯情から直ちに実刑に処すべきであるとまでは認め難い。第3の犯行については被害者との間で130万円を支払うことなどを内容とする示談が成立してその示談金を支払っていること,父親が監督を誓約していることなども考慮すると,被告人については,主文の刑に処し,責任の所在を明らかにした上で,今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当である。
 (求刑 懲役2年,主文の借用書及び借用書写しの没収)
 徳島地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 坂本好司 裁判官 佐藤洋介 裁判官 平山裕也)

 脅迫による児童ポルノ要求行為(府青少年健全育成条例違反容疑)

 やっぱり送っちゃってる事案です。既遂・既遂で最後が未遂になってる。
 脅迫があると、威迫・困惑に該当しないことになります。
 脅して送らせたら強制わいせつ罪、脅して送信要求したら、強制わいせつ罪未遂。じゃないですか。

大阪府青少年健全育成条例
(青少年に児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第四十二条の二 何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春・児童ポルノ禁止法第二条第三項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録をいう。)の提供を求めてはならない。

(平三一条例七・追加)
第五十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
三 第四十二条の二の規定に違反した者であって、次のいずれかに該当するもの
イ 当該青少年に拒まれたにもかかわらず、当該提供を求めた者
ロ 当該青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は当該青少年に対し、対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該提供を求めた者
第六十一条 この条例の罰則は、青少年に対しては、適用しない。ただし、青少年が営む営業に関する罰則の適用については、この限りでない。

わいせつ動画要求:裸の自撮り 容疑で高校生書類送検 阿倍野署 /大阪
2019.08.24 毎日新聞
 阿倍野署は23日、女子高校生に自らのわいせつ動画を送るよう要求したとして、府内の男子高校生の少年(15)を府青少年健全育成条例違反などの疑いで書類送検した。

 4月の条例改正で、自身の裸の画像を送信するよう求める「自画撮り」要求などが罰則対象になった。府内での摘発は初めて。

 送検容疑は6月17~18日、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、府内の女子高校生にわいせつな動画を送信するよう求めたとしている。「性的欲求を満たすためにやった」と容疑を認めている。

 同署によると、女子高校生は昨年12月、少年から「悪いうわさを学校に流す」と脅されて動画を送信。今年6月に再度、動画を要求されていたという。【野田樹】
・・・
わいせつ動画要求 15歳容疑で書類送検=大阪
2019.08.24 読売新聞
 女子高校生にわいせつな動画を送るよう要求したとして、阿倍野署は23日、府内に住む高校生の少年(15)を府青少年健全育成条例違反容疑などで書類送検した。4月施行の改正条例は18歳未満にわいせつな動画などの提供を求める行為を禁じており、適用は初めて。少年は「性欲を満たすためにやった」と容疑を認めているという。

 発表では、少年は6月、SNSを通じて府内の女子高校生に対し、18歳未満と知りながら、わいせつな動画を要求した疑い。

青少年条例違反(わいせつ行為)につき、「体は触ったがわいせつの意図はない。納得できない」と弁解している事例

道の解説では

「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、興奮させたり、その露骨な表現によって、健全な常識ある一般社会人に対し、性的な差恥、嫌悪の情をおこさせる行為をいう。

とされていて、刑法の強制わいせつ罪の昔の判例の定義をそのまま流用していますが、大法廷h29.11.29以降、強制わいせつ罪のわいせつの定義はないので、青少年条例の関係でも再定義が必要でしょう。性的意図の要否も検討する必要があります。
 強制わいせつ罪のわいせつの定義については、保護法益からダイレクトに「性的自由を侵害する行為」「性的羞恥心を害する行為」と説明する見解がありますが、青少年わいせつ罪についてその論法で行けば、「青少年の健全育成を害する行為」としか定義できないことになります。性行為なので「青少年の健全育成を害する性的行為」としてみても同じです。さらに、青少年わいせつ行為についても、福岡県青少年条例違反被告事件判決のいう「広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う○○行為のほか、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような○○行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)」を加味する必要があって、定義は困難です。
 ここでも裁判所にわいせつの定義を聞いて欲しいところです。

北海道青少年健全育成条例の解説h26
【趣旨】
本条は、青少年に対してなされる淫行又はわいせつな行為や、わいせつな行為をさせ、又は淫行若しくはわいせつな行為を教え、見せる行為を禁止する規定である。
【解説】
青少年は、成人と比べその心身が未発達の部分が多く、精神的に判断能力も乏しいことから、成人が青少年を性の対象として不道徳な行為を行うことは、青少年にとって痛手となり、後々まで大きな傷手となる。
このような青少年の特質に配盧してその健全な育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止したものである。
1 第1項関係
(1) 第1項は、青少年を誘惑し、又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為を禁止しているものである。
(2) 「何人も」とは、第20条の解釈と同様である。
(3) 「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般を言うものではなく、
○青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させるなど、その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
のほか、
○青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
をいう。
(4) 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、興奮させたり、その露骨な表現によって、健全な常識ある一般社会人に対し、性的な差恥、嫌悪の情をおこさせる行為をいう。
(5) 「してはならない」とは、青少年を相手方として、淫行又はわいせつな行為を行うことを禁止しているのであり、相手方の同意、承諾の有無及び対価の授受の有無を問わない。

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20190822/7000012955.html
自立支援施設 わいせつ容疑逮捕
08月22日 03時38分
札幌市にある障害者の自立支援施設の職員が、知的障害があって施設に通う女子高生の体を服の上から触るわいせつな行為をしたとして逮捕されました。
男は「わいせつの意図はない」と容疑を否認しているということです。
逮捕されたのは、札幌市北区に住む障害者の自立支援施設の職員、容疑者です。
先月13日ごろ、勤務先の施設に通う知的障害のある16歳の女子高生の体を服の上から触るわいせつな行為をしたとして、道の青少年健全育成条例違反の疑いが持たれています。
警察が捜査したところ、体を触ったことを認めたことから逮捕しました。
女性が、高校の教師に「体を触られた」と訴えて家族を通じて警察に通報したことから事件が発覚しました。
警察の調べに対し、「体は触ったがわいせつの意図はない。納得できない」と供述し、容疑を否認しているということです。
この施設は、NPO法人が運営する通所型の障害者自立支援施設で、女性は6年ほど前から通っているということです。

エアドロップ痴漢は、わいせつ電磁的記録記録媒体公然陳列罪・頒布罪(刑法175条1項)か卑わい行為(福岡県迷惑行為防止条例6条1項2号)か

「女性のわいせつな画像を同県糸島市の男性(34)のアイフォーンに送信した疑い。」ということで、送信した画像が、刑法のわいせつな画像であって誰彼無く送信した場合は、わいせつ電磁的記録記録媒体公然陳列罪ないしは頒布罪が成立して、卑わい行為には該当しない可能性があります。
 

