児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

犯収法28条2項か29条2項の「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、」の提供罪

犯収法28条2項か29条2項の「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、」の提供罪の疑いだと思いますが、正当事由は下記のような解説です。

逐条解説 犯罪収益移転防止法(平成21年、東京法令出版)p341
「通常の商取引又は金融取引」以外の「正当な理由」としては、例えば、相続が発生し、被相続人名義の預貯金通帳等を相続人の一人が保管していたところ、遺産分割が終了し、当該預貯金を別の相続人が相続することと決まった場合において、遺産の精算過程で当該預貯金通帳等を有償で当該別の相続人に引き渡すような場合や、金融機関の合併等により、今は存在しない金融機関名の通帳等をその希少価値からコレクタ-が有償にて取得する場合等が考えられる。

犯罪による収益の移転防止に関する法律
第二十八条
1 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十六号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十七号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
第二十九条
1 他人になりすまして第二条第二項第三十号に掲げる特定事業者(以下この項において「資金移動業者」という。)との間における為替取引により送金をし若しくは送金を受け取ること又はこれらを第三者にさせることを目的として、当該為替取引に係る送金の受取用のカード、送金又はその受取に必要な情報その他資金移動業者との間における為替取引による送金又はその受取に必要なものとして政令で定めるもの(以下「為替取引カード等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181002-00050200-yom-soci
捜査関係者などによると、区議は2016年2月上旬頃、インターネットで見つけた金融業者にメールで借金を申し込んだ。その後、業者を名乗る男から電話があり、「あなたのキャッシュカードを送ってもらえれば口座に現金を入金した上、カードを送り返す」と言われた。
区議は、都内の信用金庫に開設した口座から自分の預金を引き出した上で、指示通り、カードを指定の住所に送った。しかし、その後、業者と連絡が取れなくなったという。

児童買春罪において、買春犯人は対償供与・対償供与の約束の相手方が児童であることを認識していることを要することの論証。

 簡単だよ。
 児童買春罪というのはこういう定義で、

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第二条(定義)
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
第四条(児童買春)
 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 対償供与・対償供与の約束の相手方というのは
次の各号に掲げる者=
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
だから、
 買春犯人は、

対償供与・対償供与の約束の相手方が
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

であることを認識している必要がある。
以上
 保護法益とか立法趣旨から実質的理由を書き足しとけば、加点されるだろう。
 実質的にも、児童でない場合には罰則がないこと(売春防止法)との対比で、児童と認識した上で対償供与の約束する点が、児童買春罪として重い非難を受ける理由である。

 東京高裁H15.5.19は児童買春周旋罪についてではあるが、「児童売春周旋罪が成立するためには,被周旋者において,被害児童が18歳未満の者であることを認識していることを要する。」としている。児童買春罪が重く処罰されるゆえんは、児童を買う点にあるので、買春者において対償供与の約束時点で児童の認識が必要となるのである。

 ところで,児童買春周旋罪が成立するためには,周旋行為がなされた時点で,被周旋者において被害児童が18歳未満の者であることを認識している必要があると解するのが相当である。すなわち,児童買春周旋罪は,児童買春をしようとする者とその相手方となる児童の双方からの依頼又は承諾に基づき,両者の間に立って児童買春が行われるように仲介する行為をすることによって成立するものであり,このような行為は児童買春を助長し,拡大するものであることに照らし,懲役刑と罰金刑を併科して厳しく処罰することとしたものである。このような児童買春の周旋の意義や児童買春周旋罪の趣旨に照らすと,同罪は,被周旋者において児童買春をするとの認識を有していること,すなわち,当該児童が18歳未満の者であるとの認識をも有していることを前提にしていると解されるのである。実質的に考えても,被周旋者に児童買春をするとの認識がある場合と,被周旋者が前記のような児童の年齢についての認識を欠く結果,児童買春をするとの認識を有していない場合とでは,児童買春の規制という観点からは悪質性に差異があると考えられる。もっとも,このように解することについては,客観的には児童の権利が著しく侵害されているのに,周旋者が児童の年齢を18歳以上であると偽ることにより児童買春周旋罪の適用を免れることになって妥当ではないとの批判も考えられるが,このような場合でも周旋者を児童淫行罪や売春周旋罪により処罰をすることが可能であるし(なお,児童の年齢や外見によっては,そもそも18歳以上であると偽ることが困難な場合も考えられる。),前記のような児童買春の周旋の意義や児童買春の規制という観点からすると,被周旋者において,前記のような児童の年齢についての認識を有しているか否かは,やはり無視することができない事情である。

部活が解散したのは午後十一時半を回っていた場合と深夜外出の制限

「青少年の不良化と深夜外出は密接な関係がある。また、女子の深夜外出は不良化だけでなく、暴行等の被害者となる危険も高い。そのため、通勤、通学、その他正当な理由がある場合でも、深夜の外出は注意が必要である。」という趣旨からすれば、学校行事がずれ込んだのであれば正当性があると主張すればいいでしょう。

静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例の解説h21
(深夜外出の制限等)
第16条
1保護者は、その監護する青少年を深夜(午後11時から翌日の午前4時までの時間をいう。以下同じ。)に外出させないように努めなければならない。ただし、通勤、通学その他正当な理由がある場合は、この限りでない。
2 何人も、保護者の委託を受けず、文はその承諾を得ないで、深夜に青少年を同行して外出してはならない。ただし、正当な理由がある場合は、この限りでない。
[要旨]
本条は、青少年の深夜外出を制限し、深夜興行場への入場を禁止することにより、青少年を悪の誘惑や被害から守るとともに、規則正しい生活による青少年の心身の健全な発育を促そうとするものである。
[解説]
1 第1項関係
(1) 本条例において「深夜」の時間帯の始期を午後11時としたのは、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律や労働基準法児童福祉法等において、18歳未満の者に対する夜間の制限に係る規定が午後10時となっていること、また定時制高等学校等の終業時間等が午後9時前後となっていること、あわせて帰宅までの時間を考慮、し、午後11時としたものである。
また、終期を午前4時としたのは、新聞配達等の勤労青少年の終業等を考慮、したものである。
(2) 「深夜に外出」とは、深夜に住所や居所以外にある場合を指し、街路の通行、はいかいはもとより、旅館の宿泊、キャンプ等も含む。
(3) 青少年の不良化と深夜外出は密接な関係、がある。また、女子の深夜外出は不良化だけでなく、暴行等の被害者となる危険も高い。そのため、通勤、通学、その他正当な理由がある場合でも、深夜の外出は注意が必要である。
(4) 慣習として行う祭り、盆踊り、花火大会、納涼大会等について、午後11時過ぎでも行われるものもあるが、原則として本条の趣旨に則し、極力深夜にわたらないようにしなければならない。
また、行事自体が深夜に及ぶ場合は、午後11時過ぎの青少年の参加については条例を遵守しなければならない。
(5) 「その他正当な理由がある場合」とは、学校や青少年団体で行うキャンプや、修学旅行の宿泊等、教育的理由のある場合や、保護者の不在中火災又は盗難等の通報のため、又は保護者が急病のため医師に急報する等で緊急事態の発生に際し、保護者の委託又は承諾を得ることができない場合をいう。
これらの理由を鑑み、保護者が遊興のため青少年を連れ出すことは、「正当な理由」とは解されない。
(6) 保護者に青少年の深夜外出を制限するよう義務付けた規定で、違反しでも罰則はないが、保護者として青少年が不良化することのないよう、又、犯罪被害にあわないようにする責務を負っているものと考えられる。
2 第2項関係
(1) 本項は、不良等が青少年を伴って深夜はいかいしたり、又青少年をそそのかして悪事を働かせたりすることを防ぐ趣旨である。
(2) 本項における「正当な理由がある場合とは、本条第1項の「その他正当な理由がある場合」 と同様の理由をいう。

http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018092102000094.html
中学生が深夜まで部活 静岡市教委が厳重注意
吹奏楽大会から帰校後
 静岡市立中学校の吹奏楽部が吹奏楽コンクールに出場した後、午後十一時半すぎまで部活動をしたとして、市教委が同校を厳重注意していたことが分かった。児童や生徒が午後十一時以降に外出することを認めない県の条例違反に当たるという。主催する県吹奏楽連盟には、大会の終了時間を早めるなど運営の見直しを申し入れた。

 市教委によると、大会は八月十一日に浜松市内で開かれた「県吹奏楽コンクール」で県吹奏楽連盟と朝日新聞社の共催。県内の二十五校が出場した。大会は予定より四十五分遅れて午後七時半に終了し、会場から遠い県東部の学校から随時帰宅させた。

 静岡市の中学校の生徒七十五人を乗せたバス二台が学校に到着したのは午後十時半。片付けや最後の大会となった三年生をねぎらう反省会などをしたため、解散したのは午後十一時半を回っていたという。

 「県青少年のための良好な環境整備に関する条例」は、正当な理由なく、午後十一時から午前四時まで青少年を外出させないよう定めている。

 八月下旬、市のホームページに匿名で条例違反の可能性を指摘する書き込みがあり、市教委が調べた。市教委は直ちに「中学校の部活として明らかに行き過ぎている」として、学校側を厳重注意。部活動のあり方を見直すとともに、保護者に謝罪するよう指導した。

 大会運営の見直しを求められた県吹奏楽連盟の山崎泰之会長は本紙の取材に、「今後は表彰式の取りやめや、日程を二日間に分けるなどして改善を検討したい」と語った。

公然わいせつにつきエージェント登録者・パフォーマー登録者と管理者との共謀を認めた事例(大阪高裁H30.9.11)

 札幌高裁に同様の判例があった記憶

平成30年9月11日宣告
大阪高等裁判所第5刑事部
判決判 決被告人両名に対する各わいせつ電磁的記録記録媒体陳列,公然わいせつ被告事件について,平成29年3月24日京都地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人らからそれぞれ控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官内田武志出席の上審理し,次のとおり判決する。
主 文
本件
控訴を棄却する。
理 由
本件各控訴の趣意は,被告人Aの主任弁護人森直也,弁護人池田良太及び同知花鷹一朗並びに被告人Bの主任弁護人秋田真志,弁護人水谷恭史及び同田篭明共同作成の被告人A・被告人B控訴趣意書,控訴趣意補充書2通(平成30年3月1日付,同年5月8日付)に各記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官清水淑子作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用するが,論旨は,⑴証拠採用に関する訴訟手続の法令違反,⑵共謀共同正犯の認定をめぐる事実誤認又は法令適用の誤り,⑶犯罪地をめぐる法令適用の誤り,⑷不告不理違反の各主張である。

