児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

出会い系アプリの自称「18歳」(実は16歳)との児童買春事件で逮捕されて、対償供与約束時点では児童と知らなかったと弁解して、起訴猶予になった事例

 この主張は、基本的な刑法理論だし、判例で否定されてないので、使えると思うんですよ。
 会ってからの見かけの年齢とかをきちんと説明して。

H26からの強制わいせつ罪多数(被害者3名)につき、弁償2300万円・懲役9年(岡崎支部r01.6.3)

 求刑12年に弁護人は執行猶予を求めたようです。
 児童ポルノ製造罪は公訴時効なので起訴されていません。
 3歳4歳からの被害者からは供述は取れませんが、証拠の標目に画像が出てきますので、撮影されていたことがわかります。

名古屋地方裁判所岡崎支部令和01年06月03日
主文
被告人を懲役9年に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、後記のE園に保育士として勤務していたものであるが、
第1 別紙記載のD(当時4歳。以下「D」という。)が13歳未満の女子であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成26年2月27日午後2時12分頃から同日午後2時24分頃までの間、愛知県E園丙組において、同人に露出した自己の陰茎を口でくわえさせるなどし、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をした
第2 別紙記載のA(当時3歳。以下「A」という。)が13歳未満の女子であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成28年5月20日午後2時16分頃から同日午後2時27分頃までの間、前記E園乙組において、同人に露出した自己の陰茎を手で触らせ、口でなめさせるなどし、その陰部に直接自己の陰茎をこすりつけるなどし、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をした
第3 別紙記載のB(当時3歳。以下「B」という。)、A(当時4歳)及び別紙記載のC(当時4歳。以下「C」という。)がいずれも13歳未満の女子であることを知りながら、これらの者らにわいせつな行為をしようと考え、平成28年9月上旬頃、前記乙組において、
  1 Bに露出した自己の陰茎を手で触らせるなどし、
  2 Aに露出した自己の陰茎を手で触らせるなどし、
  3 Cに露出した自己の陰茎を手で触らせるなどし、
  もって13歳未満の女子に対し、それぞれわいせつな行為をした
第4 Bが13歳未満の女子であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、
  1 平成28年12月16日午後1時40分頃、前記乙組において、同人(当時3歳)の口に自己の陰茎をくわえさせるなどし、
  2 平成29年1月10日午後1時30分頃、前記乙組において、同人(前同)の口に自己の陰茎をくわえさせるなどし、
  もって13歳未満の女子に対し、いずれもわいせつな行為をした
第5 A(当時5歳)が13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成30年3月16日午後2時20分頃、前記E園●●●倉庫において、同人の身体を同倉庫内の段ボールの上に仰向けに寝かせた上、そのパンツをずらして陰部を直接なめるなどし、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした
第6 A(当時5歳)が13歳未満の者であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、平成30年5月18日午後6時20分頃、前記E園甲組において、同人の身体を同組内の畳の上に仰向けに寝かせた上、そのパンツをずらして陰部を直接なめるなどし、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした
ものである。
(証拠)(括弧内の番号は、証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を示す。)
判示事実全部について
 被告人の公判供述
 写真撮影報告書(甲2)
 捜査報告書(甲3)
判示冒頭事実について
 ●●●の警察官調書(甲10)
判示第1の事実について
 被告人の警察官調書(乙26ないし28)
 ●●●の警察官調書(甲87)
 写真撮影報告書(甲81、85、90)
 捜査報告書(甲82、86、89、93)、捜査報告書謄本(甲80)、捜査報告書抄本(甲83、84)
 「これらの写真に写っている女の子は間違いなく私の娘●●●です。」と題する書面抄本(甲88)
判示第2、第3の2、第5、第6の各事実について
 捜査報告書(甲95)
判示第2ないし第4の各事実について
 写真撮影報告書(甲21)
判示第2の事実について
 被告人の警察官調書(乙19、20)
 写真撮影報告書(甲61)
 捜査報告書(甲52、53、56、57、62)、捜査報告書抄本(甲54、55、58)
 「これらの写真にうつっているのは娘の●●●にまちがいありません」と題する書面抄本(甲60)
判示第3の事実全部について
 被告人の検察官調書(乙25)、警察官調書(乙22ないし24)
 捜査報告書(甲63、71、79)、捜査報告書抄本(甲64ないし70)
判示第3の1の事実について
 ●●●の警察官調書抄本(甲72)
 捜査報告書抄本(甲73)
判示第3の2の事実について
 ●●●の警察官調書(甲74)
 捜査報告書抄本(甲75)
判示第3の3の事実について
 ●●●の警察官調書(甲76)
 捜査報告書抄本(甲77)
判示第4ないし第6の各事実について
 捜査報告書(甲7)
判示第4の事実全部について
 捜査報告書(甲22、51)、捜査報告書抄本(甲46)
 動画の切り抜き画像が添付された書面等の抄本(甲47)
判示第4の1の事実について
 被告人の警察官調書(乙14、15)
 捜査報告書(甲37、39、41、43ないし45)、捜査報告書抄本(甲36、38、40、42)
判示第4の2の事実について
 被告人の警察官調書(乙16、17)
 報告書(甲31)、捜査報告書(甲24、26、28、30、33、35)、捜査報告書抄本(甲23、25、27、29、32、34)
判示第5、第6の各事実について
 捜査報告書(甲20)
判示第5の事実について
 被告人の検察官調書(乙11)、警察官調書(乙9、10)
 写真撮影報告書(甲17、18)
 捜査報告書(甲11、13)、捜査報告書抄本(甲12、19)
判示第6の事実について
 被告人の検察官調書(乙7)警察官調書(乙2ないし4)、警察官調書抄本(乙6)
 写真撮影報告書(甲9)
 捜査報告書(甲4、5)、捜査報告書抄本(甲6、8)
(適用法令)
1 罰条
  判示第1ないし第4の各所為 各行為ごと(判示第3の各事実については各被害者ごと、判示第4の各事実については各行為ごと)にいずれも平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
  判示第5、第6の各所為 いずれも刑法176条後段
2 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
3 未決勾留日数の算入 刑法21条
4 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件各犯行は、被告人が、E園の保育士という立場にありながら、被害者である園児らが被告人に懐いていることに乗じて、その歪んだともいえる性欲を満たすため、性的行為の意味すら理解していない被害者らに対して行った極めて卑劣な行為であるところ、一連の犯行が、中断した時期を挟んで4年間余りの期間にわたって行われている上、犯行態様をみても、自己の陰茎を被害者の陰部に押しつけたり、被害者らの口にくわえさせたり、被害者らの陰部をなめたりするなどの強度のわいせつ行為に及んでいる点で、その犯情は相当に悪質というほかはない。
 幼児に対する性的被害に関する研究を行っている専門家は本件のような性的被害が被害者らの今後の健全な生育に悪影響を及ぼす高い可能性を指摘していることを踏まえると、本件各犯行が被害者らの今後の成長に与える悪影響も強く懸念されるところであり、保育士として信頼していた被告人により自分の子どもが被害を受けたことを知った各被害者の親の処罰感情も極めて厳しい。
 以上によれば、被告人の刑事責任は相当に重く、本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案とは到底認め難く、被告人に対しては長期の実刑をもって臨むことが相当である。
 他方、被告人は、被害者らに対して総額2300万円●●●の金銭弁償を行い、うち●●●との間では民事的示談も成立させた上で、本件各犯行につき事実関係を全て認め、反省の情を示していること、被告人の妻が今後の監督を約束しているほか、被告人が社会復帰後において精神科医師による治療等を受けることが予定されていることで、被告人の今後の更生に結び付く事情もうかがえること、被告人にこれまで前科前歴がないことなどの事情も認められるので、これらの被告人のために酌むべき事情も考慮して量定した。
 よって、主文のとおり判決する。
(検察官●●●弁護人●●●各出席)
(求刑 懲役12年)
刑事部
 (裁判官 鵜飼祐充)

奈良県は、子どもポルノ単純所持罪を廃止して、児童ポルノ要求行為を禁止する青少年条例改正を行うようです

 
 子どもポルノ所持罪はH27にひっそり削除されていました。あとのきは、全国に先駆けて所持罪を作ったのに、要求行為への対応は遅れています。

児童ポルノ:画像要求に罰金 県、条例改正目指す /奈良
2019.07.02 毎日新聞社
 子どもが脅された上、自分の裸を撮影してスマートフォンなどで送信してしまう「自画撮り」の被害を防ぐため、県は画像の提供を要求する行為に罰金を科す方針を決めた。県議会9月定例会に、条項を盛り込んだ青少年健全育成条例の改正案を提出し、来年4月の施行を目指す。

 児童買春・児童ポルノ禁止法は、18歳未満の裸が写ったわいせつ画像や動画の製造・提供などを禁じているが、画像などを求める行為までは禁止していない。条例改正案では、要求する行為を取り締まり、被害を未然に防ごうと「何人も青少年に対し、児童ポルノ等の提供を求めることを禁止する」の条文を盛り込む。罰金は30万円以下。同様の条例は既に
 全国19都府県で導入されている。

 県によると、2018年に児童ポルノ被害に遭った子どもは7人(前年比3人減)。被害実態の内訳は明らかにしていないが、自画撮りの被害者はここ数年、毎年出ているという。

 被害者の多くが、SNS上で知り合っており、保護者の目も届きにくい上、一度拡散した画像や動画の削除は難しい。そうした現状を踏まえ、県は子どもが画像を送る前に容疑者の取り締まりが可能な態勢が不可欠と判断した。

 ◇深夜外出も規制を強化

 また、改正案では深夜外出に関しても規制を強化する。保護者以外の人が子どもを深夜に正当な理由なく連れ出したり、
 家などに滞在させたりした場合に30万円以下の罰金を科す。従来は、成人から呼び出されたが行動を共にしていなかったり、自分から出かけて他人の家に滞在したりするケースに対応できなかったため、規制を拡大するという。
 県青少年・社会活動推進課の池口潤課長補佐は「未成年を守る法整備がまだ追い付いていないことから、改正案の提出を決めた。改正を機に社会全体で子どもを守る意識が高まればと願う」と話す。【加藤佑輔】