条解刑法
不特定又は多数の人への交付・譲渡等であるから,不特定かつ多数の場合のみでなく,不特定かつ少数の場合も,特定かつ多数の場合も,それに該当する。たまたまl名の顧客に交付・譲渡等したに過ぎない場合であっても,それが不特定又は多数の人に対して交付・譲渡等する意思でされたものであれば,頒布に該当する(東京高判昭47・7・14判タ288-381,東京高判昭62・3・16判時1243-141)
・・・
わいせつ図画頒布等被告事件
東京高等裁判所判決昭和47年7月14日
東京高等裁判所判決時報刑事23巻7号136頁
       判例タイムズ288号381頁
 所論は、原判決がその第一の一、二において、わいせつ図画頒布の事実を認定し、これに刑法第百七十五条前段を適用しているけれども、もともと「頒布」とは不特定または多数人に対し無償で交付することをいうのであるが、本件において頒布を受けたのは孝平という特定人であるから、特定人に対する無償交付は「頒布」ということはできない。これを頒布行為であるとした原判決は法令の解釈適用を誤つたもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
 よつて案ずるに、わいせつ図画の頒布罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定または多数人に無償交付することを要することは所論のとおりであるが、不特定または多数人に対してなす目的のもとに無償交付がなされるかぎり、特定の一人に対して二回の無償交付をなしたに止まる場合といえども、これを「頒布」行為というを妨げないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決挙示の判示第一の一、二関係の諸証拠を総合すると、本件わいせつ写真集は、定也にたのまれて、被告人が自分の分をも含めて三千部を印刷の営業部長に依頼して作成したものの一部であり、被告人はパチンコ店「」で同店々員孝平に対し八ミリのわいせつフィルムを賃貸したいと申し入れたことがあること、被告人が「牡丹」に来るとき、いつも黒皮製の鞄の中の紙袋に、わいせつブック、春画をもつていたこと、孝平は他の店員から、被告人が他の店員にもわいせつ物を売りに来たことがあると聞いたことがあること、被告人が孝平に交付したものと、同種のものを矗士にも販売していること、などの諸事実が認められ、これらの事実を総合すると、被告人にはわいせつ図画を不特定または多数人に対して交付する目的があつたと認定するのが相当である。このような目的のもとに関根孝平に対して本件図画を無償交付した以上、これを「頒布」行為と評価するに何ら間然するところはない。これと同旨に出た原判決には何ら所論のような法令の解釈適用の誤りはなく、論旨は理由がなく、採用できない。
・・・・
東京高等裁判所判決昭和62年3月16日
判例時報1243号141頁
       理   由
 本件控訴の趣意は、弁護人海部安昌、同相原宏各作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官小林永和作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。
 一 弁護人海部安昌の控訴趣意第一(理由不備の主張)について
 論旨は、わいせつ図画販売罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定又は多数の人に売ることが必要であり、一回の売渡しをもって右販売罪が成立するとするには、その売渡しが、不特定の人を相手方とするものであることのほか、不特定又は多数の人を対象とする反復の意思のもとになされたものであることが必要であるとされており、右要件は、判決の「罪となるべき事実」に判示されなければならないところ、原判決は、被告人が昭和六〇年一一月一〇日Aにわいせつビデオテープ二巻を売り渡した、という、A一人に対するただ一回の売渡しの事実を認定し、もって被告人がわいせつ図画を販売したものと判示しているが、右Aが特定人であれば右販売罪は成立しないのであるから、同人が不特定人であることの判示は不可欠であるのに、その旨の判示をしておらず、また、右売渡しが反復の意思をもってなされたことの判示もなく、原判決の右判示によっては、わいせつ図画販売罪の成立を認定するに由なきものであって、右の点において原判決には理由不備の違法がある旨主張する。
 そこで検討するに、刑法一七五条のわいせつ図画販売罪について有罪判決をするには、罪となるべき事実として、当該わいせつ図画を不特定又は多数の者に有償譲渡したという、「販売」にあたる事実を判示すべきであり、本件のように、当該行為が一人の者に対する一回の売渡しである場合には、それが不特定の者に対する売渡しであって、反復の意思でなされたものであることが明らかであるように判示すべきものと解されるところ、原判決は、罪となるべき事実として、「被告人は、静岡県浜松市丸塚町《番地略》所在のビデオテープのレンタル業『ビデオショップ甲田』店を経営している者であるが、昭和六〇年一一月一〇日ころ、同店前駐車場において、Aに対し、男女性交の場面等を露骨かつ詳細に撮影したわいせつのビデオテープ二巻を代金二万四〇〇〇円で売り渡し、もってわいせつの図画を販売したものである。」と判示しており、右判示事実自体からも、レンタル業とはいえ、ビデオテープを扱う店を経営する者である被告人が、本件わいせつビデオテープ二巻を客であるAに売り渡したものであり、原判決が「もってわいせつ図画を販売したものである」と認定判断しているように、右売渡しが、不特定の客に対する有償譲渡、すなわち、刑法一七五条にいう販売にあたるものであることを読みとることができるものというべきであって、原判決に所論の理由不備があるとはいえない。
 論旨は理由がない。
 二 弁護人相原宏の控訴趣意一(法令解釈の誤りの主張)について
 論旨は、刑法一七五条にいう販売とは、不特定又は多数の人に対する有償譲渡をいうところ、被告人が販売した相手先はAただ一人である上、同人は以前から甲田店の顧客であり、被告人はAから頼まれて、ビデオテープを販売したものであって、原判決は、刑法一七五条所定の販売の解釈を誤って適用したものである旨主張する。
 しかしながら、刑法一七五条にいう販売の意義は所論のとおりであるが、原判決挙示の関係証拠によれば、右Aが前記店の不特定の客の一人であること、被告人は、本件以外にも、同人に対し、あるいは他の者に対し、わいせつビデオテープを売り渡して利益をあげており、本件起訴にかかる売渡しもその一環であることが認められ、これがわいせつ図画の販売にあたることは明白であって、被告人の本件所為について、同条を適用した原判決の法令の解釈適用に誤りがあるとは認められない。
 論旨は理由がない。

福岡県迷惑行為防止条例(昭和三十九年福岡県条例第六十八号)
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
。。。。
福岡県迷惑行為防止条例逐条解説
ア「何人も」とは、「すべての自然人は」という意味であり、福岡県民に限らず、日本人で
あると、外国人であるとを問わない。
イ「公共の場所」とは、不特定かつ多数の者が自由に出入りし、又は利用し得る施設及び場所をいい、場所の属性ではなく状態で判断される。
例えば、公会堂、商店、遊技場デパート、ホテルのロビー、オートロック式ではないマンションの共用部分等が公共の場所に当たる。
ウ「公共の乗物」とは、不特定かつ多数の者が自由に利用し得る乗物をいい、有償又は無償を問わない。乗物の属性ではなく状態で判断される。
具体的には、電車、バス、ロープウェー、エレベーター等が公共の乗物に当たるが、多数人が利用するものの特定の者しか利用できない貸切バスは当たらない。
エ「正当な理由がないのに」とは、健全な社会常識から判断して認められる理由があるとはいえないことをいう。
オ「著しく」とは、社会的に容認し得ない程度に甚だしいものをいう。
カ「差恥」とは、恥ずかしく思う気持ち、恥じらいの感情であり、卑わいな行為によって惹起される性的差恥心を意味する。
キ「不安」とは、生命、身体、自由、名誉及び財産に対して、何らかの害が加えられるのではないかと心理的な圧迫感を抱くことをいう。
ク「覚えさせるような方法」とは、現実に相手方が差恥心又は不安を覚えたかどうかは問わず、社会通念として差恥心又は不安を覚えると認められる方法であれば足りる。
.第1項第2号関係
「卑わいな言動」とは、野卑でみだらな言動又は動作をいう。刑法第174条(公然わいせつ)より広い概念であり、わいせつに至らないもので性的道義観念に反し、他人に性的差恥心又は不安を覚えさせるものをいう。
例えば、人に対して恥ずかしくなるような卑わいな文言を言ったり、他人が身に着けているスカートを捲る行為等である。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/536576/
書類送検容疑は7月5日午後8時40分すぎ、同市営地下鉄空港線の電車内で、エアドロップで女性のわいせつな画像を同県糸島市の男性(34)のアイフォーンに送信した疑い。「受信した女性の反応が見たかった」と容疑を認めているという。

 被害男性は、電車内でスマートフォンを手にしながら周囲をうかがう不審な男性を発見。西新駅で降りた男性を追い掛け、110番した。署の調べに「何回か同じことをやった」と話しているという。

 県警によると、エアドロップ痴漢の被害相談は昨年2件だが、潜在被害はもっと多いとみられる。兵庫県内では逮捕者も出ている。署の宮原工生活安全課長は「軽い気持ちでわいせつ画像を送っても立派な犯罪行為」と強調した。

「意見に対する道の考え方 本規制は、13歳未満の青少年に自画撮り画像の提供を求める行為の内、強制わいせつ未遂に該当しない行為を規制するものであるため、国法との関係に問題はないと考えております。」