・・・
第2 共謀共同正犯の認定をめぐる事実誤認又は法令適用の誤りをいう論旨(控訴趣意書の控訴の趣意第2点)について
1 論旨は,原判示の各罪につき,被告人らとわいせつな動画・映像の投稿・配信を行った者らとの間に共謀共同正犯は成立せず,これを認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認又は法令適用の誤りがある,というのである。
2 原判決が認定した本件罪となるべき事実の概要は,以下のとおりである。
すなわち,大阪市内に本店を置き,インターネット・ホームページの企画,立案,制作並びにインターネットでのサーバの設置及びその管理業務等を目的とし,アメリカ合衆国所在の会社D社(代表者E)と共にインターネットサイト「D」を管理・運営するCの実質的相談役である被告人Aと,Cの代表取締役である被告人Bが,第1に,E及びIらと共謀の上,平成25年6月19日,被告人らがC従業員らをしてD社と共に管理するD内の投稿サイト「D動画アダルト」のサーバコンピュータに,Iが大阪市内の同人方からインターネットに接続した携帯電話機を使用して送信した男女の性器を露骨に撮影したわいせつな動画データを記録・保存させるなどし,インターネットを利用する不特定多数の者が前記わいせつな動画を閲覧することができる状態を設定し,同月28日ないし平成26年12月8日,前記動画データにアクセスしてきた不特定の者に対してこれを閲覧再生させ,もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列し,第2に,E,Dに事業者としてエージェント登録していたJ及びパフォーマー登録していたKと共謀の上,平成25年12月25日,京都市内の同女方において,同女がウェブカメラで露骨に撮影した同女の性器の映像を,D内の配信サイト「Dライブアダルト」の映像配信システムを利用して,同市内の某所等へ電気通信回線34を通じて無修正で即時配信し,不特定の視聴者らに観覧させ,もって公然とわいせつな行為をし,第3に,E及び前同様にエージェント登録していたLらと共謀の上,平成26年6月3日,大阪市内の同人方において,同人らがウェブカメラで露骨に撮影した同人らの性器や性交場面等の映像を,前記「Dライブアダルト」の映像配信システムを利用して,前記京都市内の某所等へ電気通信回線を通じて無修正で即時配信し,不特定の視聴者らに観覧させ,もって公然とわいせつな行為をした,というものである(以下,I,J,K及びLらを併せて「本件各投稿者ら」という。)。
原判決は,要旨,次のとおり説示して,被告人らには少なくとも本件各罪の共謀共同正犯が成立すると認めた。
⑴ D社は,インターネットサイトであるDを管理・運営し,D内において,平成19年11月以降,投稿サイト「D動画」のサービスを,平成22年8月以降,配信サイト「Dライブ」のサービスをそれぞれ提供している。
D動画では,インターネットを通じて,D社が契約するサーバに動画データを投稿することができ,投稿された動画データは,無料会員用や有料会員用などの用途に合わせて変換された後,D社が管理する配信サーバに送られ,不特定多数の視聴者が,そのサーバにアクセスすることで,その動画の内容を視聴できるが,有料会員については,無料会員では視聴できない動画についても視聴でき,1日当たりの視聴制限が無制限となり,高画質に変換された動画データの配信を受けられ,日本にあるキャッシュサーバを利用した通信の高速化が図られるなどの特典があり,視聴者に有料会員登録を促す措置が講じられている。
また,D動画では,視聴者が投稿動画を介して新規に有料会員登録をした場合には,投稿者は登録料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができ,それを現金化できるなどの仕組み(動画アフィリエイト制度)や,投稿された動画を視聴者に評価させる仕組35み(動画評価システム)など,投稿者により多くの動画を配信するよう促す措置が講じられている。
D動画アダルトへの投稿動画には,本件各犯行以前から,相当数の男女の性器等を露骨に表した無修正のわいせつ動画(以下「無修正わいせつ動画」という。
)が含まれており,D動画アダルトのサイト上には,「注目ワード」内に「無修正」(無修正わいせつ動画の意味)とのキーワードが表示されたり,「おすすめ動画」内に無修正わいせつ動画のサムネイルが多数表示されたりしていた。
次に,Dライブでは,ウェブカメラ等で撮影した動画データを生中継でインターネットを通じてD社管理のサーバ等に配信することができ,不特定多数の視聴者が,当該サーバにアクセスすることで,その動画データをリアルタイムで視聴できる仕組みになっている。
Dライブでは,無料配信形態と有料配信形態とがあり,視聴者が視聴料を支払って有料配信形態の動画を視聴した場合には,その動画の配信者は,視聴料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができ,それを現金化できるなどの仕組み,Dライブの出演者(パフォーマー)を管理する会社又は個人(エージェント)が,出演者等を管理して,需要に応じた視聴料を設定することができ,それにより多くの視聴料を獲得できれば,その視聴料の一定割合に相当するポイントを報酬として受け取ることができる仕組み,Dライブの画面上に売上上位者の名前や金額を表示する仕組み,及び,配信された動画に視聴者のコメントを表示するチャット機能など,配信者により多くの動画を配信するよう促す措置が講じられている。
Dライブには,「一般」と「アダルト」があるところ,Dライブアダルトで配信された動画には,無修正わいせつ動画が含まれており,Dライブアダルトのサイトには,無修正わいせつ動画が配信されていることが容易にわかるサムネイルが多数あり,平成23年頃から利用者から無修正わいせつ動画36が配信されていることに対する苦情が数多く寄せられている。
JやLは,本件までにも多数の無修正わいせつ動画を配信しており,Jは平成25年1月頃から平成26年6月頃までの間に約1285万円を超える利益を得て,D社には約550万円の利益が入り,Lは平成26年1月頃から同年6月頃までの間に約3037万円を超える利益を得て,D社には約530万円の利益が入っていた計算になる。
これらの事情からすれば,Dライブアダルトについても本件各犯行以前から相当数の無修正わいせつ動画が配信されており,Dライブの取引高に寄与していたと推認できる。
⑵ Dの業務の大半は,Cで行っていたものであり,Cは,D社と共にD動画やDライブを含むDの業務全般を管理・運営していた。
⑶ E及び被告人らは,C従業員らを介して,Dの業務全般を管理・運営していた。
⑷ D動画アダルトは,被告人AとEの方針で設けられ,利用規約についても被告人Aの指示で作成・手直しがされた。
Dライブ開発時にも同様にアダルトカテゴリが設けられ,Eの方針で,ユーザーが稼げる仕組みを強調し,ブログ・動画に続く収益の柱に据えるように開発され,従量課金制度等が導入された。
また,Eの指示で,売上上位者のランキングを表示させ,ライブ配信により収益が得られることを配信者に動機付ける仕組みを作り,これらの過程は被告人らへ報告されていた。
また,売上上位者の名前や金額等のランキング,配信者数等は月次ミーティングでE及び被告人らにも報告されており,Dライブの売上の90パーセント以上をアダルトカテゴリが占めるようになった。
そして,被告人らは,本件以前から,アメリカ合衆国の法律では問題がないことからDで投稿を許可してきた無修正のアダルト動画について,複数の弁護士から,日本国内では刑事上違法と評価される可能性があると指摘され37ていたにもかかわらず,ⅰ)平成24年1月,D動画のアップロード画面の警告文から「無修正ポルノ」の文言を削除し,ⅱ)その後の同年2月,以前公然わいせつで捜査照会を受けていたDライブアダルトの動画投稿者が逮捕されたことを受け,被告人らの間で,警告文を表示するか否かなどを協議したものの,他の動画投稿サイトでは削除等がされている無修正わいせつ動画を放置し,無修正わいせつ動画を監視する担当者すら置かず,ⅲ)Dライブの利用規約には「アダルトコンテンツ以外で,性器の露出及び性器の露出を強制する行為」は禁止されているが,Dライブアダルトでそのような規制はなく,利用者からの問合せに対する対応マニュアルにも「無修正の配信内容であってもアダルトカテゴリで配信している限り,弊社では現状ペナルティは取っておりません」などと記載し,無修正わいせつ動画の配信を許容する方針を変更することなく,徹底していたといえる。
以上のとおり,E及び被告人らは,D動画アダルトやDライブアダルトにおいて相当数の無修正わいせつ動画が配信されることを認識した上で,D社やサーバが米国にあるとの理由から無修正わいせつ動画の投稿・配信を許容し,それらを利用してサイト利用者や有料会員を維持・増加させようとして,D動画アダルトやDライブアダルトを管理・運営していた。
⑸ 原判示第1の動画投稿者のIは,合計約110件の無修正わいせつ動画を投稿しており,過去に何度も投稿した動画が削除されることはなく,視聴者の反応を楽しむ等の欲求を満たすために無修正わいせつ動画の投稿を行っていた。
また,原判示第2の動画配信者のJは,Dライブアダルトにおいて,視聴者がコンスタントに入り稼ぎやすいこと,無料視聴か有料視聴か,その料金設定をエージェント等が設定できることなどを理由にエージェント登録し,Kとの間で報酬の割合を決めた上,利益獲得のため互いに共謀の上,有料設定で無修正わいせつ動画を繰り返し配信していたものであり,原判示第3の動画配信者のLも,他のサイトでは縛りがある無修正わいせつ動画を38配信しているDライブアダルトの存在を知ってエージェント登録し,利益獲得のためパフォーマーと共謀の上,有料設定をして,パフォーマーと性交等する無修正わいせつ動画を配信していた。
このように,D動画アダルトやDライブアダルトにおいては,その仕組みに動機づけられて,他のサイトで削除された動画も含め,無修正わいせつ動画が許容されるものとして相当数投稿・配信されており,Iも同様に動機づけられてD動画アダルトへ無修正わいせつ動画の投稿に及び,さらにDライブアダルトではエージェント登録により高額な利益を上げる仕組みであることに動機づけられて,J及びK並びにLらもDライブアダルトへ無修正わいせつ動画の配信に及んだ。
そして,E及び被告人らは,Dが不特定多数の者により,無修正わいせつ動画が相当の割合で投稿・配信されることを認識し,許容するだけでなく,これを利用して利益を上げる目的でD動画アダルト,Dライブアダルトを管理・運営していたのであり,具体的な投稿・配信行為を認識しなくても,概括的にこれを認識・認容していたといえる。
そうすると,E及び被告人らと,本件各投稿者らとの間には,無修正わいせつ動画の投稿・配信の各行為の時点で,それぞれわいせつ電磁的記録記録媒体陳列ないし公然わいせつを共同して行う旨の黙示の意思連絡及び相互利用補充関係があったものと認めるのが相当である。
被告人らがIらの無修正わいせつ動画の投稿・配信行為を具体的に認識しておらず,また,同人らの存在を具体的に認識していなかったとしても,共謀の成立には,必ずしも具体的な投稿者・配信者や個別具体的な実行行為まで認識することを要するものではないから,前記判断を左右しない。
⑹ なお,本件では,原判示第1の犯行につき,被告人らがEとともにD動画アダルトのサーバを管理・運営し,動画をサーバに記憶・保存させた行為がわいせつ電磁的記録記録媒体陳列の実行行為の一部に該当するか否39かも争われているが,仮にこれが実行行為に該当しないとしても,被告人らがサーバを管理・運営しなければ,投稿された無修正わいせつ動画を不特定多数の者が閲覧できる状態に置くことはできないから,被告人らがサーバを管理・運営した行為は,Iらによる実行行為の不可欠の前提を成すものであり,被告人らは正犯者といえる程度に重要な役割を果たしたといえるので,少なくとも共謀共同正犯が成立する。
⑺ よって,いずれの犯行についても,被告人らには少なくとも共謀共同正犯が成立する。
3 以上に対し,所論は,要旨,次のとおり主張する。
⑴ 被告人らは,Dの運営に関与し,サイト管理者としての当然の企業努力として,投稿数・配信数を伸ばすために様々なサービスを行ったから,その意味でサイト利用者に対して映像の投稿・配信を動機づけたと評価することは可能であるにせよ,被告人らが投稿・配信を動機づけたのは,あくまでも一般映像及びアダルト映像であって,違法な無修正わいせつ映像の投稿・配信を促したことはなく,被告人らが無修正わいせつ動画の投稿・配信を動機づけたというのは,事実誤認である。
⑵ 仮に原判決がいうように,本件各投稿者らが,被告人らが管理・運用していた動画配信システムという仕組みに動機づけられて本件各犯行に及び,また,被告人らがこれを認識・認容していたとしても,動機や認識・認容それ自体は,各人が単独で内心に持つ意思にすぎず,被告人らと本件各投稿者らとの間で内心の意思のやり取りがない以上,およそ両者間に意思連絡があるとはいえない。
被告人らは,本件投稿等の行為の全ての要素,すなわち,誰が,いつ,どこで,何をするのか(どのように行われるのか)という点について認識が欠けていたのであり,その行為についての意思連絡は,およそ観念することはできない。
最高裁判所平成15年5月1日第1小法廷決定(刑集57巻5号507頁。
スワット事件)の事案においては,実行犯40との間に黙示の意思連絡を認めることが可能な前提事実が存在したのに対し,本件では,そのような前提事実は存在しないのであり,原判決のように,全く特定されない不特定多数の者との間で,確定的認識もないままに概括的な認識・認容だけで意思連絡を認めることはできないというべきである。
⑶ 相互利用補充関係は,相互の意思の連絡を前提とするから,意思の連絡がない以上,相互利用補充関係も認められない。
また,相互利用補充関係は,「特定の犯罪を行うため」のそれでなければならないところ,原判決が強調する「動機づけ」及び「概括的」な「認識・認容」と,わいせつ動画の投稿や公然わいせつ動画の配信によって,投稿者や配信者とともに被告人ら又はその経営している会社にも金銭的利益が得られるという要素は,どこかの誰かが違法動画を投稿・配信しているかもしれないという程度の抽象的なレベルのものでしかあり得ず,特定の犯罪と結びついているわけではないから,特定の犯罪を行うための相互利用補充関係を根拠付けるものではない。
原判決のように,違法行為に及んだ行為者にその動機を与えたとされる者が,不特定多数の者が違法行為に及ぶことを概括的に認識・認容していたというだけで共謀共同正犯が成立するという解釈を採用すれば,違法行為を惹起する相応の危険を伴う社会経済活動(自動車の製造・販売,護身用ナイフやスタンガン等の製造・販売等)はおよそ不可能になり,著しく不合理である。
⑷ 共犯関係を認めるためには,誰が何をするかわからない状況で一般的な条件の設定を行っただけでは足りず,最終的に実現する「特定の犯罪」に対して因果性を与えた事実が認められることが必要である。
本件において,被告人らは,本件各投稿者らが行った犯罪について,単に条件を設定したと評価する余地があるにすぎず,因果性を肯定することはできない。
⑸ 共犯関係を認めるためには,主観面においても,共犯者各人が41「特定された犯罪」を認識対象としていることを要する。
犯罪の認識・認容は,ある程度概括的であることはあり得るにしても,「誰が何をするかわからない状況での不特定の者との間での共謀」や,「誰が何をするかわからない状況での不特定の者の行為についての故意」というものはあり得ない。
最高裁判所平成23年12月19日第3小法廷決定(刑集65巻9号1380頁。
Winny事件)は,著作権侵害に利用されたソフトを提供した被告人が著作権法違反の幇助罪に問われた事案における幇助犯の故意について,「例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用していることを認識,認容していたこと」が必要であるとし,同事件では,客観的には同ソフトの利用の4割が著作権侵害に利用されていたと認定され,したがって,被告人の主観についても,相当多数の侵害事例があることを認識していたことになるのに,なお被告人に幇助の故意がなかったと認定しているのであって,「例外的とはいえない範囲」を相当高い割合であると想定している。
ところが,原判決は,Dを利用して違法なわいせつ動画が配信されていた客観的な割合をそもそも認定していない。
証拠上合理的に推測できるD動画アダルトの投稿動画に占める違法なわいせつ動画の割合は,1割弱であり,原判決が指摘する,タイトルに「無」ないし「無修正」という文字が入っている動画(これらが当然に無修正わいせつ動画であると認定できるわけではない。
)の割合でさえ2割程度にすぎず,一般動画も含めた投稿動画全体に占める割合は,さらに上記数値より小さくなるから,被告人らには,前記Winny事件最高裁決定が想定する「例外的とはいえない範囲」の幇助の認識すら認められず,まして,共謀共同正犯の故意を認めることはできない。