 改正の広報

http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:y-6zzAYAghoJ:www.police.pref.nara.jp/sp/category/1-2-11-0-0.html+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
子どもを犯罪の被害から守る条例 [2015年7月15日]
平成26年6月「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」が改正され「自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等」の罰則が設けられ、平成27年7月15日に施行されました。この改正に伴い、平成27年7月15日に「子どもを犯罪の被害から守る条例の一部を改正する条例」が施行され「子どもを犯罪の被害から守る条例」のうち「子どもポルノの単純所持」に関する規定が削除されました。

子どもを犯罪の被害から守る条例の一部を改正する条例をここに公布する。
平成二十七年三月二十五日
奈良県知事
奈良県条例第六十六号
子どもを犯罪の被害から守る条例の一部を改正する条例
子どもを犯罪の被害から守る条例(平成十七年七月奈良県条例第九号)の一部を次のように改正する。
第十四条第一項中「第十一条又は第十二条」を「前二条」に改め、同条第二項を削り、第十三条を削る。
第二条第四号を削る。
目次中「第十四条」を「第十三条」に、「第十五条」を「第十四条」に改める。
同条を第十三条とする。
第十五条第一項中「又は第十三条」を削り、同
条第二項を削り、同条を第十四条とす
る。
附則
(施行期日)
1この条例は、平成二十七年七月十五日から施行する。
(経過措置)
2この条例の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による

改正前
(子どもポルノの所持等の禁止)
第13条何人も、正当な理由なく、子どもポルノを所持し、又は第2条第4号アから
ウまでのいずれかに掲げる子どもの姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない。

https://www1.g-reiki.net/pref.nara/reiki_honbun/k401RG00001081.html
○子どもを犯罪の被害から守る条例
平成十七年七月一日
奈良県条例第九号
子どもを犯罪の被害から守る条例をここに公布する。
子どもを犯罪の被害から守る条例

目次

第一章 総則(第一条―第六条)

第二章 子どもの安全確保に関する施策(第七条―第十条)

第三章 子どもに対する犯罪を助長する行為の規制等(第十一条―第十三条)

第四章 罰則(第十四条)

附則

第一章 総則

(目的)

第一条 この条例は、子どもの生命又は身体に危害を及ぼす犯罪の被害を未然に防止するため、県、県民及び事業者の責務を明らかにするとともに、必要な施策及び規制する行為を定め、もって子どもの安全を確保することを目的とする。

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 子ども 十三歳に満たない者をいう。

二 学校等 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校又は児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設であって、現に子どもが在籍又は在所するものをいう。

三 保護監督者 親権者、未成年後見人、学校等の職員その他の者で子どもを現に保護監督するものをいう。

(平一八条例一二・平一九条例二五・平二七条例六六・一部改正)

(適用上の注意)

第三条 この条例の適用に当たっては、県民及び滞在者の自由と権利を不当に制限しないように留意しなければならない。

(県の責務)

第四条 県は、子どもの安全を確保するための必要な施策を実施する責務を有する。

2 県は、前項の施策の実施に当たっては、国及び市町村との連絡調整を緊密に行うよう努めるものとする。

(県民の責務)

第五条 県民は、子どもの安全を確保するため、自らが積極的に活動するとともに、県及び市町村が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

(事業者の責務)

第六条 事業者は、子どもの安全を確保するため、自らが積極的に活動するとともに、その所有し、又は管理する施設及び事業活動に関し、県及び市町村が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

第二章 子どもの安全確保に関する施策

(推進体制の整備等)

第七条 県は、市町村、県民及び事業者と連携し、相互に協力して子どもの安全確保を推進するための体制の整備に努めるものとする。

2 県は、子どもの安全を確保するために、第十一条又は第十二条に規定する行為を行う者その他子どもに危害を加えるおそれのある者に関する情報を収集し、活用するものとする。

(助言その他の必要な支援)

第八条 県は、県民及び事業者が実施する子どもの安全を確保するための自主的な活動を促進するため、技術的な助言その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

2 県は、子どもの安全を確保するために市町村が果たす役割の重要性にかんがみ、市町村が子どもの安全を確保するための施策を実施する場合には、技術的な助言その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。

(学校等における安全の確保)

第九条 学校等を設置し、又は管理する者は、当該学校等の施設内において、子どもの安全を確保するよう努めるものとする。

2 学校等を設置し、又は管理する者は、子どもが犯罪被害に遭わないようにするための教育を充実するよう努めるものとする。

(通学路等における安全の確保)

第十条 子どもが通学、通園等の用に供している道路及び日常的に利用している公園、広場等(以下「通学路等」という。)を設置し、又は管理する者は、子どもの安全を確保するため、当該通学路等の環境整備に努めるものとする。

2 親権者、未成年後見人、学校等の管理者及び職員、地域住民並びに通学路等の所在する地域を管轄する警察署長は、連携して、通学路等における子どもの安全を確保するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

第三章 子どもに対する犯罪を助長する行為の規制等

(子どもに不安を与える行為の禁止)

第十一条 何人も、道路、公園、広場、駅、興行場、遊園地、観光施設、飲食店、公衆便所その他公衆が出入りすることのできる場所(以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車その他公衆が利用できる乗物(以下「公共の乗物」という。)において、保護監督者が直ちに危害を排除できない状態にある子どもに対し、正当な理由なく、甘言を用いて惑わし、又は虚言を用いて欺いてはならない。

(子どもを威迫する行為の禁止)

第十二条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、保護監督者が直ちに危害を排除できない状態にある子どもに対し、正当な理由なく、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 言い掛かりをつけ、すごみ、又は卑わいな事項を告げること。

二 身体又は衣服等を捕らえ、進路に立ちふさがり、又はつきまとうこと。

(禁止行為に係る通報)

十三条 前二条の規定に違反したと認められる者を発見した者は、保護監督者又は警察官に通報するよう努めなければならない。この場合において、通報を受けた保護監督者は、警察官に通報するよう努めなければならない。

(平二七条例六六・旧第十四条繰上・一部改正)

第四章 罰則

第十四条 第十二条の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(平二七条例六六・旧第十五条繰上・一部改正)

附 則

この条例は、公布の日から施行する。ただし、第十一条から第十五条までの規定は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する。

附 則(平成一八年条例第一二号)

この条例は、平成十八年十月一日から施行する。

附 則(平成一九年条例第二五号)

この条例は、平成十九年十二月二十六日から施行する。

附 則(平成二七年条例第六六号)

(施行期日)

1 この条例は、平成二十七年七月十五日から施行する。

(経過措置)

2 この条例の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

観念的競合説によれば二重起訴になる事案(秋田地裁H30.12.19)

 観念的競合の高裁判例はたくさんありますが、
強制わいせつ罪・児童ポルノ製造罪を観念的競合とする裁判例65 - 児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)


 東京高裁h30に従えば「その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし、被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し」という一個の行為について、9/14に誘拐・強制わいせつ罪で起訴して、10/19に製造罪で起訴しているので、後の起訴が二重起訴で違法です。一審で指摘すると修正されちゃうので、控訴審で指摘して下さい・

 第3 平成30年7月25日午後5時頃,秋田市●●●付近路上において,●●●(●●●以下「被害者B」という。)を認めるや,同人が13歳未満であることを知りながら,同人を誘拐してわいせつな行為をしようと考え,同人に対し,警察官を装い,「警察です。車に乗って,検査します。」旨うそを言い,同人をしてその旨誤信させて,同人を自己が運転する自動車に乗車させた上,同車を発進させて,同所から同市●●●駐車場に連行し,同人を自己の支配下に置き,もってわいせつの目的で同人を誘拐した上,同所に駐車中の前記自動車内において,同人に対し,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年9月14日付け起訴状記載の公訴事実)
 第4 被害者Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第3の日時に,前記第3の駐車場に駐車中の自動車内において,同児童に,被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し,同日午後5時45分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点を前記第2の「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第3)

裁判年月日 平成30年12月19日 裁判所名 秋田地裁 裁判区分 判決
事件名 わいせつ誘拐、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA12196005
 上記の者に対するわいせつ誘拐,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官辻有希子及び国選弁護人笈川正典各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文