 北海道庁によると、13歳未満の青少年に対して裸画像を求めるのは、強制わいせつ罪(176条後段)未遂にならないそうです。


http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/ss/pubcom_soan.pdf


素案
第2 改正の概要
児童ポルノ等の提供を求める行為を禁止するための改正
(1)改正の理由
青少年がだまされたり、脅されたりして、自身の裸の画像をスマートフォン等で撮影させられた上、電子メールやSNS等で送信させられる、いわゆる「自画撮り被害」が増加していますが、現行法令では青少年に対して自画撮り画像を求める行為を禁止する規定がなく、青少年の画像提供を未然に防止することが十分にできていません。
このため、不当な手段等により青少年に対して自画撮り画像を求める行為を新たに罰則付きで規制するための改正を検討しています。
(2)改正の内容
青少年に対し、次のいずれかの不当な手段等により児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいいます。)の提供を求める行為を罰則付きで禁止します。
① 18歳未満の青少年に対して、
・拒まれたにも関わらず、更に求める。
・威迫して求める。
・欺いて求める。
・困惑させて求める。
・対償を供与し、若しくはその供与の約束をして求める。
② 13歳未満の青少年に対して求める。

奥村が送った意見
13歳未満の青少年に対して求める。行為を罰金で処罰することについて他人に裸体画像を撮影送信させる行為は強制わいせつ罪のわいせつ行為と評価されている
  裁判例
東京地裁H18.3.24
松山地裁西条支部H29.1.16
高松地裁丸亀支部H29.5.2
高松地裁H28.6.2
札幌地裁H29.8.15
岡山地裁H29.7.25
 札幌地裁H29.8.15は9歳児童に平穏に乳房陰部露出させる姿態とらせて撮影させた行為を強制わいせつ罪(176条後段)
 としている。脅迫はない。
 これが強制わいせつ罪(176条後段)だとすると、13歳未満の青少年に対して求める行為は強制わいせつ罪(176条後段)未遂(法定刑懲役6月~10年)であって、既に国法で厳重に対応されていることになる。
 この行為について青少年条例で罰金で処罰するというのは、条例の守備範囲を越えるし、懲役10年の刑を罰金にして軽く処罰することになって妥当性にも欠ける。

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dms/ss/bosyuukekka.pdf
(別記第2号様式 道民意見提出手続の意見募集結果)
令和元年6月5日 ~ 令和元年7月5日
北海道青少年健全育成条例の一部を改正する条例(素案)についての意見募集結果
意 見 の 概 要
13 歳未満の青少年に自画撮り画像を求める行為は、強制わいせつ未遂に該当し、既に国法で厳重に対応されている。

意見に対する道の考え方※
本規制は、13 歳未満の青少年に自画撮り画像の提供を求める行為の内、強制わいせつ未遂に該当しない行為を規制するものであるため、国法との関係に問題はないと考えております。

追記 2019/09/05
パブコメ後に、常習要求罪が加えられました。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/339189
道は子どもにわいせつな画像や動画を撮影させて送信させる「自画撮り被害」防止に向け、送信要求を繰り返す常習者に対し、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科す規定を道青少年健全育成条例改正案に盛り込む方針を固めた。「自画撮り犯罪」に絡む常習行為を処罰する規定を設けるのは全国初。道は来年1月施行を目指し、9月10日からの道議会第3回定例会で方針を示す。
 条例改正案を巡っては、13歳未満の子どもにわいせつな画像を要求するだけで、13歳以上18歳未満については脅迫や見返りに現金を渡すなどの悪質な手口での要求に対し、それぞれ30万円以下の罰金を科す方針が既に明らかになっている。道はこれらの行為に関し、複数回行うなど「常習性がある」と判断した場合、さらに重い6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科す考え。厳しい規定を設けることで、犯罪抑止につなげる狙いだ。
 東京都や兵庫県など19都府県(3月末時点)は18歳未満に対する悪質な手口での要求に罰金や科料を科しているが、繰り返す行為を厳罰化した自治体はなかった。現行法では自画撮り画像の要求行為を規制する法律はない。

器物損壊と強制わいせつ罪が観念的競合とされた事案(奈良地裁H30.12.25)

「被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった」という主張でした。
 非接触型の場合は、わいせつ性を争ってください。

奈良地方裁判所
平成30年12月25日刑事部判決

       判   決
 上記の者に対する準強制わいせつ,器物損壊被告事件について,当裁判所は,検察官荒神直行及び弁護人福島至(私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文

被告人を懲役2年に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,平成30年6月5日午前6時37分頃から同日午前7時12分頃までの間に,京都府××番地所在の××鉄道株式会社××駅から奈良市××番地の×所在の同社××駅までの間を走行中の電車内において,乗客のY(当時23歳)が睡眠中のため抗拒不能の状態にあるのに乗じ,自己の陰茎を露出して手淫し,同人に向けて射精して自己の精液を同人の着衣に付着させ,もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をするとともに,同人が着用していた同人所有の黒色ジャケット(損害額約1万円相当)を汚損して他人の物を損壊した。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
1 弁護人は,被告人が行った客観的な行為は争わないものの,(1)被告人は精液を被害者の衣服に付着させる認識・認容がなかったので,準強制わいせつ及び器物損壊の故意がなかった,(2)仮にそれらの故意があったとしても,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当しない旨を主張する。
2 関係証拠によれば,被告人は,電車内の座席の端に座って眠っていた被害者のすぐ横に立ち,被害者の方に身体の正面を向けた上で,陰茎を露出し,左手で陰茎をしごいて自慰行為を行って射精し,射出した精液が被害者の上着の右袖上腕部に付着したこと,射精した時,被告人と被害者の距離は約15センチメートルであったこと(甲6写真第6号),被告人は射精前に自慰行為を中断することは考えず自慰行為を続け,射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差し出したが,この行為を除き,射精前に自慰行為をやめたり身体や陰茎を被害者以外の方向に向けたりするなど,精液が被害者の着衣に付着することを防ぐ方策をとらなかったことが認められる。
 関係証拠をみても,被告人が被害者の着衣に精液を付着させる意欲又は意図を持っていたとは認められない。しかし,精液は陰茎が向いている方向に射出されることに加え,射精のタイミング,射出される精液の量又は精液の飛散する範囲等を十分に制御することは困難であることを踏まえると,射精時の被告人と被害者との位置関係など前段で述べた状況下においては,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであった。たしかに,被告人は射精直前に精液が被害者の着衣に付着しないように左手を陰茎の前に差出した。しかし,この行為は,コンドームで陰茎の先を完全に覆うなどの措置とは異なり,射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置ではなく,この行為によってその可能性がなくなったと認識するとは考え難い。被告人は,自慰行為に夢中で,自慰行為の最中被害者の着衣に精液を付着させようとも付着させまいとも思っていなかったと述べる。仮にこの供述が真実であったとしても,射出した精液が被害者の着衣に付着する可能性が極めて高かったことは客観的にみて明らかであったことに照らせば,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していなかったとは到底考え難い。したがって,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識していたと認められる。
3 準強制わいせつ罪が成立するためには,わいせつな行為が特定の相手方に対して行われることが必要である。陰茎が被害者の方を向き,かつ,陰茎と被害者が極めて近い距離にあったことに加え,被告人はコンドームで陰茎の先を完全に覆うなど射出する精液が被害者の着衣に付着する可能性を失わせる程度の措置をとることなく自慰行為に及んで射精したので,電車内であったことを考慮しても,被告人の行為は被害者という特定の相手方に向けられたわいせつ行為であるといえる。したがって,被告人の行為は準強制わいせつ罪の実行行為に該当する。
4 前述のとおり,自慰行為を始めてから射精するまでの間,被告人が,自慰行為の結果射精し,精液が被害者の着衣に付着する可能性を認識しており,その上で自慰行為に及んだと認められる。そして,被告人の行為がわいせつ行為に該当すること,全く面識のない被告人の精液が付着すると被害者の着衣の効用が害されることはいずれも明らかである。また,被告人は被害者が寝ていることを認識した上で,被害者が寝ているからこそ被害者のすぐ横に立ち被害者の方を向いて自慰行為に及んだので,被害者の抗拒不能に乗じたことも明らかである。したがって,被告人は少なくとも準強制わいせつ罪及び器物損壊罪の未必の故意を有していたと認められる。
(法令の適用)
罰条
 準強制わいせつの点 刑法178条1項、176条前段
 器物損壊の点 刑法261条
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(重い準強制わいせつ罪の刑で処断)
刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
 被害者が電車内で睡眠中であることに乗じた卑劣で悪質な犯行態様である。被害の程度も軽くなく,被害者が被告人の厳重処罰を望むのは当然である。被告人に精液を被害者の着衣に付着させる意欲や意図があったとは認められず,かつ,射精直前に一応精液の付着を防ぐ行為には出ており,これらの点は量刑上意味がある。しかし,被告人は平成26年に駅構内での盗撮行為によって罰金20万円に処せられたにもかかわらず,より悪質な本件犯行に及んだので,非難の程度は高く,同種再犯の可能性も否定できない。しかし,被告人は行為自体を認めた上で,反省の態度を示し,再犯防止に向けた治療に取り組んでいる。また,前記罰金前科以外の前科前歴はない。すると,今回は執行猶予付きの判決が相当である。 
(求刑 懲役2年)
平成30年12月25日
奈良地方裁判所刑事部
裁判官 中山登