⑹ 以上のとおり,本件においては,被告人らには相手方の存在についてさえ認識がなく,このような場合にも共謀を認めることは,相互の意思連絡を必要とする従来の共謀概念ではあり得ない。
424 当裁判所の判断⑴ 原判決は,前記2のとおり,原審で取り調べた関係証拠から諸事情を認定し,これらによると,被告人ら及びEと本件各投稿者らとの間に,本件各投稿・配信行為がなされた時点で,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列ないし公然わいせつを共同して行う旨の黙示の意思連絡及び相互利用補充関係があったと認められるから,被告人らに共謀共同正犯が成立する,と判断したものである。
当裁判所の判断の骨子は,次のとおりである。
すなわち,原判決が,共謀共同正犯の成立を認めるための一つの間接事実と位置づけた前記2⑵の事実を推認する上で,再間接事実として認定した「C従業員が,D社への入社に応募してきた者に対し,D社の従業員として対応していた」という事実については,前述したとおり,違法収集証拠として証拠能力に欠ける原審甲26の外に,この事実を認定し得る的確な証拠がないから,原判決にはこの点で事実誤認がある。
しかしながら,この事実を除外しても前記2⑵の間接事実を推認することができるし,前記2のその余の認定に何ら事実誤認はないから,上記事実誤認は判決に影響を及ぼすものでないことが明らかである。
そして,これらの事実認定に基づき,被告人らに本件各犯行の共謀共同正犯が成立するとした点について,原判決に法令の解釈,適用の誤りはない。
以下,所論に即して補足して説明する。
⑵ 所論は,まず,被告人らは,動画の投稿数・配信数を伸ばすための当然の企業努力として種々のサービスを行ったにすぎず,被告人らが投稿・配信を動機づけたのは,あくまでも一般映像及びアダルト映像であって,違法な無修正わいせつ映像の投稿・配信を促したことはないと主張する(前記3⑴)。
しかしながら,原判決が的確に認定した事実によれば,D動画アダルト及43びDライブアダルトにおいては,無修正わいせつ動画を含め,アメリカ合衆国の法律上問題がない動画の表示は許可するという被告人らの基本方針の下,児童ポルノ,獣姦,グロテスク(死体写真等),ひどい暴力のコンテンツについては,一定の基準で凍結等の措置がとられ,特に,児童ポルノと獣姦については,監視体制をとって積極的に削除するなどの措置が講じられていた一方,無修正わいせつ動画については,一般カテゴリーでの投稿・配信は規制されていたものの,アダルトカテゴリーでは放置する方針がとられ,現に,D動画アダルト及びDライブアダルトには多数の無修正わいせつ動画が投稿・配信され,D動画アダルトに投稿された動画については,削除されることなく長期間閲覧ができる状態となっていた。
これらのサイトにおいては,被告人ら及びEの方針に基づいて,前記2⑴のとおり,有料会員登録を促す仕組みや,より多くの投稿・配信を促す数々の仕組みが作られ,有料会員を多数獲得するとともに,投稿・配信が多数に及ぶことを促進していたといえる。
そして,これらの方針やサイトの仕組み等は,サイトを利用する一般の視聴者にも認識できる状態にあった。
また,無修正わいせつ動画は,Dサイト内で人気が高いコンテンツであったことがうかがわれ,Dライブアダルトについては,無修正わいせつ動画を繰り返し配信して高額の利益を得る者らもいたのであるが,これらの事情も,Dサイト内にサービスの一環として表示される視聴者らのコメントや評価,売上上位者のランキング等により,Dの利用者らが容易に認識できる状態であった。
以上によれば,Dの利用者は,Dにおいては,サイトの管理・運営上,無修正わいせつ動画の投稿・配信が許容されており,他の動画サイトでは規制がかかる無修正わいせつ動画であっても,Dの各アダルトサイトに投稿・配信すれば,当該サイトの仕組みに従って,一般映像や,刑法の解釈,適用上わいせつとは評価されない種類のアダルト映像と同様に,凍結されたり削除されたりすることなく確実にサイトに掲載されて,不特定多数の者の閲覧又は観覧に供され,多くの閲覧者等を44得ることが可能であること,そして,投稿方法の選択によっては多額の経済的利益を得ることも可能であることを容易に認識できたといえる。
本件各投稿者らを含め,Dに無修正わいせつ動画を投稿等する者らの多くは,このような事情を認識していたからこそ,特にDを選んで無修正わいせつ動画の投稿・配信を行っていたものと認められる。
原判決は,このような事情を踏まえて,被告人らは,Eと共に,D動画アダルトやDライブアダルトにおいて相当数の無修正わいせつ動画が投稿・配信されることを認識した上で,これを許容し,それらを利用してサイト利用者や有料会員を維持・増加させて利益を上げる目的で,D動画アダルトやDライブアダルトを管理・運営していたものであり,他方,本件各投稿者らを含むサイト利用者らは,その仕組みに動機づけられて無修正わいせつ動画の投稿・配信に及んだと認定したのである。
この事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であるとはいえない。
⑶ 次に,被告人ら及びEと本件各投稿者らとの間に本件各犯行についての意思連絡及び相互利用補充関係があったとして共謀共同正犯の成立を認めた原判決の判断について,所論は,前記3⑵ないし同⑹のとおり,種々の観点から論難するので,さらに検討する。
まず,原判決が前記2⑴ないし同⑹のとおり,的確に認定,説示したところに照らすと,本件においては,Dのサイトを利用して無修正わいせつ動画を投稿・配信し,不特定多数の者の閲覧及び観覧に供することについて,被告人ら及びEの意思と本件各投稿者らの意思が,それぞれの内心に止まっていたにすぎないものではない。
すなわち,被告人ら及びEは,無修正わいせつ動画を除外することなくアダルト動画の投稿・配信を募り,たとえ投稿・配信された動画が無修正わいせつ動画であっても,他の適法な動画と同様に,各サイト(D動画アダルト,Dライブアダルト)のコンテンツとして投稿者・配信者が既定の方法の中から選択した方法で不特定多数の者の閲覧又は観45覧に供するとともに,その投稿者・配信者に対し,所定の特典を与えることによって投稿・配信を勧誘し,促進するという意図を有していたのであり,このような意図は,各サイトの画像上,当該サイトの利用者に対し,事前に黙示的とはいえ明確に示されていた。
また,本件各投稿者らも,これらのサイトのシステムに従って,自らが投稿・配信した無修正わいせつ動画を不特定多数のサイト利用者の閲覧又は観覧に供するとともに,所定の特典を受けることを希望するという意思を有していたものであり,このような意思も,本件各投稿者らが本件投稿等を行った時点において,Dの管理・運営を行う被告人ら及びEに対し,明確に示されていたということができる。
原判決は,以上の事実関係を捉えて,本件投稿等がなされた時点における被告人ら及びEと本件各投稿者らとの間の黙示の意思連絡の存在を肯定しているのであるから,被告人ら及びEと本件各投稿者らとの間に,およそ意思連絡といえるものはないとする所論(前記3⑵)の批判は当たらない。
そして,Dサイトの利用者が,D動画アダルト及びDライブアダルトの各サイトを,そのシステム(動画のアップロード時になされる警告を含む。
)に従って利用することによって惹起することが想定される犯罪行為は,ほぼ無修正わいせつ動画の投稿・配信に尽きるのであって,その犯罪行為の概要や法的性格は明確であり,当該犯罪についてDの管理・運営者である被告人ら及びEと動画の投稿・配信者とが担う役割も固定された明確なものであったといえるし,これらの点は,本件各投稿者らと被告人ら及びEが共に事前に認識できたと認められる。
以上の事実関係によれば,たとえ被告人ら及びEが,個々の無修正わいせつ動画の投稿又は配信の時点では投稿者等の存在や投稿等の内容を認識していなかったとしても,被告人ら及びEは,その方針に従って構築したDサイトにおいて,投稿・配信された無修正わいせつ動画をサイト利用者の閲覧又は観覧に供する方針で各サイト(D動画アダルト,Dライブアダルト)を管46理・運営していたのであるから,対外的に明らかになっている上記方針に沿って,現実に実行犯である特定の投稿者等の投稿・配信行為があった場合には,当該投稿者等と被告人ら及びEとの間で,共同して,このようなサイトのシステムにおいて予定されていた方法により,その投稿等に係る特定の無修正わいせつ動画をサイト利用者の閲覧又は観覧に供する旨の意思が実質的に合致したものといえるのであり,その旨の黙示の意思連絡が行われたと認めることができる。
そして,無修正わいせつ動画の投稿・配信を利用して利益を上げる目的で各サイトを管理・運営していた被告人ら及びEと,各サイトにおいて無修正わいせつ動画を投稿又は配信しサイト利用者の閲覧又は観覧に供するという実行行為に及んだ本件各投稿者らとの間には,互いに他方の行為を利用し,各自の意思を実行に移したとみることができる相互利用補充関係も存在するというべきである。
したがって,原判決の事実認定は正当である。
前記3⑵ないし同⑷の所論は,結局,被告人ら及びEが,個々の無修正わいせつ動画の投稿又は配信の時点では投稿者等の存在や投稿等の内容を認識していなかったことを理由に,被告人ら及びEと本件各投稿者らとの間の当該投稿・配信についての意思連絡の存在を否定し,ひいては,相互利用補充関係の存在や,被告人ら及びEの行為が当該投稿・配信に因果性を与えたことを否定するものであるが,前述したとおり,本件では意思連絡の存在を肯定すべきであるから,上記所論は採用できない。
この点,上記所論は,共謀を構成する実行犯との意思連絡は,特定の犯罪について,かつ,特定の実行犯との間でなされたものであることが必要であるが,本件の場合にはこれに該当しないと主張して,原判決の認定を論難する。
しかしながら,共謀が成立するには,実行犯が行う犯罪行為の具体的内容について逐一認識することを要するものではないし,組織的犯罪等のように,主犯格の者において末端の実行犯が誰であるかを知らなくても,共謀の47成立を認めるべき場合もある。
そして,何よりも本件各犯行については,いずれの犯行も,被告人ら及びEの管理・運営するウェブサイトへ,個々の実行犯が無修正わいせつ動画の電磁的記録の送信により投稿・配信するという形態によって実行されたものであること,被告人ら及びEと実行犯らは共に,このような形態によって違法な行為がなされることについて確定的に認識していたこと,被告人ら及びEにとって,個々の実行犯が誰であるかは特段問題ではなかったこと,特定の実行犯が特定の無修正わいせつ動画を投稿又は配信することにより,共謀の対象となる犯罪行為及び共謀の相手となる共犯者が具体的に特定されること,といった特質がある。
このような本件各犯行の特質に照らすと,被告人ら及びEが,個々の実行犯や投稿等された無修正わいせつ動画を,投稿等の時点において,いずれも特定して認識していないからといって,そのことが実行犯との意思連絡ひいては共謀の認定の妨げになるとは考えられない。
所論指摘の前記スワット事件最高裁決定の事案は,実行犯がその所属する暴力団組織の組長を警護するという限られた人間関係の存在が,それ自体として黙示の共謀の間接事実を構成する事案であって,本件とは事案を異にするものであるところ,同最高裁決定は,事前に何らかの人間関係の存在しない者の間における概括的な認識・認容に基づく共謀の成立を否定する趣旨を述べたものとは解されない。
また,以上のように解したからといって,前記3⑶の所論のいうように,違法行為を惹起する相応の危険を伴う社会経済活動(製品やサービスを提供する活動)を行う者が,そのような危険性を概括的に認識・認容していたというだけで,当該製品やサービスを利用して行われた他人の犯罪行為について当然に共犯者として刑事責任を負うことになるわけではなく,共謀共同正犯の概念が不当に広がることにはならない。
さらに,前記3⑷の所論は,因果性を問題としているが,被告人ら及びEによる各サイトの管理・運営が本件各投稿者らの実行行為の大前提であって,本件各犯行に対する物理的因果48性は明白であるし,被告人ら及びEが,不特定多数の者にこの種の投稿等を積極的に行わせるようなシステムを構築し,本件各投稿者らがこれに応じて本件各犯行に及んだものであるから,本件各犯行に対する心理的因果性も明らかに認められ,所論は採用できない。
次いで,前記3⑸の所論が問題とする被告人ら及びEの故意の点についてみても,原判決が的確に認定した事実によると,本件投稿等がなされた当時,Dには,被告人ら及びEの運営方針に従って,多数の無修正わいせつ動画が順次投稿・配信され,サイトの利用者による閲覧及び観覧が可能となっている常況にあったものであり,被告人ら及びEは,Dの管理・運営を行うに当たり,このような無修正わいせつ動画の投稿・配信を事前に個別に認識していたわけではないにせよ,サイトの利用者の中には,被告人ら及びEの管理・運営するD動画アダルトやDライブアダルトのサイトに無修正わいせつ動画を投稿・配信してくる者が多くいること,そのような投稿・配信がなされれば,当該動画が不特定多数人によって閲覧及び観覧が可能な状態に置かれると確実に見込まれること自体は,事前に確定的に認識し,むしろ,それらを予定していたといえ,かつ,その投稿・配信がいつ,誰によってなされるかにかかわらず,犯罪行為に該当するこれらの投稿・配信行為を当然に許容していたとみられるのである。
このような事実関係によれば,本件各投稿・配信がなされた時点において,被告人ら及びEによる本件各投稿・配信行為についての概括的な認識・認容,すなわち故意の存在を認めた原判決の認定は正当というべきである。
原判決は,所論のいうような「誰が何をするかわからない状況」における不特定の者との間での共謀や,不特定の者の行為についての故意を認定したものではない。
所論指摘の前記Winny事件最高裁決定は,開発途上のファイル共有ソフトWinny)をインターネットを通じて不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めてい49た被告人が,同ソフトを入手した正犯者がこれを利用して行った著作権法違反の幇助罪に問われたという事案において,同ソフトの提供行為に幇助犯が成立するための要件の一環として,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容していたことが必要であるとの一般論を示した上で,ネットワーク上に認められた同ソフトを利用しての著作権侵害のファイル数の割合も参考にしつつ,事案に即した具体的判断を示したものにとどまる。
当該被告人は,ソフトの公開,提供に当たって,当該ソフトがどのように利用されるかについて関知できる立場にあったわけではないし,利用者に対し,著作権侵害のためにソフトを利用することがないよう警告を発していたなどという事情があるのに対し,被告人ら及びEにおいては,現にその管理・運営するウェブサイトに多数の無修正わいせつ動画が投稿・配信されていることを認識し,しかも,管理者としてこれを制限することができるにもかかわらず,その投稿・配信を許容し,これを利用して利益を上げる目的で管理・運営していたのであるから,本件は,Winny事件とは事案が異なり,投稿等の全体のうちで違法なものが例外的とはいえない範囲を占めていたかどうかといった,同事件におけるのと同様の事情を特に問題とするまでもなく,被告人ら及びEの故意を認定することができるというべきである。
前記Winny事件最高裁決定を基にして原判決の判断を論難する所論は,失当といわざるを得ない。
所論は,その主張全体を通じ,従前の裁判例が認めてきた共謀概念を前提とする限り,本件について被告人ら及びEに共謀共同正犯の成立を認めることはあり得ないことであるとし,そうであるにもかかわらず,原判決は,共謀共同正犯の成立要件を明らかにしないまま共謀共同正犯の成立を認めていると批判する(主に前記3⑹)。
しかしながら,共謀共同正犯の成立を肯定した過去の裁判例は,いずれも,当該事件における具体的な事実関係の下で,50実行行為を行った者との明示ないし黙示の意思連絡の存在を基礎としつつ,当該被告人が当該犯罪の実現について果たした具体的な役割等に着目して,相互利用補充関係があると評価できる場合に,当該被告人に正犯としての責任を負わせるのが相当であると判断したものである。
原判決は,共謀共同正犯者である被告人ら及びEと実行犯との間で,インターネット上のウェブサイトを介して意思連絡が行われるといった,本件の具体的な事実関係を踏まえて,共謀共同正犯の成立を肯定したものであって,このような原判決の判断が,一概に従前の裁判例の判断から乖離するものであるとはいえず,上記の批判も当を得たものとはいえない。
所論はいずれも採用することができず,共謀共同正犯の認定をめぐる事実誤認又は法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
・・・
第5 結論よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成30年9月11日大阪高等裁判所第5刑事部(裁判長裁判官 西田眞基,裁判官 五十嵐常之 裁判官 福島恵子)