 被告人を懲役3年6月に処する。
 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
 
 
理由

 (罪となるべき事実)
 被告人は,
 第1 平成30年2月28日午後3時39分頃,秋田市●●●方敷地内に駐車中の自動車内において,●●●(●●●以下「被害者A」という。)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第1)
 第2 被害者Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第1の日時場所において,同児童に,被告人が同児童の陰部を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを被告人の撮影機能付きスマートフォンで撮影し,同日午後3時49分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点及び静止画データ1点をアプリケーションソフト「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第2)
 第3 平成30年7月25日午後5時頃,秋田市●●●付近路上において,●●●(●●●以下「被害者B」という。)を認めるや,同人が13歳未満であることを知りながら,同人を誘拐してわいせつな行為をしようと考え,同人に対し,警察官を装い,「警察です。車に乗って,検査します。」旨うそを言い,同人をしてその旨誤信させて,同人を自己が運転する自動車に乗車させた上,同車を発進させて,同所から同市●●●駐車場に連行し,同人を自己の支配下に置き,もってわいせつの目的で同人を誘拐した上,同所に駐車中の前記自動車内において,同人に対し,その着衣を脱がせて,その陰部を手指でもてあそぶなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした。(平成30年9月14日付け起訴状記載の公訴事実)
 第4 被害者Bが18歳に満たない児童であることを知りながら,前記第3の日時に,前記第3の駐車場に駐車中の自動車内において,同児童に,被告人が同児童の陰部等を手指で触る姿態,陰部等を露出させる姿態をとらせ,これらを前記第2のスマートフォンで撮影し,同日午後5時45分頃,同市内又はその周辺において,その動画データ1点を前記第2の「○○」を使用して同スマートフォン内蔵の電磁的記録媒体に記録して保存し,もって他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。(平成30年10月19日付け起訴状記載の公訴事実第3)
 (証拠の標目)
 括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を示す。
 判示事実全部について
 ・被告人の公判供述
 ・被告人の検察官調書(乙6),警察官調書(乙3)
 ・検証調書(甲8)
 ・捜査報告書(甲7),捜査報告書抄本(甲15,16)
 判示第1,第2,第4の各事実について
 ・被告人の検察官調書(乙11)
 判示第1,第2の各事実について
 ・被告人の警察官調書(乙8,9)
 ・被害者Aの警察官調書抄本(甲10)
 ・●●●の警察官調書抄本(甲12)
 ・実況見分調書(甲13)
 ・捜査報告書(甲14,17)
 判示第3,第4の各事実について
 ・被告人の警察官調書(乙4,5,10)
 ・●●●の警察官調書抄本(甲2,3)
 ・写真撮影報告書抄本(甲5)
 ・捜査報告書(甲4,9),捜査報告書抄本(甲1)
 ・電話用紙(甲6)
 (法令の適用)
 罰条
 判示第1の所為
 刑法176条後段
 判示第2,第4の各所為
 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項,2項,2条3項2号,3号
 判示第3の所為のうち
 わいせつ誘拐の点 刑法225条
 強制わいせつの点 刑法176条後段
 科刑上一罪の処理
 判示第3について
 刑法54条1項後段,10条(重いわいせつ誘拐罪の刑で処断)
 刑種の選択
 判示第2,第4について
 各懲役刑を選択
 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入
 刑法21条
 訴訟費用の不負担
 刑訴法181条1項ただし書
 なお,弁護人は,判示第1の強制わいせつ罪と判示第2の児童ポルノ製造罪は観念的競合となるから,両罪を科刑上一罪とすべきであり,また,判示第3のわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪は牽連関係にあり,判示第3のわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪は牽連関係にある上,判示第3の強制わいせつ罪と判示第4の児童ポルノ製造罪は観念的競合となって,結局,判示第3,第4について,わいせつ誘拐罪,強制わいせつ罪,児童ポルノ製造罪を科刑上一罪とすべきであると主張する。
 しかしながら,本件において,判示第1の強制わいせつの行為と判示第2の児童ポルノ製造の行為との間には,一部重なりあう点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるといえないことや,両行為の性質等にかんがみると,両行為は社会的意味合いを異にする別個のものと認められるから,両罪について併合罪とするのが相当である。また,判示第3のわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪とは,弁護人が指摘するとおり牽連関係にあると認められるところ,判示第3の強制わいせつの行為と判示第4の児童ポルノ製造の行為とは,前同様,社会的意味合いを異にする別個のものと認められ,観念的競合とするのは相当でなく,また,判示第3のわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪との間には,その罪質上,通例その一方が他方の手段又は結果となる関係があるとはいえないから,牽連関係にあるとは認められず,判示第3について科刑上一罪の処理によるわいせつ誘拐罪と判示第4の児童ポルノ製造罪について併合罪とするのが相当である。
 (量刑の理由)
 被告人は,警察官を装って被害者Aに声をかけると,同人の自宅駐車場内の被告人車両において,その陰部を手指でもてあそぶなどのわいせつな行為に及んだ上,被害者Aの陰部等を露出させる姿態等をスマートフォンで撮影,保存するなどして児童ポルノを製造し,判示第1,第2の各犯行に及び,さらに,その約5か月後に,警察官を装って被害者Bに声をかけ,被告人車両に乗せるなどしてわいせつの目的で被害者Bを誘拐するとともに,その陰部を手指でもてあそぶなどのわいせつな行為に及んだ上,前同様に児童ポルノを製造し,判示第3,第4の各犯行に及んだのであって,その犯行態様は,思慮浅薄な幼い女児を狙って警察官を装い声をかけてなされた卑劣で悪質なものである。各被害者やその保護者らの精神的苦痛には大きなものがあり,各被害者の健全な成長に与えるであろう影響も懸念されるところであって,その処罰感情が厳しいのも当然である。被告人は自己の性欲を満たすために本件各犯行に及んだもので,強い非難に値する。被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 他方,被告人が,本件各犯行を認め,二度と同じ犯罪を繰り返さないため,カウンセリングに通う意向を示すなど反省の態度を示していること,被害者Bに対して200万円を支払い,宥恕はされなかったものの慰謝の措置を講じていること,被告人には前科がないこと,被告人の父が,当公判廷において,被告人の更生に助力する意向を示していることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 以上の事情を総合すれば,被告人に対して,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
 (検察官の求刑意見:懲役5年,弁護人の科刑意見:懲役1年)
 平成30年12月20日
 秋田地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 杉山正明 裁判官 板東純 裁判官 藤枝健太)

観念的競合説によれば、二重起訴の疑いがある事件(山形地裁H31.3.12)

 製造罪1と強制わいせつ罪1の場合は、併合罪説だと処断刑期が13年、観念的競合説だと処断刑期が10年ということで観念的競合説には実益があるんですが、たくさんやってると処断刑期に影響がなく、どっちでもよくなりますよね。
 ところが、二重起訴になることもあります。観念的競合説によると、「h29.4.8 15:40A(当時7歳)に対し、その陰部等を手指で弄び、その陰部に自己の陰茎を押し当て、被告人がAの乳首等を触る姿態及びAの陰部等を露出させる姿態をとらせ、これらを自己の動画撮影機能付き携帯電話機で撮影し、」という一個の行為を、6/19と、5/29に起訴してるから、あとの起訴(6/19の強制わいせつ罪)は公訴棄却になる。控訴してるのであれば、こういうところも見てほしいなあ。

刑訴法 第三三八条[公訴棄却の判決]
 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。

D1-Law.com判例体系
山形地方裁判所
平成31年03月12日
上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強姦未遂、強制性交等、強制わいせつ、強制性交等未遂被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤浩由及び弁護人安孫子英彦(私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第3(平成30年6月19日付け起訴状記載の公訴事実第1関係)
  ●●●(以下「A」という。)が13歳未満であることを知りながら、Aにわいせつな行為をしようと考え、平成29年4月8日午後3時27分頃から同日午後3時40分頃までの間、(住所略)所在の被告人が経営する「株式会社H」(以下「本件会社」という。)の当時の事務所において、A(当時7歳)に対し、その陰部等を手指で弄び、その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどし、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした。
第4(平成30年5月29日付け起訴状記載の公訴事実関係)
  Aが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記第3記載の日時、場所において、Aに、被告人が自己の陰茎をAの陰部に押し当てる姿態、被告人がAの乳首等を触る姿態及びAの陰部等を露出させる姿態をとらせ、これらを自己の動画撮影機能付き携帯電話機(山形地方検察庁平成30年領第252号符号1の1。以下「本件スマホ〈1〉」という。)で撮影し、それら動画データ2点を電磁的記録媒体である本件スマホ〈1〉の内蔵記憶装置に記録して保存し、もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態、他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの並びに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。

(求刑 懲役15年、主文同旨の没収)
刑事部
 (裁判長裁判官 兒島光夫 裁判官 馬場崇 裁判官 小野寺俊樹)


 控訴が棄却されています。二重起訴は主張すらされていませんでした。
 併合罪とした理由が「被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきである」というんですが、撮影行為をわいせつ行為として起訴するときは、「被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為」を一個のわいせつ行為と評価するので、理由になってないですね。

LEX/DB
【文献番号】25564143
仙台高等裁判所
令和元年8月20日第1刑事部判決

       判   決

無職 a 昭和58年○月○日生
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強姦未遂,強制性交等,強制わいせつ,強制性交等未遂被告事件について,平成31年3月12日山形地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官有水基幸出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由
1 本件控訴の趣意は、主任弁護人藤田紀子及び弁護人藤田祐子連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。論旨は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
2 法令適用の誤りの論旨について
 論旨は,要するに,原判決は,第3の強制わいせつ行為(平成29年4月8日,被害者Aに対するもの)と第4の児童ポルノ製造行為(同一日時場所,Aの姿態を撮影,保存したもの)との関係について,観念的競合による一罪ではなく,数罪であるとした。第5・第6,第7・第8,第9・第10,第11・第12,第13・第14,第15・第16,第17・第18,第21・第22,第23・第24,第25・第26の各関係についても同様である。強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,それぞれ行為の全部が完全に重なっており,いずれも観念的競合の関係にあると解すべきであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 
 そこで検討すると,被害児の陰部等を手指で弄び,その陰部に自己の陰茎を押し当てるなどのわいせつ行為とそれらの行為等に係る被害児の姿態をスマホ等で撮影して保存する行為について,両者が同一の機会に行われ,時間と場所が重なり合うことがあったとしても,両者は通常伴う関係にあるとはいえないし,それぞれの行為の意味合いは相当異なり,社会通念上別個のものというべきであるから,両者は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である。
 本件において,上記各罪の関係について,いずれも併合罪であるとした原判決の法令の適用は正当であり,論旨は理由がない。
令和元年8月20日
仙台高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 秋山敬 裁判官 中島真一郎 裁判官 井筒径子

強制わいせつ罪・児童ポルノ製造罪を観念的競合とする裁判例65

 東京高裁H30.1.30の影響でてるかも。
 同一機会の触って撮影する行為が強制わいせつ罪で起訴されて、製造罪で追起訴されている事案だと二重起訴の論点も出てきます