「これまでは児童買春・ポルノ禁止法に基づき、わいせつ画像が残っていないと検挙できなかったが、条例改正により提供を求める行為のみで摘発が可能になった。」というのは製造罪の既遂時期を誤解している。

 国法・条例の関係からは、製造罪が成立するときは条例の要求罪は成立しないという解釈を前提にしてると思うのですが、製造罪の既遂時期は、児童の裸が最初に媒体に記録された時なので、児童のカメラ(スマホ等)で撮影したときですから、児童が撮影している場合には、要求罪は成立しません。
 「これまでは児童買春・ポルノ禁止法に基づき、わいせつ画像が残っていないと検挙できなかったが、条例改正により提供を求める行為のみで摘発が可能になった。」というのが条例改正する警察の本音なんでしょうね。ちゃんと製造罪の立件を目指した方がいいですよ。

製造罪の既遂時期
sextingの場合「製造をしたのは、自分の写真を撮った児童ではなくポーズをとらせた者であるというように解されております。」という木村光江部会長の発言 - 児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

裸の「自画撮り」女子高生に要求 容疑の男 書類送検
2019.07.22 読売新聞
 女子高生に「自画撮り」した裸の画像を送るように要求したとして、福岡県警西署は22日、千葉県船橋市の会社員の男(51)を福岡県青少年健全育成条例違反容疑で福岡地検書類送検した。2月施行の改正条例では、中高生らにわいせつな画像の提供を求める行為を禁じる条項が新設されたが、適用は初めて。

 発表では、男は2月12日、ツイッターで知り合った福岡県内の女子高生(16)が18歳未満と知りながら、無料通話アプリで、「胸のアップを送って」「写メ(写真付きメール)売ってもらう感じです」などとメッセージを送り、児童ポルノの提供を求めた疑い。「間違いない」と容疑を認めている。

 男は裸の画像など十数点を受け取り、女子高生が指定する口座に4000円を振り込んだ。女子高生がツイッター上で「パパ活」を募集しているのを警察がサイバーパトロールで見つけて補導し、発覚した。
・・・
わいせつ画像要求:初摘発 千葉の容疑者書類送検 西署 /福岡
2019.07.23 毎日新聞
 18歳未満と知りながら女子高生にわいせつ画像を提供するよう求めたとして、西署は22日、千葉県船橋市の会社員の男(51)を福岡県青少年健全育成条例違反(児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)容疑で福岡地検書類送検した。2月に同条例が改正されてから初の適用という。

 送検容疑は2月12日、インターネット上で知り合った福岡県内の女子高生(16)にわいせつな動画や画像を送信するよう求めたとしている。

 署員が2月、インターネット上の書き込みを見て、女子高生と接触して発覚した。会社員の男は4000円を振り込んで14点の画像を入手したが、既に削除していた。

 これまでは児童買春・ポルノ禁止法に基づき、わいせつ画像が残っていないと検挙できなかったが、条例改正により提供を求める行為のみで摘発が可能になった。【浅野孝仁】
〔福岡都市圏版〕

刑事裁判資料第291号「性犯罪被害者の心理等に関する参考資料」最高裁判所事務総局

 閲覧のみの部分と、謄写許可の部分があるんですが、極めて基礎的な内容です。
 改正刑法の附帯決議に「裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についての研修を行うこと。」とあるので、一応やりましたよという程度の内容です。

[024/040] 193 - 参 - 法務委員会 - 20号 平成29年06月16日
真山勇一君 私は、ただいま可決されました刑法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党・こころ、民進党新緑風会公明党日本共産党日本維新の会及び沖縄の風の各派並びに各派に属しない議員山口和之君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。
    刑法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
 一 性犯罪は、被害者の心身に長年にわたり多大な苦痛を与え続けるばかりか、その人格や尊厳を著しく侵害する悪質重大な犯罪であって、厳正な対処が必要であるところ、近年の性犯罪の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするための法整備を行うという本法の適正な運用を図るため、本法の趣旨、本法成立に至る経緯、本法の規定内容等について、関係機関等に周知徹底すること。
 二 刑法第百七十六条及び第百七十七条における「暴行又は脅迫」並びに刑法第百七十八条における「抗拒不能」の認定について、被害者と相手方との関係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘がなされていることに鑑み、これらに関連する心理学的・精神医学的知見等について調査研究を推進するとともに、これらの知見を踏まえ、司法警察職員、検察官及び裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についての研修を行うこと。
 三 性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の過程においては、被害者のプライバシー、生活の平穏その他の権利利益に十分配慮し、偏見に基づく不当な取扱いを受けることがないようにするとともに、二次被害の防止に努めること。また、被害の実態を十分に踏まえた適切な証拠保全を図ること。
 四 強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ、被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを、関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること。
 五 起訴・不起訴等の処分を行うに当たっては、被害者の心情に配慮するとともに、必要に応じ、処分の理由等について丁寧な説明に努めること。
 六 性犯罪が重大かつ深刻な被害を生じさせる上、性犯罪被害者がその被害の性質上支援を求めることが困難であり、その被害が潜在化しやすいという性犯罪被害の特性を踏まえ、第三次犯罪被害者等基本計画等に従い、性犯罪等被害に関する調査を実施し、性犯罪等被害の実態把握に努めるとともに、被害者の負担の軽減や被害の潜在化の防止等のため、ワンストップ支援センターの整備を推進すること。
 七 刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第五十四号)附則第九条第三項の規定により起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置についての検討を行うに当たっては、性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の実情や、被害者の再被害のおそれに配慮すべきであるとの指摘をも踏まえること。
 八 児童が被害者である性犯罪については、その被害が特に深刻化しやすいことなどを踏まえ、被害児童の心情や特性を理解し、二次被害の防止に配慮しつつ、被害児童から得られる供述の証明力を確保する聴取技法の普及や、検察庁、警察、児童相談所等の関係機関における協議により、関係機関の代表者が聴取を行うことなど、被害児童へ配慮した取組をより一層推進していくこと。
 九 性犯罪者は、再び類似の事件を起こす傾向が強いことに鑑み、性犯罪者に対する多角的な調査研究や関係機関と連携した施策の実施など、効果的な再犯防止対策を講ずるよう努めること。
   右決議する。
 以上でございます。
 何とぞ各委員の皆さんの御賛同をお願いいたします。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41694930V20C19A2CR0000/
性犯罪被害、初の研修資料 国会決議受け最高裁作成
2019/2/25 9:38
性犯罪被害への理解を深めようと、最高裁精神科医の講演録や裁判官との質疑応答をまとめた研修資料を初めて作成し、全国の裁判所に配布したことが、分かった。被害者の心理を十分理解していない判決があるとの指摘もあり、性犯罪を厳罰化する改正刑法の成立に伴う国会の付帯決議は、心理学の知見を踏まえた裁判官らへの研修を求めていた。