マイニング行為の不正指令電磁的記録作成等、不正指令電磁的記録供用被告事件(仙台地裁h30.7.2)

■28263173
仙台地方裁判所
平成30年07月02日
公判出席検察官 小笠原翔大(求刑;懲役1年)
同国選弁護人 藤間環
主文
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
 第1 他人の電子計算機の処理能力を利用して仮想通貨「Zoin」の取引に関する決済処理等を行い、その報酬として不正に同仮想通貨を得ようと考え、平成30年1月8日午前7時22分頃、兵庫県(以下略)の被告人方において、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、電子計算機を用いて、実行者の意図に基づかずに前記決済処理等を行うプログラム「cpuminer-sse2.exe」を実行する機能を有するプログラム「MapleTools.exe」を作成し、もって、正当な理由がないのに、人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し、同日午前7時25分頃、前記被告人方において、自己のパーソナルコンピュータを用いて、前記プログラム「cpuminer-sse2.exe」及び「MapleTools.exe」を含む圧縮ファイル「MapleTools.zip」をアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータの記録装置に不特定多数の者がダウンロード可能な状態で保存した上、同月12日午前11時16分頃、(住所略)のA方において、情を知らない同人に、同人が使用するパーソナルコンピュータに前記圧縮ファイルをダウンロードさせて前記プログラム「MapleTools.exe」を実行可能な状態にし、もって、正当な理由がないのに、人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した
 第2 他人の電子計算機の処理能力を利用して仮想通貨「BitZeny」の取引に関する決済処理等を行い、その報酬として不正に同仮想通貨を得ようと考え、同年2月3日午後11時30分頃、前記第1記載の被告人方において、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、電子計算機を用いて、実行者の意図に基づかずに前記決済処理等を行うプログラム「cpuminer-sse2.exe」を実行する機能を有するプログラム「MapleTools.exe」を作成し、もって、正当な理由がないのに、人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成した
ものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
 罰条
  判示第1の所為中、不正指令電磁的記録作成の点
  刑法168条の2第1項1号
  同所為中、不正指令電磁的記録供用の点
  刑法168条の2第2項、第1項1号
  判示第2の所為 刑法168条の2第1項1号
 科刑上一罪の処理
  判示第1の不正指令電磁的記録作成と同供用 刑法54条1項後段、10条(手段結果の関係があるので、1罪として犯情の重い不正指令電磁的記録供用罪の刑で処断)
 刑種の選択 判示第1及び第2の各罪について、それぞれ懲役刑選択
 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い判示第1の罪の刑に加重)
 宣告刑の決定 懲役1年
 執行猶予 刑法25条1項(3年間)
 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 本件は、被告人が、使用者に気付かれずにマイニングを行うプログラムを自動で実行する機能を有するプログラムを作成し(判示第1及び第2)、現にそのプログラムをインターネット上にアップロードして実行の用に供した(判示第1)というものである。被告人の有するプログラミングの知識・技術を悪用した巧妙な犯行であるところ、現に被告人が作成したプログラムをダウンロードした者がおり、これにより被告人が仮想通貨上の5000円程度の報酬を得たことからすると、本件の社会的影響は軽視できない。被告人は、他人のパーソナルコンピュータの処理能力を利用して仮想通貨を得ようという利欲的な動機から本件各犯行に及んだものであって、電子計算機のプログラムに対する信頼を毀損する害悪の根源を作り出し、害悪を社会に拡散させた本件の犯情は相応に重い。
第1刑事部
 (裁判官 加藤亮)

タナー判定は信用できない(東京地裁h28.3.15)

 だれが見ても児童という事件について、「タナー2度」なんていう医師の鑑定書についてこう主張したら、「タナー」の字句を削除して、再度証拠請求されました。

文献としてはこれ挙げておく。
児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察(浅田和茂先生古稀祝賀論文集)
Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age
The difficult issue of age assessment on pedo-pornographic material
Inaccuracy of age assessment from images of postpubescent