名古屋地裁一宮 H17.10.13
東京地裁 H18.3.24
東京地裁 H19.2.1
東京地裁 H19.6.21
横浜地裁 H19.8.3
長野地裁 H19.10.30
7 札幌地裁 H19.11.7
東京地裁 H19.12.3
高松地裁 H19.12.10
10 山口地裁 H20.1.22
11 福島地裁白河支部 H20.10.15
12 那覇地裁 H20.10.27
13 金沢地裁 H20.12.12
14 金沢地裁 H21.1.20
15 那覇地裁 H21.1.28
16 山口地裁 H21.2.4
17 佐賀地裁唐津支部 H21.2.12
18 仙台高裁 H21.3.3
19 那覇地裁沖縄支部 H21.5.20
20 千葉地裁 H21.9.9
21 札幌地裁 H21.9.18
22 名古屋高裁 H22.3.4
23 松山地裁 H22.3.30
25 那覇地裁沖縄 H22.5.13
24 さいたま地裁川越支部 H22.5.31
26 横浜地裁 H22.7.30
27 福岡地裁飯塚 H22.8.5
28 高松高裁 H22.9.7
29 高知地裁 H22.9.14
30 水戸地裁 H22.10.6
31 さいたま地裁越谷支部 H22.11.24
32 松山地裁大洲支部 H22.11.26
33 名古屋地裁 H23.1.7
34 広島地裁 H23.1.19
35 広島高裁 H23.5.26
36 高松地裁 H23.7.11
37 大阪高裁 H23.12.21
38 秋田地裁 H23.12.26
39 横浜地裁川崎支部 H24.1.19
40 福岡地裁 H24.3.2
41 横浜地裁 H24.7.23
42 福岡地裁 H24.11.9
43 松山地裁 H25.3.6
44 横浜地裁横須賀 H25.4.30
45 大阪高裁 H25.6.21
46 横浜地裁 H25.6.27
47 福島地裁いわき支部 H26.1.15
48 松山地裁 H26.1.22
49 福岡地裁 H26.5.12
50 神戸地裁尼崎 H26.7.29
51 神戸地裁尼崎 H26.7.30
52 横浜地裁 H26.9.1
53 津地裁 H26.10.14
54 名古屋地裁 H27.2.3
55 岡山地裁 H27.2.16
56 長野地裁飯田 H27.6.19
48 横浜地裁 H27.7.15
57 広島地裁福山 H27.10.14
58 千葉地裁松戸 H28.1.13
59 高松地裁 H28.6.2
60 横浜地裁 H28.7.20
61 名古屋地裁岡﨑 H28.12.20
62 東京地裁 H29.7.14
63 東京高裁 H30.1.30
64 広島地裁 H30.7.19
65 広島地裁 64事件の分離共犯

ハメ撮り(姿態をとらせて製造行為)を、ひそかに製造罪で起訴した事案

 性犯罪・福祉犯罪の機会の盗撮行為について、ひそかに製造罪(7条5項)で起訴される例があります。

誤ったまま判決となったもの
 札幌地裁H29.2.23実刑
 新潟地裁H28.11.4実刑
 神戸地裁尼崎支部H28.9.7
 奈良地裁葛城支部H29.3.16
 大分簡裁H28.4.8略式命令(罰金)
 東京地裁r2.3.2実刑
 名古屋地裁R1.8.21

起訴後に修正されたもの
 神戸地裁姫路支部H28.5.20
 神戸地裁R01.6.28

誤った事例の公訴事実
公 訴 事 実
 被告人は、A子(当時15歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら
第1 令和元年6月27日午後3時44分頃から同日午後5時22分頃までの間、HOTEL天満201号室において、同児童に対し、対償として現金1万3000円を供与し、同児童に自己の陰茎を口淫させるなどの性交類似行為をし、もって児童買春をし
第2 前記日時頃、前記記載の場所において、ひそかに同児童が被告人の陰茎を口淫する姿態を、被告人が使用する携帯電話機で撮影し、その画像データを同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もってひそかに児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
たものである。
罪名及び罰条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
第1 同法律第4条、第2条第2項第1号
第2    同法律第7条第5項、第2条第3項第1号

 法文上も「前二項に規定するもののほか、」となっていて4項製造罪が成立する場合には5項は適用できない規定になっています。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

 判例もあって、姿態をとらせていることになるので、姿態とらせて製造罪(7条4項)だけが成立して、ひそかに製造罪(7条5項)は成立しません。いずれも弁護人は奥村です。

札幌高裁H19.3.8(最決H21.10.21の控訴審判決)
児童ポルノ法7条3項の「姿態をとらせ」とは,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい,強制を要しないと解されるところ,関係証拠によれば,被告人は,児童と性交等を行っているが,これらの行為は通常当事者双方の言動により行為に至るものであって,本件においても,被告人が警察官に対し,「(ビデオに撮影した)これらの場面はセックスの一連の行為の一場面であります」と述べているように,被告人は,自ら積極的に児童に性交等の行為を行い,あるいは,児童の性交等の行為に応じる言動をしているのであって,この被告人の言動等により児童は性交等の姿態をとるに至ったと認められる。被告人が児童に「姿態をとらせ」たことは明らかである。
なお,所論は,姿態をとらせる行為は,児童ポルノ製造に向けられた行為であるから,その時点において児童ポルノ製造の目的を要するが,被告人には,その時点において児童ポルノ製造の目的がない,という。しかし,被告人は,児童に性交等の姿態をとらせ,それを録画しているのであるから,正に,児童ポルノ製造行為に向けて姿態をとらせたというべきである。所論は採用できない。

阪高裁H28.10.26
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
判決
原判決神戸地方裁判所姫路支部平成28年5月20日宣告
第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について。
論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。
所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。
しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。
いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

 見つけたら奥村に連絡して下さい。

強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合とした判例・裁判例63選

強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合とした判例・裁判例
 東京高裁H30で観念的競合説がちょっと持ち直した感じ。

名古屋地裁一宮 H17.10.13
東京地裁 H18.3.24
東京地裁 H19.2.1
東京地裁 H19.6.21
横浜地裁 H19.8.3
長野地裁 H19.10.30
7 札幌地裁 H19.11.7
東京地裁 H19.12.3
高松地裁 H19.12.10
10 山口地裁 H20.1.22
11 福島地裁白河支部 H20.10.15
12 那覇地裁 H20.10.27
13 金沢地裁 H20.12.12
14 金沢地裁 H21.1.20
15 那覇地裁 H21.1.28
16 山口地裁 H21.2.4
17 佐賀地裁唐津支部 H21.2.12
18 仙台高裁 H21.3.3
19 那覇地裁沖縄支部 H21.5.20
20 千葉地裁 H21.9.9
21 札幌地裁 H21.9.18
22 名古屋高裁 H22.3.4
23 松山地裁 H22.3.30
25 那覇地裁沖縄 H22.5.13
24 さいたま地裁川越支部 H22.5.31
26 横浜地裁 H22.7.30
27 福岡地裁飯塚 H22.8.5
28 高松高裁 H22.9.7
29 高知地裁 H22.9.14
30 水戸地裁 H22.10.6
31 さいたま地裁越谷支部 H22.11.24
32 松山地裁大洲支部 H22.11.26
33 名古屋地裁 H23.1.7
34 広島地裁 H23.1.19
35 広島高裁 H23.5.26
36 高松地裁 H23.7.11
37 大阪高裁 H23.12.21
38 秋田地裁 H23.12.26
39 横浜地裁川崎支部 H24.1.19
40 福岡地裁 H24.3.2
41 横浜地裁 H24.7.23
42 福岡地裁 H24.11.9
43 松山地裁 H25.3.6
44 横浜地裁横須賀 H25.4.30
45 大阪高裁 H25.6.21
46 横浜地裁 H25.6.27
47 福島地裁いわき支部 H26.1.15
48 松山地裁 H26.1.22
49 福岡地裁 H26.5.12
50 神戸地裁尼崎 H26.7.29
51 神戸地裁尼崎 H26.7.30
52 横浜地裁 H26.9.1
53 津地裁 H26.10.14
54 名古屋地裁 H27.2.3
55 岡山地裁 H27.2.16
56 長野地裁飯田 H27.6.19
48 横浜地裁 H27.7.15
57 広島地裁福山 H27.10.14
58 千葉地裁松戸 H28.1.13
59 高松地裁 H28.6.2
60 横浜地裁 H28.7.20
61名古屋地裁岡﨑 H28.12.20
62 東京地裁 H29.7.14
63 東京高裁 H30.1.30

女性に対するAEDについて「強制わいせつ罪に該当するかどうかは、性的意図のもとに行われるという事が必要でして、AEDを使用する状況は、目的は救命ですので性的意図というのは認定されない」という弁護士のコメント

 最高裁大法廷h29.11.29(2017.11.29)が「行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。」「故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」というので、現時点ので判例は「性的意図のもとに行われるという事が必要でして」ということではありません
 大法廷判決以降、わいせつの定義もはっきりしなくなっていて、判例は「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」という説明をするだけですので、女性へのAED使用については、「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,~~主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」ので、真に救命目的であって、AEDの使用方法に従い、行為自体も救命のために必要な範囲で着衣を脱がす程度であれば、わいせつな行為に当たらないということになるでしょう。
 考慮する要素を抽象的に挙げるだけでわいせつの定義がないので、実務家としては、結局、「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,~~主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」というフレーズをマジックワードとして、希望の結論へ説明することになります。

児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
最高裁判所大法廷判決平成29年11月29日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集71巻9号467頁
       裁判所時報1688号245頁
       判例タイムズ1452号57頁
       判例時報2383号115頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 警察公論73巻8号88頁
       論究ジュリスト25号113頁
       ジュリスト1517号78頁
       上智法学論集62巻1~2号177頁
       捜査研究66巻12号2頁
       法学教室449号129頁
       法学教室450号51頁
       法学セミナー63巻2号123頁