強制性交罪は加害者による「暴行や脅迫」がなければ成立しない。被害者側は「恐怖から反射的に動けなくなることが多いのに、抵抗しなかったのは暴行、脅迫がなかったためだと認定する判決がある」として、被害者の心理を理解していないと訴えている。刑法改正の議論では暴行・脅迫要件の削除も議題になったものの、最終的に見送られた。

最高裁によると、研修資料は、性犯罪被害者のケアに取り組む精神科医小西聖子・武蔵野大教授ら専門家が2017年、司法研修所の刑事実務研究会で講演した内容がメインで、200ページを超える。

小西教授は講演で、多くのケースで自分より体の大きい加害者に直面すると、被害者は恐怖で体が凍り付くと強調。強いショックから感情や感覚がまひし、被害状況を記憶できないケースもあるとした。

さらに多くの被害者が心的外傷後ストレス障害PTSD)になり、裁判で「なぜ抵抗しなかったのか」と問われるのに苦痛を感じたり、拒めなかった自分が悪いと自責の念を抱いたりして、警察に被害を申告しない事例が多数あると説明した。

資料には裁判官との質疑応答も掲載。被害者が傷つくのを防ぐにはどうすればいいかとの質問に、臨床心理士は「被害者は法廷に立つだけでも相当なエネルギーを使う。心情を理解したということを判決で示してもらいたい」と答えた。

最高裁は昨年、全国の地、高裁と家裁に計約850部を配布。小西教授は取材に「裁く側の無知は許されない。全ての裁判官に資料を活用してほしい」と話した。〔共同〕

平成30年3月
刑事裁判資料第291号
性犯罪被害者の心理等に関する参考資料 最高裁判所事務総局

はしがき
本書は,性犯罪被害者の心理等を理解するために有益と思われる近時の資料をとりまとめ,執務の参考に供することとしたものである。
第1 「平成28年度刑事実務研究会(被害者配慮) 」及び第2 「平成2 9年度刑事実務研究会2 (裁判員2) 」は,司法研修所の研究会において, 性犯罪被害者の支援に長年携わっ~ている医師及びI の講師が行った講演の講演録である。
第3 「性犯罪の罰則に関する検討会」は, 法務省において,性犯罪の罰則の在り方について検討するために平成26年10月から平成27年8 月まで開催された検討会であり,本書には,性犯罪被害者や被害者支援団体関係者等からのヒアリングが実施された第2回議事録及び第3回議事録を掲載している。
第4 「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会」は,性犯罪に関する刑法の一部改正について調査審議するために,平成27年1 1月から平成28 年6月まで法務省法制審議会に設置された部会であり,本書には,性犯罪被害者や被害者支援団体関係者等からのヒアリングが実施された第6回会議議事録を掲載している。
第5 「第193回国会参議院法務委員会jは, 平成29年6月16日に
成立した「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)の審議において,性犯罪被害者等を参考人として行われた参考人質疑の会議録を掲載している。
平成30年3月
最高裁判所事務総局刑事局
・・・・・・・・・

目次
第1 平成28年度刑事実務研究会(被害者配慮)
講演「被害者の心理と刑事裁判」講演録・・・・・・1
同資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第2 平成29年度刑事実務研究会2 (裁判員2)
講演と意見交換「性犯罪被害者の心理と刑事裁判」講演録・・・・・59
同資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
第3  性犯罪の罰則に関する検討会
 第2回議事録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 第3回議事録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第4法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第6回会議議事録・・・・・・・・・・・・・・179
第5 第193回国会参議院法務委員会
会議録第20号(右綴じ) ・・・・・・・・・・・・218

長野県子どもを性被害から守るための条例の検挙事例は、刑事確定訴訟記録法で略式命令を閲覧すれば把握できます。

 
 ラブホテルに宿泊同伴した事例でも、深夜同伴罪で罰金になっています。威迫欺き困惑がない青少年との性的行為は、この地域では適法行為ということになります。

長野県子どもを性被害から守るための条例の規制項目の解説
【威迫等による性行為等の禁止】
第17条第1項
何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならないb (罰則: 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
l 「何人も」とは、県民はもとより、旅行者、滞在者を含み、年齢、性別、国籍等を問わず長野県内にいる全ての者をいう。また、行為者が子どもの場合でも本条違反に該当するが、第20条(適用除外)の規定により罰則は適用しない。
2 「子ども」とは、18歳未満の者をいう。
なお、婚姻の有無は問わない。
3 「威迫」とは、暴行、脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により、心理的威圧を加え、相手方に不安の念を抱かせることをいう。
4 「欺き」とは、嘘を言って相手方を錯誤に陥らせ、又は真実を隠して錯誤に陥らせる行為をいう。
5 「困惑」とは、困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいう。
6 「困惑に乗じて」とは、困惑状態を作為的に作り出した場合だけではなく、既に子どもが何らかの理由により困惑状態に陥っており、それにつけ込んで(乗じて)性行為等を行う状況をいう。
7 「性行為」とは、「性交及び性交類似行為」と同義である(昭和40年7月12日新潟家裁長岡支部決定)。『性交類似行為』とは、実質的にみて、性交と同視し得る態様における性的な行為をいい、例えば、異性間の性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為・同性愛行為などであり、児童買春・児童ポルノ禁止法における性交類似行為の解釈と同義である。
8 「わいせつな行為」とは、「いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的差恥心及び嫌悪の情をおこさせる行為」をいう(昭和39年4月22日東京高裁判決)。
具体的には、陰部に対する弄び・押し当て、乳房に対する弄び等がこれにあたる。

「性被害防止条例」摘発 県警、4件目も発表せず 昨年10月に書類送検
2019.01.31 信濃毎日新聞
 県警が昨年10月、「県子どもを性被害から守るための条例」違反(深夜外出の制限)の疑いで、1人を書類送検していたことが30日、分かった。2016年11月に罰則規定を含め同条例が全面施行して以降、摘発は4人目。県警は17年、同容疑で初めて2人を摘発した際は概要を発表したが、今回は昨年8月の3人目の摘発時と同様、「任意捜査の事件は原則発表しない」として詳細を明らかにしていない。

 概要は県の「子ども支援委員会」に報告される見通しだが、審議は非公開で行われている。犯罪の構成要件などを巡って議論があった条例の運用が、外部から検証しにくい状況が続いている。

 条例は保護者の委託や同意、正当な理由がなく子ども(18歳未満)を深夜(午後11時~翌午前4時)に連れ出す行為などを禁止し、違反した場合は30万円以下の罰金を科すとしている。

 県警は今回の事件について、発生日時、場所、容疑者や被害者の性別、年齢などを明らかにしていない。県警少年課は「任意捜査の事件は原則的に公表していない」とした上で、「個別に内容を検討した結果、公表する事案ではないと判断した」としている。条例を担当する県次世代サポート課は、今回の事件について「承知していない」としている。

 過去の摘発は、いずれも深夜外出の制限容疑で、17年4月に2件、18年8月に1件あった。17年は前橋市茨城県の男性2人が書類送検され、このうち前橋市の男性は略式命令を受けて罰金30万円を納付。茨城県の男性は略式起訴後に自殺した。18年摘発の男性は書類送検され、略式命令を受けて罰金を納付した。

 県警は、17年の2件は条例を初適用した事件のため「再発防止の観点から公表した」と説明している。

 条例は深夜外出の制限のほか、大人が18歳未満の子どもを「威迫」「欺き」「困惑」させて性行為やわいせつ行為をすることなども禁止し、違反者には2年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すと規定。制定過程では「捜査機関が、自由な恋愛など個人の内心に踏み入る危険性がある」との指摘が法律の専門家などからあった。

①児童Aを脅迫して性交求めた行為を強要未遂とし、②児童Aを脅迫して乳房露出画像を送らせた行為を強要罪とし、包括一罪とした事案(千葉地裁H31.2.22)