裁判年月日 平成28年 3月15日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(特わ)1027号
事件名 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 有罪(懲役1年及び罰金300万円、執行猶予3年(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 上訴等 控訴<破棄自判> 文献番号 2016WLJPCA03156003第6 児童認定写真の各被写体が18歳未満であると認められるか否か(以下,18歳未満と認められることを「児童性が認められる(否定の場合は「認められない」)とも表記する。)
 1 検察官の主張
 検察官は,①D医師が,児童認定写真の各被写体について,18歳未満であると認定していること,②児童認定写真と同一の写真が収録された写真集の中にその被写体が18歳未満であることをうかがわせる記載があることから,児童認定写真の被写体は,撮影当時,いずれも18歳未満であったと認められる旨主張する。
 2 D医師の供述に基づく児童性の認定について
  (1) D医師は,性発達を評価する学問的な方法として世界的によく用いられている手法としてタナー法があり,同法においては,乳房及び乳輪は乳房のふくらみと乳輪の隆起により,陰毛は濃さや範囲により,それぞれ1度から5度のステージで発達段階が定義され,それにより性発達の段階を評価することができること,そして,タナー法の分類と日本人女子の性発達との関係を調査した研究が複数なされており,同研究の結果に照らせば,乳房又は陰部につきタナー何度であれば年齢が何歳から何歳の範囲に入るかを推測できることから,児童認定写真の被写体については,いずれも18歳未満と認められる旨述べる。
 前記のD医師の供述については,同医師が,小児科学,小児内分泌学を専門にする医師として,専門的知見や過去の経験等に基づいて述べられたものであること,タナー法及び同法の度数と日本における女児の思春期の二次性徴の年齢に関するものとして,D医師が資料として引用したものを含め複数の研究がなされていること等からすると,女児の性発達の段階を評価する手法としてのタナー法の存在や,同法における度数の判定に用いる具体的な基準の定立,さらに,日本人女子について同法の各度数と年齢との間に有意な相関関係を示す医学的知見が存在する点については,十分な信用性が認められる。
 しかしながら,他方で,白木和夫ほか総編集「小児科学(第2版)」医学書院(弁1)に「二次性徴の出現時期が正常であるかどうかを評価するには,正常児の発現時期を知る必要がある。しかしわが国では包括的なデータはほとんどない。よく引用されるのはTannerらの英国人小児の二次性徴発現年齢のデータであるが,人種も年代も違うこのデータを,そのまま現代の日本人小児にあてはめるわけにはいかない。」との指摘にも留意する必要がある。この点は,同文献が出版された平成14年以降にD医師が証人尋問において引用した論文(弁2。以下「田中論文」という。)等が発表され,日本における正常児の二次性徴の発現時期に関する研究が進んだと認められるものの,そのことを踏まえても,タナー法による分類に基づく年齢の判定は,あくまで統計的数字による判定であって,全くの例外を許さないものとは解されない。その統計的数字も,例えば,現在のDNA型鑑定に比すればその正確さは及ばない。身長や肌の艶,顔つき,あるいは手の平のレントゲン写真などといった判断資料は一切捨象して,胸部及び陰毛のみに限定して判断するタナー法の分類に基づく年齢の判定は,あくまで,18歳未満の児童であるか否かを判断する際の間接事実ないし判断資料の一つとみるべきである。
  (2) さらに,本件においては,殊にD医師が児童認定写真の被写体の年齢を判定したことについては,以下のとおり,その信用性を慎重に判断すべき具体的な事情が複数存在する。
   ア 児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限られていること
 (ア) D医師は,甲第25号証及び甲第26号証の児童認定書2通を作成した際の状況について,弁護人の質問には,前記各児童認定書別添の紙質の紙にプリントアウトされたものを見て判断したと答え,さらに,この点を裁判官から尋ねられた際には,写真をよく見ることに集中していたので,どのように作成したのかはっきりした記憶がないが,写真を見ながら同書の「乳房」,「陰毛」の所にそれぞれ丸を付けた旨述べる。また,D医師は,甲第26号証画像番号14(児童10)について具体的に説明する中で,「元の写真を見」たかのような供述をしている。以上からすると,D医師は,基本的には,児童認定写真を見て写真の女性の年齢を判定しており,また少なくとも同画像番号14の児童性の判断においては,その写真と基になった写真を見て,前記各児童認定書を作成したものと考えられる。
 こうした画像又は写真に基づいてタナー法による度数の判定を行う場合,実際に対象者を診察して評価を行う場合と比べて,被写体の姿勢,光の当たり方,画質等様々な制約があるため,対象者に関して得られる情報が非常に限定されることから,その正確性についてはより慎重に検討する必要がある。D医師も,写真に基づく評価をする場合について,限られた情報から分かるところで慎重に判断するという立場である旨述べ,「情報が少なければ認定の精度は劣ってくるということになりますよね」との弁護人からの質問に対しても,「はい,そのとおりです。」と答えている。
 以上を前提に,本件においてD医師が前記各児童認定書を作成した際に参照した資料がどのようなものであったかについてみると,前記のとおり,その資料としては,児童認定写真及び更にその元になった写真が想定されるが,後者については,前記甲第26号証画像番号14(児童10)以外の前記各児童認定書別添の写真の児童性判断時に,実際に示されたかどうか,また,同画像番号14の場合を含めて,元の写真なるものが示されたとしてどのようなものが示されたのかは全く明らかでない。また,前記各児童認定書別添の写真は,いずれも画質が粗い上,明らかにピントが合っていないか印刷に問題があると思われるもの(甲第25号証画像番号3(児童2),14(児童11),甲第26号証画像番号3(児童2),14(左側)(児童10)等)や全体が白くなっていたり(甲第25号証画像番号5(児童4),甲第26号証画像番号6(児童5),17(児童13)等),暗くなっていたり(甲第25号証画像番号17(児童14),23(児童16)等)しているものが多くみられ,そこから得られる情報は非常に限定的なものにとどまる。
 (イ) そして,タナー法における乳房及び乳輪と陰毛の発達段階の評価基準が細かく定められているところ,前記のように情報が限定的であることは,その細かな判定にも影響を与えると解される。
 D医師は,タナー法における発達段階の分類について,乳房については,乳房が全く発達していない1度から,やや膨らむ,さらに大きく突出,乳房が肥大する,成人型になるまでの5ステージ,乳輪については,平坦な1度から,やや隆起する,隆起が目立たなくなる,隆起する,平坦になるまでの5ステージ,陰毛については,何もない1度から,僅かに陰毛が生えてくる状態,少し色が濃くなる状態,成人に近くなるが大腿部までは広がらない状態,大腿部まで広がった状態までの5ステージが,それぞれ定義されている旨述べる。
 このタナー法の分類についてみると,乳房については,児童認定写真の被写体の乳房の全体的な印象からその発達の状態を判断することは可能であるように思われるものの,乳輪については,その隆起の有無で発達の評価が分かれるところ,前記のとおり児童認定写真等の限られた情報しかない中で,乳輪の隆起があるかないかという微妙な判断を正確に行うことができるかどうかについては,殊に児童認定写真では多数ぼやけているなどして乳輪が不鮮明なものや被写体が正面から撮影されているため乳輪の隆起の有無が判別しづらいものが多いことからしても,疑問がある。
 D医師は,乳房の大きさと乳輪の隆起の有無から判断する旨を述べるが,他方,前記各児童認定書において乳房についてタナー3度と認定している者について,その認定の理由として,乳房の大きさが成人並みではないという点と併せて,乳輪が隆起していない又は乳腺の発達が不十分という点をいずれにおいても指摘しており,乳輪の隆起の有無が2度と3度又は3度と4度の区別において重要な基準になっているものと認められる。そして,D医師は,成人になっても胸が非常に小さい女性は多くいるように思われるが,その点はどのように考えればよいのかという裁判官の質問に対して,成人で小さいには程があるということに加え,乳房の発達段階については,その大きさというよりも乳輪やその隆起の有無で見ている旨述べており,その供述からも,乳輪の隆起の有無がタナー法における評価において重要な意義を有していることがうかがわれる。
 しかしながら,一方で,D医師は,甲第26号証画像番号2(児童1)は乳輪の隆起が明らかでないが2度,同画像番号14(左側)(児童10)は乳輪の隆起がはっきりしないが2度,同画像番号17(児童13)は乳輪の隆起が明らかではないが3度と,それぞれ判定し,その理由として,乳房の隆起がある,乳房の発達がある,4度とするには乳房の発達が非常に悪いなどと述べ,乳輪の隆起の有無の判断ができないときには,乳房の発達度合いを考慮して判定しているかのように述べている。しかし,そうなると,先の乳房が小さい女性もいると思わるが,との問いに対する答えとの整合性は必ずしも明らかではない。
 また,D医師は,胸だけが写っている場合は,判定は非常に難しく,体全体が写っている中で判断するという慎重さが必要だと思う(D医師証人尋問調書(以下「D調書」という。)37頁)旨述べるが,他方で,胸部と陰毛の片方が分からないと年齢を判断できないというものではない(同35頁)とも述べ,弁護人から,反対尋問でD医師に胸部のみが切り取られた写真の4枚目(D調書別紙15)を示された際,躊躇なく「2度というふうに判定できます。」と述べている。そして,D医師は,弁護人から当該写真の女性がアダルトビデオ女優であることから18歳以上であると聞いた後も,「この方は,18歳未満のときに撮影された可能性が極めて高い」などと述べて,自らの判定を再考したりする態度は示していない。この点,検察官は,弁護人が示した当該写真(D調書別紙15)は,アダルトビデオ販売サイト内のサンプル画像を加工したものであり,弁第11号証及び弁第12号証のタイトル等からすれば,当該アダルトビデオ女優の乳房が小さいことを殊更に強調するために加工されている可能性が否定できないと主張しており,確かに,写真データにそのような加工を施すことは容易で,その可能性は否定できない。しかしながら,写真データと比較し修整が困難と考えられる弁第12号証の動画からも,同女優の乳房は,D医師が「成人並みでない」と述べる乳房と比べても発達しているとは到底いえない(なお,幼いことを宣伝文句にした写真をそれらしく加工する可能性については,検察官が素材写真(検・素材画像)の実在欄で掲げる写真集等についても等しく当てはまる指摘というべきである。)。
 またD医師は,甲第25号証画像番号3(児童2),12ないし17(児童9ないし14),23(児童16),28(児童17)及び甲第26号証画像番号8(児童6),10(児童8),25(児童17)について,いずれも乳房は成人に達するほどではない,あるいは成人並みよりも小さいなどと述べているが,乳房部分だけを抜粋して写真から判断した場合,その大きさから,成人に達しない,あるいは成人並みでないと判断し得るとは解されない。
   イ 18歳以上の女性の中に,乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がいる可能性
 また,D医師は,タナー法の度数と日本人女子の性発達との関係を調査した研究によれば,同法の各度数に分類される年齢は正規分布すること,乳房についてタナー2度に達する平均年齢が9.7又は9.5歳で標準偏差が0.95,タナー3度に達する平均年齢が11.5歳で標準偏差が1.05,タナー4度に達する平均年齢が12.3歳で標準偏差が1.1であること等が分かっており,以上からすると,95.4%の女児が9.7又は9.5歳プラスマイナス1.9歳の間でタナー2度になり(D調書別紙6),15歳までにタナー2度に達しない者は計算上100万人に0.3人くらいということになり(D調書別紙7),18歳以上でタナー2度以下である場合は,1万人に1人を超えないと考えられる(D調書別紙10,11)旨述べる。
 しかしながら,D医師が証人尋問において引用した田中論文の中の日本人女子の乳房の性成熟段階の累積頻度(D調書別紙6)の図を見ると,タナー2度の線については累積頻度が100%のところにほぼ到達しているのに対して,タナー3度の線は93又は94%の辺りで切れており,タナー4度の線は,65%の辺りで切れている。また,田中論文は,その対象者について「東京の私立の女子校生の1983年4月から1986年3月までに生まれた女子で小学校1年(6歳)から中学3年(14歳時)まで経過観察できた226名を対象とし」た旨記載している。そうすると,D医師の述べるとおり,この論文において判明した範囲でタナー法の度数と年齢とがほぼ正規分布の関係にあることや,およそ自然界に存在する生物の特徴として発達度合い等の正規分布が想定されること等を前提に,18歳以上の女性の中で乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性が存在する可能性をそれぞれ理論的に計算することは可能であるとしても,実際に18歳以上の女性の中に乳房につきタナー2度ないし4度と評価される女性がどの程度存在するかについては,前記論文からは実証的に明らかでない。
 また,D医師は,前記各児童認定書を作成するに際しては,日本人女性の中にはタナー4度のまま成人となりそれ以上発達しない人もいることから,4度の可能性がある場合には推定年齢が不明であると表現した旨述べている。前記の正規分布に基づく理論的な計算によれば,18歳以上でタナー4度と評価される者が現れる確率は相当程度低くなると思われるところ,D医師自身,前記の正規分布に基づく理論的な観点だけでなく,タナー4度のまま成人となる者もいるという実証的な観点も踏まえて,結論を出しているものといえる。
 そして,D医師は,乳房及び外陰部でみて,タナー2度以下で18歳以上である可能性については,極端な「おくて」言い換えれば,質性思春期遅発症の場合や,性腺機能低下症の場合であると思われるが,概ね1万人に1人未満であると述べる。
 田中論文で調査された年齢の範囲で,その調査対象となったほぼ100%の日本人女性がタナー2度に達したと認められるから,その指摘自体は実証的根拠があるというべきであり,その割合は相当に低いと考えられるが,例外が皆無とは解されず,また,D医師の供述からも,正規分布による理論上の計算以上の説明はされていない。そして,児童性が認められるかの判断にあたっては,そもそも,タナー2度と判断してよいのかという,実際の度数判定の適切さが前提となる。
 そうしてみると,先のアダルトビデオ女優のように,18歳以上と考えられるにもかかわらず,タナー2度と判定される程度にしか乳房が発達していない女性が実社会に存在することは否定できない。また,その事柄の性質上,乳房が十分発達していないことを殊更強調してアダルトビデオ女優になる女性よりも,それを明らかにせずに生活する女性の方が当然多いと考えられることからすると,18歳以上でありながら乳房についてタナー2度と判定されかねない一定数の女性が存在することも否定できないというべきである。
   ウ そして,本件では更に,児童認定写真が修整が加えられた写真である可能性があることも考慮する必要がある。
 D医師は,タナー法によって,陰毛についてもその度数を判定しているが,陰毛については,剃られている可能性があるほか,前記実在性で検討した書籍の発行年月に照らしても,撮影後に陰部付近の画像に修整を加えて出版等がされた可能性があることから,その度数判定については,より慎重な判断が必要である。この点,D医師は,剃毛すると皮膚に赤みや赤黒さを見ることができるので剃毛されたか否かは見分けることができるし,そのような皮膚の色等まで修整がなされるとは考えられない旨述べるが,前記のとおり児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料の画質が粗いこと等からすれば,上記の点を正確に判断することができるか否かには疑問の残るところであり,また,陰毛や陰部が露骨に表されないように修整が加えられることは十分考えられるところである。そして,甲第25号証画像番号2(児童1)は,陰部に修整が施されている可能性が高い(検察官レイヤー,甲第34号証及び甲第41号証写真番号3は甲第25号証画像番号2(児童1)と同一の写真に見えるが,甲第36号証及び甲第41号証写真番号36,37はこれらの写真よりも陰部付近が鮮明である。弁第13号証の「1_02_0003_wr2_19.jpg」のレイヤーも全体としては白くなって鮮明ではないものの陰毛部については甲第25号証画像番号2よりもはっきりしている。したがって,甲第25号証画像番号2(児童1)は,より鮮明な写真に修整が加えられた可能性が高いことが分かる。さらには,よりはっきりしている写真やレイヤーであってもなお,陰毛部に黒く写っているものが陰毛であると断定できるかについては疑問が残る。)。しかし,D医師は,陰毛がかろうじて写っている,修整された痕跡がないとして,タナー2度であると判定している。
 弁護人から陰裂が見えない不自然さを指摘されても,上記説明を維持しようとしているところ自体において,写真に撮影された陰毛から度数を判定することの限界がうかがわれる。
 こうしたことからすると,タナー法に基づく年齢判定においては,その限界ないし危うさがあるというほかなく,D医師が小児医療を専門とする医師であることから,その意見は尊重するとしても,児童性の認定においては成人女性の性発達等をも考慮する必要があるところ,その面からの統計資料等の証拠はなく,また,判定資料とした写真の不鮮明さや修整の可能性,殊に陰部付近の修整の可能性を考慮すると,少なくとも本件においては,D医師の供述を全面的に信用して,年齢を判断することはできないというほかない。
  (3) 以上のとおり,本件においてD医師が児童認定写真の被写体の年齢を検討する際に用いた資料が限定されたものであること,その上での判定内容の危うさ等からすれば,D医師による年齢判定についてもその信用性について慎重な検討が必要となる。
 そのようにしてみると,まず,前記のとおり資料が限定され,修整の可能性がある中で,D医師がどれにも3度以上と判定したものがない児童認定写真の陰毛については(本件CGでは問題とされていないが,D医師は,甲第26号証画像番号9(児童7)の写真において,陰毛を2ないし3として3度もあり得ると判定している。しかし,その写真を見ても陰毛が何度であるかが判定できる程鮮明とは解し難い。),タナー法の度数を判定することは不可能に近いというべきであり,D医師が陰毛に関する同度数によって判定した年齢については採用できない。
 また,D医師が18歳以上の可能性もあると述べる乳房のタナー4度とその可能性を否定するタナー3度とを判別する重要な基準となる乳輪の隆起の有無について,前記のとおり資料が限定されている中で正確な判断ができたかは疑問があり,タナー3度と評価された者の中には,実際は乳輪が隆起しておりタナー4度と評価されるべき者が含まれていた可能性が否定できないことなどからすれば,児童認定写真のうち,D医師が被写体の乳房がタナー3度と評価したものの各被写体が18歳未満である旨のD医師の判定についても,採用することができない(D医師自身,タナー3度を(判定基準に)用いてもいいが,誰が見ても必ずといっていいほどに,ほぼ例外なく18歳未満だと言えるということに関してはタナー2度を基準にしたほうが結論は誤らないという意味で言っている,それは乳房だけでなく,陰毛についても同じである旨述べ(D調書11頁),その供述は,タナー法による判定が3度であっても,それは絶対的なものである,あるいは,その判定に誤りが入り込む余地がないとは断定し切れないことを意味するものと解される。)。
 そうすると,D医師がタナー法で乳房を3度と判定した(なお,D医師が,本件CG集に関連する写真で,乳房につき,4度あるいは3度ないし4度であると判定したものはない。),甲第25号証画像番号2ないし5(児童1ないし4),8(児童6),9(児童7),11ないし17(児童8ないし14),22(児童15),23(児童16),27(左側)(児童17。画像番号22と共通。),28(児童18)及び甲第26号証画像番号3(児童2),5(児童4),6(児童5),8(児童6),10(児童7),13(児童8),17(児童11),21(児童12),23(児童13),25(児童14),26(児童15)の各写真については,各被写体が18歳未満である旨のD医師の認定は採用することができず,18歳以上である可能性に合理的な疑いが残る(別紙1で黄緑色で塗りつぶしたもの。ただし,既に検察官レイヤーと児童認定写真とが一致しないあるいは実在性がないとして黄色等で塗られていたものがあり,その場合には画像番号のみを黄緑色で塗りつぶしている。)。
 これに対し,別紙1の画像番号が黄緑色で塗られていないもの,すなわち,D医師がその被写体の乳房についてタナー1度又は2度と評価した各写真については,前記のとおり,D医師が,乳房についてタナー2度が18歳未満か否かという判断のポイントとなる旨述べているとおり,乳房についてタナー2度以下と判定されて18歳以上である女性が一定数存在することは否定できないとしても,それ自体がまれであるといえる上,これらの写真の被写体は,いずれも一見して顔立ちが幼く,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達も未成熟であること等からすれば,これらの被写体は撮影当時18歳未満であったことが強く推認される。
 3 児童認定写真と同一の写真が収録された写真集に被写体の年齢に関する記載があること
 なお,検察官は,児童認定写真と同一の写真が収録された写真集自体に「『F』13歳」,「K 1972年生まれ。」などと,被写体の年齢に関する記載が存在することからも,被写体が撮影当時18歳未満であったことが推認される旨主張するが,そもそも写真集に記載された年齢や生年月日が正確なものであるとする根拠がない上,児童認定写真に係る写真が収録された写真集には,その表紙や本文に「少女」などの記載があり,幼い女児の写真であることを強調する内容となっていることからすれば,そのような写真集に記載された被写体の年齢や生年月日が正確なものであるかは疑問であり,検察官の主張は採用できない。
 4 小括
 以上によれば,別紙1の黄緑色に塗られていない○○及び○○2の各画像に係る児童認定写真の被写体については,18歳未満であると認めるのが相当であるが,その余については,18歳未満であることについて合理的疑いが残り,18歳未満とは認められない

検察官送致前の弁護人選任届の提出先

刑事訴訟規則
第一七条(被疑者の弁護人の選任・法第三十条)
 公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。

司法研修所編 平成29年版 刑事弁護実務
公訴提起前にした弁護人の選任は,弁護人選任届を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に提出した場合に限り,第一審においてもその効力を有する(法32I,規17)。追起訴された事件の弁護人の選任については,規則18条の2に規定されている。
・・・
刑事訴訟実務書式要覧1(刑事実務研究会編集・新日本法規)
(5) 選任届書の提出
ア提出者, 提出先(87)
被疑者の場合
提出者は前出犯罪捜査規範133条1項により被疑者又は刑訴法3条2項の選任権者であるが,代人,使者による提出を禁ずるものではない。提出先については,刑訴規則17条は「当該被疑事件を取扱う検察官又は司法警察員」とあるが実務上は,担当検察官が直接受領する例は少ない。検察庁の「事務課」又は「検務課」に提出する。東京地方検察庁のように大きな検察庁は「事務課」が「刑事」「交通」「公安」「特別捜査」と分かれているからまず事件課で担当検事を聞き提出先の事務課をたしかめてから,その担当事務課に提出すること。司法警察員あての場合は,各警察によって取扱いが異なるので担当司法警察員に提出先を聞くことになる。