       主   文

 本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中280日を本刑に算入する。

       理   由

 1 弁護人松木俊明,同園田寿の各上告趣意,同奥村徹の上告趣意のうち最高裁昭和43年(あ)第95号同45年1月29日第一小法廷判決・刑集24巻1号1頁(以下「昭和45年判例」という。)を引用して判例違反,法令違反をいう点について
 (1) 第1審判決判示第1の1の犯罪事実の要旨は,「被告人は,被害者が13歳未満の女子であることを知りながら,被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなどのわいせつな行為をした。」というものである。
 原判決は,自己の性欲を刺激興奮させ,満足させる意図はなく,金銭目的であったという被告人の弁解が排斥できず,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残るとした第1審判決の事実認定を是認した上で,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないとして,昭和45年判例を現時点において維持するのは相当でないと説示し,上記第1の1の犯罪事実を認定した第1審判決を是認した。
 (2) 所論は,原判決が,平成29年法律第72号による改正前の刑法176条(以下単に「刑法176条」という。)の解釈適用を誤り,強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和45年判例と相反する判断をしたと主張するので,この点について,検討する。
 (3) 昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実につき,平成7年法律第91号による改正前の刑法176条前段の強制わいせつ罪に当たるとした第1審判決を是認した原判決に対する上告事件において,「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示し,「性欲を刺戟興奮させ,または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第1審判決および原判決は,ともに刑法176条の解釈適用を誤ったものである」として,原判決を破棄したものである。
 (4) しかしながら,昭和45年判例の示した上記解釈は維持し難いというべきである。
 ア 現行刑法が制定されてから現在に至るまで,法文上強制わいせつ罪の成立要件として性的意図といった故意以外の行為者の主観的事情を求める趣旨の文言が規定されたことはなく,強制わいせつ罪について,行為者自身の性欲を刺激興奮させたか否かは何ら同罪の成立に影響を及ぼすものではないとの有力な見解も従前から主張されていた。これに対し,昭和45年判例は,強制わいせつ罪の成立に性的意図を要するとし,性的意図がない場合には,強要罪等の成立があり得る旨判示しているところ,性的意図の有無によって,強制わいせつ罪(当時の法定刑は6月以上7年以下の懲役)が成立するか,法定刑の軽い強要罪(法定刑は3年以下の懲役)等が成立するにとどまるかの結論を異にすべき理由を明らかにしていない。また,同判例は,強制わいせつ罪の加重類型と解される強姦罪の成立には故意以外の行為者の主観的事情を要しないと一貫して解されてきたこととの整合性に関する説明も特段付していない。
 元来,性的な被害に係る犯罪規定あるいはその解釈には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができないという特質があると考えられる。諸外国においても,昭和45年(1970年)以降,性的な被害に係る犯罪規定の改正が各国の実情に応じて行われており,我が国の昭和45年当時の学説に影響を与えていたと指摘されることがあるドイツにおいても,累次の法改正により,既に構成要件の基本部分が改められるなどしている。こうした立法の動きは,性的な被害に係る犯罪規定がその時代の各国における性的な被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応していることを示すものといえる。
 これらのことからすると,昭和45年判例は,その当時の社会の受け止め方などを考慮しつつ,強制わいせつ罪の処罰範囲を画するものとして,同罪の成立要件として,行為の性質及び内容にかかわらず,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを一律に求めたものと理解できるが,その解釈を確として揺るぎないものとみることはできない。
 イ そして,「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,性的な被害に係る犯罪に対する国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪の法定刑を6月以上7年以下の懲役から6月以上10年以下の懲役に引き上げ,強姦罪の法定刑を2年以上の有期懲役から3年以上の有期懲役に引き上げるなどし,「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,それまで強制わいせつ罪による処罰対象とされてきた行為の一部を強姦罪とされてきた行為と併せ,男女いずれもが,その行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに,その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどしている。これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかである。
 ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。
 (5) もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
 そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
 (6) そこで,本件についてみると,第1審判決判示第1の1の行為は,当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかであり,強制わいせつ罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の結論は相当である。
 以上によれば,刑訴法410条2項により,昭和45年判例を当裁判所の上記見解に反する限度で変更し,原判決を維持するのを相当と認めるから,同判例違反をいう所論は,原判決破棄の理由にならない。なお,このように原判決を維持することは憲法31条等に違反するものではない。
 2 弁護人奥村徹の上告趣意のうち,その余の判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないか,引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠くものであり,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 よって,刑訴法414条,396条,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 検察官平光信隆,同中原亮一 公判出席
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 木内道祥 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之 裁判官 山口 厚 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

 議論の出発点は、この辺から

薄井真由子強制わいせつ罪における「性的意図」(植村立郎「刑事事実認定重要判決50選 上 《第3版》」2020)
(ア) 治療行為
前記(2)のとおり,治療行為としての性器等への接触行為については。性的性質が否定されると解される。正当な治療行為である限り,行為者たる医師等が主観的には性的意図を有していたとしても, そのことだけで当罰性を肯定するのは不当であるから,主観的事情により治療行為が性的意味を帯びるものではない,16)。確かに医師等が性的意図を有していたと治療対象者が知れば, その性的差恥心は害され性的被害を受けたと感じることはあるだろうが,対象者が行為者の性的意図を知る場合には,客観的にも行為者の性的意図の発露を伴うのが通常であろう(当該行為の際にひわいな言動をするとか,当該行為の様子を秘密裡に撮影するといった客観的行為を伴うからこそ,対象者が行為者の性的意図を認識し’ また’犯罪として認知されるのが通常と思われる。)。こうした行為者の性的意図の発露を伴う行為については,客観的にみて正当な治療行為の枠から外れていると評価でき, それゆえに性的意味が認められると解される,17)から,上記解釈であっても不都合は生じないと思われる
なお,治療行為としての必要性の程度と関連させ,検査等として多少は有効ではあるものの必ずしも必要とはいえない行為をした場合で行為者に性的意図があった場合には, わいせつ行為性を肯定する余地を認めるのが妥当とする見解もある,18)が,外形的には行為者の性的意図が一切表れておらず’医学的に治療行為としての必要性が完全に否定できなければ, 当該行為に性的意味を肯定することは困難ではないかと思われる19)

公衆浴場の混浴見直し否定=「おおむね10歳以上」制限-政府答弁書

 児童ポルノ事件として上がってくる問題ですが、厚生労働や自治体の要綱があるので、男湯の女児とか、女児の沐浴シーンの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」該当性が問題になることがあります。

横浜地裁h28.7.20
第8 児童ポルノ製造事件について
 甲228号証及び甲230号証の各画像中,一部の画像(甲228号証添付資料12の写真1ないし17,甲230号証添付資料2の写真1ないし5,同資料7の写真6ないし10,同資料10の写真1,2,同資料11の写真3,同資料15の写真1,2,8ないし13及び15)については,被害児童が衣服の全部又は一部を着けない状態にはあるものの,通常の沐浴をしている情景としか見られないなど,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないと判断したため,これらの画像については児童ポルノ製造罪は成立しない。

阪高裁平成24年7月12日
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。
 次に(2)の点は,被告人が3号ポルノを常習的に製造し,他人に提供していたとしても,関係証拠上,原判示各事実で被害者とされている児童は別人であって,被害児童が4名であることは明らかであり,それら4名の児童について,その記録された裸体画像を他人に見られないという個人的法益が現実に侵害されている上,撮影の日時場所も異なるのであるから,それらが併合罪となるのは明らかであり,原判決の判断は正当である。
 以上のとおりであるから,前記法令適用の誤りをいう論旨も理由がない。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019062100709&g=pol
公衆浴場の混浴見直し否定=「おおむね10歳以上」制限-政府答弁書
2019年06月21日12時35分
 政府は21日の閣議で決定した答弁書で、公衆浴場での「おおむね10歳以上」の混浴を制限する厚生労働省要領の見直しに否定的な見解を示した。立憲民主党初鹿明博衆院議員の質問主意書に答えた。
〔写真特集〕盗聴器・盗撮カメラ

 厚労省の衛生等管理要領は「おおむね10歳以上の男女を混浴させない」と規定。これについて初鹿氏は「父親と混浴している女児を狙った盗撮被害が相次いでいる」として、混浴可能な年齢を引き下げ、小学校就学前までとすることを提案。政府は「さまざまな意見は承知しているが、入浴者への影響などを踏まえる必要があり、要領を直ちに見直すことは考えていない」と回答した。

強制性交等(口腔性交)の事案の量刑に当り,改正前の強姦罪の量刑傾向を参酌した原判決を是認した事例(東京高裁H31.2.1)

 刑法改正前の口淫させる強制わいせつ罪の量刑は、手持ちの資料では実刑69:執行猶予46でしたが、改正後は強制口腔性交罪となったので5年以上の懲役(実刑)になります。
 強姦罪1罪だと、改正前は実刑188:執行猶予38だったので、まあ、実刑だったので、改正後も実刑なので、そう変わらないんですが、口腔性交行為の量刑が跳ね上がった感じです。

第一七六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

速報番号3667号
強制性交等
東京高等裁判所平成3 1年2月1日
強制性交等(口腔性交)の事案の量刑に当り,改正前の強姦罪の量刑傾向を参酌した原判決を是認した事例,

裁判要旨
口腔性交も腟内性交も濃密な性的接触を強いられることによる性的自由(性的自己決定)の侵害性,悪質性においては同等であることから、これらを同じ強制性交等罪の行為類型とした平成29年の刑法の一部改正の趣旨に鑑み,本件(口腔性交)において,同改正前の強姦罪の量刑傾向を参酌し,行為責任の重さは,それらの中で典型的な事案と同程度と位置付けた原判決の量刑判断は不合理であるとはいえない。

免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるとき(刑事補償法25条1項)とされた事例(最決r01.7.4)

 同じ前例がなかったので、手間取りましたが、満額認容されました。
 控訴審の無罪判決が最高裁で追認されています。

刑事補償法
第二五条(免訴又は公訴棄却の場合における補償)
1 刑事訴訟法の規定による免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者は、もし免訴又は公訴棄却の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは、国に対して、抑留若しくは拘禁による補償又は刑の執行若しくは拘置による補償を請求することができる。
2前項の規定による補償については、無罪の裁判を受けた者の補償に関する規定を準用する。補償決定の公示についても同様である。