①は強制性交未遂、②は強制わいせつ罪とする裁判例もあるのに、軽い罪名で起訴されているので、実刑にはなりません。



強要未遂,強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
千葉地方裁判所判決平成31年2月22日
 被告人を懲役2年に処する。
 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 ■■■(当時16歳)の性行為を撮影した動画を入手したと装って同人を脅迫し,被告人との性交等に応じさせようと考え,
 1 平成30年11月5日午後2時34分頃から同日午後8時8分頃までの間,千葉市若葉区(以下略)千葉市□□消防署△△出張所において,被告人の使用する携帯電話機から,アプリケーションソフト「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,前記■■が使用する携帯電話機に,「あなたの,はめどり見してもらったけど」「なら動画はまわるけど」「やってくれるなら動画消してあげる」「口でいかしてくれたら本番はないかもねー」「じゃー明日フェラ動画撮らせて」「ゆうこと聞けないなら回すからいいや」等のメッセージを送信し,いずれもその頃,■■■において,前記■■にこれらを閲覧させ,被告人との性交及び前記■■が口淫する様子を動画撮影させることを要求し,その要求に応じなければ,同人の名誉に危害を加えかねない旨を告知して同人を脅迫し,もって同人に義務のないことを行わせようとしたが,同人が同月6日に警察に届け出たため,その目的を遂げなかった。
 2 同月5日午後4時10分頃から同日午後7時54分頃までの間,前記千葉市□□消防署△△出張所において,被告人の使用する携帯電話機から,前記「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,前記■■が使用する携帯電話機に,「今日暇だから自撮りでも送ってよ」「むねとかね」「あーいいんだー」「まわっても」等のメッセージを送信し,いずれもその頃,前記■■において,前記■■にこれらを閲覧させ,同人の胸を撮影した画像の送信を要求し,その要求に応じなければ,同人の名誉に危害を加えかねない旨を告知して同人を脅迫し,同人を怖がらせ,よって,同日午後7時37分頃から同日午後7時59分頃までの間,3回にわたり,同人に,乳房を露出するなどした姿態をとらせ,これを同人の携帯電話機で撮影させた上,前記「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,その画像データ3点を被告人の使用する携帯電話機に送信させ,もって前記■■に義務のないことを行わせた。
第2 前記■■が18歳に満たない児童であることを知りながら,同日午後7時59分頃,前記■■■において,前記■■にその乳房を露出させる姿態をとらせ,これを同人の使用する携帯電話機で撮影させた上,前記「ツイッター」のダイレクトメール機能を利用して,その画像データ1点を被告人の使用する携帯電話機に送信させ,その頃,前記千葉市□□消防署△△出張所において,上記画像データを受信して同携帯電話機の記録装置に記録させて保存し,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である前記■■に係る児童ポルノを製造した。
(証拠の標目)
 以下,括弧内の甲乙の番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
判示事実全部について
・ 被告人の公判供述
・ 被告人の検察官調書(乙3)
・ ■■■の検察官調書(甲2-ただし,不同意部分を除く。)
・ 電話聴取書(甲3)
・ 写真撮影報告書(甲4,5,8)
・ 捜査報告書(甲7)
(法令の適用)
 被告人の判示第1の1の所為は刑法223条3項,1項に,判示第1の2の所為は同項にそれぞれ該当するが,これらを包括して一罪として処断することとし,被告人の判示第2の所為は児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項3号に該当するところ,判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 被告人は,自己の性欲を満たすため,被害女児の性行為を撮影した動画を入手したと装い,当時16歳の被害女児に対し,被告人との性交に応じること,被害女児が口淫する様子を動画撮影させること,被害女児に乳房を露出するなどした姿態をとらせ,これを撮影した画像データを送信することなどを要求し,これらの要求に応じなければ,被害女児の性行為を撮影した動画を拡散させるなどのメッセージを伝えて脅迫し,上記画像データを被告人の使用する携帯電話機に送信させて保存し,児童ポルノを製造したものである。動機が自己中心的で身勝手極まりなく,態様も執拗で卑劣なものである。被害女児は本件被害に遭い,多大な恐怖心や羞恥心を抱くなどの精神的苦痛を被っており,将来にわたる精神的な悪影響も懸念されるところであって,被害結果を軽視することはできない。被害女児は,被告人側からの示談の申入れを拒絶し,被告人を厳重に処罰するよう求めているが,上記のような被害結果等に照らすと,その心情も十分に理解できるところである。そうすると,被告人の刑事責任については決して軽く見ることができない。
 もっとも,これまで前科がなく,21歳と若年の被告人が,素直に事実関係を認めて反省の態度と更生の意欲を示し,精神科クリニックに通院するなどして再犯防止に努めていること,被告人と同居している母親が,当公判廷に出廷し,被告人の監督を誓約したこと,本件が発覚したことで,自業自得とはいえ,被告人の名前等が広く報道され,消防士の職を懲戒免職されるなど,既に大きな社会的制裁を受けていることなど,被告人のために酌むべき事情もある。
 そこで,以上の事情を総合考慮した結果,被告人を主文のとおりの懲役刑に処してその刑事責任を明確にした上で,今回に限りその刑の執行を猶予して,被告人に社会内で更生する機会を与えるのが相当であると判断した。
(求刑 懲役2年)
  平成31年2月22日
    千葉地方裁判所刑事第3部
           裁判官  高橋正幸

児童ポルノ等の提供を求める行為(福岡県青少年健全育成条例)により、千葉県の男性を検挙した事例

 児童の提供目的製造・提供罪の教唆みたいな感じになりますが、注文販売というのは予想される関与者であるのに国法では放任されている行為です。
 千葉県では規制されてないという点も強調してください。
 福岡県条例を千葉の人に押しつけるというのは無理でしょう。公布もされないのに。電話による卑わい行為の高裁判例がありますが、ネットにはそぐわない。
 結局、画像が送られている場合は、製造罪が成立して、要求罪は成立しない。

児童ポルノ提供を女子高校生に求める 容疑で千葉県の会社員男を書類送検 福岡西署
2019/7/22 12:30
西日本新聞
 福岡西署は22日、県青少年健全育成条例違反(児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)の疑いで、千葉県船橋市に住む会社員の男(51)を書類送検した。送検容疑は、2月12日未明、自宅からスマートフォンを使って福岡県篠栗町在住の女子高校生(16)に「こちらは、関東だから会うというよりは振り込みとかの支援を考えています」「そちらの写メ売ってもらう感じです」などとメッセージを送信し、児童ポルノの提供を求めた疑い

裸の「自画撮り」女子高生に要求 容疑の男 書類送検
2019.07.22 読売新聞
 女子高生に「自画撮り」した裸の画像を送るように要求したとして、福岡県警西署は22日、千葉県船橋市の会社員の男(51)を福岡県青少年健全育成条例違反容疑で福岡地検書類送検した。2月施行の改正条例では、中高生らにわいせつな画像の提供を求める行為を禁じる条項が新設されたが、適用は初めて。
 発表では、男は2月12日、ツイッターで知り合った福岡県内の女子高生(16)が18歳未満と知りながら、無料通話アプリで、「胸のアップを送って」「写メ(写真付きメール)売ってもらう感じです」などとメッセージを送り、児童ポルノの提供を求めた疑い。「間違いない」と容疑を認めている。
 男は裸の画像など十数点を受け取り、女子高生が指定する口座に4000円を振り込んだ。女子高生がツイッター上で「パパ活」を募集しているのを警察がサイバーパトロールで見つけて補導し、発覚した。
読売新聞社