・・・・・・・・・・・・・
弁護人選任届の扱いについて
刑事弁護委員会副委員長 高橋 俊彦(52 期)
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2010_04/p30-31.pdf
1.捜査段階の場合
捜査段階で弁護人としての選任を受けた場合には,弁選は「当該被疑事件を取り扱う検察官または司法警察員」に提出する必要がある(刑訴規則17条)。すなわち,検察庁に事件が送致(刑訴法 203 条)される前であれば「司法警察員」であり,送致後であれば管轄検察庁である。司法警察員に提出する必要がある場合は,当該被疑者の捜査を担当する部署に連絡をとれば、該当該警察署内における具体的な提出先を教示される(いわゆる「預かり」の場合――他の警察署が担当しているが,何らかの都合により被疑者だけ別の警察署に留置されている場合――は,留置先の警察署ではなく,担当警察署に連絡をとる必要がある。警察署留置係に確認をとれば,担当警察署は教示される。)。
検察庁に提出する必要がある場合は,事件により地方検察庁区検察庁に提出することになる(地検と区検との事務分担については,基本的に簡裁の事物管轄(裁判所法 33 条)によることになるが,例えば窃盗罪の場合は,事件によっては地検が取り扱う場合もあるため,留置担当者に押送先を確認して情報を得る場合がある。地検内での事務分担は,当該地検に確認すればよい。)。
捜査段階で弁選を提出する場合は,上で述べたとおり,記入してもらう際にその宛先が不明確なことがある。そのような場合は,宛先を空欄のままにして受領することもあり得る(記載して訂正――通常,弁護人の職印のみで訂正が認められる――することもある。)。

犯罪捜査規範
(弁護人の選任)
第百三十三条 
1弁護人の選任については、弁護人と連署した選任届を当該被疑者または刑訴法第三十条第二項の規定により独立して弁護人を選任することができる者から差し出させるものとする。
2 被疑者の弁護人の選任届は、各被疑者について通じて三人をこえてこれを受理してはならない。ただし、三人をこえて弁護人を選任することについて管轄地方裁判所または簡易裁判所の許可がある場合は、この限りでない。
3 弁護人の選任に当つては、警察官から特定の弁護人を示唆し、または推薦してはならない。
。。。

逐条解説 犯罪捜査規範 新版第2訂(平成13年)
被疑者の弁護人の選任は、被疑者又はその代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹が弁護人と連署した書面(弁護人選任届)を当該事件を取り扱う司法警察員に差し出させるようにしなければならない(事件送致後であれば、送致を受けた検察官にし出させることとなる)。このような手続を経て選任された弁護人は、その被疑者が起訴された場合における第一審においても、引き続き有効に選任された弁護人となることができる(刑事訴訟規則第一七条)。

今井將人「強制わいせつ及び強姦の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した事例最高裁平成30年6月26日決定(裁判所ウェブサイト登載)」捜査研究2018年9月号p2


 撮影行為はわいせつ行為、児童ポルノ製造はわいせつ行為で、観念的競合でどうですか?

今井將人「強制わいせつ及び強姦の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した事例最高裁平成30年6月26日決定(裁判所ウェブサイト登載)」捜査研究2018年9月号p2

(2) また,第一審判決で, 「このような被告人による隠し撮りは, Bら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく, もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない」とされているように,本件では,撮影行為自体は実行行為の一部とされていなかった。
しかし,事案によっては,わいせつ行為等を撮影する行為自体も,強制わいせつ等の実行行為の一部として評価し,公訴事実に含めることが可能であると考えられるところであり9),例えば,直接身体に触れなくても,被害者を裸にして写真を撮る行為が,わいせつな行為に当たるとした裁判例(東京地判昭和62年9月16日判例時報12糾号143頁),被害者の寝姿をビデオ撮影しながら自慰行為を行い着衣に精液をかけた一連の行為について準強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例(福岡地判平成13年10月17日警察公論第58号第1巻59頁。),婦人科医が,患者3名に対して, 同人らが治療に必要な診察のみを受け,それ以外の行為を受けることはないと誤信して抗拒不能の状況にあるのに乗じ, 同人らにわいせつな行為をしようと考え,診察室において,看護師の立ち会いのない診察時に,下半身の衣類を脱いで, 同室の内診台に仰向けに寝て開脚し,抗拒不能の状況にある同人らに対し, 同人らの同意なく,無断でその陰部をデジタルカメラで撮影した行為について,準強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例(東京高判平成21年4月30日・公刊物未登載)などが参考になると思われる。
その上で,撮影行為自体が実行行為の一部と認められる場合には,撮影に用いたデジタルカメラ等は, 「犯罪行為の用に供し」た物であり,撮影されたデジタルビデオカセット等の記録媒体は,刑法19条1項3号の「犯罪行為により生じ」た物であるとして, これらを没収することができると考える余地もあり得ると思われる'0)。
9) 前掲中村・149~152頁は,撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係について詳述しており,本件についても,隠し撮りをする行為について,その他の被告人による一連の行為と相まって強制わいせつ罪におけるわいせつ行為と評価し得るものに至っているものとして,審判の俎上に載せる余地があったことなどを指摘しており,実務上参考となると思われる。
10) 前掲中村・156頁参照。

中村功一「強姦・強制わいせつの犯行状況等を隠し撮りして録画されているデジタルビデオカセットについて、犯罪行為の用に供した物として没収した事例〔宮崎地方裁判所平成27年12月1日判決・控訴中・公刊物未登載〕」警察学論集69巻2号p1451 撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係(1)刑法第19条第1項は、第1号において、犯罪行為を組成した物(犯罪組成物件)、第2号において、犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(犯罪供用物件)、第3号において、犯罪行為によって生じ(犯罪生成物件)、若しくはこれによって得た物(犯罪取得物件)又は犯罪行為の報酬として得た物、第4号において、第3号に掲げる物の対価として得た物を、それぞれ没収の対象として規定している。
本判決は、被告人が撮影して録画された本件各デジタルビデオカセットについて、犯罪供用物件にゝl`たるとして没収を認めたものであるが、没収の対象となるか否かを検討する前提として、まず、撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係を考えてみることとする。
(2)強制わいせつ罪や強姦罪の犯人が、被害者に対するわいせつ行為や姦淫行為を撮影しつつ、被害者に対し、抵抗するなどしたときは撮影した画像をばらまくなどと申し向けたような場合には、その撮影行為は、強制わいせつ罪や強姦罪における脅迫行為の一部であるとも言い得る。
また、裸にして写真を撮影する行為が強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるとされた裁判例2.があるとおり、撮影行為が、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為3)に当たることもあるものと考えられる。
ただ、強姦罪の犯人が、その犯行状況、すなわち被害者を姦浮する状況を撮影した場合、その撮影行為は、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たり得るとしても、強姦罪における姦淫行為に当てはまるとは言えないであろう。
もっとも、同一の被害者に対して接着して強制わいせつ行為と強姦行為が行われた場合には、両者を包括して強姦の一罪が成立すると解されること4りに照らすと、強姦罪の犯人が、その犯行状況、すなわち被害者を姦浮する状況を撮影した場合において、その撮影行為が強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるときは、「可―の被害者に対して同時に強制わいせつ行為と強姦行為が行われたものであって、撮影行為についても、これらを包括して成立すると解される強姦の一罪の犯罪行為の一部として、公判における審理・判決の対象とすることができると考えてよいように思われる。
実際に発生している強姦事案を見ると、姦淫行為に様々なわいせつ行為が伴うことが多いと思われ、実務上、姦淫行為に加ぇて他のわいせつ行為をした事実が認められる事案であっても、公訴事実や罪となるべき事実において、あえてこのようなわいせつ行為を摘示することまではせず、姦淫の事実のなを摘示する場合が多いと思われる。
これは、姦淫の事実のみを摘示し、その他のわいせつ行為は重要な情状として評価すれば、適切に量刑をすることができるとの考えからであると思われ、これrl体は、実務上の取扱いとして、今理的であって妥当であると思われるが、理論上は、姦淫行為が存在し、これが強姦罪に当たると評価されることによって、その同一の機会になされたわいせつ行為、とりわけ、姦淫行為に必然的に伴うものではなく、姦淫行為に包含されるとはいえないようなわいせつ行為について、犯罪行為として評価することができなくなるというわけではないと解される。
例えば、裁判の結論に影響するのであれば、そのようなわいせつ行為も、起訴状の公訴事実として記載して公判における審理の対象に含まれるものとして明示し、判決の罪となるべき事実にも摘示することが必要となる場合が、実務的にもあり得よう。
(3)問題は、本件のように、犯行状況を隠し撮りした場合、すなわち、被害者が撮影されていることを認識していない場合である。
被害者の裸体の単なる隠し撮りについては、一般に、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為には当たらず、盗撮を禁止する地方公共団体の条例違反5'や、のぞき見を処罰する軽犯罪法違反6)に当たるとされている。
もっとも、人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて行ったわいせつ行為については、準強制わいせつ罪として処罰することとされ(刑法第178条第1項)、被害者が、被害時(犯人の側から言うと、行為時)には、わいせつ行為の被害に遭っていることを認識していない、ないし認識することができない状態であっても準強制わいせつ罪が成立し得ることからすると、被害者の裸体の隠し撮りにおいて、被害者が撮影されていることを認識していないことは、わいせつ行為に当たらない根拠となるわけではないと思われる。
そうすると、仮に、被害者の裸体の単なる隠し撮りがわいせつ行為に当たらないとするのが正当であるとするならば、その根拠は、撮影行為のみでは、カメラという機械を通じてではあるし、画像という記録が残るわけではあるが、単に、既に裸体となっている姿を見るという範時にとどまる限り、この行為単独では強制わいせつ罪におけるわいせつ行為'1と評価されるにまでは至っていないからであるというところに求められると思われる8'。
そして、隠し撮りを含め、撮影行為は、着衣を脱がせて裸にするなどの他のわいせつ行為と併せて行われることによって、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に該当し得ることになるものと考えられるのであるり。
(4)もちろん、強制わいせつ罪や強姦罪の犯人がその犯行状況を隠し撮りをする行為が、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に者たるかどうかの判断に当たっては、強制わいせつ罪における性的意図の要否及びその内容についてどのような見解に立つかにもよるが、そのような隠し撮りをすることについての被告人の意図等についても、別途検討する必要があろう。
本判決は、被告人が犯行状況を隠し撮りをした目的について、「録画を行った被告人の意図については、自己の性的興奮を高めることなど、検察官が主張するような事情も、可能性としてはあり得る」としたにとどまり、「被害者らとの間で後に紛争が生じた場合に、本件各デジタルビデオカセットをその内容が自らにとって有利になる限度で証拠として利用することを想定していた」との限度でのみ認定しており、隠し撮りをした行為について、「Bら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく、もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない」としているとおり、公判における審理・判決の対象とはされなかったようである証拠関係を承知していない立場で軽々しく断ずることはできないが、本件において、被告人は、既に裸になった被害者を単に撮影したに過ぎないというにとどまらない。
本件犯行に当たって、被告人の指示により被害者を裸にさせて施術台に横たわらせ、アイマスクを着用させていた上、撮影行為とともに、被害者の乳房を直接もむなどのわいせつ行為や、姦淫行為に及ぶなどしていたのである。
そうすると、そのような隠し撮りをする行為について、その他の被告人による一連の行為と相候って強制わいせつ罪におけるわいせつ行為と評価し得るものに至っているものとして10'、審判の俎上に上げ、そのように認定する余地もあったように感じられる。
3 犯罪生成物件該当性について本件各デジタルビデオカセットは、犯罪供用物件として没収されたものであるが、これは、いわば、未だ犯行状況が録画されていないデジタルビデオカセットを撮影に用いたということであって、そこでは、撮影行為によって、犯行状況の画像が録画されたデジタルビデオカセットが存在するに至ったこと自体は、没収の対象となるか否かを検討する上で直接的に評価されたものとは言い難い。
そこで、撮影行為をも犯罪行為、つまり、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるとした」で、犯罪行為たる撮影行為によって、犯行状況の画像が録画されたデジタルビデオカセットが存在するに至った犯罪生成物件として、当該デジタルビデオカセットを没収することはできないだろうか。
撮影行為によって、画像という電磁的記録(無体物)が生じているが、刑法第19条の規定による没収の対象は、有体物に限られるというのが、揺るぎなく確立された考え方であり、有体物であるデジタルビデオカセットそのものは犯罪行為の前後を通じて存在しており、犯罪行為によってデジタルビデオカセットという有体物が存在するに至ったものではない。
そして、強盗強姦罪の犯行において、犯人が姦浮する際の様子を撮影して記録されたビデオテープについて、犯罪生成物件として没収した原審の判断を否定して、犯罪供用物件として没収するとした東京高判平成22年6月3日判夕1340号282頁も、「〔刑法第19条第1項第3号〕の「犯罪行為によって生じ」た物とは犯罪行為によって作り出された物をいうものと解されるのであって、 上記各ビデオテープには強盗強姦の犯行がなければ撮影されなかった画像が記録されているものの、ビデオテープ自体は強盗強姦の犯行によって生じた物ではなく、同号に該当する物とはいぇないから、原判決には法令適用の誤りがある。
」としている。
しかしながら、犯罪行為によってデジタルビデオカセットという有体物が新たに存在するに至ったものではないとする上記の考え方を突き詰めていくと、犯罪生成物件に当たることについて争いのない文書偽造罪における偽造文書についても、その素材である有体物である紙そのものは偽造行為によって存在するに至ったものではないとして、犯罪生成物件に当たることが否定されてしまうことにもなりかねない。
そこで、犯罪生成物件の定義は、「当該物の存在ないしその現在の特性が、その作出を目的とした実行行為によって直接的に生じさせられたもの」とすべきであつて、前記東京高判におけるビデオテープが犯罪生成物件に当たらない理由について、強盗強姦罪は姦淫行為の録画を目的とする犯罪でないという直接目的連関性の欠如に求める見解がある(注17)。
たしかに、強盗強姦罪自体は、姦淫行為の録画を目的とする犯罪ではない。
また、撮影行為自体が犯罪行為とされていないのであれば、そもそも、録画された記録媒体について、「犯罪行為によって」生じたものということもできない。
しかしながら、被害者を姦淫する行為を撮影して記録媒体に録画する行為について、これをわいせつ行為という犯罪行為であると捉えた場合においては(注18)、文書偽造罪における偽造文書と同様に、デジタルビデオカセットのような記録媒体という素材に、犯罪行為たる撮影行為によって画像という電磁的記録を記録し、当該電磁的記録が記録された記録媒体という有体物を生じさせたとし、当該記録媒体を犯罪生成物件に該当するものとして没収することができると考える余地は、 上記東京高判を前提にしてもなお、未だ残されているように思われる。
文書偽造罪とは異なり、強制わいせつ罪において撮影行為は構成要件要素として明示されているものではないけれども、被害者を姦淫する行為を撮影して記録媒体に録画する行為がわいせつ行為という犯罪行為に当たることを認めることができるのであれば、記録媒体について、単に、犯罪行為の用に供したいわば素材としてではなく、わいせつ行為という犯罪の構成要件に該当する行為としての撮影行為によって、直接的に、画像という電磁的記録が記録された記録媒体を生じさせたものとして、これを没収することも、十分に考えられるのではないだろうかか5)例えば、東京都の公衆に若しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条第1項第2号は、「何人も、正当な理由なく、人を著しく差恥させ、又は人に不安を覚ぇさせるような行為であって」、「公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する11的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」をしてはならないと規定し、その連反行為を処罰している。
6)軽犯罪法第1条第23′′は、「正当な理由がなくて人の住層、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰するものとしている。
7)強制わいせつ罪におけるわいせつ行為の意義については、公然わいせつ罪等における「わいせつ」と同様に、徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的差恥心を害し、書良な性的道徳観念に反する行為をいうものといわれているが、保護法益に照らし、端的に、人の性的自由、性的感情を害する性質の行為を対象とすると解すべきであるなどともいわれている(前掲亀山‐河村67頁参照).8)しかしながら、他人の裸体等を撮影し、その動画・静止画を記録媒体に記録するという行為は、その裸体等の姿がその人の意思に反して記録に残されるものであるから、単に日で見るだけという行為とは異なるのではないかという感が拭えない。
特に、性的なプライバシーの程度が最も高いといえる性交等を含めた性的行為をしている状況を相手方の意思に反して撮影して記録に残す場合には、その感が強い9)撮影行為についてわいせつ行為に当たるとされた前掲注2)に掲げた裁判例も、裸にする行為をも併せてわいせつ行為に当たるとしている。
また、個室使所の人口扉の施錠を外して開扉し、個室使所内で和式便器にしゃがみ込んで用便中であった女性の姿態を背後から見る行為や、女性宅に侵人し、就寝中の女性の寝姿をビデオカメラで撮影しながら自慰行あをして女性の身体に向けて射精し、女性の着衣に精液をかける行為について、わいせつ行為に当たるとされた裁判例(前者について釧路地判平成14年2月28日公刊物未登載、後者について福岡地判平成13年10月17日公刊物未登載)があるが、裁判所は、前者については、「人が個室使所で用便をする ためには、着衣を引き下ろしてド半身を露出する代わりに、その姿態が他人の日に触れるのを防ぐため個=便所の人「1扉を開め、さらに施錠をするものであるから、相手方が個宅使所内で用使中であろうとの認識のもと、その姿態を眺めて自己の性的欲求を満足させる目的で、相手方が施錠した個室使所人11扉を解錠してこれを開扉し、その用便中の姿態を眺め、相手方をしてそれを自己の眼前にさらすことを余儀なくさせる行為は、自己の性的欲求を満足させるため無理矢理相手方の着衣を引き下ろしてその姿態を眺める行為と同等のものと評価することができる。
」(傍点は筆者による。
)として、わいせつ行為に該当すると判示し、後者については、「遅くとも相手方の着衣に精液をかけるに至った段階においては、乳房等への接触や接吻と同様に、相手方の性的自由を侵害するものと考えられるから、準強制わいせつ罪にいうわいせつな行為慨遂)に該当すると解するのが相当である。
」とした上で、黙苺専即々でヽマたキ?t沐悴'く`そ|てヽ、然肯本で行″。
当時1:やでてヽ、押モ々々ヾ直ちに被告人の行為を認識し得る状況にあったか否かは、同罪におけるわいせつな行為の成否を左右するものではないと解すべき」(傍点は筆者による。
)と判示している。
両裁判例についての解説として、松F裕子・警察公論58巻1号59真参照18)この場合には、撮影して録画すること自体が、撮影対象者の性的自由、性的感情を害するものであって、犯罪の「I的となっているともいえるのではなかろうか。