平成31年(も)第○号
決   定
                請求人
代理人弁護士奥村徹
 上記の各請求人から刑事補償の請求があったので,当裁判所は,検察官及び各請求人の意見を聴き,次のとおり決定する。
主   文
 請求人に対し,金○○円を交付する。
理   由
 1 本件請求の趣旨は,請求人らは,~~~tは同事件につき,平成年月日当裁判所において公訴棄却の決定を受けたが,もし公訴棄却の決定をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるから,tが同事件において受けた合計○日間の未決の抑留及び拘禁について,刑事補償法に基づく補償を求めるというのである。
 2 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
~~~
 3 刑事補償法25条1項は,公訴棄却の裁判を受けた者は,もし公訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは,抑留又は拘禁による補償を請求することができると規定するところ,一件記録によれば,上記控訴審判決の判断は不合理なものではなく,tが~~していなかったならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるものと認められる。
 4 以上によれば,請求人らに対しては,tが受けた未決の抑留及び拘禁全部につき刑事補償法25条,2条による補償をすべき場合に当たる。そこで,補償金額につき検討すると,以上の事実のほか,同法4条2項所定の諸般の事情を考慮して,同条1項所定の金額の範囲内で,tの受けた抑留及び拘禁の日数に応じ,1日金○○円の割合により,主文に記載した金額の補償金を交付するのが相当である。
 よって,刑事補償法16条前段により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
  令和元年7月4日
    最高裁判所第三小法廷
        裁判長裁判官 林 景一
           裁判官 山﨑敏充
           裁判官 戸倉三郎
           裁判官 宮崎裕子
           裁判官 宇賀克也

神元隆賢「判例研究強制わいせつ罪において性的意図を考慮要素とする意義をなお存するとし、さらに強制わいせつの際に被害児童の姿態を撮影し児童ポルノを製造した場合の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係につき、撮影機器内に一次保存した場合は観念的競合、複製するなどして二次保存した場合は併合罪とした事例(富士見市ベビーシッター事件控訴審判決)

神元隆賢「判例研究強制わいせつ罪において性的意図を考慮要素とする意義をなお存するとし、さらに強制わいせつの際に被害児童の姿態を撮影し児童ポルノを製造した場合の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係につき、撮影機器内に一次保存した場合は観念的競合、複製するなどして二次保存した場合は併合罪とした事例(富士見市ベビーシッター事件控訴審判決)
東京高裁平成三〇年一月三〇日判決(上告)(平成二八年(う)第一六八七号:保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件)(判例集未登載)」

 公開判例だけみてると、併合罪→観念的競合という流れに見えるようです。
 観念的競合→併合罪→観念的競合と奥村説が挽回してるところです。
 神元隆賢先生は併合罪とされる理由はわかりませんが、撮影行為をわいせつ行為とも製造行為とも評価する以上、観念的競合になるはずです。
 この事件は起訴検事が観念的競合で起訴したり、併合罪で起訴したりして、よく理解してなかったと思われます。裁判員もそのまま判決して、控訴審も追認しています。量刑について検察官の主張が通らなかったのと共通しています。

http://hokuga.hgu.jp/dspace/handle/123456789/3646

第二は、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係を、観念的競合と併合罪のいずれと解するかという点である。
観念的競合は、一個の行為で数個の結果を生じ、それが構成要件に複数回該当し、かつ社会的事象としても重なり合いが認められる場合(7)で、刑法第五四条第一項が適用されることにより、刑を科すうえで一罪として扱われ、数罪のうち最も重い罪の刑により処断される。
一個の行為による包括一罪との違いは、被害法益の主体、種類の共通性の要否に求められ、被害法益が異なっている場合は観念的競合、共通する場合は包括一罪が選択される。
そして両罪の保護法益についてみると、強制わいせつ罪のそれが個人法益としての性的自由であることに異論はないが、児童ポルノ製造罪では議論がある。
児ポ法第一条が、⽛この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。
⽜と規定することに鑑みるに、⽛児童が性的搾取及び性的虐待されない権利⽜が同罪の保護法益であることには疑いない。
しかし、これが被害児童の個人的法益であるのか、児童一般の社会的法益であるのか、あるいは両方の性質を持つのかを巡って争いがあるのである(8)。
もっとも、三説のいずれを採ったとしても、強制わいせつ罪の保護法益である性的自由とは差異を生じるから、結局、両罪を観念的競合とする選択は可能である。
しかし、従来の判例は、児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪等の性犯罪の罪数関係について、児童ポルノ製造が一次保存と二次保存のいずれによるかを格別区別せず、すべて併合罪として処理するのが一般的であった
・・・・・・・・
以上見たように、従来の判例は、一貫して、強制わいせつと児童ポルノ製造の行為の同時性は肯定しうるものの、行為の社会的一体性・同質性は肯定しえないから、併合罪となるとの立場を示してきた。
これに対し、本判決は、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪が⽛基本的に併合罪の関係にある⽜ものの、一次保存の場合は⽛ほぼ同時に行われ、行為も重なり合うから、自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得る⽜とした。
強制わいせつと児童ポルノ製造の両行為の社会的一体性・同質性は肯定・否定の分水嶺にあるところ、一次保存の事案では同時性を肯定できるから、かろうじて観念的競合と解しうるとの解釈であろうか。
しかし、そうであるならば、社会的一体性・同質性をむしろ肯定し、⽛基本的に観念的競合の関係にある⽜としたうえで、二次保存では同時性が否定されるから併合罪となると解釈すべきではなかったか。
あるいは、社会的一体性・同質性を必ずしも肯定しきれないが故に⽛基本的に併合罪の関係にある⽜というのであれば、同時性を肯定できたとしても、すべて併合罪とすべきであったろうし、それが従来の判例の立場でもあった。
いずれにせよ、一次保存の場合に限ってであっても、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係を観念的競合とした本判決及び原判決の判断には疑問が残る

神元隆賢「児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)罪、強制わいせつ・強制性交等罪、児童ポルノ製造罪の罪数関係」


 明らかな間違いがあって「これに対し、さいたま地判平成三〇年七月三〇日(判例集未登載)は、強制性交等と一次保存による児童ポルノ製造の事案について、両罪の罪数関係を観念的競合としたが、なぜ併合罪ではないのかとの点について格別言及していない。」とか言ってますが、さいたま地裁H30は強制性交と製造は併合罪となっています。
「罪数関係が問題となった各犯罪の保護法益につき、個人法益と社会法益の相違がある場合には、たとえ同時性があったとしても、社会的一体性・同質性は否定される」として、児童ポルノ製造は社会的法益だから併合罪だという説明です。
 判例は「1個の行為とは、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価を受ける場合をいうとされる」っていうのに、保護法益区切って数えるようです

児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)罪、強制わいせつ・強制性交等罪、児童ポルノ製造罪の罪数関係
著者 神元, 隆賢; KANMOTO, Takayoshi
引用 北海学園大学法学研究, 54(4): 1-24
発行日 2019-03-30
http://hokuga.hgu.jp/dspace/handle/123456789/3761
児童ポルノ製造罪と強制わいせつ・強制性交等罪の罪数関係第二に、一八歳未満の.児童.(児童ポルノ法第二条第一項)に対し、行為者が強制わいせつ・強制性交等に出た際に、所持していたデジタルカメラスマートフォン付属カメラを使用して撮影し児童ポルノを製造した場合について、児童ポルノ製造罪と強制わいせつ・強制性交等罪の罪数関係をどのように解すべきであろうか。
この問題についての重要な下級審判例として、③東京高判平成三〇年一月三〇日(判例集未登載)を挙げることができる。
③判決の事案は以下の通りである。
ベビーシッター業を営む被告人は、平成二四年一一月一六日頃から平成二五年一〇月二七日頃までの間、ベビーシッターという立場を悪用し、A~Iら九名の各男児がいずれも一八歳に満たない児童であることを知りながら、同児童らに対し、全裸の状態で陰茎を露出させるなどの姿態をとらせ、さらにうち二名(A(当時五歳)、F(当時生後八か月))については陰茎の包皮をむくなどし、Fに亀頭包皮炎の傷害を負わせた(Aに対する強制わいせつ事件、Fに対する強制わいせつ致傷事件)。
また、その姿態をデジタルカメラあるいはスマートフォン付属カメラで撮影し、その静止画データを当該撮影機器内のマイクロSDカード内に記録して保存(以下.一次保存.)、あるいは一次保存した画像をノートパソコンのハードディスク内に保存(以下.二次保存.)し、児童ポルノを製造した(児童ポルノ製造事件)。
平成二六年三月一四日、被告人は、I(当時二歳)及びH(当時生後八か月)にわいせつな行為をする目的で、被告人に対してはIらの一時保育を依頼する意思がないIの母親Jらに対し、別人を装ってIらの一時保育を引き受ける旨の電子メールを送信するなどして、Jらに、Iらの一時保育をするのが被告人ではないと誤信させるとともに、情を知らないKにI及びHを預けさせ、さらにKからIらを引き取り、Iらを被告人方に連れ帰るなどして自己の支北研54 (4・10) 468 論説配下に置いた(わいせつ誘拐事件)。
同日、被告人は、Hに対し栄養や水分を与えず、全裸のまま放置するなどし、よって、Hに生命に危険を及ぼすおそれのある重度の低血糖症及び脱水症、中程度の低体温症の傷害を負わせた(保護責任者遺棄致傷事件)。
同月一五日頃、被告人は、被告人方において、Iに対し、その陰茎をひもで縛り、その包皮をむく暴行を加えた。
さらに殺意をもって、その鼻口部を手で塞ぐなどし、窒息により死亡させた(殺人事件)。
以上の事案につき、検察官は、保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童ポルノ製造罪、わいせつ誘拐、殺人、強制わいせつ致傷罪が成立すると主張した。