福岡県青少年健全育成条例の手引き平成31年3月
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)第31条の2 何人も、青少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 青少年に拒まれたにもかかわらず、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。次号において同じ。)の提供を行うように求めること。
(2) 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めること。
【要旨】本条は、すべての者に対して、青少年に、自身の姿態が描写された児童ポルノ又はその情報を記録した電磁的記録その他の記録の提供を当該青少年に不当に求める行為を禁止した規定である。
【解説】1 「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、求める相手方である青少年自身の姿態が描写された児童ポルノ等をいう。
したがって、他の青少年の姿態が描写された児童ポルノ等を求めた場合については、該当しない。
また、どのような表現が「児童ポルノ」に該当するかについては、要求文言とその前後のやりとりを総合的に判断し、該当性の判断を行うこととなるが、その要求に青少年が応じてしまった場合、児童ポルノ禁止法第2条第3項に該当する児童ポルノが提供されることが社会通念上明らかに認められることが必要である。
2 「提供を行うように求める」とは、児童ポルノ禁止法第7条第2項に規定する「提供」を行うように求めることであり、当該児童ポルノ等を相手方において利用し得べき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいい、具体的には、有体物としての児童ポルノを交付するよう求めたり、電磁的記録を電子メールで送信するよう求める行為がこれに当たる。
3 「拒まれたにもかかわらず」とは、青少年に対して当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めた者が、当該青少年による拒否の意思が示され、それを認識しているにもかかわらずということをいう。
したがって、やりとりの記録などから拒否されたと認識していることが明らかである場合のほか、社会通念上、青少年の意思表示が拒否したと認められるものであり、かつ、それが児童ポルノ等の提供を行うように求めた者に到達していることが明らかである場合には、拒否されたと認識していたということができる。
4 「威迫」とは、他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、不安の感を生じさせることをいう。
「脅迫」と異なり、他人に恐怖心を生じさせる程度のものであることを要しない。
なお、「威力」との差異に関し、公職選挙法第225条第1号の「威力」とは「人の意思を制圧するに足りる勢力」、同3号の「威迫」とは「人の不安を抱かせるに足りる行為」をいい、両者の違いは、人の意思を制圧するに足りる程度の行為であるかどうかにあるものと解すべき」であると判示している(昭和42年2月4日最高裁第2小法廷判決)。
5 「欺き」とは、他人を錯誤に陥れ、虚偽の事実を真実と誤認させることをいう。
真実でないことを真実であるとして表示する行為で、虚偽の事実を摘示する場合と真実の事実を隠ぺいする場合とが含まれる。
6 「困惑させ」とは、困り戸惑わせることをいい、暴行脅迫に至らない程度の心理的威圧を加え、又は自由意思を拘束することによって自由な判断を制限することをいう。
相手方に威力を示す場合、義理人情の機微につけ込む場合、その他相手方を心理的に拘束し得るような問題を持ち込む場合などが考えられるが、いずれにしても、相手方に対する言動のほか、相手方の年齢・知能・性格、置かれた環境、前後の事情などを総合して判定する。
7 「対償を供与し、若しくはその供与の約束をする」とは、児童ポルノ等の提供に対する反対給付としての経済的な利益を供与、又はその約束をすることをいう。
「対償」は、現金のみならず、物品、債務の免除も含まれ、金額の多寡は問わない。
【罰則】
○ 30万円以下の罰金又は科料(第38条第4項)
【関係法令】○公職選挙法第225条○児童ポルノ禁止法第2条、第7条
【参考判例】昭和61年12月2日高松高裁判決(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例事件)本件は、被告人が数回にわたり徳島県所在の自宅から香川県にあるA方に電話をして、同人の妻のBに対し「あんたが好きです。会ってほしい。」などと反覆して申向け、もって同女に著しく不安又は迷惑を覚えさせるようなことをしたという事案であるところ、原審は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38-84-年12月23日香川県条例50号) 10条、11条1項は香川県の区域内における行為に対して適用されるのが原則であって、区域外の行為に本件条例を適用するには特段の根拠の存在することが必要であるが、本件被告人の行為は区域外でなされたものであり、本件条例を適用する特段の根拠はないとして、被告人は無罪としたのであるが、条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地方公共団体の区域外から区域内に向けて内容が犯罪となる電話をかける行為に及んだ場合には、電話をかけた場所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められるのであり、このように犯罪の結果発生地が香川県にあるとされる以上、行為者は直接的かつ現実的に香川県に関わりを持ったものというべく、香川県民及び滞在者と同様に本件条例が適用されるものと解すべきである。
なお、本件条例12条は本件’ 条例が適用される通常の場合の行為者として「県民及び滞在者」を挙げて適用上の注意しているに過ぎないと解すべく、同条を根拠として本件条例が適用される行為者のを直ちに限定することは相当でない。
た、原審は、香川県民及び滞在者以外の者に本件条例を適用し処罰すると、本件条存在、内容を了知することが不可能若しくは著しく困難なことから、行為に際し違の認識すら持ち得ない者が処罰される結果を招くというが、故意の内容に違法性のは必要がないのみならず、本件被告人は、一般通常人におけると同様、本件違法性識に欠くる所はなかったものと認められるから、右の結果が不合理であるとはいえない。

福岡県
平成30年2月23日
自画撮りに関する青少年健全育成条例改正の検討事項について

10年齢の知情性について
本条例は、第38条第7項で、条例上の特定の罰則規定については、年齢の知情性がなくとも処罰可能とする規定を置いているが、本禁止規定は、第38条第7項の規定の対象外とすべきと考える。つまり、要求を行う者に、相手が青少年だという認識が無かったと認められる場合は、処罰できないこととなる。本規定は、「当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めること」を禁止するものであり、相手方が青少年であると認識できるような事実が全くない場合には適用できない。~これは、「自画撮り被害」が相手を直接確認できないインターネット上のやりとりの中で行われることが想定され、やりとりの相手が青少年だと認識していない者にまで本規定を適用することは過剰な規制と考えられるためである。>

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年香川県条例第50号)違反被告事件
高松高等裁判所判決/昭和61年(う)第183号
昭和61年12月2日

【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集39巻4号507頁
       高等裁判所刑事裁判速報集昭和61年296頁
       判例タイムズ631号244頁
【評釈論文】 警察学論集40巻7号145頁
       月刊法学教室81号104頁

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を罰金一万円に処する。
 右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

       理   由

 本件控訴の趣意は、高松高等検察庁検察官大井恭二提出にかかる徳島池田区検察庁検察官松田達生作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人植木修一作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。
 検察官の所論は要するに、原判決は、被告人の本件所為につき香川県の条例を適用し処罰することはできないとして、被告人は無罪としたが、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈、適用の誤りがあるというものである。
 よつて検討するに、記録によれば、本件は、被告人が数回にわたり徳島県所在の自宅から香川県にある方に電話をして、同人の妻の子に対し「あんたが好きです。会つてほしい。」などと反覆して申向け、もつて同女に著しく不安又は迷惑を覚えさせるようなことをしたという事案であるところ、原審は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三八年一二月二三日香川県条例五〇号)一〇条、一一条一項は香川県の区域内における行為に対して適用されるのが原則であつて、区域外の行為に本件条例を適用するには特段の根拠の存在することが必要であるが、本件被告人の行為は区域外でなされたものであり、本件条例を適用する特段の根拠はないとして、被告人は無罪としたのであるが、条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地方公共団体の区域外から区域内に向けて内容が犯罪となる電話をかける行為に及んだ場合には、電話をかけた場所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められるのであり、このように犯罪の結果発生地が香川県にあるとされる以上、行為者は直接的かつ現実的に香川県に関わりを持つたものというべく、香川県民及び滞在者と同様に本件条例が適用されるものと解すべきである。なお、本件条例一二条は本件条例が適用される通常の場合の行為者として「県民及び滞在者」を挙げて適用上の注意を示しているに過ぎないと解すべく、同条を根拠として本件条例が適用される行為者の範囲を直ちに限定することは相当でない。
 また、原審は、香川県民及び滞在者以外の者に本件条例を適用し処罰すると、本件条例の存在、内容を了知することが不可能若しくは著しく困難なことから、行為に際し違法性の認識すら持ち得ない者が処罰される結果を招くというが、故意の内容に違法性の認識は必要がないのみならず、本件被告人は、一般通常人におけると同様、本件違法性の認識に欠くる所はなかつたものと認められるから、右の結果が不合理であるとはいえない。
 そうすると、本件につき本件条例が適用されないとした原判決には法令の適用の誤りがあり、これが判決に影響を及ほすことは明らかである。論旨は理由がある。
 よつて刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して当裁判所において更に判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は、正当な理由がないのに、昭和五九年二月ころから昭和六一年一月一七日までの間に数回にわたり、徳島県三好郡三加茂町加茂一、四三九番地の自宅から香川県仲多度郡多度津町沖ノ町一番一七号所在の長本英敏方に電話をかけ、同人の妻の長本勢津子(当初四三歳)に対し、「あんたが好きです。会つてほしい。」などと反覆して申向け、もつて同人に対し著しく不安又は迷惑を覚えさせるようなことをしたものである。
(証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三八年一二月二三日香川県条例五〇号)一〇条に違反し、同一一条一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文を適用してその全部を被告人に負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 雑賀飛龍 裁判官 金子 與 裁判官 溝淵 勝)