渡邊卓也 自画撮り規制のあり方

渡邊卓也 自画撮り規制のあり方
「保護対象であるはずの児童自身を処罰するのは背理であって許されない」という高裁判例がいくつかあって、そう判示してない判例もあります

https://sgul.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2863&item_no=1&page_id=13&block_id=21
https://sgul.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=2863&file_id=20&file_no=1
札幌学院大学総合研究所講演会】
性犯罪規制の現代的課題
児童ポルノ規制について
筑波大学ビジネスサイエンス系准教授渡邊卓也29
(2)自画撮り規制のあり方
次に、ここでの議論は、児童ポルノの自画撮りを如何に規制すべきかという論点と関係する25。
最近では、児童自らが裸の写真を撮影して児童ポルノ画像を製造し、それをネット上で拡散する行為を如何に規制すべきかが議論されている。
自画撮りについては、児童単独で行われる場合も、他者からの働きかけによって行われる場合もあり得る。
また、働き掛ける側が成人の場合も、児童の場合もあり得るし、それが脅迫等を伴う場合もあり得る。
そして、当該自画撮り画像の撮影による製造から所持を経て拡散に至る各段階で、児童ポルノ法違反の罪による規制を論じ得る。
自画撮りが他者からの働きかけによって行われる場合には、まずもって、働きかけた側の犯罪の成否が問われる。
もっとも、この点は、正犯・共犯論における立場に応じて判断すれば足りるため、児童ポルノ法違反の罪に固有の問題は生じないといえよう。
すなわち、働き掛けた側の働きかけの態様や程度等を考慮しつつ、その対象が判断能力の未熟な児童であることを踏まえて、働きかけた側に、間接正犯、共同正犯又は狭義の共犯のいずれを成立させるべきかを検討しなければならない。
そして、それとの関係で、場合によっては、児童にも、犯罪成立の余地が残されることになる。
いずれにしても、そこでは、児童ポルノ法の保護対象たり得る児童を、児童ポルノ法違反の罪によって処罰することの是非が問われるがこの点についても、児童ポルノ法の規制根拠についての議論が関係する。
すなわち、ⓑ説やⓒ説に拠れば、自画撮りをした児童以外の児童一般や社会環境が害される危険を理由に、当該児童を処罰する余地がある一方で、ⓐ説に拠れば、保護対象であるはずの自画撮りをした児童自身を処罰するのは背理であって許されない、という結論になりそうである。
もっとも、この結論を解釈論的に如何にして導くのかは、一つの問題である。
これを構成要件レベルで説明しようとすれば、例えば、殺人罪(刑法199 条)にいう⽛人⽜には行為者自身を含まないのと同様に、児童ポルノ法違反の罪にいう⽛児童⽜には自画撮りをした児童自身を含まない、との解釈が考えられる。
しかし、⽛児童の権利の擁護⽜を掲げる法律において、現にポルノ画像の被写体となった児童を排除する解釈が不自然であることは否めない。
そこで、これを違法レベルで説明しようとすれば、法益主体たる⽛児童⽜自身の承諾がある以上、児童ポルノ法違反の罪の違法性が阻却される、との解釈が考えられる。
しかし、それが判断能力の未熟な児童であることに鑑みれば、承諾の有効性が否定される余地があるかも知れない。
なお、個別の構成要件解釈としては、各種製造罪について、自画撮りが⽛製造⽜にあたり得るかが議論されている。
すなわち、自画撮り画像の⽛製造⽜とは、児童の側における保存では足りず、当該画像が働きかけた側に送信され保存された段階で、初めて完成するというのである。
これを前提に、現在、東京都において、この働きかけ自体につき、一定の態様で行われた⽛青少年自身に係る児童ポルノ等の提供を当該青少年に不当に求める行為⽜の処罰規定を条例に新設することが検討されている。
しかし、⽛製造⽜の文理解釈として、撮影時の保存を排除する理由があるかは疑問である。
また、上述のように、ここで処罰を基礎付けているのが目的要件や姿態要件であることに鑑みれば、むしろ、撮影時の保存こそ⽛製造⽜と呼ぶべきと考える。
さらに、自画撮りをした者において目的要件を欠く場合には、⽛姿態をとらせ⽜て製造した場合(⚗条⚔項)にあたり得るかも問題となり得る。
すなわち、被写体となった児童が主体的に自画撮りに関与していた場合には、姿態を⽛とらせ⽜たことにならず、姿態要件が欠けるのではないかというのである。
確かに、ここで処罰を基礎付けている姿態要件を等閑にすることは出来ない。
そこで、文理解釈として、被写体となった児童が自ら姿態を⽛とった⽜場合は排除されているともいえよう。
もっとも、そのような文言が規定された実質的根拠は、結局は、保護対象であるはずの児童自身を処罰するのは背理であって許されない、という発想に求められるように思われる。

堀田さつき「監護者性交等罪と,児童福祉法における自己を相手方として淫行をさせる行為とが,法条競合の関係にあり,監護者性交等罪のみが成立するとされた事案(平成29年12月13日札幌地裁小樽支部判決(確定))」研修843号

 処断刑期の上限が変わるので、控訴すべきだったと思います。

第2事案の概要及び本判決の要旨
1 事案の概要
本判決により認定された事実は,被告人は, 内妻とその娘である被害者と同居し(同居開始時,被害者は小学校低学年),被害者らの生活費を相当程度負担し,被害者の身の回りの世話をするなど事実上の養父として生活していたものであるが,平成26年頃から被害者に対する性的虐待を繰り返した末,平成29年7月中旬頃被害者(当時16歳)と性交し(以下「第1行為」という。), さらに, その3日後にも被害者と性交した(以下「第2行為」という。) というものである。
検察官は,第1行為について,監護者性交等罪及び児童福祉法違反
により起訴した後,第2行為について,両罪により追起訴した。
・・・
検察官は,第1行為と第2行為との関係につき,監護者性交等罪と児童福祉法違反がそれぞれ成立し(観念的競合),それらは併合罪であると主張し(処断刑は5年以上30年以下の懲役),弁護人は,前記のとおり,児童福祉法違反は成立せず,監護者性交等罪のみが成立するとした上で,第1行為と第2行為とは
包括一罪であると主張した(処断刑は5年以上20年以下の懲役)。<<

トイレ盗撮で逮捕→強制わいせつ罪(176条後段)数回で再逮捕という事例(熊本地裁)

 こういうのはわいせつの定義を争って、撮影行為も含まれる・製造罪とは観念的競合になるという主張をして欲しいところ
 強制わいせつ罪(176条後段)と姿態をとらせて製造罪が観念的競合という判例と、姿態をとらせて製造罪は包括一罪になるという判例を組み合わせると、4回のわいせつ+製造が科刑上一罪(何回やっても処断刑期は10年)になるよね。
 初公判で被告人質問まで行くということは、カウンセリングとか突っ込んだ情状立証はないようだ。

女児にわいせつ、起訴内容認める 元小学校教諭 初公判 /熊本県
2018.09.22 朝日新聞
 勤務する水俣市の小学校に通う女子児童にわいせつな行為をし、その様子を動画撮影したとして、強制わいせつと、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の罪に問われた元小学校教諭、■■■■■■■■被告(46)、7月2日付で懲戒免職=の初公判が21日、熊本地裁(鈴木悠裁判官)であった。■■■■■■■■被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。

 検察側の冒頭陳述によると、■■■■■■■■被告は15年10月ごろから16年3月ごろの間に4回にわたり、露出した自身の性器を女子児童に触らせるなどのわいせつな行為をし、所有するデジタルカメラで動画を撮影して保存していたという。児童には「内緒にしておいて」と言っていたと明らかにした。

 ■■■■■■■■被告は被告人質問で、犯行の動機について「誰かに触ってもらいたいという欲求があった」とし、「自己中心的な考えでお子さんや親御さんの思いを無視し、人間として未熟な行為をした」と述べた。(吉備彩日)
・・・・・・・
女児にわいせつ 起訴事実認める 元小学校教諭初公判=熊本
2018.09.22 読売新聞
 強制わいせつ罪などに問われた元津奈木町立小教諭■■■■■■■■被告(46)の初公判が21日、熊本地裁(鈴木悠裁判官)であった。■■■■■■■■被告は起訴事実を認めた。