第一審、横浜地裁平成二八年七月二〇日(判例集未登載)は、検察官の主張する犯罪すべての成立を認めた。
強制わいせつ罪あるいは強制わいせつ致傷罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係については、理由を明示しなかったものの、基本的には、児童ポルノ製造が一次保存であった場合は観念的競合、二次保存であった場合は併合罪とした。
わいせつ誘拐事件については、I及びHに対する各わいせつ誘拐罪を観念的競合、Iに対するわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪を牽連犯とし、結局以上を一罪として最も重いIに対するわいせつ誘拐罪の刑で処断するとした。
これに対し、被告人・弁護人は、強制わいせつ罪・強制わいせつ致傷罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係はいずれも観念的競合とすべきであったなどと主張して控訴した。
控訴審、③判決は控訴棄却とし、その際、強制わいせつ罪・強制わいせつ致傷罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について、.わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵又は付属された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は、ほぼ同時に行われ、行為も重なり合うから、自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが、撮影画像データを撮影機器とは異なる記録北研54 (4・11) 469 児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)罪、強制わいせつ・強制性交等罪、児童ポルノ製造罪の罪数関係媒体であるパソコンに複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には、両行為が同時に行われたとはいえず、重なり合わない部分も含まれること、そもそも強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは、前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し、後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって、基本的に併合罪の関係にあることに照らすと、画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることは合理性を有する。
原判決の罪数判断は、合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ、理由齟齬はなく、具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。
.とした。
被告人上告。
上告審、最決平成三〇年九月一〇日(判例集未登載)は、罪数関係について格別具体的な言及をすることなく上告を棄却した。
以上のようにして、③判決は、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について、強制わいせつ等の際にスマートフォン付属カメラを使用して児童ポルノ製造に出た場合に、当該児童ポルノの画像・動画データを当該撮影機器内のマイクロSDカード内に記録して保存した一次保存では観念的競合、一次保存した画像・動画データをパソコンのハードディスク内に保存した二次保存では併合罪となると結論づけ、最高裁決定にもその解釈が受け継がれたことになる。
それでは、以上のようにして一次保存と二次保存で罪数を区別する解釈は、はたして妥当であろうか。
観念的競合は、一個の行為で数個の結果を生じ、それが構成要件に複数回該当し、かつ社会的事象としても重なり合いが認められる場合( 16)で、刑法第五四条第一項が適用されることにより、刑を科すうえで一罪として扱われ、数罪のうち最も重い罪の刑により処断される。
一個の行為による包括一罪との違いは、被害法益の主体、種類の共通性の要北研54 (4・12) 470 論説否に求められ、被害法益が異なっている場合は観念的競合、共通する場合は包括一罪が選択される。
そして両罪の保護法益についてみると、強制わいせつ罪のそれが個人法益としての性的自由であることに異論はないが、児童ポルノ製造罪では議論がある。
児童ポルノ法は、第一条において.この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。
.と規定する。
これに照らせば、児童ポルノ製造罪の保護法益は、児童福祉法違反罪と同じく、.児童が性的搾取及び性的虐待されない権利..児童の心身の健全な育成.と解されよう。
しかし、これがはたして被害児童の個人的法益であるのか、児童一般の社会的法益であるのか、あるいは両方の性質を持つのかを巡っては、学説上争いがある( 17)。
もっとも、三説のいずれを採ったとしても、強制わいせつ罪の保護法益である性的自由とは差異を生じるから、結局、両罪を観念的競合とする選択は可能ということになる。
しかし、③判決以前の判例のほとんどは、児童ポルノ製造罪と強制わいせつ罪等の性犯罪の罪数関係について、児童ポルノ製造が一次保存と二次保存のいずれによるかを格別区別せずに併合罪として処理していた。
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以上みたように、従来の判例の多くは、強制わいせつと児童ポルノ製造の行為の同時性は肯定しうるものの、行為の社会的一体性・同質性は肯定しえないから、併合罪となるとの立場を示してきた。
これに対し、③判決は、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪が.基本的に併合罪の関係にある.ものの、一次保存の場合は.ほぼ同時に行われ、行為も重なり合うから、自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得る.とした。
強制わいせつと児童ポルノ製造の両行為の社会的一体性・同質性は肯定・否定の分水嶺にあるところ、一次保存の事案では同時性を肯定できるから、かろうじて観念的競合と解しうるとの解釈であろうか。
しかし、そうであるならば、社会的一体性・同質性をむしろ肯定し、.基本的に観念的競合の関係にある.としたうえで、二次保存では同時性が否定されるから併合罪となると解釈すべきではなかったか。
あるいは、社会的一体性・同質性を必ずしも肯定しきれないが故に.基本的に併合罪の関係にある.というのであれば、同時性を肯定できたとしても、すべて併合罪とすべきであったろうし、それが従来の判例の立場でもあった。
とはいえ、解釈としては観念的競合を選択する余地もないではない。
上述したように、多くの事案において、強制わいせつ・強制性交等とデジタルカメラスマートフォン付属カメラを使用しての児童ポルノ製造が同時に行われているから、少なくとも両罪の同時性は概ね肯定しえよう。
残る問題は、社会的事象としても重なり合い、すなわち社会的一体性・同質性を認めうるかという点、そして、そもそも一次保存と二次保存の事案で罪数関係を区別すべきで北研54 (4・17) 475 児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)罪、強制わいせつ・強制性交等罪、児童ポルノ製造罪の罪数関係あるのかという点である。
まず、社会的一体性・同質性については、以下の判例が参考になろう。
最大判昭和四九年五月二九日刑集二八巻四号一一四頁は、道交法上の酒酔い運転罪とその運転中の業務上過失致死罪について社会的一体性・同質性、重なり合いを否定し併合罪としたが、最大判昭和四九年五月二九日刑集二八巻四号一五一頁は道交法上の酒酔い運転罪と無免許運転罪を観念的競合とし、最大判昭和四九年五月二九日刑集二八巻四号一六八頁は道交法上の無免許運転罪と無車検車運転罪を観念的競合とした。
さらに最大判昭和五一年九月二二日刑集三〇巻八号一六四〇頁は、ひき逃げにおける道交法上の救護義務違反罪と報告義務違反罪を.社会生活上、しばしばひき逃げというひとつの社会的出来事として認められている.として観念的競合とした( 18)。
これらの道交法にかかる判例は、交通行政の円滑な遂行及び交通事故の発生・拡大防止という社会法益を保護法益とする道交法上の各罪について、保護法益の細部は異なるものの社会法益としては共通するが故に社会的一体性・同質性を肯定したのではないか。
一方、業務上過失致死罪(現行法であれば自動車運転死傷行為処罰法上の過失運転致死罪)の保護法益は人の生命であるから、道交法上の各罪の保護法益とは、個人法益と社会法益という点で相違がある。
このようにして、罪数関係が問題となった各犯罪の保護法益につき、個人法益と社会法益の相違がある場合には、たとえ同時性があったとしても、社会的一体性・同質性は否定されるとの解釈を導くことができよう。
最判昭和五八年九月二九日刑集三六巻二号二〇六頁は、営利目的での国内に覚せい剤を持ち込み通関線を突破しようとした事案について、覚せい剤取締法上の覚せい剤輸入罪と関税法上の無許可輸入罪を観念的競合としたが( 19)、両罪の保護法益は、前者が保健衛生上の危害発生防止という社会法益( 20)、後者が貨物輸入についての税関手続の適正処理という社会法益と考えられるから、両罪とも社会法益という点ではやはり共通する。
北研54 (4・18) 476 論説他方、強制わいせつ・強制性交等罪の保護法益が性的自由という個人法益であることは言うまでもないが、児童ポルノ製造罪の保護法益はどうであろうか。
児童ポルノ製造罪の保護法益は、児童福祉法違反罪と同じく、.児童が性的搾取及び性的虐待されない権利..児童の心身の健全な育成.と解されるが、これが個人法益か社会法益か、あるいはその両方かを巡って争いがあることは前述した通りである。
思うに、児童ポルノ法上の各罪が基本的には社会法益に対する罪であることは、児童福祉法との関係から明らかである。
しかし、児童ポルノ法第一条は.これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護.についても言及し、第一五条は.児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童.の保護について規定する。
さらに第一六条の三は.国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になる.とするから、児童ポルノに描写された児童個人の法益もまた、児童ポルノ法の保護法益に含まれると解してよいのではないか。
とすれば、強制わいせつ・強制性交等罪と児童ポルノ製造罪は、個人法益と社会・個人双方の法益という点で、個人法益の部分において社会的同質性を認めうるものの、児童ポルノ製造罪の社会法益の部分では一体性を欠くし、そもそも児童ポルノ製造罪の保護法益の主要部分は社会法益と解すべきであるから、結論としては観念的競合とはならず、併合罪となると解すべきであろう。