吉田利広「いわゆる「投稿サイト」の管理者らについてわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の共謀共同正犯の成立を認めた事例(平成30年9月11日大阪高等裁判所判決(弁護人上告中) ・裁判所ウェブサイト登載)研修853号

 吉田検事が注5で挙げた文献で紹介されている判例は、全部弁護人奥村の事件です。
 奥村事件では、
  東京高裁H16.6.23は管理者の単独正犯説(共謀否定)
  東京高裁H30.2.6は東京高裁H16.6.23に従い管理者の単独正犯説(共謀否定)→上告中(第一小法廷)
となっていて、東京高裁H16.6.23に対する「被告人が直接児童ポルノの蔵置を他人に働きかけたのであればともかく,そのような直接的行為を認めることができない事案においては,児童ポルノ蔵置後の不作為を問題とすることが不可欠であり,他人により蔵置された児童ポルノを削除等する保障人的地位・作為義務をプロパイダに認めた理論的根拠が示されていないなどという批判がされている(山口・前掲「プロバイダの刑事責任」115頁)」という批判を、第一小法廷山口厚判事自身がどう処理するかが見物です。

第1 はじめに
インターネット上のウェブサイトで画像等の投稿を受け付け,不特定多数の者に閲覧させる, いわゆる「投稿サイト」が多数開設され, その中には,投稿されたわいせつ画像を有料会員に閲覧させることにより利益を得ているものもあり, 近時, このようなサイトを管理.運営する者の刑事責任が問題となっている○
本判決は,投稿サイトを管理運営する法人の実質的相談役等である被告人2名について, わいせつ動画の投稿者との共謀によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成立を認めたものであり,事例判断ではあるものの,実務上参考となると思われることから,紹介する次第である。
なお,本判決には, わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成否のほか,公然わいせつ罪の成否及び証拠採用に関する訴訟手続の法令違反(注1)等の論点も含まれているが,本稿では,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の成否に関する部分に限って紹介する。
また,本稿中,意見にわたる部分は, もとより筆者の私見である。
・・・・・・・・・
第5おわりに
プロバイダの刑事責任については, 「違法コンテンツをプロバイダが自ら積極的に利用するために, たとえばアップロードを事実上,推奨するような状況の下で,蔵置された違法コンテンツをあえて放置したような場合において, きわめて例外的に」刑事責任が認められるとする見解が有力に主張されているが,作為犯なのか不作為犯なのか,正犯なのか共犯なのか,共犯として共同正犯なのか常助犯なのかなどという点が問題とされている(注5)。
そのような中で,投稿サイトを管理・運営する被告人らについて,投稿者(実行犯) との黙示の意思連絡によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪の共謀共同正犯の成立を認めた本判決は注目すべきものであるが,同種事案について,今後の裁判所の判断を注視していく必要がある。
(注5)大コンメンタール刑法第三版9巻52頁参照。
また,参考文献として,例えば,山口厚「プロバイダの刑事責任」(情報ネットワーク法学会他編「インターネット上の誹誇中傷と責任」111頁以下),佐伯仁志「プロバイダの刑事責任」(堀部政男監修「プロバイダ責任制限法実務と理論」161頁以下)等がある。

コンメンタール刑法第三版9巻52頁
⑤のプロパイダの刑事責任については,正犯なのか共犯なのか,正犯だとして作為犯なのか不作為犯なのか,不作為犯だとして作為義務の根拠は何かなどという点が問題とされており, ["違法コンテンツをプロパイダが自ら積極的に利用するために,たとえばアップロードを事実上奨励するような状況の下で,蔵置された違法コンテンツをあえて放置したような場合において,きわめて例外的に」刑事責任が認められるとする見解が有力に主張されている(山口厚「プパイダの刑事責任」情報ネットワーク法学会・テレコムサービス協会編・インターネット上の誹誇中傷と責任124).
なお, ドイツではプロパイダの不作為犯としての刑法上の責任を認める見解が主張されており(只木誠「インタネットと名誉段煩」現刑8巻47頁),プロパイダに削除要求がなされたが,それをあえて放置した場合には,積極的な陳列と同視し得ることを理由に,わいせっ物公然陳列罪の成立を認める余地があるとするなど,上記有力説よりも広い範囲でプロバイダ、の刑事責任を認める余地があるとする学説もある(伊藤ら・各論〔島田421頁,只木・前掲49良).
横浜地裁、平成15年12月15日判決(奥村徹「プロハイタの刑事責任判例の考察」前記インターネット上の誹訪中傷と責任149良〕は,被告人は,サーパコンビュータの記憶装置であるディスクアレイにiP掲示板」と称するインターネット!-のホームページを開設し管理運営するものであるが,インターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者が送信した児童ポルノである画像合計22画像分を記憶・蔵置させたままこれらを削除せず,もって,児童ポルノを公然と陳列したという公訴事実について, ["児童ポルノ公然陳列罪において不作為の態様による犯罪の成立を否定すべき理由はな」いとして不作為による児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めた.
 これに対する控訴審判決(東京高判平16・6・23. 奥村・前掲151頁以下ーなお,本判決については被告人が上告申立をしたが,最決平19・3・29公刊物本投載は,特段の理由を付することなく棄却している)は, I被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本件の犯罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信さぜて本件ディスグアレイに記憶・蔵置させながら, これを放十置して公然陳列したことである.そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーパーコンピュータによるみ;件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる.したがって,この陳列行為が作為犯であることも明らかである.。」「確かに,被告人が,本件児童ポノレノを削除するなど陳列行為を終了さぜる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解される
が,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される.Jなどと判示した上,作為義務の内容等が明示されていないとの控訴趣意に対しては, 「被告人の本件犯罪行為の主要なものは作為犯である上,所論のいう不作為についても,原判決は,被告人は,本件陳列行為の開始当初から,被告人に児童ポルノ画像の未必的な認識があったとしていて,この点を明確にしている.また,本件陳列の対象となっているのは,児童ポルノであって,犯罪行為を構成するものとしてすみやかに削除されるべきものであるから,削除義務の内容,根拠等も原判決の認定事実自体から明らかにされていると解することができる」などと判示した.
上記東京高裁判例に対しては, 被告人が直接児童ポルノの蔵置を他人に働きかけたのであればともかく,そのような直接的行為を認めることができない事案においては,児童ポルノ蔵置後の不作為を問題とすることが不可欠であり,他人により蔵置された児童ポルノを削除等する保障人的地位・作為義務をプロパイダに認めた理論的根拠が示されていないなどという批判がされている(山口・前掲「プロバイダの刑事責任」115頁).未だ判例・学説の蓄積が少ない論点であり,違法コンテンツに対する管理処分権限の有無や管理者の目的の有無等も検討した上,事案ごとに犯罪の成否を判断すべきであろう(本稿脱稿後,佐伯仁志「プロバイダの刑事責任」 プロバイダ責任制限法実務と理論施行10年の軌跡と展望別冊NBL141号161頁に接した).