 起訴状では、■■■■■■■■被告は2015年10月~16年3月頃の計4回、自らの体を教え子の女児に触らせるなどのわいせつ行為をした、などとしている。

 検察側は冒頭陳述で、■■■■■■■■被告が、性的な動画を見たのをきっかけに13年頃から、他人に体を触らせたいと思うようになったと指摘した。

 ■■■■■■■■被告は6月、飲食店のトイレで女性を盗撮したとして県迷惑行為等防止条例違反(盗撮)容疑で送検されていたが、熊本地検は8月に不起訴としていた。地検は処分理由を明らかにしていない。
・・・・・
強制わいせつの容疑、水俣の小学教諭逮捕 /熊本県
2018.07.18 朝日新聞
 水俣署は17日、、小学校教諭■■■■■■■■容疑者(46)を強制わいせつの疑いで逮捕した。水俣署によると、■■■■■■■■容疑者は小学校教諭をしていた2015年4月ごろ、県南の建物内で、当時13歳未満の女児に体を触らせるなどのわいせつ行為をした疑いが持たれている。■■■■■■■■容疑者は「弁護士と相談するまで何も話したくない」と話しているという。

 ■■■■■■■■容疑者は6月、内の飲食店のトイレで盗撮をしたとして、県迷惑行為等防止条例違反容疑で逮捕された。この報道を見て女児の親が警察に相談し、今回の容疑が明らかになったという。

 県内では教職員の不祥事が相次いでいる。県教委学校人事課によると、昨年度は高校、中学教諭による酒気帯びや窃盗など4件の事件があり、今年度も公金横領や児童福祉法違反、盗撮など、3件の事件が発生している。県教委は6月、「非常事態」として教職員にメッセージを発したばかりだった。

 県教委は「教職員の不祥事が続いている中、教職員が逮捕されたことはまことに遺憾」などとするコメントを発表。事件当時、■■■■■■■■容疑者が勤めていた小学校がある自治体の教育委員会は「現在は当自治体の教員ではないので、コメントはできない」としている。■■■■■■■■容疑者は盗撮容疑で逮捕された後、自宅待機になっていた。

2002年(H14)の愛知県内・東京都内における青少年淫行の責任

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http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2018/09/08/000000
の続報になります。

 愛知県ではs52改正で淫行処罰規定ができました。過失処罰規定があるので、自称21歳であっても年齢確認を尽くさないと処罰されうることになります。
 法定刑の変遷がありますが、h13改正で「第14条第1項目規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」になっていたので、h14の行為については公訴時効は3年です(h16改正前の刑訴法250条)。
 このころ東京都には淫行処罰規定がありません。
 取材に対して、この程度まで調査しています。
 そこで記事では愛知県条例違反が取り上げられています。

愛知県青少年保護育成条例の解説s55
(いん行、わいせつ行為の禁止)
第9条
1何人も、青少年に対じて、いん行又はわいせつ行為をしではならない。
全部改正 昭和52年条例第8号〕
(罰則)
第20条
1 第9条第1項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
5 第9条第1項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として第1項の規定による処罰を免れる乙とができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことにつき過失がないときは、この限りでない。


H07改正
第29条1項
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

H13改正
第29条1項
第14条第1項目規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

h21改正
第29条
1第14条第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

https://article.auone.jp/detail/1/5/9/103_9_r_20180922_1537547311576395
フライデー」によれば、日村の淫行被害に遭った女性は現在、32歳で愛知県在住。日村は知名度がまだまだ低かった16年前の2002年、自身のファンで当時16歳だったその女性からファンレターをもらい、メールを返したことをきっかけに知り合った。当初、日村は女性から「21歳女子大生」と伝えられたが、すぐに16歳と打ち明けられたという。同年中に名古屋で初めて会い、未成年にもかかわらず手羽先屋で酒を飲ませた。その足でビジネスホテルに連れ込み、行為に及んだ。このころ、日村には彼女もいたという。それでも肉体関係は続いた。女性は精神のバランスを崩し、入退院を繰り返したという。日村は同誌の取材に対し、所属事務所を通じて回答。21歳→16歳と伝えられたことに「正直なところよく覚えていません」と釈明しつつ「大変申し訳なく思っております」と謝罪した。同誌によると愛知県では当時、すでに淫行条例が施行されていたが、公訴時効は3年なので、いまの日村が罰せられることはない。

 記事では東京都内の行為の青少年条例違反は取り上げられていませんが、弁護士のブログで東京都青少年健全育成条例をいうものがあって、そういう質問があったので、当時の東京都内での青少年淫行について補足しておきます

東京都青少年健全育成条例の解説h12
(青少年に対する買春等の禁止)
第18条の2
1 何人も、青少年に対し、金品、職務、役務その他財産上の利益を対償として供与し、又は供与することを約束して性交又は性交類似行為を行つてはならないG
2 何人も、性交又は性交類似行為を行うことの局旋を受けて、青少年と性交又は性交類似行為を行つてはならない。
[要旨]
本条は、性の商品化から青少年を守るために、青少年に対して、金品等の供与等を伴う性交又は性交類似行為及び周旋による性交又は性交類似行為(買春等) を行うことを禁止する規定である。
[解説]
本条は平成9年の条例改正によって新設された規定である。
本条は、情報化や性の商品化が著しく進み、「性」に関する意識が大きく変化する中で、性風俗に安易に係わる青少年と、その相手方となる大人(18歳以上)の行動が、深刻な社会問題となったことから、性の商品化から青少年を守るため設けられたものである。
第1項は、いわゆる買春行為の禁止を規定したものである。本条でいう買春行為とは、青少年に対する金品等の供与等を伴う性交又は性交類似行為をいう。
「何人も」 とは、国籍、住所、年齢、性別を問わず、都内にいる全ての人(自然人)を指す。従って、青少年が買春行為を行った場合も本項に違反するが、条例第30条(青少年についての免責)により罰則は科せられない。
「金品」とは、金銭又は物品のことであり、「職務」とは、雇用又は仕事のことであり、「役務」とは、サービスのことである。また、「その他財産上の利益」とは、債務免除等財物でないが金銭的に評価できる財産上の利益をいう。「対償として」 とは、金品等の供与等が性交文は性交類似行為(性交等) と対価関係にあることをいう。従って、経済的利益が墳末なもので、性交等との問に対価性が認められないような場合や交際関係に付随して行われた贈り物や経費の負担等と認められる場合は該当しない。
「性交類似行為」 とは、性交に類似した行為であり、青少年にとって精神的又は身体的な観点から性交と同様の影響を及ぼすものを指す。これには、異性問の行為はもとより同性問の行為も含まれる。
「性交又は性交類似行為」は、刑法や他県の条例にある「わいせつ」 や「淫行」より限定された行為であり、単なるデートや被服の上から身体に接触するような行為などについては除外される。

(罰則)
第24条の3 第18条の2第1項又は第2項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
[要旨]
本条から第30条(青少年についての免責)の規定までは、この条例違反に対する罰則や責任の及ぶ範囲等を定めた規定である
[解説]
本条は、平成9年の条例改正によって新設された規定である。
本条は、第18条の2の買春等の禁止に違反して、青少年に対して、金品等の供与等を伴う性交等や周旋による性交等を行った者に対して、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することを定めた規定である。
本条で、青少年健全育成条例として、初めて懲役刑を定めたのは、買春等処罰規定は、金銭等の財産上の利益を供与すること等により青少年と性交等を行う大人を処罰するものであり、その行為に対して、金銭的な制裁だけでは抑止力として乏しいためである。
懲役刑を地方自治法の上限である2年以下とせず、「1年以下」としたのは、平成9年6月に成立した「テレホンクラブ等営業及びデートクラブ営業の規制に関する条例」における営業者の罰則が最高l年以下の懲役であること、現行の東京都の条例において、1年以下の懲役は、最も重い罰則となっていること、近県など他の道府県の例、などを考慮して決めたものである。

http://www.ichifuna-law.com/8947/
バナナマンの日村さん16歳と淫行?】東京都青少年健全育成条例違反の可能性!?どのような刑罰に?
2018-09-21 | 所長・弁護士コラム

沖縄県青少年保護育成条例における年齢確認義務

 児童淫行罪の判例であったのは、児童が他人の名前をかたったので、使用者が戸籍を確認しても18歳だったという場合です。
 それが淫行者に当てはまるとも思えません。

沖縄県青少年保護育成条例逐条解説書(平成29年3月)
第22条
1 第17条の2第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下
の罰金に処する。
。。。
8 第9条第2項、第10条第3項、第11条第1項、。第12条第4項、第13条第3項又は第15条から第18条の4までの規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として前各項の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失のないときは、この限りでない。

解説
〔解説〕
1 青少年を、自己又は他人の情欲を満たすための相手とすることは社会的に許されるべき行為ではない。また青少年の心身に及ぼす悪い影響は計り知れないものがある。
これらのことから、青少年を淫行の相手とした者に対しては、青少年への影響の重大性を鑑み、条例で定めることができる最高刑を科している。
・・・
7 第8項の規定に違反した者については、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを規定したのである。
8 「当該青少年の年齢を知らないことを理由として」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになるが、具体的に相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は運転免許証等公信力のある身分証明書の提出、あるいは、父兄に直接問い合わせる等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
9 「過失のないとき」とは、
(1)その者が青少年でないことを確認するにつき全く遺漏がなかったことを意味し、過失がないことの挙証責任は営業者等が負う。
(2) 過失推定規定であり、座のような手段・方法を講じれば過失がないとされるかは、年齢確認に用いた資料、その資料の入手方法、当該相手との面談状況等を判断し、営業者として可能な限りの調査を尽くしているかどうかを、社会通念に照らして判断されるべきである。
(3) 青少年の身体的発育状況、態度、職歴、本人や紹介者等の単なる申告等からその者が青少年でないと信じたというだけでは足りない。
(4) 客観的資料として、本人の戸籍謄本、住民票、運転免許証等公信力のある書面等に基づく調査、保護者等に面接する等客観的に通常可能とされるあらゆる手段方法を識じて、当該青少年の年齢確認に万全を期した結果青少年でないと信じた場合にのみ過失がなかったと認めるべきである。

4~8歳女児のわいせつ動画公開疑い 大学生を書類送検「小遣いを稼ぎたかった」

 警察の発想としては、DLした人の中には性犯罪者がいるので、単純所持容疑で捜索して、ついでに性犯罪の際の動画を押収して、性犯罪を検挙できるんじゃないかと考えている。

https://www.sanspo.com/geino/news/20180919/tro18091919470010-n1.html
4~8歳女児のわいせつ動画公開疑い 大学生を書類送検「小遣いを稼ぎたかった」
特集:わいせつ事件簿
 少女のわいせつな動画を写真・動画の共有アプリ「写真シェアGO」に投稿、公開したとして、京都府警上京署は19日、児童買春・ポルノ禁止法違反(公然陳列)などの疑いで、愛知県春日井市の男子大学生(19)を書類送検した。

 上京署によると、閲覧には、インターネット上の掲示板に公開されていた合言葉と有料の「鍵」が必要。鍵の購入数に応じ、交換すれば通販サイトでも使えるポイントが投稿者に与えられる仕組みだった。大学生は「小遣いを稼ぎたかった」と容疑を認めている。

 送検容疑は7月16日、4~8歳とみられる女児のわいせつな動画を投稿し、公開した疑い。

派遣型jkリフレを称する児童淫行事件(さいたま地裁H30.5.9)

 ホテルに派遣してリフレしてくれる業態

■28262830
さいたま地方裁判所
平成30年05月09日
主文
被告人Y1及び被告人Y2をそれぞれ懲役1年6月に、被告人Y3を懲役1年に処する。
この裁判が確定した日から、被告人Y1及び被告人Y2に対し4年間、被告人Y3に対し3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

罪となるべき事実の要旨
  起訴状記載の公訴事実と同一であるから、これを引用する。
  公訴事実
 被告人Y1及び同Y2は、雇用する女子児童を遊客が利用するホテルに派遣してリフレクソロジー等をさせる形態のいわゆる派遣リフレ店である「D」を営んでいたもの、被告人Y3は、その従業員として、女子児童をホテルまで案内したり、女子児童が遊客から受け取った利用料金を回収したりするなどしていたものであるが、被告人3名は、共謀の上、前記「D」で雇用する「E」こと●●●(当時17歳)が満18歳に満たない児童であることを知りながら、平成29年10月28日午後4時25分頃、(住所略)所在の「F」(省略)号室において、同児童に淫行等の相手方として●●●を引き合わせるなどし、その頃から同日午後5時51分頃までの間、同所において、同児童に、前記●●●を相手に同児童の乳房や陰部を触らせるなどさせ、さらに、同児童をして前記●●●を相手に手淫等の性交類似行為をさせ、もって児童に淫行をさせる行為をしたものである。
  罪名及び罰条
  児童福祉法違反 同法60条1項、34条1項6号、刑法60条


適用した罰条
  刑法60条、児童福祉法第60条1項、34条1項6号、刑法25条1項、刑事訴訟法181条1項ただし書
量刑の理由
 被告人3名は、被害児童らを使って本件事業を行っていた一環として、被害児童に対する悪影響を全く顧みずに、自身の利益のみを考えて本件犯行に及んだと認められるのであって、その動機及び経緯は強い非難に値する。そして、本件犯行時には被害児童に客と性交類似行為をさせており、被害児童の健全な育成を阻害するその態様及び結果は重大である。本件犯行における被告人らの役割をみると、被告人Y1及び被告人Y2は、本件犯行における中心的な役割を担い、両名で事業による利益を折半していたものであって、その責任は重い。また、被告人Y3は、被害児童らを送迎したり、料金を回収したりするなどの役割を担いつつ日当を受け取っていたものであって、被告人Y1及び被告人Y2程ではないとはいえ、その役割も重要であったと認められる。以上の事情等に照らすと被告人3名の犯情はいずれも悪く、本件ではそれぞれ主文掲記の懲役刑は免れない。
 しかしながら他方で、被告人3名ともに本件事実を認めて反省の弁を述べていること、いずれも前科はないこと、情状証人が今後の監督を約束していること等の被告人3名にとって有利な事情も認められるので、今回は、それぞれ主文掲記の期間、その刑の執行を猶予するのが相当である。
第1刑事部
 (裁判官 加藤雅寛)