なお、最決平成二一年七月七日刑集六三巻六号五〇七頁は、.児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律二条三項にいう児童ポルノを、不特定又は多数の者に提供するとともに、不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合には、児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし、同法七条四項の児童ポルノ提供罪と同条五項の同提供目的所持罪とは併合罪の関係にあると解される。
しかし、児童ポルノであり、かつ、刑法一七五条のわいせつ物である物を、他のわいせつ物である物も含め、不特定又は多数の者に販売して提供すると北研54 (4・19) 477 児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)罪、強制わいせつ・強制性交等罪、児童ポルノ製造罪の罪数関係ともに、不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持したという本件のような場合においては、わいせつ物販売と同販売目的所持が包括して一罪を構成すると認められるところ、その一部であるわいせつ物販売と児童ポルノ提供、同じくわいせつ物販売目的所持と児童ポルノ提供目的所持は、それぞれ社会的、自然的事象としては同一の行為であって観念的競合の関係に立つから、結局以上の全体が一罪となるものと解することが相当である。
.とする。
これについても、わいせつ物販売罪、わいせつ物販売目的所持罪などの刑法第一七五条の罪の保護法益は社会法益である健全な性道徳の維持にあるから、児童ポルノ提供罪、児童ポルノ提供目的所持罪の保護法益の主要部分を社会法益と解する私見に照らせば、観念的競合の要件である社会的一体性・同質性を概ね認めうる。
次に、一次保存と二次保存の事案で罪数関係を区別すべきかとの問題はどうか。
かつてのアナログのフィルムカメラが主流の時代であれば、たしかに一次保存によりカメラ内のネガフィルムが製造された時点において、児童ポルノ製造が完了したとは言いがたく、従って現像、プリントあるいはネガフィルムのスキャンといった二次保存に言及する意義があった。
しかし、デジタルカメラスマートフォン付属カメラによる撮影が主流となった今日においては、一次保存と二次保存を区別する意義があるとは考えられない。
なぜなら、デジタルカメラスマートフォンでは、撮影により即座に児童ポルノデジタルカメラ付属の背面液晶モニタースマートフォン内蔵ディスプレイにおいて視聴することが可能であるし、デジタルカメラスマートフォンに搭載された映像外部出力端子を有線でオーディオ・ビジュアル機器に接続したり、さらにはワイヤレスディスプレイ機能を用いて無線で外部ディスプレイの大画面にて視聴することも可能であることからすると、ノートパソコン等に二次保存する行為を、一次保存する行為と格別区別する意味が見いだせないからである。
ノートパソコン等に二次保存する行為は、児童ポルノの静止画・動画ファイルを行為者がより視聴しやすい環境に保存する、あるいは編集しやすくするという意味があるかもしれないが、だとしてもこれは共罰的事後行為と解するべきではなかろうか。
あるいは、児童ポルノ提供罪(児童ポルノ法第七条二号)との関係から、インターネット上への児童ポルノのアップロードの危険を生じた時点で児童ポルノ製造の完成を判断するとの解釈もありうる。
これについていえば、確かに、児童ポルノをノートパソコンに二次保存したほうが、インターネット上へのアップロードは容易であるかもしれない。
しかし、今日では、スマートフォンはもとよりデジタルカメラであっても、機種や内蔵するSDカードによっては、無線接続によるインターネット上への静止画・動画アップロード機能を有していることがある。
とすれば、一次保存と二次保存の間に、児童ポルノ提供の危険性において格別の差はないことになろう。
そもそも、スマートフォンの静止画・動画ファイルが、クラウド設定によりクラウドサーバーに自動保存されるよう設定されていた場合には、一次保存後、行為者の知らない間に二次保存がなされることになるが、クラウド設定の有無等により罪数関係を区別する意義があるとも思われない。
フィルムカメラによる場合は別としても、少なくともデジタルカメラスマートフォン付属カメラによる児童ポルノ製造については、その中核行為は一次保存と見るべきで、二次保存の有無を検討する必要はなかろう。

セクハラ型強制わいせつ罪求刑6月(前橋地裁R1.6.28)

 求刑が法定刑の下限になっています。異例の軽さです。
 中日新聞が被害者の意見を取材していますが、証拠で出てないと考慮されません。

 前橋市セクハラ問題 女性と専門家、発言を疑問視 市長が管理職男性の部署示唆 女性の職場特定の恐れ
2018.05.29 中日新聞
 【群馬県前橋市の山本龍市長は二十八日の定例記者会見で、市役所の四十代の女性嘱託職員が、管理職の男性から宴席で胸をもまれるなどのセクハラ被害を訴えている問題について、「この事案は部署内で(別の)さまざまな問題があって当該者(男性)の件と知るところとなった」と述べ、発言の中では過去の別の不祥事の具体的な内容を明らかにした。市は男性のその不祥事を公表した際、部署名と年齢を明らかにしており、この日の発言で女性の職場が特定される恐れがある。女性と専門家は山本市長の発言を疑問視している。(菅原洋)
・・・
 この問題は二〇一六年末に市内であった職場の忘年会で、飲酒した男性が女性の背後から胸をもみ続け、同僚の女性三人が行為を目撃した。被害を訴える女性は今年に入り市に申し出た。今月中旬には警察に相談し、捜査が始まっている。男性は本紙の取材に「記憶は定かではないが、謝罪したい」と話している。

 前橋市の女性嘱託職員 セクハラ被害訴え 警察に相談市も調査「宴席で胸もまれる」 男性管理職「記憶ないが謝罪したい」
2018.05.25 中日新聞
 【群馬県前橋市の四十代の女性嘱託職員が、管理職の男性から宴席で胸をもまれるなどのセクハラ被害を訴え、警察に相談していることが二十四日、女性本人と被害をその場で目撃した同僚の女性への取材で分かった。本紙の取材に男性は「記憶は定かではないが、宴席で女性に近づいたかもしれない。自分に非があると分かれば、謝罪したい」と話している。市は女性の訴えを把握しており、調査している。(菅原洋)
 被害を訴える女性と同僚によると、二〇一六年十二月末の仕事納め後に市内の居酒屋で開かれた忘年会で、飲酒した男性が座っていた女性の背後から密着。男性が両手で女性の左右の胸をそれぞれつかみ、指の力を入れて数秒間強くもみ続けた。女性にけがはなかったが、恐怖とショックで抵抗できなかったという。
 宴席で同僚の女性三人が行為を目撃し、同僚が抗議すると手を離した。取材に同僚の一人は「私を含め三人が行為を目撃したのは間違いない。残る二人も見た事実を証言できる」と語った。

 被害を訴える女性は一次会で帰宅したが、二次会では男性が別の同僚女性の●にキスし、出席者がその様子を写真撮影した。キスについては男性は写真があるため行為を認めている。

 一七年三月初めには、市内の焼き鳥店で職場の宴会があり、胸をもまれた被害を訴える女性も参加。女性によると、途中で合流した上司であるこの男性が飲酒しない女性に車で送るよう求め、降車時に強引に唇を数秒間吸われたという。

 男性は「飲酒しており、送ってもらったという気持ちもあり、キスを求められるままに、応じてしまった。安易な行為で、反省している。二回の被害で、女性が不快ならば誠心誠意謝罪したい」と説明した。

 本紙の取材で男性の説明を聞いた女性は絶句。「二カ月前にセクハラを受けたのに、私からキスを求めるわけがない。ショックで、悔しい。二次被害ではないか。深く傷付き、絶対に許せない。謝罪があっても、受け入れられない」と話した。その後、女性は男性の釈明の言葉を思い出して職場で泣いたという。

 被害を訴える女性、目撃した女性たちはいずれも一年更新の嘱託職員。男性は一七年六月、同僚に嘱託を含む人員配置の見直しを示唆するメールを送信した。嘱託職員たちは雇用への不安が募り、被害を市や外部へ訴えられなかったという。上司が地位を利用して部下に苦痛を与える「パワハラ」に当たる恐れもある。

 その後、男性職員が起こした別の複数の不祥事が発覚し、今年に入って市が同僚たちに事情を聴いた際、セクハラを訴える女性が自身への被害を申し出た。

 市職員課は「本人が被害を証言し、目撃した職員がいることも把握しており、調査している」と述べた。

 被害を訴える女性は最近のセクハラに関する一連の報道を受けて意を決し、「行為は強制わいせつ罪に当たるのではないか」と考え、今月中旬に警察署を訪れ相談を進めている。

前橋市セクハラ事件初公判 罪状認否 男性が留保
2019.05.16 中日新聞
 【群馬県前橋市の当時の女性嘱託職員が男性管理職からのセクハラ被害を訴え、市が男性を停職の懲戒処分にした問題で、その後に県警に強制わいせつ容疑で書類送検され、同罪で起訴された男性の初公判が十五日、前橋地裁(水上周(あまね)裁判官)で開かれた。罪状認否で男性は「今の段階では中身は留保したい」と述べた。法廷では、女性に配慮して氏名や年齢などの個人情報は読み上げられなかった。

 冒頭陳述や市の処分内容などによると、二〇一六年十二月二十八日夜に市内の居酒屋であった職場の忘年会で、飲酒した男性が座っていた女性の背後に密着し、両手でそれぞれ女性の両胸を触ったとされる。宴席で複数の同僚が行為を目撃したことを証言している。女性は昨年になって県警に相談していた。

 女性、男性ともその後に退職し、男性は会社員になった。男性は昨年六月に処分を受け、同年末までに書類送検され、今年三月末に起訴された。女性によると、今月に入って男性が謝罪して解決金を支払う内容の示談書が示され、男性側が支払ったという。

 女性は取材に「裁判が長引き、詳細な証言を求められるのはつらいので、示談に応じた。(認めずに留保するとは)納得いかず、いいかげんにしてほしい。怒りがまた込み上げてきた」と語った。(菅原洋)

被告「女性から求めた」 前橋市元職員セクハラ公判 被害女性「事実と異なる」 結審
2019.06.13 中日新聞
 【群馬県前橋市のいずれも退職した女性嘱託職員が男性管理職にセクハラ被害を受け、男性が強制わいせつ罪で起訴された事件の二回目の公判が十二日、前橋地裁(水上周(あまね)裁判官)で開かれた。男性は罪状認否で「間違いありません」と認めたが、被告人質問で「女性から肩と腕のマッサージを求められた」などと主張し、結審した。しかし、女性は閉廷後の取材に「求めていない」と反論している。
 冒頭陳述によると、二〇一六年末に市内の居酒屋であった職場の忘年会で、飲酒した男性が座っていた女性の背後に密着し、両手でそれぞれ女性の両胸をもんだとされる。
 男性は「マッサージをするうちにスキンシップの延長で胸を触った。女性は翌年も自分や希望者が参加した職場の飲み会に何度か訪れ、自分の昇進祝いの飲み会では花束やメッセージなどを受け取った。マラソン大会にも女性と共に参加した」などと述べた。
 検察側は論告で「自己中心の動機で、大胆、悪質だ。女性の苦痛が甚大なのは明白」と懲役六カ月を求刑し、弁護側は最終弁論で「職員を自ら辞めるなど社会的制裁を受けており執行猶予にするべき」と情状酌量を求めた。
 閉廷後、女性は「私は飲酒できずに冷静だったのに、酔った男性にマッサージを頼むわけがない。スキンシップはなく、いきなり触られた。被害の後も職場の飲み会やマラソンに参加したのは、同僚の女性たちが一緒に参加したから。私は花束などを手渡してはいない」と指摘した。
 その上で「事実と異なる主張をされ、驚いている。罪は認めても、本当に反省しているとは思えない。実刑で厳しく処罰してほしい」と語った。(菅原洋)